たたら製鉄の操業当日
そして操業当日、この日はさすがに夕方からでは授業時間中に終わらないため、昼頃から出校しての作業となる。仕事やバイトをしているものがほとんどだから無理には出校を言わないが、仕事の休みをもらったりバイト時間を変更したりして何人かが参加してくれる。今年も2回の操業とも約半数の3〜4人の生徒が昼から作業にかかってくれた。
私はこの操業をできるだけ外部の人にも見てもらおうと、最近はホームページなどで見学可能なことを呼びかけている。毎回何人かの見学者があり、そのうち手伝いたいという人には一緒に作業にも参加してもらっている。参加者には企業の方も沢山おり、ときには生徒に直接指導の声をかけてくれる方もおり、一定の緊張感もあるが、でも大体はいつものようににぎやかに楽しみながらの操業となる。
炭入れ
夕闇が濃くなり、授業開始の頃には、炉頂からあがるやや青みを帯びた炎の勢いがくっきりと浮かび上がり、初めて見た人にはすごさを感じるようである。燃料及び還元剤となる木炭を入れ、その直後に原料の砂鉄と溶剤の粉砕した石灰石を入れる作業が延々と続くが、若干粉炭が混じった木炭を入れるたびにその火の粉がパァーと広がっていくため、見た目には迫力ある光景となる。
炭入れ
のろ出し
迫力の点では操業半ばののろ(スラグ)出しのときにも感じるようである。炉底に溜まったのろは羽口を詰まらせてしまうためときどき出してやる必要がある。これを怠ると送風不可能となり操業はそこで中止となってしまう。したがって操業後半からは常に羽口の詰まり具合を見ながらの作業となる。のろ出し口を鉄棒でつついて行うが、流れるようなのろが出れば、「オォー」と歓声も上がり見せ場の一つとなる。見学者には鉄と間違える人も多いからそのあと説明を要することにもなるが、炉底温度が上がっている証拠となり、操業としては順調であることを知らせてくれる。しかし粘ったのろしかでないことがよくあり、その場合は鉄棒で掻き出すようにして、ときには炉が壊れるかと思うほど粘ったのろを出すこともある。
のろ出し
けら出し
そして最終段階は、けら出しである。小規模なたたら製鉄では鉄が溶けるほどの温度にはならないため、けらは炉底に半溶融状態で溜まることにな る。そのためけらを取り出すためには炉を壊さなければならない。量産できないたたら製鉄が高炉の発展とともに廃れていった最大の要因でもあったが、これがたたら製鉄の最大の見せ場ともなる。
夜8時半頃を目途にけら出しにかかる。上から順に炉をこわし始めるが、真っ赤に燃焼した木炭がまだ炉内にたくさんあるため、その輻射熱が強烈である。炭をかきだし、煉瓦を取り外すなど生徒の作業分担を決めて行う。けら出しの瞬間は炉底のできた赤熱した塊を鉄棒ではつり、スコップ3つほど使ってよいしょと持ち上げて炉から移動させる。目が一斉にそちらに向くと同時にホースで水をかける。ものすごい水蒸気が周囲に広がり一瞬周りが見えなくなるほどである。
この塊は大部分がのろのため冷えるまで相当の時間がかかる。そのためこの間に道具や炉の片付けを行う。塊が冷めると、今度はけら探しにはいる。けらはのろの塊の中に沈み込むように成長するためハンマでのろ部分をはつりながら行う。取り出されたけら塊は球状になったけらが順次積み上がったような蜂の巣状である。そのため一つの塊にならず小さなけら粒もたくさん見つけることになる。
このけら出し場面に、ときには1年生が担当教科の先生の配慮で授業の一環として見に来ることもある。今年作業した生徒もじつは1年生のときに見学していた生徒たちで、先輩たちがすごいことをやっている、そんな目で見ていた生徒たちであった。
けら出し