編集後記 |
機械工学におけるバイオの研究は,バイオエンジニアリング部門で多くみられるような,材料力学,機械力学,流体力学などの実際に対象である生体に力がかかり変形や移動を伴う現象を記述する基礎理論をバックグラウンドに持つ研究が大半であるように見受けられる.熱工学は,元来は広義の熱力学や速度過程論(輸送現象論)が,熱から仕事を取り出すエネルギー変換に伴う様々な現象を理解する目的に特化して発達した基礎学術であり,上記のような具体的な対象の変形・移動が伴わない点でバイオ(生体)を対象とした場合,機械工学としての特徴が見えにくい.が,今回は熱工学本来の基盤である広義の熱力学(化学熱力学)や輸送現象論(ふく射(電磁気学))に立ち返り,応用の場として生体や,生体の特徴の本質を捉えたエネルギー輸送の制御を対象とした研究をTED Plazaで紹介した. はじめの二つの原稿は,生体の凍結保存に関して,個体保存の現状や生体の基礎単位である細胞の凍結保存に関して相変化と核生成の観点から捉えた解説記事である.次いで,ふく射(電磁波によるエネルギー輸送)を専門とする研究者により,皮膚の光学特性に関する研究と蝶の羽の微細構造に学んだふく射エネルギーの波長依存性の制御に関する研究紹介であった. 熱工学で生体を対象としたり,生体に学んで熱工学で重要となる現象に応用する研究例は未だ少ないが,これらの解説が何かの御参考や知的興味の対象として目にとまれば,今回のプラザの役割は果たせたと思う. (文責:白樫) |