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ロード 〜バイクに乗って〜

仙台高等専門学校 生産システム工学コース 2年

武藤勝也

初めに断っておきますが、これは、バイクに乗って旅をした話ではありませんので。

私がそれと出会ったのは、学生生活最後の夏休みが間もなく終わりという時だった。
その日、バイトが昼過ぎに終わる日で、久しぶりに兄と飲みに行く約束をしていた。
いつの通り、お気に入りの串カツ屋に行きいつもなら、直接家に帰るのだが、早い時間から飲みにいったこともあり、時間が余りすぎてしまい場所を変えて飲むことになった。
二軒目に向かったのは、自転車好きが集まる飲み屋だ。
自転車好きの集まりといっても私が通学で使っているようなママチャリに乗って喜んでいる変人の集まりでなく、自転車の構造を見てお酒を飲む変人でもなく、
ロードバイクに乗って、とてつもなく長い距離を走ったり、ただただ辛いだけの山を登ったりするそんなストイックな変人、いや、鉄人達の集まりだ。
そんな話ばかり聞かされるものだから、ロードバイクなんて変わり者の乗るものだと、自転車の話をされてもいつものように適当に聞き流しているつもりでいた。そう、聞き流しているつもりだったのに。
翌日、何も変わらない、清々しい日曜の朝、全く開く気配のない目を無理やり開けながら朝食をとっていた。そのとき、兄がとんでもないことを言い出した、
「あの自転車、今日、引き取りにいくから。代金は立て替えとくけど必ず返せよ」
あの自転車?立て替えるだって?
何を言われているのか理解が出来なかった。話を聞けば、私は鉄人達の話に触発されロードバイクを買うって言ってしまっていたようだ。
とは言っても、「お酒の席じゃないの、適当に聞き流しといてよ」朝からブルーな気持ちになっていた。
しかし、届いた自転車を見て、一気にそんな気持ちは吹き飛んだ。
真っ白なフレームに映えるカーボン製フロントフォーク、そして、血管の様に真っ赤なブレーキ・シフトケーブル。移動するための道具でありながら、まるで生き物のようなその姿に引き込まれそうな魅力を感じた。
兄に対し、「なんてことをしてくれたのさ」と思っていた自分が恥ずかしくなるほどだ。むしろ、このロードバイクと引き合わせてくれた兄にとても感謝している。
いまとなっては、暇さえあればロードバイクに乗り遠出したり、山に登ったりしてしまう変人になりつつある。
これからは、変人を超える鉄人、超人を目指し、ペダルを漕ぎ続けていきたい。

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