熱工学部門企画 EXCEL特別セミナー

EXCELで拓くビジュアルな数値解析の世界」の開催報告

岩井 裕(幹事,京都大学)

 

 年の瀬も迫る昨年1217日に東京工業大学大岡山キャンパスにて,標記の特別セミナーが開催されました.計算機の発達とともに進展した熱流動数値解析は,現在では種々の分野において研究・開発の重要なツールとなっています.数値解析を行うためにはハード(計算機)とソフト(解析プログラム)が必要ですが,ソフトについてはFORTRANCなどのプログラミング言語で独自に作成するか,それぞれの目的に合致する市販のソフトウェアパッケージを導入することが今日では一般的でしょう.しかし本特別セミナーで紹介されたアプローチはそのどちらとも異なり,表計算ソフト(EXCEL)を利用するものでした.

当日は,5名の講師陣から,熱伝導・対流・放射などの諸問題に関する数値解析をEXCELで行う上での基礎的な手法の解説や,身近な伝熱問題や最先端分野における伝熱問題への適用例をご紹介いただきました(表参照).2台のプロジェクターを併用して,実際に計算のデモンストレーションを交えながらの解説は,理解が進むだけでなく大変迫力のあるものでした.セル内の数字が時々刻々と変化して計算が収束していく過程を,計算領域全体を「見渡しながら」確認できることはEXCELによる数値解析のひとつの特徴であり,参加者は標題の「ビジュアルな数値解析」の意味が実感できたのではないでしょうか.また,講師陣によって考案されたアイコン化セルは,極めて直感的で扱いやすいものであり,筆者は学部生レベルの教育目的にも有効であろうと感じました.

本特別セミナーに参加してみて,EXCELでここまでできるのか,という感想を持ったのは筆者だけではなかったと思います.もちろん,扱える問題はまだ限定的ではありますが,特別なソフトウェアを購入することなく,EXCELという多くのパソコンにインストールされている一般的なアプリケーションを使って解析を実行できるということは大きな魅力でしょう.今回の特別セミナーはその案内が学会誌やホームページなどに掲載された直後から順調に参加希望者が増え,最終的は140名を超える参加者がありました.このような注目を集めたのは,簡易的にでもEXCELで解析ができれば,という潜在的な欲求があったからだと思われます.セミナー終了後に行われたアンケートの結果からも,EXCELでの数値解析に対する期待を見て取ることができました.今後の更なる発展が期待されます.

最後に余談ではありますが,当初は東工大の百周年記念会館で最大100名の参加者を見込んでの開催を予定しておりましたが,余りに参加希望者が多かったため会場が窮屈となってしまい,東工大・花村先生のお取り計らいで,急遽,より大きな部屋へと会場を変更しました.特に11月末に学会メーリングリストで案内が流れた際には,3日間に60名近い参加希望が殺到したため手作業での対応が追いつかなくなってしまいました.授業で90分間部屋を空けている間に参加希望者が大幅に増えて当初定員を超えてしまうような状況で,まさにうれしい悲鳴でした.

セミナーの成功は講演内容,資料の作成などに早くから綿密なご準備をいただいた講師の方々の情熱によります.そしてそれ以外の場面でも牧野部門長,機械学会小泉様を始め多くの方々のご理解・ご協力をいただきました.ありがとうございました.

 

講師

内容

小林健一 (明治大学)

EXCEL解析の最新情報」と「こんな使い方、あんな使い方」

富村寿夫 (九州大学)

「ビジュアルな数値解析のための基本とオリジナルな解析法」

羽田光明 (日立製作所 電力グループ日立事業所)

「数値解析結果のアニメ化」

平澤茂樹 (日立製作所 機械研究所)

「伝熱問題への適用例1 (電子機器冷却、材料プロセス、マイクロ・ナノなど)

大村高弘 (ニチアス株式会社)

「伝熱問題への適用例2 (含水した断熱材の非定常伝熱解析、配管の断熱問題など)

(所属はセミナー当日現在)