まず、自己紹介から始めたいと思います。元々理屈っぽい方であり学生の頃から哲学書や評論等を読むことが好きであったことから、
最近では『物的学術から事的学術への転換』(例えば、東京大学生産技術研究所
「生産研究」、Vol.50、No.12(1998.12)、302)などを主張しております。
こうした性癖から、熱工学を専門分野とする者が本部門活動に関与し始めたと思っております。
上記の転換は、以下のことを意味しています。即ち、今世紀の学術あるいは技術は、
「人間の物理的能力の拡大と物理的制約からの開放」を目指して、
「要素への還元・分析」あるいは「要素の積木構造としての全体性の把握・構築」という思考原理に基づき、
例えば人間の物理的能力に関する機能分割と単能機による機能代替により発展してきたと思われます(物的学術)。
しかし、全体が要素の単なる積木構造ではないことは自明であり、非線形力学を中心として、
要素が全体との相互関係の中で位置づけられて起こる「事」が重要であることが認識され始めています。
また、物的学術・技術が創造してきた人工環境は、環境・資源問題に遭遇するとともに、
個人目標と社会目標との乖離をも引き起こしているようであり、創造物が全体の中で引き起こす「事」の重要性が増していると考えられます。
こうした二重の意味を持った「事」を扱う学術を「事的学術」と呼ぶとすれば、「事的学術」は、
歴史、哲学、教育、技術・社会相関、技術・法関連、文理シナジーなどを内容とし、
機械学会では本部門が扱う以外にはないと考えます。
さて、今期の具体的部門運営方針を述べさせていただきたいと思います。
第一は、学会における本部門の位置づけの明確化です。上述の活動を目指す本部門は、
他の部門と同列の部門ではないと考えております。即ち、現在の機械学会の部門を再度大別すれば、
学会活動の総合基盤である「技術と社会」部門が基盤階層にあり、機械力学、材料力学、流体工学、熱工学、
計算力学等の基盤力学に基づく部門群が第二階層にあり、第三階層に応用領域を明確に意識した部門群があると思っております。
こうした階層構造を学会全体で認知していただくことは、本部門運営にとりまして大変意味のあることと思いますので、
機会ある度に主張して行きたいと思います。
第二は、本部門における活動内容の充実です。本部門のカバーする領域は上に例示しましたように広範囲に及んでおりますが、
活動の歴史が長い技術史や技術教育などを除いて、活動が最近顕在化したばかりの領域を多く抱えております。
こうした領域の活動が、研究会・講習会・講演会等を通じて充実するよう支援して行きたいと思います。
第三に、こうした活動を充実するには、会員の中で本部門の活動に興味を持っておられる方々の発掘が重要と思われます。
これに関しましては、無論、研究会・講習会・講演会等の地道な活動が重要と思いますが、
部門ニュースレターのように部門登録者への情報媒体のみでなく、学会誌への投稿や部門ホームページ等をも活用して、
部門登録会員以外にも本部門の活動を広報するよう努力したいと思います。
第四に、こうした活動を行うためには、部門の財政基盤も重要です。
元々、財政基盤とは、有意な活動を活発に行うために(つまり貯蓄するためではなく使うために)強化するものですから、
活発な活動企画が前提となります。
但し、講習会・出版企画などは、活動強化と財政基盤強化との両面をもっておりますので、それらを支援して行きたいと思います。
以上、どこまで具体的にできるかわかりませんが、努力したいと思いますので、ご支援・ご協力を御願いいたしたいと思います。