小特集「初等中等教育における技術教育」

巻頭言「初等中等教育における技術教育特集について」

 



渡邉辰郎      
(東京大学)

     “なぜ”、「初等中等教育における技術教育特集」を企画したか、この疑問が学会会員各位より出ると思われる。 当部門の活動を良く、ご存知の方々は講演会の中でOS「技術教育・工学教育」をいつも企画をしている関係で、 「技術教育」を取り上げたとの理解を得られるかも知れない。では“なぜ”「初等中等」に拘っているか、 の疑問が残る事になる。この拘りを持ち続けている。熊本大学で開催された年次大会でも、 特別テーマ企画の中で「人材育成」で同様の議論をした。ここ何年ものあいた、「科学技術離れ」が叫ばれて、 幾つかの国の施策が動いている。今年は教育基本法の改正も決まり、日本の教育が別の舵を取り始めている。 その施策の中でも、「科学技術離れ」の議論はあるが、抜本的対策は無い。「ではなぜ、科学技術離れが始まった」 の議論をしていないからではないかと思う。初等教育段階では「物に向かい合う」図画・工作があり、 中等教育では「技術科」の授業がある。団塊世代、自分が受けた「技術科」の授業時間数が半分になっていることをまず認識する必要がある。 「科学技術離れ」の以前に、初等中等教育の段階ですでに「技術ばなれ」の授業を行っている現状の認識が必要で、 「物の知らない子供」を育てているのが現在の教育である。物を知る楽しさや、物を作る楽しさ、達成感等の体験が無ければ、 物離れが起きて当然の事になり、大事な初等中等教育で教えなければ、どこで学ぶか、の疑問をもつのが大事と考え、 まずは現状を会員各位に把握願うため、今回の企画をした。執筆をお願いした方々は「技術教育・技術科」 の教員を養成する教育機関関係者のプロ集団である「日本産業技術教育学会」の方々の全面的協力によって構成をした。 専門家の立場で現状報告をお願いした。技術科の教官であるので、我が学会の会員でもある。

     今一つの問題提起をしたい。「科学技術離れ」を阻止するために多くの施策が実施されていることは既に多くの方々がご存知の事と思う。 しかし施策を見ると、例えば、「昨今我が国では、青少年をはじめとする国民の「科学技術離れ」「理科離れ」 が指摘されています。この状況に対処し、科学好き、理科好きな児童生徒を増やすため、文部科学省では、 平成14年度より「科学技術・理科大好きプラン」を開始いたしました。」と実施されている。その成果として文部科学省の 「科学技術理解増進政策に関する懇談会」の議事要旨によれば「文部科学省の理科大好きプランは成功といえる。 まず第1に、PISA(生徒の学習到達度調査)、TIMSS(国際数学・理科教育動向調査)の結果より理科の成績は下がっていないこと、 もっと積極的にいえば理科好きがわずかだが増えたことがあげられる。」自賛をしている。また、青少年向けの「科学オリンピック」 の企画も進行している。「科学技術・理科大好き」=「科学技術だいすき」=「技術だいすき」に成らないのでは無いかと危惧する。 本当に、我国は「技術」を措いて、「科学」で立国できるのとの疑問が沸く。本来は「科学+技術」で始めて成立し「科学技術創造立国」 の看板が成立するのではないか。「技術」を「放置していいの」との問いかけをしたい。

     

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日本機械学会
技術と社会部門ニュースレターNo.17
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