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ウィスコンシン大学大学院ミルウォーキー校 研究滞在記

芦高 優




大阪府立大学大学院 工学研究科 修士課程
ウィスコンシン大学大学院 工学研究科 修士課程

はじめに

 2009年8月からアメリカ合衆国のUniversity of Wisconsin-Milwaukee(以下UWM) Engineering Dpt. 修士課程に大阪府立大学のダブルディグリー修士コース(DDC)により留学し,Ryoichi S. Amano教授の指導の下,DDCの米側研究テーマとしてガスタービンブレードの冷却性能に関する数値解析を約1年間行っておりました.私はDDCというあまり世の中には知られていない制度によって留学を行いました.本稿では,アメリカ大学院での生活や研究についてご紹介したいと思います.

1. ダブルディグリープログラム

 まず,DDCは名前のとおり,2つの大学院の学位を取得できるという制度です.私の場合,大阪府立大学(以下OPU)とUWMとの学術交流協定のもとOPUの工学研究科の修士学位と,UWMでのMaster Degree of Scienceの両方を同時に取得します.具体的にはOPU修士課程2年間とUWM修士課程1年間の合計3年間に双方の必要単位を取得し、共通の修士論文を双方に提出するというものです.私は,UWMに在籍する大学院生と同様のカリキュラムに沿ってOPU修士2年の8月から1年間留学をしました.しかしながら,OPUで取得した単位をtransferできるのでUWMに必要な24単位のうち半分の12単位分の講義をとって中間試験,期末試験を受験し,向こうで行った分の研究論文の提出と公聴会を行いました.帰国後,OPUでも研究成果をまとめ,修士論文を書き上げ,公聴会を行います.このダブルディグリープログラムの長所は,日本での修士の学位と通常2年以上かかるアメリカ大学院での修士学位を同時にプラス1年という短い期間で取得できる点です.

2. UWMでの生活

 ウィスコンシン州はアメリカ合衆国の中西部に位置し,五大湖のうちの1つであるミシガン湖に接している州です.その中にあるミルウォーキーは,ウィスコンシン州の中で最大の都市であり,人口は約60万人です.車で2時間ほど離れた場所に大都市であるシカゴがあります.ミルウォーキーは,ビールの産地として有名で世界の三大ビール生産地の1つに数えられます.他には,チーズが有名であり,大型二輪車のハーレーダビッドソンの本社もあります.ビールが有名なこともあり,私が住んでいた寮の周りにはバーがたくさんありました.週末にはよく友人とお酒を飲みに行ったり,クラブへ踊りに行ったりしました.ミルウォーキーには,数多くの移民が19世紀に移ってきました.ミルウォーキーでビールが有名である理由は,ドイツの移民が大変多かったためです.
 ミルウォーキーの気候は,日本と同じで四季があります.しかし,春と秋は非常に短いです.夏は25度ぐらいまで上がり,湿気もないので暑い日でも涼しく感じます.日本で言うと軽井沢のような避暑地の気候に似ていると思います.冬は10月半ばから4月下旬までの約半年間あり非常に長いです.一番寒い時期では,−20度を下回るときもあります.嵐や大雪で大学が休校になることも何度かあり,非常に天候が不安定な地域です.
 住居は大学寮に住んでおりました.寮には22歳以上の人しか入居できず,ほとんどが大学院生でした.学部生が入寮できる寮は他にあります.部屋は1人,2人,3人部屋を選ぶことができます.リビングが1つあり,寝室がそれぞれ分かれています.私は2人部屋でアメリカ人のルームメイトと一緒でした.彼とは飲み会に行ったり,クリスマスパーティなどの行事に参加したりして楽しかったです.部屋は非常にゆったりできて広く,寮内には勉強ルーム,ジム,ラウンドリーなどがあり,それらの利用代,電気代など全て含めて月$620でした.ジムは研究した後ほぼ毎日利用していました.運動をすることは,ストレス発散と健康維持につながり,次の日の研究に大いに役立つものなので継続していきたいです.

UWM

ルームメイトとのクリスマス

UWMのロゴ

3. UWMでの研究生活

 まず,大学院で受講した講義について説明します.私は前述の通り研究単位を含めて12単位以上を取得しなくてはいけませんでした.私は特別な留学をしていたのでたいていの大学院生が行うTAなどは行っておりません.私は秋学期に2つの専門講義とESL (English as second language)というクラスを受講し,春学期は専門講義を2つ受講しました.どの講義もレクチャー形式で普通の日本の大学院の講義と同じようなものでした.大学院の講義は夕方から始まるものが多く,1講義2時間半です.また,いずれの講義も中間試験と期末試験の2つがあります.その2つの試験の結果と宿題で成績が評価されます.私は宿題の解答が分からないことが多く,オフィスアワーを利用して教授に質問したり,友人と一緒に勉強したりすることが多かったです.
 次に研究についてです.私の所属していた熱流体研究室では教授とPh.Dの学生,Masterの学生,学部生で構成されていました.研究室にいる学生のほとんどが留学生で,アジア人は私と中国,インドとヨルダンからのPh.Dの方がいました.私の研究室では,タービンマシン(ガスタービン,ウィンドタービン)に関する研究,マイクロバブルに関する研究などにグループ分けがされており,私はガスタービングループに属し, Ph.Dのペルー人,インド人の3人でガスタービンに関する計算流体力学(CFD)の研究を行っておりました.ミーティングは毎週1,2度行われ,研究の進捗状況について話し合われます.研究成果があまり出ていないと全然意味のなかったミーティングだったなと言われる事もあるので,ミーティングが辛い時期もありました.
 そして,私の修士論文テーマはガスタービンブレード内のリブ付チャネル流れに関する数値解析です.ガスタービンブレードの冷却方法にもっとも広く使われている手法の1つに,ブレード内に冷却通路を設けて翼材料の許容温度内で働くようにする手法があります.熱効率を大きくするためにはガスタービンブレードへ流入する流体の入り口温度を高温に維持できるようにブレードをデザインする必要があります.ところが,その作動温度の高温限界はブレードの材質に左右されるため,十分な冷却が行われていないとブレードの腐食,クリープ破断,溶解などの問題が生じてしまいます.そのような問題点を解決するためには,より効率のよい冷却通路をデザインする必要があり,冷却通路内の流れを把握しなくてはいけません.昨今では,熱効率を上げるために冷却通路内にリブを設置したり,凹凸にしたりと流れが複雑化しているので,そのような複雑な流れを理解するには数値解析が必要となります.私は,高次元手法を用いた3つの乱流モデル(2方程式のk-εモデル,k-ωモデル,6次のレイノルズ応力を考慮するレイノルズ応力モデル)の予測性能を評価しました.乱流モデルを評価するために,流れ方向に90°,45°,60°の角度をもった3種類のリブ付きチャネルについて解析を行いました.解析対象の系において,リブは正方断面を有するチャネルの側面に備え付けられており,側面には冷却性能を向上させるためのブリード穴が設けられています.これらの解析の結果,実験値とよく合致した乱流モデルを求め出すことができ,これが将来のガスタービンブレード設計に役立つであろうと期待しております.
 最後に公聴会のことについて説明します.公聴会は3名の教授から質問を受ける形になります.2人は熱流体工学が専門で1人は他分野の方でした.40分程度のプレゼンテーションを作成していましたが,途中で何度も質問があり最終的には2時間プレゼンテーションを行いました.私に限らず,Masterの学生のほとんどは2時間程プレゼンテーションを行うことになるようです.

4. 終わりに

 留学は自分の人生の中で非常に大きな経験になります.多くの友人ができ,また知らない文化に出会う機会を多くもつことができます.アメリカでは,アメリカ人だけでなく,他の国の方に出会う機会が非常に多いので,それぞれの国の文化の違いや研究に対する姿勢について考えさせられることが多かったです.私は現在,OPUで修士論文を執筆中であり,これを最後までやり切るために,3月の卒業までの残りの期間,研究に励みたいと思います.簡単ではございますが,本稿がこれから大学院の留学を目指す方のお力になれれば幸いです.

謝辞
 私が留学するにあたり,奨学金のご支援をして下さいました大阪府立大学国際交流課の松田和佳子様に深く感謝いたします.また,アメリカ大学院での研究で手厚くご指導してくださいました,大阪府立大学の須賀一彦教授,UWMの天野良一教授に深く感謝いたします.また,このような留学体験記の寄稿の機会を与えてくださった京都大学の齋藤元浩助教,大阪大学の小田豊助教に厚くお礼申し上げます.

著者略歴
2004年 4月 大阪府立大学工学部エネルギー機械工学科入学
2004年 3月 大阪府立大学工学部エネルギー機械工学科卒業
2008年 4月 大阪府立大学大学院工学研究科機械系専攻入学
2009年 8月 ウィスコンシン州立ウィスコンシン大学ミルウォーキー校工学部
機械工学科修士課程入学
2009年 8月 ウィスコンシン州立ウィスコンシン大学ミルウォーキー校工学部
機械工学科修士課程卒業