『日本産業技術史辞典』, 日本産業技術史学会編, 思文閣出版,ISBN978-4-7842-1345-0 C1050
本辞典は、日本産業技術史会創立20周年を記念して刊行された近代の産業技術史の集大成である。
著書の構成は、23の大項目と344の小項目に分類され、各項目は総勢120名の執筆者による労作である。
幕末・明治初年から1980年までの近代工業の成立と定着の時代を通して、工学、環境学、農学、科学史、経済史など日本の
近代文明を開花し発展させた科学技術の変遷と役割を網羅しており、日本の産業技術氏を後世に伝えるべき貴重な書籍といえよう。
また、小項目には、さらに詳しく学ぶための参考文献や巻末の索引など、広範囲な読者層に配慮された構成となっている。
最後に、本書がこの方面の研究に興味を持たれている研究者を始め、若い方々にも広く読まれることによって、資源の乏しい
日本が創造立国としてのますます発展されることを期待する。
(黒田孝春(木更津高専))
『トコトンやさしい鉄道の本』 今日からモノ知りシリーズ,
佐藤健吉編著,日本技術史教育学会著/日刊工業新聞社,ISBN978-4-526-05907-0 C3034
本書は,専門分野を分かりやすく解説する日刊工業新聞社発行の「今日からモノ知りシリーズ」89冊(2007年10月27日現在)
のうちの1つで,鉄道という輸送システムを一般的な社会人に分かりやすく解説することを目的としたものである.
この本の著者は全部で14名,一人を除いて技術史教育学会という学会の会員である.したがって,著者のほとんどが大学や
高専の教員(およびその経験者)であるが,技術史教育に熱意を持つ者ばかりで,そういう意味では全員が教育者の立場と言ってよかろう.
したがって,この本は至ってまじめな本である.もっとも,みんなかなり「鉄分(=鉄道を趣味としている度合)」が多いので,
専門的でかつ「本シリーズでこの話題まで踏み込むの?」というものもあるが,鉄道の歴史(鉄道敷設史,鉄道技術史など),
車両・構造物・建設・保安・サービスなど多方面にわたって技術的な解説を試みている.しかも,
著者の多くは機械工学を専門とする者が多いため,鉄分が多いマニアにありがちな「重箱の隅を針で突っついた」
ようなオタクっぽい内容とはなっていない.細かく見ていくと小さな誤りも発見できるが,本筋は決して外していない.
第1章の「鉄道って一体なんだろう?」で鉄道の定義や発祥に関する話題がしてあり,第2章,第3章で世界および日本の鉄道の歴史を語ってある.
著者の中には,下間(しもつま)氏のように80歳を過ぎた現在も世界を駆け巡り,鉄道の起源を調査している「現役」がおり,
その調査結果も本章の内容に反映されている.この辺が他の著書にはないところである.第4章から第6章までは主として鉄道を技術的な側面から見た内容であり,
新幹線を代表とする高速鉄道から通勤電車まで,鉄道車両やその安全運行を支える技術を分かりやすく語っている.
特に第6章の「鉄道の安全を支える技術」は,運転士の指差呼称や鉄道事故調査委員会に関する記事など,通常の技術解説書やマニア向けの本にはない,
新鮮な視点からの記事構成になっており,興味深い.最終章の第7章では,法的には鉄道の仲間であるケーブルカーの話や,
「おもしろ駅舎」などのマニア的な話題も提供している.特に,JR北海道が試験を進めるDMV(Dual Mode Vehicle),
富山ライトレール(0600形電車が(社)鉄道友の会の本年度ブルーリボン賞を受賞)など地方都市が既存の鉄道を活用して
地域交通の新たな活路を見出そうしている努力を紹介しているのは大変うれしい内容である.しかも,すべて技術的な,
機械工学的なセンスで紹介されているのは,マニアから見ると反対に物足りないかもしれないが,広く一般の人にはわかりやすい.
編著者の佐藤氏は,千葉大学工学部機械工学科で流体工学に関する教育研究に携わる一方で,技術史研究,
なかでも産業革命以降の英国の技術者として英国では大変有名なブルネル親子の活動について研究を続けている.
この手の本ではトレビシックやスチーブンソンは良く出てくるものの,本書のようにブルネル親子に関する記述や,
現在日本の鉄道マニアでは有名な「ブルネル賞」に関しても記述があるのは大変めずらしい.
ある意味,久保田博氏の「鉄道工学ハンドブック」を思わせる構成であるが,本書はそれを噛み砕いたような内容になっている.
それはやはり教育者が執筆したことと関係があろう.いつも「その道」のマニアックな本ばかり読んでいる本稿の執筆者にとっては,
大変まじめな内容に映ってしまった.さて,そのまじめさを面白いほうにに評価するか,面白くないほうに評価するか,
それは人によって違おう.買ってみないと決してわからない.が,買ってみて損はない.A5判,上製本で157ページ,
内容が詰まっていて1,470円,こんな値段の「その道」の本は少ないはずである.「その道」のマニアには自分の鉄分チェックに,
また「その道」を覗いてみたい人には「今日からモノ知りシリーズ」のひとつとして,手許に一冊あってよい本である.
(吉田敬介(九州大学))
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