第84期会長就任のご挨拶
開かれた協働と革新:21世紀型学会に向けて
笠木 伸英 [東京大学 教授] Nobuhide KASAGI
科学技術は20世紀に急速な進展と普及を遂げ,災害や事故を防ぎ,病気を克服し,豊かな物資を供給し,産業を生み出し,人類社会の様々な要請に応えてきました.そして,新世紀の技術と工学の視座は,環境制約の下で持続性を担保し,多様な価値観を有する人々のために健康で快適な生活と,安全で安心な社会を実現することにシフトしつつあると言えます.機械技術に関わる本学会は,その時代的役割を的確に捉え,行動する必要があると理解しております.そのような観点から,以下の三つの目標に取り組んでいきたいと考えております.
学会の足腰を強化
第一に,日本機械学会が機械に関わる”技術”と”学術”に責任を持つ専門家集団として真に社会に貢献するために,改めて学会の足腰を強化する地道な努力が必要と感じます.
まず,研究の深化と新技術領域の開拓は,学会の存否に関わる最重要事項です.本日開催された「部門大集合」で各部門長から語られた機械工学・技術の夢は,本学会の多様な発展の方向性を示したものと言え,誠に心強い限りです.”ものづくりを追いかけた経験知・解明知”から”ものづくりを導く先導知”へと脱皮するため,会員諸兄の不断のチャレンジをお願いいたします.
加えて,機械学会の多彩な会員が,我が国の技術革新と人材育成の責任と使命を共有し,その豊富な知識と優れた力を活かせば,学会の真価が発揮できると信じます.支部,部門においては,会員の学会活動への積極的な参加を促し,また部門や支部の協働,産官学の連携を推進頂きたいと存じます.部門横断型・新領域対応型の活動も組織化できることになりましたので,新技術分野に果敢な取り組みをお願いいたします.
会員の知の発信には,学会論文集に加えて,国際市場で競争力のある英文ジャーナル,信頼度の高い便覧や標準規格など,各種出版販売も強化の対象で,新に出版センターがスタートします.IT技術の積極的導入による,会員サービスの充実や事務局機能の強化は,緊急の課題です.
人材育成への貢献
第二に,人材育成への取り組みです.日本は,乏しい資源しか持たず,狭い国土に多くの人口を抱え,世界の中で特殊な言語を話す国と言えます.そのため,国を支えるものは,優れた人的資源と豊かな文化以外あり得ず,知育,徳育,体育によって人材国家をも目指さねばなりません.人材育成には,少子高齢化と理工系離れによる技術者減少の”数の問題”と,新世紀に相応しい人材育成の”質の問題”があります.グローバル社会における技術者は,専門知識やスキルに留まらず,社会・環境・経済などに関わる文脈の中で問題の設定,解決ができる資質が求められます.学会では,新に能力開発促進機構が発足します.専門知に加えて,俯瞰的視野,国際環境リテラシー,そしてマネージメント力など,会員個々人のコンピテンシーの強化が重要で,会員の研鑽を支援する機会を多々提供していくべきと考えます.
ところで,最近の科学技術に関わる不正行為や社会問題は重大で,我々は改めて技術者の責任を自覚し,高邁な精神と自律性を取り戻し,世界に尊敬される技術者像を確立せねばなりません.幸いに機械学会はすでに倫理規定を有していますので,今後その実効的な運用が必要と言えます.
技術者集団としてのプレゼンスを
第三に,日本機械学会は,社会の信頼と負託を得てプレゼンスを高め,技術者の誇りと地位の向上に貢献する必要があります.環境・エネルギー,未来型ロボット,安心安全技術,バイオ医療など,社会的要請の高い広域的課題の抽出と,その技術的解決の呈示も学会の重要な役割です.
学会活動の成果や提言などの社会発信のため,迅速性と発信力の強化を目指します.本年9月の年次大会では,大会メッセージとして「豊かな持続型社会の実現を目指して」を掲げ,また3つの主要テーマを設定して,学会の活動を分かり易く伝えることにしております.多くの皆様のご参加をお願いします.
懸案の「機械の記念日・記念週間」の制定準備が漸く整いました.各方面の協力を得て,機械技術と社会との関係,技術者の役割などを,市民と同じ目線の高さで共に考える機会として定着させたいと思います.これを機に,関係省庁,産業界,国内外の学術団体とも連携を一層強めて,学会のプレゼンスを示したいと考えています.
開かれた協働と革新
以上の目標の達成のためには,学会活動のあらゆる場面において,障壁を作らず,寛容で開かれた場を提供する,開かれた協働と技術革新,すなわち”オープンアライアンス”,”オープン・イノベーション”を誘導したいと思います.学会の各組織が内向きに流れることなく,学会内外の様々な組織との協働の可能性を模索し,夢と感動を与える新技術を創出し,高い志を持った人材を育てることが肝要です.会員が多くの人々と多様な価値観との出会いによって,新しい経験と知識を創造し,自己啓発出来ることも機械学会の大いなる魅力にしたいと思います.
最後に,田口裕也前会長をはじめ,前期の理事会,支部・部門・諸委員会の皆様の献身的な活動に心から感謝申し上げますと共に,微力ながら学会の発展に全力を尽くす決意でございますので,会員諸兄のご支援を切にお願い申し上げます.
(2006年4月7日 通常総会あいさつより)