小特集「社会と安全」
「森林火災と環境悪化」
− 安全な社会とは? −

 



早坂洋史(北海道大学)

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1. はじめに

 京都議定書が発行したが,我々の身の回りでは,地球温暖化に伴うと言われる,50〜100年に一回の激しい集中豪雨や大干ばつなどの異常気象が頻発に起こり始めており,温暖化ガスの大幅な削減が急務である.日本は,1990年を基準年にして温暖化ガスの二酸化炭素,6%の削減を目指している.エネルギ効率の向上,省エネルギ,植林などでこれを達成しようとしている.しかし,大幅な削減の達成には,地球規模での二酸化炭素削減策を考える必要がある.
 京都議定書には,『途上国を含む全締約国の義務として,吸収源による吸収の強化』も明記されている. 『吸収源』の代表としては,森林があるものの,人類に残された二大森林である熱帯林や北方林では,不法伐採や温暖化に伴う森林火災が頻発し,森林劣化が進んでいる.本欄では,森林火災の現状について報告し,我が国が率先して,世界の国々と協力し,『吸収源による吸収の強化』に務め,『安全な社会(=地球)造り』を目指すべき時代である.

 

2. 森林(地球の肺)の現状

 世界遺産のレバノン杉やイースター島のモアイ像の例からの教訓は,『森林を破壊した文明は滅びるのか?』と言える.現代文明では,産業革命以後の欧州で生まれ米国で大形化した,所謂,『巨大都市=メガロポリス』がアキレス腱になる可能性がある.メガロポリスは,東京の例を見るまでもなく,ヒートアイランド現象ばかりでなく,広域大気汚染や局所的集中豪雨などを併発し環境悪化が進み,エネルギーや資源の利用効率をますます悪くし,負の悪循環を生じさせている.今後,人口増加に伴い,現在の形態のままのメガロポリスが,中国や東南アジア,中南米,アフリカに出現すれば,世界の天然資源は早々に消滅してしまう可能性がある.



図1 世界の森林分布図
 図1に世界の森林分布図を示した.人類に残された大きな森林地帯は,高緯度と赤道付近に存在する,北方林(通称タイガ)と熱帯林であることがわかる.現在,これらの森林地帯では,現在,乱伐と地球温暖化に伴う強い干魃により,森林火災が多発している.

 森林火災の多発の原因として,地球温暖化が考えられる.高緯度ほど地球温暖化の影響が出やすいことが知られている.そこで,.図2に,極東シベリアのサハ共和国ヤクーツクで観測された,年平均気温と降水量の推移を示した.年平均気温は,1990年代より急激に上昇していること,逆に降水量は低下傾向にあり,森林火災が発生しやすい条件であることがわかる.このような気象条件に加え,森林資源の乱伐の影響で,森林火災が多発している.写真1は,2004年アラスカ上空で撮影した,森林火災で生じた,巨大火災雲である.
 一方,インドネシアやブラジルの熱帯林では,焼き畑による開墾,プランテーションの増加,不法伐採に伴う,森林火災が多発している.特に,インドネシアでは,1997-1998年のエルニーニョ現象に伴う森林火災が有名である.この森林火災では,熱帯林の乱伐や無理な水田開発(メガライス計画)により,森林ばかりでなく,泥炭や亜炭が燃え,しかも火災の煙(ヘイズ)が東南アジア一帯を覆い,呼吸器系の疾患や飛行機の墜落事故なども発生したため,国際的に着目された.この年は,ブラジルやシベリアでも大規模な森林火災が発生した.マスコミは,『地球が燃えた年』と表現した.事実,ハワイで観測された二酸化炭素濃度増加は,1.8ppmと平年平均の1ppmを大幅に大きかったことが知られている.



図2 ヤクーツクの年平均気温と降水量
の推移


写真1 2004年アラスカ上空で観測
された巨大火災雲

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日本機械学会
技術と社会部門ニュースレターNo.15
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