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需要のあるコンテンツ

東北大学大学院 工学研究科 修士1年
今田将勢

 Youtubeを始めた.しがないゲーム実況者だ.
 コロナ禍でゲームにハマった私は機材を揃え,憧れだったゲーム実況を投稿することにした.しかしご存じの通りYouTube市場は飽和しており,夢見る新米YouTuberは悉く挫折している.ましてや顔出しをしない“男性”ゲーム実況者がこれから伸ばすのは至難である.しかし私は絶対に挫折しない自信があった.夢を見ないからだ.こんなもので収益化なんでできるわけない,ただ自分が楽しいからやっているんだと,最初からそういう心持ちでいれば理想とのギャップに悩まされることはない.そう思っていた.
 満を持して初投稿.12再生.まぁこんなものか.半分くらいは自分で再生した気がする.しかし再生数以上に得たものがあった.ファンができたのだ.声がいいだとかプレイが上手いだとか,とにかく熱狂的なファンが.現実にいたら距離を置きたくなるような存在かもしれないが,これがネットのいいところで,素直に嬉しく思えた.人間は貪欲なもので1人ファンができると2人,3人と欲しくなってしまう.少しだけ夢を見た.
 ところが現実はそう甘くない.人生設計と照らし合わせると,登録者の増え方が今のままでは1000人(収益化のボーダーライン)に達する頃には娘が中学に入学する.私は少し考えた.初見の人がこのサムネイルとタイトルを見て動画を開くだろうか.知らない男の奮闘記など誰が見たいだろうか.サムネイルはシンプルかつ分かりやすく,タイトルは衝撃の内容をほのめかすように.そんな工夫をしたら少しだけ再生数は伸びた.
 しかしもう一息伸びない.尊敬するプレイヤーの動画は,これといった特徴もなくタイトルも普通,サムネイルは正直ダサい(直せばもっと伸びると思うが).なのになぜ自分より何倍も再生されているのか.考えるのもそこそこに,私は少し趣向を変えた動画を投稿してみた.最難関と呼ばれるステージの攻略解説動画だ.似たような趣旨の動画はごまんとあるが自分と同じ手法の動画は見当たらない.これでどうだ.…少し伸びた.現在2200回再生だ.私のスマートフォンは意識高い系にかぶれた時期以降英語設定なので,2.2K viewsとそれっぽく表示してくれる.YouTubeはなんて夢があるんだろう.
 この経験を経て気付いたことがあった.私の投稿した動画は,多くの人にとって“需要のあるコンテンツ”だったから伸びたのだろう.しかし先述したプレイヤーの動画は,どんな内容であれそこそこ伸びる.それは,その人自身がこれまた多くの人にとって“需要のあるコンテンツ”だからなのだ.実力と実績があり,信頼されている.だから自然と人が集まる.
 これはYouTubeに限った話ではない.我々が必死に取り組む就活も,価値を提供し続けることができる自分こそが需要のあるコンテンツなのだと何とかしてアピールしなくてはいけない.留学や資格などの実績があればよりよいだろう.そんなものはない私は就活でもYouTubeでも工夫をして乗り越えるしかないのだ.







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