電動カートを作ってみよう! 〜年末激闘編〜
八戸工業高等専門学校 機械工学科4年 川口真樹 今回私は、私の学校で(機械工学科で)行われている、1つの授業について紹介したいと思います。 私の学校では4学年になると、製図の集大成とも言える“電動カート”の設計を行います。これは設計製図という授業の内容であり、3人1組となって、1年間かけて1台の電動カートを設計するというものです。電動カートの基本的な構造は、カート用スリックタイヤと、ステンレスフレームに、バッテリーをソースとして回転するモータを組み込んだ、一見簡単なものです。また、各人が電動カートの各部位を担当していて、例えば前輪操舵関係、ギアボックス、後輪関係といった具合に分かれています。それでは次に、具体的な設計の流れを紹介しましょう。 先ず始めに行うことは、自分のチームが作ろうとしている電動カートのコンセプトを考え、まとめることです。これを元にして1年間設計していくので、とても大切な話し合いの場となります。3人とも自分が思い描くカート像というものがあるので、それが1つの方向にまとまるには、それなりの話し合いと時間が必要となります。時には先輩方が実際に設計、そしてそれを元に製作された電動カートからヒントを得たりもします。私のチームも、よく深夜まで話し合ったものでした。その結果、各チームそれぞれ個性的なカートのコンセプトが仕上がって来ます。今年は、4WD、4WS機構を持つカートや、前進3速、後退1速のギアボックスを持つカート、そして前輪駆動のもの、チルトハンドルや、サスペンション機構を持つカートが何台か出揃っています。恐らく、電動カート設計の上で、最も楽しい作業の1つだと思います。 |
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次に、先のコンセプトを元にして実際に図面を書き上げていきます。この作業が時間的に電動カート設計の大半を占めています。CADを使って、パソコン上で図面を書いていく訳ですが、実際に図面を書こうと思っても、まずどこから手を付けたら良いのか分からなく、意外と苦労しました。どうしても分からない所があれば、先生や友人に相談しつつ、作業を進めていきます。1〜2ヶ月も経つと、学校内に夜10時頃まで、図面を書くために残る人達がちらほらと見えてきます。又、部活やロボットコンテストの大会に出場する人達にとっては、特に大会前などは大変忙しい時期になります。
私が担当している部分は電動カートの前輪と操舵関係ですが、付加的な機構としてサスペンションと、チルトハンドルを取り入れました。私は車の細部に渡る機構について、ほとんど知識がないため、教科書を見たり図書館で調べたりして、コツコツと図面を書き上げていきました。初めサスペンションはどういうふうにしようか、あれこれ考えました。先輩方が設計したものには、圧縮コイルバネを用いたサスペンションはもちろんのこと、トーションバーを用いた、ねじりによって衝撃を吸収するサスペンションなど、色々在って参考なりました。上記のことはどちらかといえばコンセプトの方ですが、実際にサスペンションやチルトハンドル、アッカーマンジャント−機構に基づき、操舵関係を図面に書きお越してみると、全体的なシルエットや各部のつながりが予想とは異なったため、書き直すこともあって大変でした。1度図面が出来たところで、この図面の操舵系統は、ハンドルを回せば本当にカートは旋回できるのだろうか、とシミュレーションしてみます。今までの製図では、各部品の運動は単純なもので、連動して動く部品も少ないものでした。しかし今回は連動して動く部品数が多いので、ある部品が運動することにより、他の部品はどのような運動をするのかをある程度予想しながら図面を書いていくことが今まで以上に要求され、そしてそれは今まで以上に困難な課題でした。 とりあえず図面が完成すると、先生に検図してもらうのですが、強度的な問題、寸法的な問題、JISや注文部品に対しての規格に関する問題…etcとにかく問題点を指摘されて、図面を書き直さなければなりません。そしてもう1度検図してもらい…1回で受領する事はまれです。場合によっては、もう一度最初から図面を書き直すといった具合になる事もあります。しかし、そういう事があるので、時間が経つのと共に製図に関する知識が増えて行くのは確かで、実際にそうであると思いました。このようなやりとりを何度も繰り返して、やっとカートらしき図面が出来上がってきます。又、最近受領した図面を見返す度に“見る人にとって分かりやすい図面を書くこと”の大切さを考えさせられます。それは何故かというと、どうしても個人作業となってしまうため、自分の煮詰めた考えがそのまま図面に投影されてしまい、自分が分かりきっている所が省略される傾向があるからです。その結果、自分以外の見る人にとってはとても見づらい図面になってしまいます。この代表的な例が先生に検図してもらう際の、学生と先生との図面を通したコミュニュケーションに見受けられます。それを解消するためにも、注記を書き加え、断面図や多方向から見た図面を加える必要があります。 ところでギアボックスを担当している人達にとって、この段階の初めの内はレポートが中心となります。何をやっているのかというと、電動カートの登坂能力や、最高速度、最低速度など、電動カートの性能を設定、計算し、又ギアボックスの歯車や軸受を諸データを元に計算し、選定しています。特に軸受の計算は1つの軸受を選定するだけでも、式の量がたくさんあるのでとても大変です。最終的には60〜80ページ前後のレポートが完成します。その後、図面を書いていきます。 各人、電動カートの各部位の図面がある程度完成すると、それぞれの図面を重ねたり、つなげたりします。そうして1台の電動カートが完成していくわけです。が、現実の問題として予定通り物事が淡々と進んでいくことは、あまり在りません。どうしても、仕上りが遅い人や、速い人がいて、全体的に進行の程度にはばらつきがあります。もう図面の受領まで間もない時期にあるため、学生の製図に対する意識も普段に比べ、格段にUPしています。 しかしながら自分達が設計した電動カートが、実際に製作されるのはとても楽しみなことです。自分が設計した通りに組み立てられるのか、又設計した諸性能が得られるのか、全く予想がたちません。電動カートの完成は、先程も述べたコンセプトを考えることと共に、最大の楽しみの1つだと思います。 年末になると皆、完成に向けてラストスパートをかけます。最後の修羅場です。そういう私も完成に向けて、ラストスパートの真最中ですので、これにて授業の紹介を終わりたいと思います。短い時間でしたが読んでいただき、ありがとうございました。それではさようなら。
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