2011年4月より第89期の部門長の大役を仰せつかりました。部門長就任にあたり、ご挨拶を申し上げます。
まず、3月11日に発生した東北関東大震災の被災者の皆様に心よりお見舞い申し上げます。この大地震はこれまでの想定を上回る規模で、犠牲者も 2 万人規模の大変な数に上ろうとしています。地震の揺れよりも津波による被害の方が甚大であったことも想定外の出来事でした。被災地ではライフラインの確保が急務でありますが、何よりも一番の衝撃は、東電の福島原子力発電所において緊急炉心冷却装置が作動せず炉心内燃料棒が一部溶融し、ジルカロイと水蒸気の反応による水素が爆発して放射性物質が炉外に放出されたことです。原子炉の建屋が次々に水素爆発していく様やヘリコプターで冷却水を巻いている様をテレビで見るたびに悲しい気分になります。すでに計画停電も始まっていて、東北や首都圏をはじめ深刻な電力・エネルギー不足が今後も続くと思われます。首都圏では移動も大変で、講演会等のキャンセルが相次いでいます。残念ながら、今後の学会活動にも大きな制約が出てくることでしょう。日本経済自体も深刻な状況に陥るのではないかとの懸念も大であります。このような未曾有の状況で、熱工学部門としてどのような貢献が可能なのでしょうか。私はどのような困難に直面しようとも、学術的なアクティビティを落としてはいけないと考えています。予定されている学術的な行事は可能な限り淡々と遂行することが大事です。このような地道な活動の継続こそが復興への確かな道筋となるのであります。
前置きが長くなりました。第89期熱工学部門の活動方針について述べたいと思います。前期 (第88期)では、部門運営のキーワードとして"原点回帰"が上げられました。熱工学は熱力学・伝熱学・燃焼学・熱物性といった機械工学における基盤を担う学問分野です。ナノ・マイクロといった新しい分野への過度の偏重を避け、熱工学の基盤・根幹、すなわち足腰を強化して、その上で新規分野へ展開を図るという基本戦略は本年も受け継いでいきたいと思います。
もう一つのキーワードは、"再生"であります。当然ながら震災から立ち直るという意味を込めた言葉ですが、熱工学においては熱やエネルギーの再生(Regeration)を意味します。"再生"は、「再生可能エネルギー」という言葉にも使われているように、エネルギー有効利用の鍵であり、熱工学に携わる技術者・研究者が貢献できる低炭素社会実現への有効な手段となりうると確信します。熱工学部門のように大きな部門の円滑な運営には、老壮青の世代間の連携が欠かせません。実動部分は壮青で頑張りますが、老の領域におられる大御所の先生方にも知恵を出していただき、それを熱工学部門の運営や学術活動に役立てていきたいと存じます。老の知恵を活用することも一種の"再生"であります。
さて、熱工学分野における我が国の国際的地位の一層の向上は非常に重要な課題です。特に近年韓国や中国の科学技術・経済分野での発展やさまざまな分野での国際的地位の向上は目覚ましいものがあります。近隣諸国とのいいライバル関係は、お互いを切磋琢磨し、アジア地域全体の世界におけるプレゼンスを高める意味でポジティブに捉えるべきです。これらの国だけでなく、欧米をはじめとする世界各国との連携を強化していくことが重要であると考えます。他国との具体的な国際連携事業として、第89期では2012年3月に第8回日韓熱流体工学会議の開催が予定されており、JSME 側Chairの富田栄二先生を中心に着々と準備が進められています。その他、国内行事として、例年通り、熱工学ワークショップ、熱工学コンファレンス、年次大会、部門講習会などが計画されています。
また、第89期では部門としてのポリシーステートメントをまとめ、今後数年に渡る活動方針を示していかなければなりません。部門として、どのような方針を示せるのか、総務委員会を中心に活発な議論をしていきたいと思います。
会員の皆様には、熱工学部門の活動に積極的にご参加いただき、ご協力・ご支援を賜りたく存じます。どうぞよろしくお願い申し上げます。
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