TED Plaza

燃焼研究者の推薦する理工学図書



『燃焼研究者の推薦する理工学図書
アンケート企画』について


                         弘前大学  鳥飼 宏之
                         名古屋大学 斎藤 寛泰


 今回の
TED Plazaは,研究者として活躍されている方に,これまで読んだ理工学図書の中で『勉強になった』,『研究のアイデアがわいた』,『自分の研究(もしくは人生)の方向性をきめた』など,それぞれの記憶に残る書籍について,アンケートを通して紹介していただきました.

第一線で活躍されている研究者の記憶に残った書籍は,その書籍自体が,他の研究者,技術者,そしてこれから研究へと向かう学生にとっても大変有益なものです.また,書籍の好みは,その人が持つ思想や哲学を少なからず反映します.そのため,記憶に残る理工学図書を紹介していただくことで,それぞれの研究者が有する研究思想や研究哲学を垣間見ることができれば,それは大変おもしろいことです.

今回は,燃焼分野で研究を行っている研究者の方に,燃焼に関連するお薦め図書を紹介していただきました.少しでも多くの読者の方に興味をもってお読みいただき,有益な情報となれば企画者としては望外の喜びです.

最後になりましたが,アンケートへご協力いただいた諸先生方そして研究者の皆様方に,この場をお借りして感謝申し上げます.



※編者注)推薦していただいた工学図書のなかには発行年の古いものが存在し,残念ながら既に絶版のものもあります.ですが,大学等の図書館や古書を扱う書店等に現存する場合もありますので,興味を持たれた方は是非,図書館や古書店を調べてみてください.また,
ISBN番号がある書籍に関してはISBN-10ISBN-13の両方を示してあります.



図書名:TRANSPORT PHENOMENA
著者 R. Byron Bird, Warren E. Stewart, Edwin N. Lightfoot

出版社
John Wiley & Sons Inc. 発行年1960
ISBN0-4710-7395-4ISBN978-0-47-107395-6

推薦者
黒瀬 良一 准教授
京都大学大学院工学研究科機械工学専攻

本書との出会い
大学等の講義やセミナーなどで知った.

コメント

 この書籍は私が学生のころ講義用のテキストとして使っていたもので,燃焼の専門書ではないのですが,流れ,物質,および熱の移動現象が体系的に説明された,燃焼分野の研究者にも役立つ良書だと思います.学生のころ,本書を読んで,流れ,物質,および熱の挙動を支配する方程式とそれらの相似性の美しさに感銘を受けたのを覚えています.今でも何か調べ事があると本書をまず手に取るのですが,目を通す度に新しい知見が得られます.これは、私が研究の世界に入るきっかけとなった書籍と言っても過言ではありません.


図書名:Combustion Theory: the fundamental theory of chemically reacting flow systems
著者 F.A. Williams

出版社Addison-Wesley Publishing Company, INC. 発行年1965年

推薦者
溝本 雅彦 教授
慶應義塾大学理工学部機械工学科

本書との出会い
他の研究者から教えてもらった.

コメント

 本書は燃焼の理論に関する教科書で,燃焼の現象論に関する
"Combustion, Flames and Explosions of Gases, by Bernard Lewis and Guenther von Elbe"と対を成す名著である.著者は燃焼を化学反応を伴った流れの問題としてとらえ,その理論を広い範囲に亘り体系的に述べている.研究室における輪講で,何度か取り上げ,詳細に勉強した.多くの章で著者自身の論文が多数引用されており,また他研究者による成果の記述も,元の論文を読むより判り易いものがあり,感銘を受けた.本書で指摘されていた不十分な点は,1985年出版のSecond Editionにおいて充実され,名実共に燃焼の理論を学ぶ者にとってのバイブルであると思われる.


図書名:Combustion Theory (Second Edition)
著者 F.A. Williams

出版社Benjamin-Cummings Publishing Co. 発行年1985
ISBN0-8053-9801-5ISBN978-0-80-539801-4

推薦者
山下 博史 教授
名古屋大学大学院工学研究科
機械理工学専攻

本書との出会い
他の研究者から教えてもらった,大学等の講義やセミナーなどで知った.

コメント

 F.A. WilliamsCombustion Theoryは,私が30歳代後半に,それまでとはやや異なる研究分野である「燃焼」の勉強を本格的に始める際に読んだ本であり,研究室では長年に亘りセミナーのテキストとして使用されていました.いきなり1.1節で反応性流体力学の完成された方程式が現れ,残りの章や節ではそれを用いて誘導される燃焼現象の本質的な課題が盛られています.非常にたくさんの参考文献が引用され,行間を追うのも大変で,週1回90分のセミナーで1頁と進まなかったこともしばしばありました.というわけで,この本の内容の半分も理解できているわけではありませんが,現在でも研究上で新しい燃焼現象に出会ったときに,Williams先生は何か書いていなかっただろうかと,紐解くことがあり,燃焼研究者にとっては欠かせない本です.

推薦者
西岡 牧人 准教授
筑波大学大学院システム情報工学研究科構造エネルギー工学専攻

本書との出会い
大学等の講義やセミナーなどで知った.

コメント

 燃焼現象を理論的・数学的に明快に解説しており,やや難解ではあるが美しい.燃焼のような複雑な現象においては,専門書はどうしても多くの現象論的知識の集合体になってしまいがちであるが,この本ではそのような記述が少ないかわりに,徹底的に理論にこだわっている.そのため,読者が燃焼現象を理論的にクリアに理解する際には非常に役に立つ本である.


図書名:気体の燃焼物理
著者 金原寿郎

出版社 裳華房 発行年1985
ISBN4-7853-2505-4ISBN978-4-78-532505-3

推薦者
古谷 博秀 主任研究員

独)産業技術総合研究所
エネルギー技術研究部門

本書との出会い
この本は就職した時に私の上司が,燃焼とはいかなるものかということを勉強しなおすために薦めてくれた本です.現在では,お預かりしている学生さん達に薦めると共に,私自身も学生さんの本棚から時折失敬して,振り返ることの多い本です.

コメント

 本書は1985年に応用物理学選書の第5巻として出版され,現在は絶版となってしまっていますが,燃焼の基礎となる着火,燃焼の伝播について,比較的簡単な式で非常にわかりやすく説明され,なおかつ,分子運動論と素反応の説明により,燃焼の化学反応について,分子同士が衝突しあう中で,いかに反応が進んで行くかの物理的なイメージを与えてくれます.更に,最近の測定法には必須となる量子力学の基礎についても盛り込まれており,燃焼現象の概念を捉えるには非常によい本であり,その後の発展に必要な基礎知識も得られます.はじめに書きましたが,すでに絶版となっていることは非常に残念ですが,大学の図書館や古本屋で目に留まったら,是非とも開いてほしい1冊だと思います.


図書名:Principles of Combustion
著者 Kenneth Kuan-Yun Kuo

出版社Wiley-Interscience Publication 発行年1986
ISBN0-4710-9852-3ISBN978-0-47-109852-2

推薦者
松尾 亜紀子 准教授
慶應義塾大学理工学部機械工学科

本書との出会い
大学等の講義やセミナーなどで知った.

コメント

 この本とは,研究室輪講の教科書として使用した際に出会いました.これほど分厚い教科書は日本の書籍の中では辞書以外には見たことが無く,驚いた覚えがあります.基本的な事柄が平易な英語で丁寧に書かれており,私にとっては座右の書として学生のころから大活躍の本です.また,学生の頃に,著者のKuo先生とお話しする機会があり,とても嬉しかった覚えもあります.今では,第2版も出版され内容もリニューアルされ,内容も更に充実していることと思います.


図書名:燃焼(岩波全書)
著者 熊谷清一郎

出版社 岩波書店 発行年1976
ISBN4-0002-9018-5ISBN978-4-00-029018-0POD版,2000年)

推薦者
藤田 教授
北海道大学大学院工学研究科
機械宇宙工学専攻

本書との出会い
販売店でたまたま見つけた.

コメント

 学生時代に,燃焼に関する参考書を探していたときに,書店に並んでいるなかで一番値段の安かった本がこの本でした.文体が古く読みにくい印象を受けたのですが,あまり手持ちがなかったこともあり購入した記憶があります.この本には,液滴燃焼に関する基礎研究を,戦後のお金も施設もない中で創意工夫を凝らして行った結果が事細かに書かれており,どんな環境や境遇でも研究はできるのだ,と学生ながらに感銘を受けました.著者の熊谷先生は,液滴燃焼のD2則を見出しておられ,また工夫に工夫を重ねられた微小重力実験の成果で,国際燃焼シンポで日本人最初のSilver Medalを受けておられます.この本を読んだときの記憶が,今の私の微小重力燃焼研究に繋がっていることは間違いありません.


図書名:Heat, Mass, and Momentum Transfer
著者 Warren. M. Rohsenow and Harry Y. Choi

出版社PRENTICE-HALL 発行年1961

推薦者
竹内 正雄 グループリーダー
(独)産業技術総合研究所エネルギー
技術研究部門燃焼評価グループ

本書との出会い
大学等の講義やセミナーなどで知った.

コメント

 現役の本で無くて申し訳ありません.古い本なので,現在は入手しにくいと思います.ずいぶん昔の修士1年の時だと思うのですが,ゼミで読んだ本です.この時期に,何冊かの同種の本を(部分的に)読む機会があり,どれも特徴ある本で色々な面で勉強になりました.その中で,この本は読みやすさの点で抜きん出ていたと思います.英語が分かりやすいのも確かですが,疑問点が有ると大体その次に説明が出てくる,言ってみれば初学者にとって痒いところに手が届く本であったと記憶しています.最近では様々な文章を書く機会が多いのですが,この本のように読者の側に立ってわかりやすく書けているかと思うと,内心忸怩たるものがあります.


図書名:分子熱流体
著者 小竹

出版社 丸善 発行年1990
ISBN4-6210-3536-3ISBN978-4-62-103536-8

推薦者
芝原 正彦 准教授
大阪大学大学院工学研究科機械工学専攻

本書との出会い
大学等の講義やセミナーなどで知った.

コメント

 本著は熱流動に関する現象を電子,原子,分子スケールの視点かつ非常に独創的な視点から,体系的に論じたものである.本著は,通常の教科書とは違い,その内容の大部分が著者の全くのオリジナルの理論や視点で論じられている点が教唆に富んでいると考えられる.第6章は「分子の電子状態と運動」というタイトルがついており,6.4節は「化学反応」となっている.この節では,反応速度や化学発光に関して,電子,分子運動かつ熱流体の視点から平易かつ独創的な解説がなされている.短い節ではあるが,燃焼過程における素反応,化学発光の「物理化学的本質を知る」には最も平易な教科書の一つではないかと考えられる.


図書名:Carbon Dioxide Capture and Storage: IPCC Special Report
著者 Bert Metz, Ogunlade Davidson, Heleen de Conick, Manuela Loos, Leo Meyer

出版社Cambridge University Press 発行年2005
ISBN0-5216-8551-6ISBN978-0-52-168551-1

推薦者
平井 秀一郎 教授
東京工業大学
炭素循環エネルギー研究センター

本書との出会い
他の研究者から教えてもらった.

コメント

 世界のエネルギーの85 %は,化石燃料の燃焼によりまかなわれており,それはとりもなおさずCO2の排出を伴い地球温暖化の主要因となっている.本書籍は,その排出されるCO2を地中もしくは海洋に隔離することについて,現状と将来について,全世界の専門家により執筆されたものである.特に,出版元は,気候変動に関する政府間パネル(IPCC)であり,IPCCがだすスペシャルレポートで,CO2削減技術についてまとめたものでは,はじめてのものになっている.
IPCCHPhttp://www.ipcc.ch/)より,無料でダウンロードが可能であり,是非ご一読頂きたい.


図書名:Combustion Dynamics: The Dynamics of ChemicallyReacting Fluids
著者 Tau-Yi Toong

出版社 Mcgraw-Hill College 発行年1982
ISBN0-0706-4976-6ISBN978-0-07064976-7

推薦者
植田 利久 教授
慶應義塾大学理工学部機械工学科

本書との出会い
よく覚えていませんが,本屋さんがつくる書籍紹介パンフレットかなにかに紹介があり,題名が燃焼だったので購入したように思います.

コメント

 燃焼の分野の著書としては,F.A.Williams著のCombustion Theory, I.Glassman著のCombustion, K.K.Kuo著のPrinciples of Combustionなど名著があります.今回私が選んだ書籍は,そのようななかで,燃焼を流体力学,熱物質運動量輸送現象の視点からわかりやすく解説している著書です.わたしが,燃焼の研究をはじめたころに出会った書籍であり,わたしの燃焼に対する姿勢を決めた要因のひとつになった書籍のように思います.


図書名:自然のコード―自然のシステムの安定性と柔軟性を探る
著者 N.D. クック

出版社HBJ出版局 発行年1993
ISBN4-8337-6035-5ISBN978-4-83-376035-5

推薦者
小西 忠司 准教授
大分工業高等専門学校機械工学科

本書との出会い
液体表面上を伝ぱする火炎前方に形成される表面波の生成機構に関する研究で,Perturbation theoryに関連した書籍を探していた時に見つけた本である.研究とは直接関係がなかったが,題名に引かれて購入した.

コメント

 システムが環境の中で生き残っていくために必要な二つの機能である、柔軟性-システムがその情報ベースを変化させる能力-,と安定性-システムがその基本的情報を保持する能力-について諸例を記述した本である.本書は,原子系,面心立方体結晶,細胞システム,心理学,家族システムさらにアメリカや旧ソ連の社会システムに至るまで幅広い例について言及している.著者によれば,自然界および社会に存在する,持続性をもった諸システムには,その持続性を確保するために共通したコントロール構造が隠されているようである.そのコントロール構造とは何か?ぜひ一読下さい.現在,訳書では中古品のみ,原書Stability and Flexibility: An Analysis of Natural Systemsは新品入手可能です.また,大学・高専図書館において他機関の図書貸し出しが可能です.