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親父が熱中するわけだ

東北大学大学院 工学研究科 修士2年
酒徳大河

 ガンプラは自由だ.説明書通りにそのまま組むもよし,複数のキットを組み合わせるもよし,好きな色に塗るもよし.原作のシーンをジオラマで忠実に再現する人もいれば,とにかく赤く塗って3倍速く動くようにする人もいるだろう.楽しみ方は手に取った人の数だけある.私自身,武器をてんこ盛りに持たせたり,ギラギラのメタリックカラーに塗ったり,戦場をイメージした汚し塗装をしたりなど,己の創作意欲の赴くままに作っていった.
 一つ,また一つと組み上げていくたびに強く,かっこよくなっていくことに時間を忘れて夢中になった.ただいつからだろうか.ネットに上がっている上手な作品と比べて劣等感を感じるようになったのは.数か月もかけて完成させた力作でもいざツイッターに投稿したり展示会に出展しようとすると,この程度の作品を他人に見てもらおうなんておこがましいのではないかという思いが頭によぎる.今まで自由に作ってきたはずなのに,ある種の不自由さに縛られてしまっていたのである.
 こうして日の目を見ないままの作品たちで棚がいっぱいになってきたある日,YouTubeの一つの動画が目に留まった.吉本興業のある芸人がただガンプラを作るだけの動画なのだが,よくよく見てみると塗装がはみ出していたり段取りもめちゃくちゃだったりと下手くそなのである.ただ,気になったのはそこではない.誰よりも楽しそうに,目をキラキラさせて作っていたその姿から目が離せなかった.なんだか自分が技術云々でくよくよしていたことが急にちっぽけなことに感じた.自分が楽しく作れているならいいじゃないか.そもそも模型製作の趣味そのものが自己満足を突き詰める世界であるため,作り方や作るものに正解などない.あえて言うなら楽しみながら作るのが正解なのである.「これだけ上手く作れました」ではなく「これだけ楽しく作れました」を披露する場としてであればツイッターへの投稿も展示会も悪くないなと思えてくる.
 改めてそんなことを考えると部屋の隅に高く積まれた箱の一つに自然と手が伸びる.この機体に合いそうな塗料はまだ残っているかな.そうだ,最近買った新しい工具も使ってみよう.どんなものが出来上がるだろうか.ワクワクが止まらない.







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