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ココロのスキマ♡お埋めします

福島大学 共生システム理工学類 4年
田嶋 真也

“ココロのスキマ♡お埋めします”
 これは藤子不二雄Aの漫画「笑ゥせぇるすまん」の主人公,喪黒福造(もぐろふくぞう)の名刺に書かれたキャッチコピーである.
 物語の中でこの怪しげな名刺を受け取った人々は,喪黒福造によって一時の夢を見せられた後,破滅させられる.
 大学一年生の頃,私はコロナ下で授業もオンラインだったこともあり,自宅にこもり気味であった.知らない土地で一人きり.退屈と孤独で,さぞ私のココロには大きなスキマがあっただろう.そのスキマを埋めるため,サブスクに登録して「笑ゥせぇるすまん」のアニメを熱心に見ていた.
 「笑ゥせぇるすまん」のストーリーには,皮肉と不条理が詰め込まれている.喪黒福造は基本的にいじめっ子や権力者をターゲットには選ばず,どこにでもいるような“普通”の人をターゲットにする.どう普通かというと,彼らが持つ欲や悩みは「孤独でさびしい」「仕事が憂鬱」「彼女ができない」「お金が欲しい」など,だれもが持っているようなもので共感できる部分が非常に多いのである.そんな彼らが喪黒福造のアプローチによって,一時的にはいい思いをするが,最終的に自身の欲望が招いた結果に悔いながら泣き崩れる姿は,見ていてどこか他人事には思えず,つらい気持ちになる.
 しかし私はこれがこの作品の魅力であると感じた.誰もが持っているような欲望を題材にすることで,視聴者はターゲットに自己を投影し,その末路に恐怖する.それによって自身のココロのスキマを認識することができる.
 物価高,社会情勢の悪化など未来のことに不安が募る昨今,誰しもが,多かれ少なかれココロに,スキマをもっている.残念ながらこの世の中には,私たちの欲望を利用し,陥れようとする人が存在する.しかし,「笑ゥせぇるすまん」を通じて,自身の欲望と向き合うことで,そのスキマに付け込まれないようにすることができるかもしれない.



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