140円の旅 東北大学 橋本健太郎
私はよく一人で旅に出る.初めて一人旅をしたのはまだ小学生の頃である.当時は目的地など無く,
とにかく静岡(出身地)を出て遠くに行ってみたいという思いが強かった.最初の旅は静岡〜大阪〜金沢〜新潟〜東京〜
静岡と中部地方をぐるっと一周するような鉄道の旅だった.よくあるガキの言い掛かりのようなものを快諾してくれた
両親には感謝している.いつしかその鉄道の旅は恒例行事となり,今や訪れたことのない都道府県は5つしかない.
この話を聞けば「ただの乗り鉄」と思うであろう.別に否定するつもりもないが少し違う.何回か旅をしているうちに
一番気分が高揚する瞬間がわかってきた.それは列車を降り,ホームに降り立った瞬間である.普段とはどこか違う空気
を感じ,駅を行き交う人々が特別な人に見える.出口案内の看板には聞いたこともない地名が並び,周囲の会話が外国語
に聞こえる.機械学会の場なのに非科学的な話になってしまうが,そこには確実に「何か」がある.その「何か」は「
異国情緒」なのではないだろうか.そしてそれを感じたとき,何物にも代え難い快感を得る.だから私の中では目的地の
ない旅が成立するのだ.
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