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データセンターの熱問題とその対策 |
植草 常雄 株式会社NTTファシリティーズ 研究開発本部 環境・エネルギー部門 uekusa22@ntt-f.co.jp
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1. データセンター
情報システムが社会生活を支える重要なインフラとなった現在、情報をコントロールするデータセンターの役割は日増しに重要性を増してきている。データセンターは、サーバ、ストレージ、ルータなどのICT機器を保有して、音楽・映像配信や、ネットバンキング、ネットトレードなどのオンラインサービス、ネット上の商取引のためのコンテンツやデータを発信、制御、蓄積している。データセンターは、一般に図1のように、サーバなどのICT機器を設置するサーバルームと受電設備、非常用発電設備、バックアップ用バッテリーなどが設置された電力室および事務室とで構成される。また、企業の基幹システムや重要情報を預かるデータセンターは、地震、雷害、風水害などの自然災害に備えるとともに、給電、熱処理、セキュリティーなどの高度なファシリティーを要求されている。 本稿では、データセンター用の高度なファシリティーの中で、空調設備に注目して、データセンター空調の問題点と空調エネルギー削減のための4つの手法について解説する。
2. データセンターでの熱問題 近年、データセンターに設置されるサーバ、ルータなどのICT機器の高密度実装化にともなう消費電力の増大が大きな課題となってきている。これにより、データセンターの単位床面積当たりの消費電力はオフィスビルなどと比べると突出して高くなっており、エネルギーコストと環境への影響の両面で見過ごせない問題となっている。 図2にサーバ、ストレージ、ルータなどのICT機器の消費電力の推移を示す。横軸にICT機器の発売年を、縦軸にその機器をラックに搭載した際の発熱密度を示す。1Uサーバ、ブレードサーバなどの消費電力の伸びが特に著しく、2000年と比較すると約5倍の伸びを示している。ICT機器の消費電力は、そのまま室内の熱負荷になるので、ICT機器の空調にあたって、さまざまな問題が発生してきている。
まず、ICT機器の発熱量が増大するにつれて、それを冷却する空調機の消費電力が非常に増加してきている。非効率な空調設備が設置されているデータセンターでは、ICT機器より空調用の消費電力の方が大きいところが実在している。 また、図3に示すように空調機から供給される冷気が十分にICT装置に行き渡らなかったり、ICT機器自身が自分の排気を直接吸い込んでしまったりすることで、データセンター室内に局所的な高温部が発生し、冷却上の問題が発生している。 さらに、高発熱装置が設置された部屋では、停電や故障などにより空調機が停止すると、室内の温度が急激に上昇してしまう危険性がある。図4に示すように、従来の低発熱の機器が設置されている部屋では、部屋の温度が10℃上昇するのに数時間かかっていたものが、ブレードサーバを収容する部屋では分あるいは秒オーダーで温度が上昇する可能性がある。これを画像で示したのが、図5である。この図は、空調機全台が停止してから、1分刻みの室内温度分布を、室内発熱密度が、0.25、0.5、1.0、2.0、3.0、4.0kW/m2の場合について示したものである。一昔前のサーバなどが設置された0.25kW/m2程度の部屋であれば、空調機が全台停止しても5分程度では部屋の温度はほとんど変わらない。一方、発熱密度が2.0kW/m2になると、1分で10℃程度の温度が上昇している。
3. エネルギー消費削減にスポットをあてた熱問題を解決する4つの手法 次に、データセンターの空調動力削減技術として4つの手法を紹介する。データセンター用のパッケージ空調機が年間冷房型である点に着目した「①パッケージ空調機のエネルギー消費量削減技術」と、空調機からの冷気が、排気と混合することなくICT機器に供給され、ICT機器から排出される高温空気が、冷気と混合せずに空調機に還気されるような「②気流制御によるエネルギー消費量削減技術」と、局所的な高発熱に対応する「③タスクアンビエント空調によるエネルギー消費量削減技術」と、ICT機器と空調機との情報を統合して管理する「④ICT機器と空調機との統合連係基盤」である。 3.1 パッケージ空調機のエネルギー消費量削減技術 データセンターでは、IT機器の発熱量が大きいので、冬期でも冷房が必要になる。冬期の冷房を行う際、直接外気冷房では、塵埃、海塩粒子の影響のほか、外気を取り入れる開口面積が大きくなる点や送風機動力が大きくなる点などが問題になり、間接外気冷房では、熱交換器での変換ロス、設備の稼働日数が少ない点などが問題になるので、通常は冬期でも冷房運転が行える年間冷房型パッケージ空調機を使用している。しかし、汎用の年間冷房型パッケージ空調機では、外気温度が低い時でも、外気温度が高い時とあまり変わらない効率で運転しており、年間でのエネルギー消費量が大きくなる。それに対して、FMACS-V ®と呼ばれるデータセンター用の空調機では、外気温度が低い時には、図6に示すように、凝縮圧力を低くして運転することで、圧縮機を低圧縮比で運転でき、高効率な運転が実現できる。横軸に外気温度、縦軸にCOPをとったグラフが図7である。図7に示すように、外気温度が低い時に低圧縮比で運転することで、汎用空調機より高効率で運転することができる。これを東京で1年間運転した場合で比較すると、外気温度が低い時に低圧縮比で運転した場合の方が、年間消費電力は40%削減できる。
3.2 気流制御によるエネルギー消費量削減技術 データセンターでは、ICT機器の消費電力と空調機の冷房能力が釣り合っていても、温度ムラができ、冷えすぎている部分がある一方で、ICT機器で高温障害を発生させてしまう場合がある。単純化して考えると、その要因は前述の通り2つに分類できる。図3に示すように、1つは、空調機の冷却空気の一部がIT機器に吸い込まれず直接空調機に戻ってしまう場合である、もう1つは、ICT機器の排気が空調機に戻らずICT機器で再度吸い込んでしまう場合である。従って、空調機から供給される冷却空気とICT機器から排出される高温空気とが混合せず、冷却空気がすべてICT機器を通り抜けて高温になった後、その高温排気がすべて空調機に戻れば、問題は発生しない。空調機からの供給冷気とICT機器からの高温排気とを分離するための有効な手段として、「アイルキャッピング®」がある。アイルキャッピングとは、冷却空気を二重床から供給するコールドアイル部分に屋根や壁を設けて、冷却空気を逃さずICT機器に吸わせる設備である(図8)。アイルキャッピングを設けることで、空調機からの供給冷気が直接空調機に戻ることがなくなり、ICT機器排気が再度ICT機器で吸われることも防ぐことができる。アイルキャッピングの写真を写真1に示す。また、アイルキャッピングの有無による室内温度分布の違いを図9に示す。図9より、アイルキャッピングを行うことで、ICT機器前面部分の温度を低く保てることがわかる。 エネルギー消費量の観点で分析すると、アイルキャッピングを設置することで、ホットアイルからコールドアイル側に漏れる熱量分だけ送風動力を削減できるので、省エネルギー効果は約30%と試算される。
3.3 タスクアンビエント空調によるエネルギー消費量削減技術 ブレードサーバを搭載したラックと従来型のサーバを搭載したラックとが、データセンター内に混在設置される場合、ラックごとの発熱量が大きく異なるため、壁際に並べたパッケージ空調機のみで冷却を行うと、どうしても発熱量の大きいラックに合わせて冷却空気を供給することになり省エネルギーな運転が難しくなる。 そこで、図10に示すように、ブレードサーバ等の高発熱ICT機器を搭載したラックがある場合には、そのラック周辺を専門に冷却するタスク型空調機を配置して、壁際に並べたアンビエント空調機とともにタスクアンビエント空調システムを構成すると省エネルギーな運転が実現できる。アンビエント空調機でベース負荷を処理して、突出する負荷をタスク空調機で処理するのである。タスク空調機 にはいくつか種類があるが、19インチラックと同形状のラック型空調機が一般的である。ラック型空調機FTASCL®の写真を写真2に、仕様を表2に示す。 タスクアンビエント空調システムでブレードサーバなどの高発熱機器と冷却した場合と、アンビエント空調のみで冷却した場合とを、図11を例にとって比較する。アンビエント空調のみの場合には、低発熱部分にも余分な冷却空気を送ってしまうのに対して、タスクアンビエント空調方式では無駄がないので、両者を比較すると空調機の送風動力を20%削減することができる。
3.4 ICT機器と空調機との統合連係基盤 通常の空調機は、空調機の吸い込み口あるいは吹き出し口に備えられた温度センサーに基づいて圧縮機運転周波数や送風機風量を変化させて冷房能力などを制御するのが一般的である。しかしデータセンターでは、発熱量の異なるICT機器が設置されたり、省エネのためにICT機器が保有するファンの風量を変化させたりするなど、空調機が保有する温度センサーだけで制御を行っても良好な温熱環境を維持できなくなってきている。 そこで、データセンター内の必要箇所に設置した温度センサーやICT機器の保有する温度センサーを利用する他に、ICT機器の稼働状態、ファン風量などの情報に基づいた空調機を運用管理する「ICT機器と空調機との統合連係基盤」を備えることで、データセンターの温熱環境を良好に保つことが可能になる。 「ICT機器と空調機との統合連係基盤」の概念図を図12に示す。サーバ、ストレージなどのICT機器と温度センサーや電流値センサーなどの物理センサーの情報はマネジメントサーバーに集約されて統合管理サーバに送信される。空調機の運転状態、故障状態などは空調機グループコントローラで集約された後、統合管理サーバに送信される。統合管理サーバでは、両方の状態情報を勘案して、それぞれに制御信号を発信する。 例えば、図13に示すように、ICT機器のワークロードの平準化を図ると同時に空調機の設定温度を上げることで、空調消費電力を削減することが可能になる。 なお、本研究開発は、日立製作所とNTTファシリティーズと共同で進めている。
4.まとめ データセンターの空調用の消費電力を低減する方法として、「①パッケージ空調機のエネルギー消費量削減技術」「②気流制御によるエネルギー消費量削減技術」「③タスクアンビエント空調によるエネルギー消費量削減技術」「④ICT機器と空調機との統合連係基盤」がある。①で、空調機の消費電力を40%、②で空調機の送風動力を30%、③で空調機の送風動力を20%、④で空調動力を10%、それぞれ削減することができ、①~③を合計すると、汎用技術で構築した場合と比較して図14に示すように65%の消費電力を削減することができる。 また、図2のトレンドグラフに空調ソリューションメニューを書き加えたものを図15に示す。ICT機器の発熱量に応じた適切な空調ソリューションを選択することで、低コストで省エネルギーなデータセンター空調システムを構築することができる。
参考文献
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