「磁気式遊星・差動歯車」との出会い
東北学院大学 工学研究科 機械工学専攻 博士前期課程2年 山中 恵介
「磁気式遊星・差動歯車」という歯車,私がその名を初めて知ったのは大学3年の時,研究室紹介の張り紙を見た時でした.歯車の知識が少なかった私は歯車の研究室にあまり興味を持つことができなく,さらに,遊星歯車を知らなかった私は星の遊星を思い浮かべました.星と歯車,そしてその上に付いている”磁気式”,漢字をやたらと使用したその名前から中国のあやしい玩具の研究だと思いその場を後にしました.
大学4年になり研究室にも配属され,就職活動と卒業研究で忙しい毎日を送っていました.そんなある日,機械工学実験Uの授業で磁気歯車実験室を訪れた時の事でした.あの時の感動は今でも忘れられません.私は初めて磁気歯車(図1)を目にしました.それは初めて創られた磁気歯車の試作モデルでした.独特の曲線上に磁石が貼られた大小の二つのアクリル円板は磁石の貼られた面が対向する様に設置されていて回転運動をしていました.対向する円板間には空隙と呼ばれる空間があり,非接触で動力を伝達していました.先生が空隙間に紙を挿入しても従動車は原動車の1/3の定角速度比を維持し,歯車としての機能を果たしていました.先生のお話では従来の歯車は歯面同士が直接接触する為,潤滑油が必要不可欠であるが,磁気歯車は非接触であるため無潤滑でメンテナンスフリーである.また,歯面間の摩耗や発熱が無く,騒音,振動が無く隔壁動力伝達が可能であるなど様々な利点があるとの事でした.就職と大学院進学を迷っていた私はこの時,大学院では磁気歯車の研究をしようと心に決めました.
その後,私は大学院で2年間,磁気式遊星・差動歯車装置の研究をしました.研究テーマは,「ツイン型太陽歯車を有する磁気式遊星・差動歯車装置の試作研究」です.この装置は装置単体で種々の動力伝達装置として使用できます.一例としては,単体で増・減速装置として使用できます(図2).一般的な遊星歯車装置としても使用できますが,外輪歯車を差動駆動することにより,2つの動力を入力し1つの出力動力を得る無段変速装置としても使用できます.動力の入力を2つにすることにより,出力動力に掛かる負担を2つの入力で分ける動力分割機構で行えます.また,遊星歯車の枚数や磁石間の空隙を変更することにより耐負荷能力を自由に設定でき,過負荷時にはトルクリミッターとしての機能を果たします.研究を進めると,非接触でありながら出力回転速度が10000min−1でも歯車の機能を果たすことが分かりました.このことから,低出力回転速度では風力発電の増速装置として,高出力回転速では高速真空ポンプ装置などへの適用が期待できます.
大学院での研究は初めの頃,機構学や機械設計工学(図3),電磁気学(図4)などの幅広い分野の知識が必要で大変でしたが,この装置を通して磁石の事や遊星歯車機構について知識を深めることができました.また,他ではまだ十分研究されていない磁気歯車ですが,非接触動力伝達の技術は,将来きっと私自身の役に立つ技術であり,知識だと思います.
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