大学院教育に関する提言 ―平成17年度年次大会パネルから―
第83期委員長 飯野 利喜
21世紀を迎え、技術立国を目指す我が国では、技術開発力や基礎研究の強化と共に、優れた科学技術人材の育成に対する期待が高まっている。特に工学系では、企業への就職者に占める修士課程修了者の割合が急速に増加するのに伴い、大学院における人材育成強化が望まれている。折しも、中央教育審議会からは「新時代の大学院教育」と題した答申が出され、産官学が連携した大学院教育改革の重要性がうたわれている。
機械系の産官学の技術者・研究者が一同に会する日本機械学会は、高度専門技術者・研究者人材の育成の議論を進めるのに相応しい場であるとの認識のもとに、2004年に学会の工学教育センターに「大学院教育懇談会」を設置し、本年度は政策・財務部会直轄の組織として強化し、活動を進めてきた。本懇談会では、本年6月に産業界の会員1万人を対象に大学院教育に関するアンケートを行い、2千人を超える会員から回答をいただいた。このアンケート結果を受けて9月の年次大会の特別企画として、ワークショップ「大学院教育を考える」を開催し、この分野の有識者の講演とパネルディスカッションを行った。本懇談会は、このワークショップの議論をまとめて、大学院教育に対して以下の3つの提言を行う。
提言
1.コースワークの強化と体系的な履修
日本の大学院教育は修士/博士論文中心で、研究論文作成課程における教育効果は十分認められるが、コースワークの比重が低い。各教育プログラムのビジョンと具体的な目標を示し、学生が自らのキャリアパスに相応しい履修計画を立て、専門分野に加えて、専門周辺分野、そして人文社会科学なども適宜含めて広く体系的・実践的な科目履修をするよう指導することが望まれる。特に、広い視野、応用力、問題発見能力、コミュニケーション能力、プロジェクト管理能力などの付与につながる教育の強化が期待される。
2.産学連携教育の強化
従来にも増して産学が連携して、大学院教育の改革を図っていくことが重要である。特に、十分に吟味された計画に基づく長期間の実践的インターンシップは、広い視野、応用力、実践力、コミュニケーション能力などを養うのに有効であり、大学院教育改革を実現するための効果的な手段の一つといえる。
3.機械系高度専門技術者・研究者の確保
人口減少に転じた我が国の20~30年後において、高度専門技術者・研究者の大幅な不足が予測されている。機械系の優れた人材を量的に確保するためには、女性及び外国人を含めて、機械工学・機械技術の魅力と社会的な役割に対する若者の理解を得る努力が必須である。また、機械工学を専攻した技術者の魅力的なキャリアパスを例示することが重要であり、これらの課題において機械学会の果たすべき役割は極めて大きい。
補足資料(ワークショップ講演資料およびアンケート設問):(PDF形式ファイル)
・「工学系大学院教育の課題」 東京大学 笠木伸英
・「産業界からの大学院教育への期待」 味の素(株) 山野井昭雄
・「機械系女子学生の大学院進学に関する考え」 慶応義塾大学 松尾亜紀子
・「大学院教育に対する産業界の意識」~アンケート結果から~ (株)東芝 久保田裕二
・大学院教育に関するアンケート設問