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特別寄稿(部門賞受賞記事) | |
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2007年度の技術と社会部門業績賞をいただき大変名誉なことと思います. 受賞理由は、@イブニングセミナーを約100回継続、A技術関連の博物館見学を15回継続、 B技術者倫理の確立、C若い技術者の育成とのことです。これに関連して、最近感じていることを述べさせていただきます。 日本機械学会が1987年に部門制になり1991年に技術と社会部門が出来て、技術史や技術教育の先達が活躍した当時には、 まだ若手であったP-SC313産業・機械工学連関研究会の通称「ダンゴ三兄弟(吉田、渡邉、小西)」 は学会の活動は夜な夜な飲み屋で行うものという伝統を受けついきました。育成された若手は次の「 若い技術者の育成」には、伝承の分野だけではなく別な分野の開拓も必要と足掻きながらも少しは広がったかなと、 思いつつ世代交代の年代になりました。委員会だけで技術(と社会)の伝承は可能でしょうか? 技術は今までに積重ねられた技術を基礎に発展します。昔このような技術があったという 「忘れられた技術の発掘」をすることも、「今の技術と比較」することも意味はありますが、 そのときの技術がどのようなもので技術者が「何を考え」「何をしたか」をそのときの技術者の立場で考えることが出来る技術者は、 現在の技術を使って現在はまだ無い技術を考えることができると思います。 未来を考えることができると思います。そのようなことを思って技術関係の小さな博物館 (航空機、ガラス、紙、オルゴール、など)の見学を始めました。昔、歴史のない国、米国の Natural History Museumで「過去の動植物」の展示の隣に「未来の動植物」が展示してあるのを見たときの、 「目から鱗」/「頭から驕り」が落ちた強い印象が、技術者としての心のそこに残っていたからでしょう。 しかし、15回で長い一休みをしたままです。 技術者倫理は2002年4月号で特集号を組んで、その後に関西大学でワークショップを組んだことがきっかけですが、 JABEEで大学における技術者倫理の講義が始まると、この部門の重要度が増し、最近では日本機械学会の 教科書作成や学会誌の連載記事の編集などで足を洗うことが難しくなりました。善悪をマスコミが決める時代では、 判断力を持つ専門技術者がサイレントマジョリティーではなく責任ある発言をする役割を担わなければならないと思います。 イブニングセミナーは技術者の自由なクラブのような遊びの場所が作りたくて、いつも同じ場所、 同じ日、同じ時刻に行けば何かの講演が聴ける仕組みの相談を、もと青山学院副学長の三輪先生に相談して実施することに決めると、 当時の部門長であった西尾先生が東大生産技術研究所(六本木)の会議室を借りてくれました。 講師に対する謝礼も無しにして聴講無料の講演会を実現しましたが、毎回終了後に懇親会を行い、 講師を除いて割り勘とすることで、心の痛みを薄らげる事としました。イブニングセミナーは毎月最終水曜日の 18:00から20:00ですが、講演90分で質問30分と講師との対話の時間を十分とることが特徴になっています。 もちろん懇親会ではさらに突っ込んだ質問も出ます。 東大生産技術研究所の移転により、早稲田大学の勝田先生(当時の部門長)から会場を借りることになりましたが、 最終水曜日は10年間続けています。学会の方針のために無料の講演会が出来なくなり現在は1000円 の会費を取っていますが、おかげで講師に謝礼を払うことができます。 普通、講演会は学会職員が来て手伝ってくれますが、夕方は残業になりできませんので、 最初は受付の事務を参加者のボランティアでしていました。今は、学生アルバイトをお願いし非常に助かっています。 イブニングセミナーは技術者の遊びの場所ですが、専門バカ防止の教育の場でもあります。 このために演題は添付の表や図のようにさまざまです。講演者別に見ると大体、産業界が46%、 学校関係が29%、官公庁が6%、そして個人が19%です。個人とは大学や企業の現役を退いた方ですが、 元気な方がこれだけいるということです。 イブニングセミナーを100回も続けると記録や出版の話が出るのですが、セミナーのもうひとつの特徴である 現場性が関わってきます。レジュメや資料は残りますが、話自体は消えてしまいます。 逆に消えてしまうことを保障することで自由な場ができます。聞きたい話だけを聞きにいくことが基本ですから、 直に講師と会話ができれば強い思いが残ります。 学会は講演会講習会を数多く実施し、部門を活性化し、収益を上げることで部門の独立に期待しています。 しかし、技術と社会部門は独立した部門である一方でほかの専門分野の部門無しでは存在しません。 共通の部門、全体の部門という位置付けもあり、会員の技術者が専門家という面と人間性・社会性 という面の両方を持っているからです。 経済的には収入が少ない部門ですが、ゆとりを与える部門でありたいと思っています。 それには水鳥の水面下の激しい足の動きがなくてはならないとも思っています。
目次へ 日本機械学会 技術と社会部門ニュースレターNo.19 (C)著作権:2008 社団法人 日本機械学会 技術と社会部門 |