第97期会長就任のご挨拶
多様な視点からの魅力度向上と未来への投資
森下 信〔横浜国立大学〕
佐々木会長の後を受けて、第97期の会長を拝命いたします、横浜国立大学の森下でございます。会長就任にあたりまして、一言ご挨拶申し上げます。日本機械学会は、120年を越える歴史をもつ、我が国を代表する学術集団であります。その学術集団のトップを担う立場に選んでいただいたことは、身に余る光栄であると同時に、身が引き締まる思いでもあります。今期の運営方針を示すべきであると考え、それを3点にまとめました。
第1の方針は、「全てのステークホルダーへの情報発信と価値の提供」です。もっと端的に申し上げれば、会員の皆様の満足度を向上させることです。現状を申し上げますと、この20年間会員数は減少傾向が続いてきました。一昨年以来、講演会での講演者の必要条件として会員であることを規則に加えましたことで、学生員の増加によって、現在は会員数の減少に歯止めがかかっています。しかし、企業に所属する会員の減少はとどまりません。これを解決するためには、もう少し根本的に学会活動のあり方を見直す必要があると考えています。学会、すなわち「研究のコミュニティ」に所属する意味は、魅力的な学会活動の推進によって生まれるものであると思います。そのひとつは「最新情報の流通」と「情報に対する解釈」です。我々の周囲に当たり前に情報が存在し、それらの情報を自然に吸い込むことによって機械技術者として生き残る環境を、日本機械学会として会員の皆様に提供する必要があります。また、学会に所属する意義として、顔を合わせての議論の充実があります。今一度、顔を合わせて議論することの大切さを訴えたいと思います。
一昨日、日本学術会議において、「機械工学の将来展望」と題する公開シンポジウムが開催されました。そこでは、従来の4力学の枠組みを超えて、新しい分野との融合によって、新たな機械工学の将来像を議論する試みの一端が紹介されました。日本機械学会も旧態依然とした考え方では、将来像を描くことができません。社会の中での日本機械学会のあり方について、全てのステークホルダーに対して情報発信を継続したいと思います。
第2の方針は、「若手人材の育成」、すなわち、機械工学を将来的に担う母集団の拡大です。先ほどの佐々木前会長の話にもありましたように、「5年後に技術者が不足する分野」について、経済産業省が我が国の1万社にアンケート調査を行った結果、「機械工学分野の技術者が不足する」という意見が他の分野と比較して著しく多かったことを記憶しています。何をおいても、機械工学に興味をもつ小学生、中学生、高校生を増やす必要があります。それを行わずして、30年後、50年後の機械工学の将来を見通すことはできません。時間のかかることなので、今すぐにでも対応を開始する必要があります。2040年の大学進学者数については、将来の進学割合が増加することも踏まえても、現在より20%減少するという統計値が公表されています。このときまでに我が国の800を超える大学は20%が淘汰されるか、もしくは80%の学生を全大学で分け合うかの選択を迫られています。日本機械学会としては、80%の中の、機械工学への進学者を増加させる必要があります。さらに、ダイバーシティについては、日本の大学の機械工学科に所属する女子学生の割合は数%に過ぎませんという現状を踏まえ、新しい視点を導入する必要があります。
以上のような背景から、昨年8月7日に開催した「機械の日」のイベントは「ヒトと交錯するキカイたち」というキャッチフレーズで、人通りの絶えない秋葉原で行い、しかも初めて機械の展示会を併設しました。300名近い参加者を得ることができましたが、もっと多くの中学生や高校生、さらには彼らの母親にみていただきたいと考えております。
120周年の際に、学会として「10年ビジョンのアクションプラン」が定められておりますが、これらを着実に実行するのが第3点目の目標です。このアクションプランについては、お手元の資料などをご参照いただきたく思います。
ルイス・キャロルという作家が書いた「鏡の国のアリス」という小説があります。タイトルからわかるように、鏡の中の世界での不思議な状況の下での物語が展開されています。そのなかで、赤の女王による「その場にとどまるためには、全力で走り続けなければならない」という一種の矛盾を含んだ台詞があります。ある「種」が生き残るためには進化し続けなければならないという比喩として、この台詞はこれまで数多く引用されています。企業も、日本機械学会も全く同じ立場にいます。日本機械学会は、我が国を代表する学術集団として進化を続け、他の学術集団を先導する役割を担えるように努力したく思います。皆様のより一層のご協力を賜りたく思います。
以上、簡単ではございますが、私の挨拶とさせていただきます。ご静聴、ありがとうございました。
(2019年4月18日 定時社員総会あいさつより)