大学院教育に関する提言(その2) -平成18年度年次大会パネルから-
(社)日本機械学会 大学院教育懇談会
第84期委員長(代理) 笠木 伸英
乏しい資源しか持たない我が国を支えていくのは優れた人材である.特に,科学技術立国を目指す我が国にとって技術革新をリードできる優れた技術者の 確保が不可欠であり,その主たる供給元となる工学系大学院の重要性は今後益々増大する.しかし,企業への就職者に占める大学院修了者の割合が急増している 中で,産業界の要請に応えるためには,日々の研究活動に重点が置かれてきた大学院教育に,技術者としての幅広い知識や実行力を涵養する教育を付与するため の変革が求められている.この問題意識から産官学による大学院教育改革のための議論が重ねられてきた.その結果として,本年3月に文部科学省より昨年の中 央教育審議会答申を反映した「大学院教育振興施策要綱」が出され,大学院改革が具体的に動き出す段階となった.
日本機械学会では大学院教育改革 を我が国にとっての重要課題と捉え,平成16年度より大学院教育懇談会を設置して独自の議論を行ってきた.その一環として平成17年度年次大会において ワークショップ「大学院教育を考える」を開催し,その議論を基に,(1)コースワークの強化と体系的な履修,(2)産学連携教育の強化,(3)機械系高度 専門技術者・研究者の確保,から成る大学院教育に関する提言を行った.この提言は,文部科学省の要綱とも大筋一致し,今後の大学院教育改革はこれらの方向 で進んでいくものと考える.しかし,今後具体的な施策を行っていく上で種々の克服すべき課題に遭遇することが予想される.そこで,大学院教育懇談会ではそ れらの課題を明確にし,課題を克服するための施策を提案することを目的に今年度年次大会においてワークショップ「大学院教育を考える,パート2」を開催し た.本懇談会は,このワークショップの議論を踏まえ,大学院教育の改革に向けて以下の提言を行う.
提 言
1. 産学が共有する人材像の明確化
産業界の問題意識および産業界からの要請を明確にした上で,各大学が独自に育成する人材像を描き,その育成に向けた教育プログラムを具現化する必要があ る.また,目標とする人材像および育成のプロセスは学生にも開示され,産学および学生の相互理解のもとに共有されるものでなければならない.2.教育という視点からの論文研究の位置付けの明確化
これまでの我が国の大学院教育の中心は論文研究であり,研究活動を通した教育により多くの優秀な人材を輩出してきた.しかし,我が国が国際社会でフロント ランナーの一人としての役割が求められる今日では,少数教員に委ねられた研究室制での論文研究指導だけでは満たされない大学院教育の要請も顕在化してき た.すなわち,今後とも論文研究の重要性は変わらないと言えるが,コースワークとのバランスも考えつつ,研究活動の中でも広い視野と幅広い専門知識を育む という目標を明確にし,さらに学際融合的な教育の場あるいは国内外との共同研究の場などを提供しいくことが必要である.3.産学間の人材交流の仕組みの具体化
新時代の大学院教育では,長期インターンシップ制などの産学連携教育が重要となる.しかし,長期インターンシップ制には受け入れ側では負荷や機密保持など の問題,送り手側では教員との意思疎通の疎遠化による論文研究遂行への弊害などの問題もあり,産学が一体となった環境整備が必要である.また,大学におけ る技術者の再教育や,先端的製品開発や技術開発に携わる技術者による学生指導など,多様な人材交流も重要と言える.そのための産業界と大学との双方向人材 交流のあり方について,その具体化を考える必要がある.以上
補足資料(ワークショップ講演資料およびアンケート設問):(PDF形式ファイル)
・特別テーマ講演「キャリア開発と学会」工学院大学 大橋秀雄
・ワークショップ「大学院教育を考える、パート2」講演資料
「大学院教育改革に対する機械学会の取組み」東京大学 笠木伸英
「大学院政策の変遷と今後の方針」文部科学省 伊藤学司
「大学院教育に対する教員の意識」東芝 久保田裕二
・ワークショップ「大学院教育を考える、パート2」パネル資料
「東京大学での取り組み」酒井信介
「九州大学での取り組み」坂口光一
「東京工業大学での取り組み」寺山孝男
「大阪大学での取り組み」藤田喜久雄
「東北大学での取り組み」松島紀佐
・教員向けアンケート結果