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140円の旅

東北大学

橋本健太郎

  私はよく一人で旅に出る.初めて一人旅をしたのはまだ小学生の頃である.当時は目的地など無く, とにかく静岡(出身地)を出て遠くに行ってみたいという思いが強かった.最初の旅は静岡〜大阪〜金沢〜新潟〜東京〜 静岡と中部地方をぐるっと一周するような鉄道の旅だった.よくあるガキの言い掛かりのようなものを快諾してくれた 両親には感謝している.いつしかその鉄道の旅は恒例行事となり,今や訪れたことのない都道府県は5つしかない. この話を聞けば「ただの乗り鉄」と思うであろう.別に否定するつもりもないが少し違う.何回か旅をしているうちに 一番気分が高揚する瞬間がわかってきた.それは列車を降り,ホームに降り立った瞬間である.普段とはどこか違う空気 を感じ,駅を行き交う人々が特別な人に見える.出口案内の看板には聞いたこともない地名が並び,周囲の会話が外国語 に聞こえる.機械学会の場なのに非科学的な話になってしまうが,そこには確実に「何か」がある.その「何か」は「 異国情緒」なのではないだろうか.そしてそれを感じたとき,何物にも代え難い快感を得る.だから私の中では目的地の ない旅が成立するのだ.

 かといって旅は時間もお金もかかり,なかなか出られるものではない.特に理系学生としては冬の期間は旅など出て いる場合ではない.そんなとき私は駅に行く.今は仙台駅だ.「異国情緒」は身近な駅でも簡単に味わうことができる. 皆さんは駅のコンコースに入った瞬間空気が変わったと感じたことはないだろうか.あの空間では仙台にして仙台ではな いような感覚にとらわれる.それは改札に近づくとより強くなり,私の中では改札の向こうはもはや仙台ではない.それを 感じるだけでも十分であるが,最近では入場券を買ってホームまで上がる.ホームでベンチに座って行き交う列車や人々 を見ているだけでどこか遠くに行ったような気分になれる.日曜夕方,皆がサザエさん病にかかっているときにそんなこ とをする.入場券は140円で買えるから,それで気分転換できるならそんなに安上がりなことはない.

 「金も時間もないが旅に出たい」そんなときは140円の旅をしてみてはいかがだろうか.



異国情緒イメージ


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