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マイクロ熱流動現象のレーザ複合計測

一柳 満久




東京大学 特任研究員
大学院工学系研究科 機械工学専攻
ichiyanagi@fel.t.u-tokyo.ac.jp
1. はじめに

マイクロ・ナノテクノロジーの学術的進展は著しく、近年ではこれら基盤技術の積み重ねが多くの工業分野における技術革新の一役を担っていることは周知のとおりです。特に半導体製造技術に端を発したMEMSデバイスの開発は、電子工学分野のみならず、センサーを小型化したことで自動車分野や情報通信分野の進歩にもつながりました。さらに近年では、微細加工技術を応用して大型化学反応器や分析機器を小型化したLab-on-a-chipやMicro-TAS (Micro Total Analysis Systems) と称されるマイクロデバイスも代表的な工業的応用例として挙げられるようになりました [1-3]。このようにマイクロ・ナノテクノロジーは電子工学分野、電気化学分野、生化学分野等の研究者の方々によって牽引されていることは揺るぎない事実ではありますが、実はデバイスの製作過程で生じる熱問題やデバイス内部の混合や化学反応における流動現象を解明することが、デバイス設計の観点から鑑みても重要な問題であるとの認識が高まってきております [4]。そういった背景のもと、10年程前から熱流体分野に携わる多くの研究者がマイクロスケールの流動現象を把握できる新たな計測法の展開を始めました。その中でも特に大きな功績をあげたのは、Santiagoら [5] により開発されたマイクロ粒子画像流速計 (マイクロPIV) でした。この論文は2009年7月現在で約360編の論文に引用されている (Web of Science: http://apps.isiknowledge.com/ 調べ) ことからみても、その功績の偉大さは明らかです。マイクロスケールの流体可視化法およびマイクロPIVに関する詳細はそれぞれSinton [6] およびLindkenら [7] によりまとめられたレビュー論文を参照頂くこととし、本稿では著者らが開発したマイクロスケールの流体計測法およびその実験より得られた知見を紹介致します [8-10]。

2. マイクロ流路内混合場および化学反応場の計測

マイクロデバイスには幅数十 ? 数百μmの流路が多数配置され、流体の混合や化学反応といった操作が行われています。この種のデバイスにおける従来の混合の評価は、ペクレ数を用いて対流や拡散といった支配的要因を大まかに判断するのみでした。それに対し、空間的な混合輸送の評価 (物質輸送方程式の評価) が可能となれば、将来的に混合物質の局所拡散制御や反応の促進や抑制につながり、デバイスの性能向上や革新的な機能の付加に寄与致します。本章では、流体の速度 (マイクロPIV) およびイオン濃度 (レーザ誘起蛍光法: LIF) の同時計測法を開発し、空間的な物質輸送を評価することを目的と致します [9]。

マイクロ流路内の速度およびイオン濃度を同時に計測するためには、マイクロPIVとLIFの複合化を実現するための計測システムの構築が要となります。著者らは、図1に示すような倒立蛍光顕微鏡 (株式会社ニコン: TE2000U) に、共焦点スキャナ (横河電機株式会社: CSU 22) および3CCDカメラ (浜松ホトニクス株式会社: C7780-20, 672 x 512 pixels, 8 bits x 3) を取り付けた計測システムを構築致しました。光源には連続光のArレーザ (波長 488 nm, 出力 50 mW) を用い、光ファイバにより共焦点スキャナへ導入され、20倍の乾燥系対物レンズ (株式会社ニコン: CFI S Fluor, NA 0.75) により集光し、蛍光粒子および色素を励起しました。以下に、計測システムを構築する上で工夫した点を列挙致します。

  1. レーザ1波長で粒子および色素を励起
  2. カメラ1台で粒子および色素の蛍光を分光
  3. 深さ方向の分解能向上のための共焦点顕微鏡

マクロスケールにおける速度およびイオン濃度の同時計測では、粒子および色素の観察のためにレーザを2波長、カメラを2台用いて複雑な光学系を構築することが必要でした [11, 12]。一方、マイクロ流路内の観察には、対象を拡大するために蛍光顕微鏡が必要となるため、複雑な光学系の構築は困難を極めます。そこで、表1に示す粒径1μmの粒子 (Invitrogen Corp.: TransFluoSpheres, Carboxylate-modified microspheres) および表2に示す水素イオン濃度に依存して蛍光強度が変化する色素 (和光純薬工業株式会社: Fluorescein Sodium Salt) を選定致しました。両者の吸収波長帯が重なるためレーザ1波長 (Arレーザ: 波長488 nm) で粒子と色素の同時励起が可能となりました。また、選定した粒子と色素の蛍光波長帯は100 nm以上離れているため、プリズムにより光学的に分光が可能です。本章では、3CCDカメラを用いて内部のプリズムにて3原色 (R, G, B) に分光しました。これにより、カメラのR領域で粒子、G領域で色素を撮像することで2種の蛍光の分光が可能となり、カメラ1台で粒子および色素を同時に撮像することを実現しました。さらに、深さ方向の分解能向上および粒子と色素を混入することによる信号対雑音比の向上のために、蛍光顕微鏡に共焦点スキャナを取り付けました (これを共焦点顕微鏡と呼ぶ)。レーザより出射された光は、共焦点スキャナおよび20倍の乾燥系対物レンズを介して、粒子および色素を励起します。蛍光発光は、共焦点スキャナ内のピンホールディスクを通過することで、対物レンズの焦点外れ面の蛍光は除去され、焦点面のみの蛍光を撮像可能となります。なお、深さ方向分解能はParkら [13] により定義され、5.0 μmと見積もられました。


Figure 1. Schematic of the measurement system using the confocal microscope which is comprised of the epi-fluorescent microscope and the confocal scanner.

Table 1. Properties of fluorescent particles

Table 2. Properties of fluorescent dye

図2に示すT字型流路の注入口AおよびBより等流量で溶液を流し、ジャンクション部のy = 200 μmにて液液界面を形成させました。実験は混合場および化学反応場の2条件行い、レイノルズ数はそれぞれ2.95 × 10-2および2.41 × 10-2となりました。混合場では注入口AよりpH 6.2のイオン交換水、注入口BよりpH 7.2のリン酸水素二ナトリウムを流し、一方、化学反応場では注入口AおよびBにそれぞれpH 6.0, 7.7のリン酸緩衝溶液を注入しました。図3は化学反応場におけるジャンクション部のz = 15 μm位置での速度ベクトルおよびpHの二次元分布を示しております。速度ベクトルはy = 200 μmの液液界面を向き、pHの二次元分布は流路幅方向 (Y方向) にpH 6.0 - 7.7の濃度勾配が形成されていることが確認できます。図3の水素イオン濃度勾配を評価するため、実験結果および数値解析結果を比較しました。数値解析による濃度分布は、マイクロPIVにより計測された速度分布を物質輸送方程式に代入することで求めました。物質輸送方程式は、次式に示すように化学反応による生成項なし並びに非圧縮性流体としました。

     (1)


ここで、uは流れ方向速度、vは流路幅方向速度、wは深さ方向速度、c は水素イオン濃度、および D は水素イオンの拡散係数で8.7×10-9 m2/s [14] を用いました。図4 (a) は混合場におけるx = 100 μmでの水素イオン濃度分布の実験と数値解析との比較結果、図4 (b) は化学反応場での結果を示しております。混合場における実験結果および数値解析結果の差から標準偏差を求めたところ ± 2.2×10-8 kg/m3となりました。この値は ± pH 0.06に相当し、本計測システムの不確かさ ± pH 0.11より十分小さいため、本手法の信頼性が確認されました。一方、化学反応場では、数値解析による濃度勾配が実験と比して小となることがわかります。これは、次式に記したリン酸緩衝溶液の平衡反応 (緩衝作用: ) による水素イオンの生成や消滅を考慮せずに物質輸送方程式を解いたことに起因した現象と考えられます。つまり、y < 200 μmでの水素イオンは濃度勾配によりy > 200 μmへ拡散しますが、上述の平衡反応 (右方向への平衡) によりy < 200 μmでは水素イオンの生成が生じます。一方、y > 200 μmでは拡散の影響により水素イオンの数が増大しますが、それと同時に左方向への平衡反応により水素イオンの数は減じられます。以上の関係より、水素イオンの生成や消滅が生じるため、数値解析による水素イオン濃度の勾配が実験と比して小となったと考えられます。


Figure 2. (a) Top view and (b) cross-sectional view along the line A-A’ of the T-shaped microchannel.


Figure 3. Velocity-vector and pH distribution in the junction area at z = 15 μm for the chemical reacting flow. The arrows show the velocity-vectors and the pH distribution is shown with shading.

(a)(b)
Figure 4. Proton concentration profiles at x = 100 μm obtained from the experiments and the numerical simulation for (a) the mixing flow whose Reynolds number is 2.95 × 10-2 and (b) the chemical reacting flow whose Reynolds number is 2.41 × 10-2.

さらに、より詳細な物質輸送の空間分布を明らかにするため、物質輸送方程式に記述される対流および拡散を実験結果より評価し両者の比較を行いました。対流jc および拡散jd は次式のように表されます。

      (2)


図5 (a) は混合場におけるx = 100 μm,  z = 15 μmでの対流および拡散の絶対値を、また図5 (b) は化学反応場での結果を示しております。化学反応場の対流は混合場の約2倍となっており、同様に化学反応場の拡散も混合場の約2倍であることがわかります。この結果は、マイクロ空間内における対流および拡散は、流体速度よりもイオン濃度勾配が大きな影響を与えていると示唆しております。また、混合場および化学反応場でのy < 100μmおよび200 < y < 400μmでの対流および拡散はほぼ等倍であるのに対し、100 < y < 200μmでは拡散が対流の約6倍と見積もられました。この結果を踏まえると、本実験の約10倍の速度 (3 mm/s, Re = 0.3) 以上の場合、マクロスケールでの混合と同様に対流が支配的となり混合促進に寄与すると期待されます。

(a)(b)
Figure 5. Comparison between the magnitude of the diffusion and that of convection at x = 100 μm and z = 15 μm for (a) the mixing flow whose Reynolds number is 2.95 × 10-2 and (b) the chemical reacting flow whose Reynolds number is 2.41 × 10-2.

以上に示しますように、物質輸送の空間分布を定量的に明らかにするため、マイクロPIVにLIFを組み合わせた速度およびイオン濃度分布の同時計測法を提案し、空間的に物質輸送現象を評価することが可能となりました。この結果は、従来の巨視的な評価であるペクレ数とは対照的であり、本手法の開発により実現した成果です。なお、空間分解能は、速度計測が15.48 μm × 15.48 μm, pHの二次元分布計測が5.16 μm × 5.16 μmとなり、95 % 包括度不確かさはそれぞれ ± 3.8 μm/s, ± pH 0.11を達成しました。時間分解能は、3CCDカメラのフレーム間隔に依存しており55 msです。

3. 電気浸透流速度およびゼータ電位の評価

マイクロ流路内の流れの大きな特徴は、表面積 / 体積比が大となることです [3]。このため、メートルオーダ以上での流体では埋もれがちな流路壁面の電気的力 (ゼータ電位に起因する力) が顕在化し、流れの様相を異に呈します。この流れは一般的に電気浸透流と呼ばれており、壁面からわずか数 - 数十nmに形成される電気二重層に電界を印加するとバルク流体も駆動される流れです。その速度はゼータ電位の大きさに依存し [15]、さらにゼータ電位は流路材質や溶液の性質といった因子に支配されております [16, 17]。これら複数の因子はナビエ・ストークス方程式においては境界条件または外力項として与えられるため、数値解析によりデバイスの最適設計の足掛かりにしようとはするものの、上述の影響因子に対する情報量の不足により単純な系での解析に留まり、マイクロ流体デバイスの更なる性能向上に足踏みをさせております。このような現状を招いている主たる要因は、流れ場の特徴的な物理量を把握し、流動特性を評価するための計測法の開発が発展途上にあるため、影響因子の定式化が困難なことが挙げられます。以上より、マイクロ流路内における電気浸透流動場の計測法を新たに開発し、影響因子に対する流動特性を詳細に評価することで情報を蓄積していくことが必要不可欠となります。

著者らは、流体中にサブミクロン蛍光粒子を混入し、蛍光顕微鏡とマイクロPIVを用いて、速度計測結果からゼータ電位を評価する手法を提案しました [8]。マイクロ流路内に電界を印加すると、図6に示すように負に帯電した粒子は電気泳動により正極へ移動し、流体は栓流となって負極へ駆動されます。そのため、マイクロPIVによる見かけの粒子速度 Uobsは、電気泳動速度 UEP と電気浸透流速度 UEOF の合成速度となります。図7にゼータ電位を算出するまでのフローチャートを示します。電気泳動速度は密閉セル内の粒子挙動を計測し理論的に解析することで求められることから、電気浸透流速度は見かけの粒子速度から電気泳動速度を差し引くことで評価できます。さらに、流路壁面のゼータ電位は、電気浸透流速度との線形関係の理論式を併用することにより評価できます。以上により、従来の手法では困難であった電気浸透流速度およびゼータ電位の空間分布の計測が実現できます。


Figure 6. Schematic of electroosmotic flow and electrophoresis.


Figure 7. Calculation flow chart of zeta-potential.

本計測法は、粒子の電気泳動速度を求めてマイクロPIVによる粒子速度から差し引くため、精度を向上させるためには電気泳動速度の計測精度の向上が重要となります。密閉セルを用いた本手法は、セル内の深さ方向の速度分布を理論的に解析することで電気泳動速度の評価を行うため (計測原理の詳細は [8] および [10] を参照)、その精度は速度分布の取得方法に依存します。以下に、従来の速度計測法 [18] および著者らの研究により実現した計測法 [8], [10] の対比を示します。

 従来の計測法: レーザドップラ流速計
  計測領域は流路全域
  速度の分散から速度分布推定 

 本研究の計測法: マイクロPIV
  深さ方向分解能2.2 μmを実現
  深さ方向に13面の速度計測 

従来の手法の計測領域は流路全域であったため、得られた情報から速度分布を推定しており精度が極めて低いのが大きな問題でした。それに対し、著者らはマイクロPIVを新たに導入したことで、深さ方向に13面の計測が可能となり精緻な速度分布が得られ精度向上を実現しました。

これらを踏まえて得られた結果を図8および図9に記しました。図8は各pHに対するポリスチレン粒子の電気泳動速度およびゼータ電位をまとめており、図9は各pHに対する電気浸透流速度および石英ガラス壁面のゼータ電位を示しております。上述の実験には、作動流体としてpHの異なる5種の緩衝溶液 (pH 4.6, 6.0, 7.1, 8.1, 9.3) を選定し、モル濃度によるゼータ電位の変化を無くすため、全ての緩衝溶液にイオン交換水および塩化カリウム (KCl) を加えることで 5 × 10-3 mol/l に調整しました。また、上述の作動流体にはそれぞれ粒径0.5 μm の負極帯電粒子 (Invitrogen Corp.: FluoSpheres, Carboxylate-modified microspheres) を体積比率0.2 % で混入しました。蛍光粒子の表面にはカルボキシル基 (-COOH) が付加されており、緩衝液内では相互のクーロン力により均一に分散しております。図8においてpH 6.0 - 9.3での電気泳動速度およびゼータ電位の絶対値はほぼ同等の値を示すのに対し、pH 4.6では他よりも小さな値を示すことがエラーバーより明らかです。この現象は、粒子表面のカルボキシル基の平衡反応() およびカルボキシル基の酸解離定数pKa = 4.5 [19] との関係に起因していると考えられます。一般的にpH = pKa (本実験条件ではpH 4.5) の場合、カルボキシル基の約50 % が解離することが知られております。それに対し、pH = pKa + 1 (本実験条件ではpH 5.5) の場合、約90 % が解離し脱プロトン化したカルボキシル基 (COO-) となります。粒子のゼータ電位は脱プロトン化されたカルボキシル基の総数によって決定されるため、pH 4.6でのゼータ電位の絶対値および電気泳動速度は、他のpHでの値よりも小となったと考えられます。一方、図9に併記したエラーバーは95 % 包括度不確かさを示しており、実線の曲線はScalesら [20] が提案した経験式より算出した石英ガラスのゼータ電位です。これより、経験式によるゼータ電位および著者らによる実験的に評価したゼータ電位は、良好な一致を示しており本計測法の信頼性が示されました。また、図9においてpHの値が大きくなるにつれて、電気浸透流速度およびゼータ電位の絶対値も大となることが確認できます。これは、ガラス表面がシラノール基 (SiOH) で形成されており、シラノール基の解離に基づく平衡反応 () が生じることに起因しております [15]。この反応は脱プロトン反応と呼ばれ、その平衡は溶液の水素イオン濃度 (pH) に依存しております。pHが小の場合は平衡が左に移動し、ゼータ電位の基となる脱プロトン化されたシラノール基 (SiO-) の数が減少します。そのため、ゼータ電位の絶対値が小となり、それに伴い電気浸透流速度も遅くなります。逆に、アルカリ性の溶液を流した場合はゼータ電位の絶対値が大となり電気浸透流が速くなります。


Figure 8. Electrophoretic velocity and zeta-potential at 0.5 μm diameter polystyrene particle surface with 95% confidence intervals versus pH.


Figure 9. Electroosmotic flow velocity and zeta-potential of silica glass with 95% confidence intervals in comparison to the equation proposed by Scales et al. (1992) [20] versus pH.

さらに、本計測法を非一様なゼータ電位分布を有するマイクロ流路内に適用し、流動特性および定量的な混合度の評価も行いました [10]。これまでの研究で、非一様なゼータ電位分布を有するマイクロ流路内では速度差に起因した三次元流れが生じ、二流体混合の促進に役立つことが定性的には明らかとなっているものの [21, 22]、定量的に速度分布やイオン濃度分布を計測した例がほぼ皆無であるため、本質的な流れ場の解明には至っていないのが主たる研究背景です。そこで、著者らはまず始めに流動特性を明らかにするために、流れ方向にゼータ電位が変化する流動場および流れ方向および流路幅方向にゼータ電位が変化する流動場の計測を行いました。前者では深さ方向への流れが誘起され、後者では三次元流れが形成されることが実験的にわかりました。これらの結果を踏まえ、斜め型にゼータ電位のパターニングを施したマイクロ流路における3次元速度分布をマイクロPIVにより図10のように取得し、そして混合度をLIFから評価した結果、流路幅方向および深さ方向への速度が大となると混合度も大となるという相関関係を定量的に示しました。



Figure 10. (a) Surface modification pattern in the measurement area of the oblique pattern microchannel with α = 45 degrees. (b) Electroosmotic flow velocity map at z = 4.4 μm on an application of 40 V/cm. The arrows and the contour map show the velocity-vectors and the stream-wise velocity, respectively. (c) Span- and (d) depth-wise velocity maps.

以上に示しますように、電気浸透流動の流動特性を定量的に評価するため、マイクロPIVを用いた電気浸透流速度および壁面ゼータ電位評価法を提案しました。本手法はゼータ電位が非一様に分布している流動場においても面的に詳細な結果を取得することが可能となりました。従来の手法 [20] では空間平均された電気浸透流速度のみの計測であったことを鑑みると、この結果は本手法の大きな特徴といえます。なお、本計測法の空間分解能は20.6 μm × 20.6 μmとなり,95 % 包括度不確かさによる計測精度は電気浸透流速度では主流の6.1 %, ゼータ電位は± 4.4 × 10-3 Vを達成しました。

4. おわりに

本稿では、著者らがこれまでに行ってきたマイクロPIVを用いた流動計測技術の開発に関して紹介させて頂きました。現在では計測システムおよび画像処理ソフトがパッケージ化され数社から市販されているため、その製品を購入すれば誰でも比較的簡便にマイクロ流路内の速度場を計測することが出来るようになりました。これは、多くの研究者が培った要素技術の蓄積の賜物であります。著者もその一役を担うため、これからも「新たな物理量を計測したい」あるいは「更なる高精度計測を実現したい」という探究心に突き動かされて技術進展を続けていきたいと思っている所存です。

謝辞

本稿で紹介した研究は、著者が慶應義塾大学の後期博士課程在籍時に行ったものをまとめたものです。研究を進めるにあたって指導教員の菱田公一教授 (慶應義塾大学) および佐藤洋平准教授 (慶應義塾大学) には多くのご助言と激励を頂きました。この紙面の場を借りて紹介させて頂くとともに、深い尊敬と心からの感謝の意を表します。

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