部門長挨拶

第78期部門長

小澤 守



 第77期西尾茂文部門長の後を受けまして,第78期技術と社会部門の部門長に就任いたしました.就任に当たり,一言ご挨拶をさせていただきます.

 「技術と社会」部門は機械技術,さらには技術そのものと社会との関連を対象とした部門であろうという認識は皆さんお持ちだと思います. さてこの部門のイメージを私なりに整理をしてみます.元来,私の専門研究分野は熱工学や動力に関わる分野で,いずれにしましても質量や運動量, そしてエネルギーの保存則に従って場を記述することになります.これらを解析的にせよ,数値的にせよ解こうとしますと,初期条件, 境界条件が必ず必要となります.本部門以外の部門は熱工学や流体工学のような学問体系に立脚した部門と,それらをもう少しインテグレートしたエンジンシステム, 動力エネルギーシステムなどの部門からなり,それぞれ個々には社会との関わりがあるものの,その中で閉じて,真理の追究とか性能向上に向けて研究をしていくことは可能でしょう. しかし機械技術を含む技術の総体としては社会とは無縁ではなく,技術そのものは実は社会の一局面であると思います.下世話な言い方をすれば, たとえば個々の機械なりシステムが商売として成立するためには,技術そのものだけでなく社会の中での位置付けをも含めて考える必要があります. 少し言い過ぎをお許しいただければ,最近「世界の船の6割を作っている事実上の造船王国である日本で,何故,造船業界が不況なのか」という話を聞きました. これは商売の問題かもしれませんがそれによって技術そのものが大きく影響を受けているのも事実です.従って個々の要素を単に集めてきても有機的な総体にはなり得ないのと同様, 社会全体の中でダイナミックに変貌する総体を理解するには,それなりのいわば要素還元的な方法論だけでは理解することができないことになります. 最近,社会学の分野で,「科学技術社会学」という新しい枠組みが松本三和夫氏から提唱されています.我々,機械技術者の側からのアプローチも必要なのではないでしょうか.
 以上のような観点で見れば,本「技術と社会」部門は西尾前部門長の挨拶にもありました「学会活動の総合基盤」より以上の役割を担っているのではないかと思います. 具体的に現在の本部門の活動範囲は,その研究会活動に端的に現れています.現在活動中のものは,法工学,機械記念物,工学倫理,人機能支援工学,技術の伝達と教育, エネルギーと社会動態,機械技術の継承調査の各研究会,技術者倫理,新産業創出につながる産業技術協力のあり方の各分科会などです. 本部門の守備範囲は,最近のISO9000,PL法,技術者認証,さらには本年機械学会が制定した倫理規定,いまさらながらに取り上げられる子供たちの理科離れ, それに端を発した大学生の能力低下,などなど,実は従来の機械工学の守備範囲をはるかに超えた問題など,益々拡大しつつあります. 我々を取り巻く社会の中にあって,我々部門所属会員だけでなく,機械学会全体が社会から課せられた要求にこたえるのは容易ではありません. PLにしろ,倫理規定や認証問題にしても,枠組みを作ったからといって機能するわけはなく,地道に,ひとつひとつ議論を重ね,失敗を繰り返しながら練習を積んでいくことしか方法はないと思います. 本部門は単独でそれらすべてをカバーすることなど元より不可能ですが,議論を重ねるための場を提供したいと思います. その意味で社会のダイナミックな現象のなかでの技術問題を扱う,新しい切り口の研究会や分科会のご提案,さらには国際シンポジウムの企画など,可能なものはできるだけ取り入れ, 本部門活動が活発で面白いものになればと念願しております.会員各位のご支援,ご参加を期待しております.

関西大学 工学部 教授)

2000.4.21