技術と社会部門企画(特別講演会)
技術者の倫理の現状を考える


 標記特別講演会が2002年8月3日(土)に大阪府吹田市の関西大学100周年記念館で開催されました.

 原子力関連施設の事故隠蔽などに対する社会の批判は,我々技術者が倫理について真剣に考えねばならない時期に来ていることを改めて知らされました.昨今の製品や技術が社会に与える影響の大きさを考えるとき,それを生み出すことの責任は決して経営者ではなく,技術者にも,否,専門知識をもっているからにはむしろ技術者こそが負わねばならない問題であることを認識せねばなりません.

 技術と社会部門では,このような趣旨から,日本機械学会誌の2002年4月号において当部門の編集による「技術者倫理」に関する特集記事を組みましたが,今回の特別講演会はそれに関連し,「技術者倫理」に関する現状を第一線の研究者の方々に直接披露して頂こうと,関西大学 小澤 守教授 他のご尽力により開催されたものです.


会場(関西大学)

 まず,小澤 守教授より開会の挨拶とともに本講演会開催の趣旨説明があり,その後,途中休憩や昼食をはさんで6名の講演者にご講演頂きました.


小澤 守氏

 関西大学 齋藤了文教授には,「技術者特有の倫理」と題し,(一般の人間には持つ必要がなくて)技術者のみが持たねばならない倫理の存在と,その具体例をご披露頂きました.


齋藤了文氏

 西原英晃 京都大学名誉教授には,「原子力エネルギーと技術者倫理」と題し,ご自分が関わって来られた原子力技術界における安全管理問題を通して,技術者が直面する倫理問題について解説頂くとともに,日本原子力学会が2001年に策定した倫理規定に対する,策定までの諸事情に関して概説頂きました.


西原英晃氏

 技術士の杉本泰治氏には,「法律と技術者倫理」と題し,法律が規定する(=行為を禁止したり,違反した場合の罰則についての規定を設ける)ものといわゆる倫理が規定するものとの関係について,実際の事故事例に基づき,わかりやすく解説頂きました.


杉本泰治氏

 日機装(株) 小西義昭氏には,「企業の技術者倫理」と題し,技術者倫理には「白黒(=善悪)」がつけられない,あるいは(時間の経過とともにそれがゆっくり変化するならともかく)つい先日まで「善」であったことが今では「悪」になっている,というような周囲環境が存在することが技術者の倫理観構築を困難にしている原因の一つであること,を具体例を挙げながら述べて頂きました.


小西義昭氏

 本ニュースレターの巻頭言も執筆頂いている 金沢工業大学 札野 順教授には,「国際社会における技術者倫理」と題し,日本を含めた各国の技術者倫理綱領の特徴について,技術者倫理に対するさまざまな概念の差異が倫理綱領の差異となって現れている様子を具体例とともにご披露頂きました.


札野 順氏

 最後に,立命館大学 中村収三教授には,「教育と技術者倫理」と題し,工学教育認定機構(JABEE)の認定対応のために大学等で開始されつつある工学倫理教育に関連し,日米文化の相違を十分理解した上での日本独自の技術者倫理教育の確立こそが,むしろ国際的基準に合致するものであることを,ご自分が関わって来られた民間企業と大学での業務経験をもとにご披露頂きました.


中村収三氏

 講演会の題目もさる事ながら,開催期日や会場の立地など好条件が重なり,多数の参加があり,また会場では講演者との間で活発な議論が繰り広げられ,本問題に対する各方面の関心の高さと,当部門に対して本問題への取り組みを強く期待する様が実感できる会でした.

吉田敬介(九州大学)


会場の風景

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日本機械学会
技術と社会部門ニュースレターNo.13
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