TED Plaza |
ベーパーチャンバー内の可視化実験 |
小糸 康志 |
1.はじめに
電子機器の高性能化とともに発熱問題が顕在化し、熱対策を目的として、冷却・熱輸送デバイスに関する研究が多く実施されている。その中で、発熱量・発熱密度の増大を背景に、沸騰ならびに蒸発、凝縮による相変化伝熱を利用した熱対策に関する研究も種々発表されており、一例として標記の" ベーパーチャンバー"が挙げられる。ベーパーチャンバーは、ヒートスプレッダーとして機能する平板状薄型ヒートパイプの呼称であり、熱を二次元的に拡散させる特長を有するが、通常の管状ヒートパイプと同様、金属容器内に作動液が封入されたものである。容器内壁にはウイックと呼ばれる毛細管構造体が設けられており、そのポンプ力によって液が還流するため、外部動力を要することなく作動する。CPU やMPU などの発熱体はヒートシンクよりも小さく、発熱面と冷却面のサイズの相違に起因する熱抵抗、すなわち、拡がり熱抵抗の低減を目的として、ベーパーチャンバーが実用されている。 まず、デバイス1として、横方向から内部を観察する可視化ベーパーチャンバーについて紹介する。本研究では、ベーパーチャンバーの軽量化も研究目的としているため、デバイス1 は主としてアルミニウム材を用いて製作した。また、本実験の温度範囲における最も一般的なヒートパイプの作動液は水であるが、アルミニウム材との適合性に問題があるため[3]、ここではHFE-7200 を作動液として使用した。
2-1. デバイス1の詳細 Fig. 1 に、デバイス1 の詳細を示した。二枚のアルミニウム平板(ボトムプレート、トッププレート) とスペーサーを用いて容器を製作し、スペーサーの材質を透明のアクリル材にすることにより、内部を観察できるようにした。アルミニウム平板とスペーサーはボルト・ナットで固定し、補強のため、容器内部には円柱状のカラムを設置した。また、デバイス内を真空に引いた後、作動液を封入した。なお、ここではウイックを使用せず、平板型熱サイフォンの状態で実験を行った。 2-2. 実験法 Fig. 2 に、実験装置を示した。ボトムプレートの中心部をヒートソースと、トッププレートをヒートシンクと接触させ、加熱・冷却実験を行った。ヒートソースは、銅ブロック内にカートリッジヒーターを入れたものであり、加熱面積3.00cm2(=1.73cm×1.73cm) である。一方、ヒートシンクには放熱フィンを用い、風洞(断面10.0cm×3.4cm) 内で送風機により空冷した。冷却面積は100cm2×(=10.0cm×10.0cm) である。実験条件として、作動液封入量ならびに加熱・冷却条件( 加熱量、冷却空気温度、冷却空気速度) を規定し、スペーサーを介して内部を観察するとともに、ヒートソース上面温度Th、蒸気空間温度Tv、ヒートシンク基盤部温度Ths,1 〜 Ths,9を測定した。温度測定位置の詳細はFig. 2に併記した通りである。各位置の温度は熱電対で、冷却空気速度はオリフィスおよびマノメータを用いて測定した。 2-3. 実験結果 Fig. 3 に、加熱・冷却実験時のデバイス1 内の様相を示した。透明のアクリル製スペーサーを通して撮影したものである。縦方向に写っているものはボルトおよび補強カラムであるが、作動液の状態を目視で確認することができ、熱電対による温度測定結果と合わせて、作動特性を明らかにすることができた。 以下、冷却空気温度Ta=25℃、冷却空気速度=1.5m/s、作動液封入量=44mL (= 蒸気空間の42%に相当) のときの定常状態における実験結果を示す。Fig. 4 に、加熱量Q=30、60、90 W のときの温度分布を示した。ここでは冷却条件が同一であるため、Q が大きくなるとデバイスの温度は全体的に上昇する。また、ヒートシンク基盤部については、Ths,1〜Ths,9 の間に温度差が小さく、デバイス内で潜熱が利用され、熱拡散が行われていることがわかる。ヒートシンク基盤部の代表温度として、温度差が小さいことからThs,1〜Ths,9の算術平均値<Ths>を用い、Th、Tv、<Ths>とQの関係をFig. 5 に示した。図中にはTa も併記しており、Th=100℃となるときのQ を限界熱量と定義して、その時のデータに矢印を付した。全体的な傾向としてQ の増加とともにTh、Tv、<Ths>は高くなるが、デバイス内部では、Q が小さいときは液表面からの蒸発のみが生じ、Q=42W 付近で核沸騰が開始され、その後、Qの増加とともに沸騰と凝縮が激しくなる様子が観察された。また、Th については、Q=42W の前後でQの増加に対する温度変化量が異なっており、核沸騰開始の影響が表れているといえる。
3.可視化ベーパーチャンバー 〜デバイス2〜 次に、デバイス2 として、作動液が蒸発する蒸発部の可視化ベーパーチャンバーについて紹介する。ここでは、容器およびウイックの材質に銅を用いており、適合性に問題が無いことから作動液には水を用いた。 3-1. デバイス2の詳細 Fig. 6 に、デバイス2 の詳細を示した。銅製のボトムプレートとトッププレートならびにスペーサーで容器を構成し、ボトムプレートにはウイックとして焼結体を取り付け、トッププレートには可視化窓を設置した。可視化窓には、内側での曇りを防ぐため、温水ジャケットを設けた。また、デバイス1 と同じく、ボトムプレート、トッププレート、スペーサーはボルト・ナットで固定し、補強のため、容器内部には円柱状のカラムを設置した。また、デバイス内を真空に引いた後、作動液を封入した。
3-2. 実験法 Fig. 7 に、実験装置を示した。デバイス1 の実験と同様に、ヒートソースとヒートシンクを用いて加熱・冷却実験を行い、ヒートソースは銅ブロック内にカートリッジヒーターを入れたもので、加熱面積は3.00cm2(=1.73cm×1.73cm) である。一方、トッププレートには可視化窓を取り付けているため、ヒートシンクである放熱フィンを可視化窓の両隣に設置し、それぞれ風洞(断面33.0mm×34.0mm)内で空冷した。Fig.8 に、放熱フィンの詳細を示した。実験条件として、作動液封入量ならびに加熱・冷却条件を規定し、可視化窓を通して内部を観察するとともに、ヒートソース上面温度Th、蒸気空間温度Tv、ヒートシンク基盤部温度Ths,1〜Ths,10を測定した。温度測定位置の詳細はFigs.6, 8 に併記した通りである。各位置の温度は熱電対で、冷却空気速度はオリフィスおよびマノメータを用いて測定した。なお、圧力変換器を設置して蒸気空間圧力も測定しており、デバイス内部が飽和状態にあることを確認して実験を開始した。
3-3. 実験結果 Fig. 9 に、加熱・冷却実験時のデバイス2 内の様相を示した。可視化窓を通して撮影したものであり、カラムの一部も撮影範囲に含まれている。Fig.9 では、沸騰で生じた液滴が可視化窓に付着しているが、温度測定結果と合わせて、デバイスの作動特性を確認することができた。
これまでにヒートパイプに関する可視化実験は数件報告されている[4-6]。また、数値的な可視化に関する研究も実施されている[7, 8]。しかしながら、ウイックの種類や形状など、ベーパーチャンバーの設計パラメータは非常に多く、これに対して可視化に関するデータが少ないのが現状である。本研究のように可視化窓を取り付けると、実際のベーパーチャンバーの熱輸送特性と差異が生じることも考えられるが、現象を目視することで課題を抽出でき、高性能化へのヒントが得られるものと期待できる。なお、本研究は初期段階である。デバイス1、デバイス2 ともに最適化が必要で、今後の課題である。 謝辞本研究の遂行にあたり、熊本大学 大学院自然科学研究科学生( 当時) 栗原豊明 君、財前智章 君に協力頂いた。ここに記して謝意を表する。 参照
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