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富山での学会参加

福島大学理工学群 共生システム理工学類4年
大藤弘登

 私は現在,材料力学に基づき環境に配慮した複合材料システムの設計,人の歩行の力学的解析・靴底の開発,および太陽電池パネル架台設計などを行う研究室に在籍しており,特に私は熱可塑性樹脂と炭素繊維を用いた複合材料の環境劣化について研究している.熱可塑性樹脂と炭素繊維を用いた複合材料はCarbon Fiber Reinforced Thermoplastics,CFRTPと呼ばれ,自動車産業などを中心として適用が拡大しつつあるのだが,環境による力学的特性への影響についての研究はあまりない.そうした現状から,今研究を進めている.

  とはいえ,この研究テーマも研究室内ではスタートしたばかりであり,研究室内の他のテーマに比べると過去の蓄積が少ない.研究室に配属されたばかりの人間にとっては何から始めていいのかもわからず,戸惑いもあった.そんな中で学会誌の論文や解説記事を見つけては読み,少しずつ学んだ.ほとんど無知であった分野の知識を付けるのは難しかったが,面白くもあった. 


 そうした状況の中,富山で行われる複合材料に関する講演会,いわゆる“学会”へ見学という立場で参加する機会が巡ってきた.ほんの少しでも新しい知識をつけられたらという思いで富山へ向かい,学会当日を迎えた.  富山駅から少し離れた会場までは路面電車で向かった.初めての路面電車にワクワクしつつも,会場に足を踏み入れた.会場内は三つの講演会場と一つの展示会場になっており,事前にチェックしていた研究の発表を聞いた.

学会誌や要項集だけでは分からない研究の細やかな部分をはじめ,研究発表を聞くことで多くのことを学べた.しかし何よりも大きかったのは,実際に研究をしている方々にお会いできた点だ.それまではやはり,何処か遠くの誰かが成していることであって,自分に関連した分野だとしても,いま一つ現実感がなかった.それが学会への参加を経て変わったように思う.論文や解説記事を読んでいても,それを研究している人がきちんと存在するということが明確になった.私にとってそれはとても大きなことであり,それだけでも今回,学会に参加した意義があったように思う.


 私はもともと物理,中でも特に力学が好きであった.福島大学に進学するにあたり,なんとなく機械工学系の科目を選択し始めたのだが,その中で材料力学という学問に出会った.それまでに学んできた力学と異なり,応力やひずみという概念,梁の撓みや熱応力の計算など,現実に適用できる材料力学の学問としての「リアルさ」に強く惹かれた.それは,材料力学を基礎とする研究室への配属を希望する理由にもなった. 

 しかし,研究室に配属されてしばらくの間学んでいても,研究がどういう現実の上に存在するのかという,研究の「リアルさ」はいま一つ分からなかった.工学という分野の性質上,それはとても重要にもかかわらず,である.  それが講演や研究発表を聞くことを経て,現状何が必要であり,何が問題であり,何に取り組むべきであるかという研究背景や全体像が,それまでよりは把握できるようになった.そして,それらを歴史も含め俯瞰的に見つめつつ,自分の研究を進めることが重要であることも学んだ.それらは学会に参加して得た最も大きなものの一つであったように思う.


 先述したが,私は熱可塑性樹脂と炭素繊維からなるCFRTPという複合材料の環境劣化,特に吸水により劣化した場合の機械的特性の低下や破壊機構の解明をテーマとして卒業研究を進めている.まだまだ勉強中の身であり,基本的な材料試験や数値計算であっても,躓いてしまうことが多い.しかしながら,試験や計算が上手くいったときや,ずっと考えていたことについての解がふと思いついたときなどは,この上なく嬉しく,時間や食欲を忘れる.もう少しだけ知りたいと,そんな風に思える.私は幸運なことに,このまま大学院に進学することとなった.更に2年間,研究をすることができる.勿論,一学生には大したことが出来ないかもしれない.しかし,研究の最中に感じる,もう少しだけ知りたい,という感覚を大切にして,貴重な大学生活,大学院生活を過ごしていきたいと思う.







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