目次へ戻る   

呼吸は副産物

日本大学 工学部 機械工学科 4年
鈴木八雲

 人間の行う鼻呼吸は,人体構造上の副産物なのではないかと考えた.
 まず,鼻の機能で思い当たるのは“におい”を感じることである.鼻には約1千万個の嗅神細胞があり1),これがにおい物質を受け取ることでにおいを知覚する.このにおい物質を取り込む際は,空気を共に流入させる必要がある.これを行う器官として,肺が適切だったため鼻と肺が繋がり,鼻呼吸が可能になったのではないだろうか.
 では,なぜ肺が適切なのか.それは,一定以上のにおい物質を取り込む際に必要な空気を流入するためには,肺を使わなければならなかったためと考えた.人間は嗅覚を使い危険を察知している.例えば,腐りかけの食材だとか,ガスにあえてにおいを付けてガス漏れの警告をするなどである.嗅覚は五感の中で最も原始的な感覚といわれており,受け取った刺激はダイレクトに大脳に届く. 進化の過程で,においを利用して危機を察知するためには,肺を使って大量の空気と共に,におい物質を取り込まなければならなかったのではないだろうか.仮に鼻と口が繋がっていない場合,取り込む空気量は少なくなってしまう.肺以外の大きな臓器を増やすと,体のバランスが悪く運動性能が低下するか,別の器官が縮小して機能が落ちてしまうだろう.以上のことより,鼻呼吸を行えるのは,におい物質を多く取り込むために,鼻と肺が繋がったことによる副産物であると考えた.
 しかし,生物の呼吸について調べると多くの動物は鼻で呼吸を行っており,哺乳類で口呼吸を行うのは人間だけである(犬も口呼吸を行うが,人間とは違い体温冷却を主とし,呼吸が浅く速いため肺に届く酸素は限られる).鼻呼吸は空気中のチリやゴミ,ウイルスなどが体内に入るのを防ぎ,体に入ってくる空気の湿度や温度を調節する機能も併せ持つ2).それに比べ口呼吸は,口腔内が乾燥し,唾液の殺菌消毒作用が妨げられ,扁桃の免疫機能が低下するなどのデメリットがある.口呼吸とは,鼻詰まりなどの鼻気道内の障害物や鼻炎により,鼻呼吸が行えない際の代用として行うものである.ここで口が鼻の代用部位とされたのは,口が体内に通じる入り口であり,体の正面に付いている器官であったためではないだろか.また,運動などを行うことで大量の酸素が必要になった際に,より大きな流入口を使う必要があったのではないだろうか.
 以上より,口呼吸こそ人体構造上の副産物なのかもしれない.


 参考文献

1) 東京大学大学院理学系研究科・理学部,匂い受容体が、嗅神経細胞で選択的に発現する仕組みの解明,2007年プレリリース,
https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/press/2007/26.html
2022/11/14

2) 中外製薬,鼻|からだとくすりのはなし,
https://www.chugai-pharm.co.jp/ptn/medicine/karada/karada004.html#:~:text=%E9%BC%BB%E3%81%A8%E3%81%AF,%E3%81%8B%E3%81%8B%E3%82%89%E3%81%AA%E3%81%84%E3%82%88%E3%81%86%E3%81%AB%E3%81%97%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82
2022/11/14







目次へ戻る