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小特集「産業記念物(第1回)博物館の紹介」 − 工作機械など300点以上を動態展示している博物館 − | |
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日本工業大学は、昭和42(1967)年に、開発能力と実務能力を備えた技術者の育成を目指して開学して以来、 可能な限り実践をともなった教育を行っている。その建学の理念に基づく教育方針の一環として、 大学設立20周年・学園創立80周年を記念して昭和62(1987)年に工業技術博物館を開設し、 現在まで絶え間無く工業技術に関する物品や技術の収集・保存・展示に務め、 工業技術の啓蒙をはかることにより社会的貢献を実践している。 そこで、これまで収集した主な収蔵品や本博物館の主な活動内容を紹介する。 2. 工業技術博物館の目的と構想 我が国における近年の工業技術の発展は、明治初期以来多くの先人達が欧米の技術を学び取り、 また新技術に挑戦し続けてきた努力の上に成立しているものである。従って、地に足の着いた高度な技術の開発と、 技術者の育成が求められている今日、先人達が開発した輝かしい成果を収集し、保存・ 展示するとともに、その成果に手で触れながら技術の進歩を学び、さらに進歩していく『温故知新』こそ、 工業技術の研究と教育に不可欠な手法のひとつと考えている。 本博物館では、展示品の収集・保存およびその利用を、次のような5つの構想に基づいて行っている。 (1) 詳細な調査に基づき、歴史的価値のある工作機械など、わが国産業の発展に貢献 した機械・機器を発掘・収集し、それらを技術的に整理し保存・展示を行う。 (2) 常設の展示とは別に、特別なテ−マを決めて企画した特別展を開催する。 (3) わが国の工業技術史を解明する上で必要な書籍・文献・関連資料(図面等)の収集・ 整理を行い、近い将来の閲覧・公開等に備える。 (4) 利用対象者を本学園関係者に限らず、工業技術に興味を持つ広範囲な人達とし、 特に、学生・生徒達への教育や一般の人達への啓蒙を通じて、社会貢献に努める。 (5) 技術史に関連する記事、収蔵品の紹介、本博物館の活動状況等を掲載する出版物 を発行するなど、情報提供を積極的に行う。 3. 工業技術博物館の展示品 本博物館のメインの展示室は、無柱構造の幅50m、奥行き60mの3000uの面積を有している。 その外観の様子を、Fig.1 に示す。この展示室に我が国の工業技術の発展に貢献した機械・機器が、 工作機械を中心に約300点以上展示されている。その内の約70%は、駆動できる状態にある。 Fig.2に復元した典型的な町工場を示す。また、その当時の工作機械を駆使して製造された製品も展示してある。 明治期に製造された蒸気機関車(Fig.3)、昭和末期に完成した発電用レヒ−トガスタ−ビン(Fig.4) などである。 4. 工業技術博物館の活動 本博物館では、先述のとおり機械・機器類や文献等の収集保存活動、 教育普及活動や出版などの情報提供活動を行っている。 ほかに、下記に記述する活動も活発に実施している。 4−1. 歴史的価値のある工作機械の顕彰 第二次世界大戦前の工作機械は、ほとんどが外国機械のコピ−であった。しかし、 終戦から5年を経て再スタートした後は、産・官・学の共同研究や先進技術の導入などによって、 次第に日本のオリジナリティを発揮している。1960年代後半になると、純日本の設計思想による機種が登場し、 その後の日本の高度経済成長を支え、世界のトップ水準にまで成長した。これはひとえに、 先人の創意工夫と労の積み重ねによるものである。将来の発展を図るためには、先人が成し遂げた業績を尊重して、 さらなる創意工夫と革新につなげることが必要である。 そこで、平成10(1998)年以来、時代とともに忘れられようとしている、工作機械の「名機」 を毎年広く公募し、厳正な審査の上、本当に価値のある機械を顕彰する事業を行っている。 多年にわたってよく売れ、我が国の産業の発展と国民生活の向上に大いに寄与した工作機械にはロングライフ・ ベストセラ−賞を、また、製作当時としては画期的な機能を持ち、後世の模範となった工作機械にはベストテクニカル賞を授与している。 これまでに顕彰した28機種のうちの約半数は、本博物館内に保存・展示され、来館者の注目を集めている。 それらの工作機械の例をFig.5 とFig.6 に示す。 4−2. 特別展の開催 第1回(平成3年)に自転車を取り上げて以来、玩具・筆記具・容器・体重計・時計・計算機・ コマ・オルゴ−ル・織物・織機・ミシン・鍵と錠・針といった身近な工業製品をテ−マにして企画・ 開催している。 本年度は、テ−マを「わが国の航空技術の発祥と発展」、会期を11月2日〜11月22日と定めて開催した。 その概要は、日本において動力付き飛行機による初飛行を行った日野熊蔵大尉が、個人で飛行技術の開発に取り組み、 明治44(1911)年に本学園の母体である東京工科学校にて「日野式2号飛行機」を組み立てている。 そこで特別展では、この「日野式2号飛行機」を本学園創立100周年記念事業のひとつとして調査・ 復元したプロジェクトの成果と、併せて日本の航空技術の発展を紹介した。復元した「日野式2号飛行機」 をFig.7 に示す。 5. まとめ さらなる技術開発が要求されて行き詰ったときや、技術が最先端まで到達している状況で参考になる資料や文献が無くなってしまったときには、 先人達の残した業績を顧みることが創造力を呼び起こす機会となることがある。従って、 工作機械を主とした日本で唯一の工業技術の専門博物館である本博物館の歴史的資料を活用して、 我が国における機械技術の変遷を観察し、その発展過程を学習することによって、最先端技術を目指す研究者・ 技術者のバックグランドに技術史の知見を付加することが必要であり、それらの活動を支援することも、 本博物館の使命のひとつと考えている。 ぜひ、若い情熱に満ちた専門分野に明るい研究者に充分な時間と労力をかけて技術史という学問にも取り組んでもらいたいと思っている。
■ 開館時間 / 午前 9時30分 〜 午後 4時30分(入館は午後4時まで) ■ 休 館 日 / 8月10日 〜 8月20日、12月28日〜1月9日、日曜・祝日 ※展示の都合により臨時休館することがあります。 ■ 蒸気機関車の運転予定日 / 毎月第3土曜日(8月、12月を除く) ■ 入 場 料 / 無料 ■ 問合せ先 / 〒345-8501 埼玉県南埼玉郡宮代町学園台4-1 日本工業大学内 工業技術博物館 TEL (0480) 33-7545 ・ FAX (0480) 33-7570
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