巻頭言

日本の技術教育・工学教育について考える

「工学教育」部会委員
牧野 亮哉
(福井大学・教授)

 テクノロジーの教育には,普通教育としての技術教育と専門教育としての技術教育(工学教育あるいは工業教育)がある.日本で行われている普通教育としての技術教育は,中学校の技術・家庭科の中での技術分野のみである.ここでは,われわれ市民が生活をしていく上で基礎となる技術的な課題に対処する能力を育成することを目標としている.

 最近,新幹線トンネン内でのコンクリート落下事故,茨城県東海村のウラン加工施設での核燃料臨界事故,さらに乳製品による食中毒事件など,それぞれの場で決められている規定や規則が遵守されていないことによる事故や事件が多い.ルールを守るという倫理観が欠如しているという事実がこれらの事故・事件の背景にある.

 普通教育としての技術教育が疎かにすると,このような技術あるいは科学における倫理観が疎かになる.2002年度から文部科学省による新学習指導要領とともに,学校週5日制も完全実施される.それに伴い各教科内容の大幅な削減が行われ,中学校の技術・家庭科も例外ではない.さらに約10年後を見据えた次々の学習指導要領改訂作業も進行中であり,漏れ聞くところでは中学校の技術科を廃止しようという動きがある.いわゆる先進国の中で,普通教育としての技術教育が中学校でしか実施されていない日本において,それをも無くしようという動きである.普通教育としての技術教育を軽視することは,科学技術創造立国を標榜する日本の将来にとって大きな痛手になることは明らかである.


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技術と社会部門ニュースレターNo.12