「アクセントの不思議」
山形大学工学部機械システム工学科 4年 樋田雅彦
皆さんは「無アクセント地帯」という言葉をご存じだろうか.「無アクセント」とは方言学上,アクセントのきまりを持たないことである.つまり「無アクセント地帯」はアクセントのきまりを持たない地域,ということになる.……と言われても,かつての私は何のことやらさっぱりであった.恥ずかしながら長い間「無アクセント」=「アクセントがない(平坦)」と勘違いしていたからだ.かつて「お経のように平坦」な語り口だと揶揄され,「へへーん.無アクセントのせいだよ〜」とか言っていた過去は忘れたい.(というか消し去りたい.)正しくは「アクセントに区別がない」ということだという.
「カキ」という語を使って東京式アクセントで例を挙げてみたいと思う.日本語のアクセントは強弱ではなく高低で表わされる.「柿(が)」の場合「か」が低で「き」が高,助詞の「が」は高である(「柿(が)」=_| ̄( ̄)).一方,「牡蠣(が)」の場合には「か」が高で「き」が低,助詞の「が」は低となる(「牡蠣が」= ̄|_(_)).ちなみに垣根を表わす「垣(が)」の場合には「か」が低「き」が高,助詞の「が」は低である(「垣が」=_| ̄(|_)).
何やら小難しい話になってしまったが何のことはない.東京式アクセントの場合,人は意識せずに「カキ(ガ)」という一言でこの三種類を使い分けているのだ.しかし無アクセント地帯に暮らす人々の場合,この三種に区別がないのだ.「柿」が食べたい場合でも「牡蠣」や「垣」のアクセントの場合もあるということだ.さらに厄介なことは,これらのアクセントの使用に規則性がないことである.平たく言ってしまえば「気分」で使い分けているのだ.(何てこった!!)
その結果,無アクセント地帯の人が三種類の「カキ(ガ)」を区別する方法は前後の語や文脈といった曖昧なものになっている.そのため,無アクセント地帯外出身者にとっては意思疎通に支障をきたす原因にもなっている.
さて,この「無アクセント地帯」としては南東北〜北関東にかけての連続した地域や福井県の一部が有名である.私事で大変恐縮だが,私は福島県生まれの福島県育ちである.福島県はほぼ全域が無アクセント地帯に分類されている.勿論私も「無アクセント地帯」出身だ.大学に入るまでは周囲も同じ環境だったため特に不便は感じなかった.しかし…….大学に入り状況は一変した.
通じないのだ,言葉が.「昨日さー,ハシがなくて」と言おうものなら「え?橋が!?」「端がないってどういう状況?(笑)」のような反応をされる.いやいや「箸」ですよ,皆さん.特に関東より西の人との意思疎通は難しい.お互いに誤解し,何やら噛み合わない会話を続けていたこともある.最近,アクセントを意識して話すように努力している.無アクセント地帯出身者はアクセントに気を使うことが少ない環境で生まれ育ったため有アクセントの習得が困難とされている.確かにその通りで成果は未だ感じられない.しかし努力を怠るわけにもいかないだろう.……会話は「カク」ことの出来ないことだけに.
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