報告 |
第二回湘南ワークショップ報告 |
地球温暖化問題への関心の高まりや昨今のグリーンニューディール等への期待から,新たなエネルギー機器への関心が高まってきています.その中でも,熱は,熱機関,給湯,空調,乾燥,反応,殺菌等の多くの用途で利用され,エネルギー変換や消費に占める総量としても極めて大きく,熱工学の重要性は益々高まっています.このような中,新しい熱機関や熱機器の開発事例が近年数多く報告されるようになってきています.一方で,このような熱技術の開発を支える人材の育成に関しては,産学の長期的な視点での協力関係が不可欠です.産業界が求める学士・修士・博士の熱工学の基礎素養,大学が教育として学生に伝えたい熱工学の基礎と熱工学の新しい素養などについて,産学の立場から考え直す時期に来ていると思われます.
このような背景に鑑み,熱工学部門では去る平成21年11月13日と14日に,湘南国際村センターに於いて,将来の熱工学について議論するためのワークショップを開催致しました.本ワークショップには産学から33名の参加者が集い,新しい熱機器の開発事例や人材教育の状況を講演により概観するとともに,パネルディスカッションや意見交換を通じて,熱工学の将来の方向性について活発な意見交換を行いました.
初日11/13の午後は「熱機関・熱利用機器の新展開」が開催されました.神戸製鋼所の上原一浩氏からはスクリュー空気圧縮機を転用した蒸気発電機についてのお話がありました.続いて日立製作所の幡宮重雄氏から,高湿分空気を利用した新型ガスタービンAHATのご紹介頂きました.東京ガスの矢作正博氏からは,太陽熱を利用した集合住宅用高効率給湯器の開発状況についてお話し頂きました.続いて,富士石油の永田英記氏からは石油プラントへのカリーナサイクルの適用事例をご紹介頂きました.引き続く夕食会,意見交換会では,熱工学のニーズや今後の方向性について,長時間にわたって屈託のない意見交換が交わされました.
続く二日目は,「産・学が求める熱工学の基礎素養と教育」が開催されました.最近になって,熱工学や機械工学分野の素養を必要とする産業より,大学から得られる人材に基礎能力が不足しつつあることを耳にする機会が増えてきています.一方,大学においても学際分野の研究が指向されつつあることで,教育すべき内容が増えて,従来のカリキュラムが変わりつつあります.これらの状況を踏まえて,大学で学生に教育すべき熱工学の基礎素養について,産学双方の立場から考える機会をもちました.最初に神鋼リサーチ(株)の黒坂俊雄氏より,産業界で実施された貴重なアンケート調査に基づいて,産業界の立場で望まれる熱工学の素養や能力,また,それらを踏まえた産学連携のあり方についてお話がありました.続いて,慶應義塾大学の植田利久氏より,長年にわたり大学と大学院で研究・教育にたずさわれた経験にもとづき,大学として学生に教えたい熱工学の素養や能力,カリキュラムも提案についてお話いただきました.最後に,長らく産業界におられた後,大学にうつられた東京大学の金子祥三氏より,産業界で必要になる熱工学の素養や,さらに踏み込んで企業で必要となる工学的センスについて,ご自身の事例を含めてご紹介いただきました.尚,二日目のセッションの内容は,1月に発行の「機械の研究」の特集記事「熱工学分野の教育を考える」に,緒言と総括を加えて掲載される予定です.
二日間の議論を通じて,参加者の問題意識や課題に対する理解が進み,将来の熱工学の発展へのヒントを得る大きなきっかけになったのではないかと思います.