ガスタービンの熱工学的課題


吉田 豊明
(東京農工大学)




 ガスタービンは近年,航空機用ジェットエンジン,発電用ガスタービンとして世界的に大規模に使用されている。また,コージェネレーション(熱電併給)プラント,緊急発電用動力源,高速艇のエンジンなどとしても発展しつつある。ガスタービンの熱効率向上,高出力化,信頼性/耐久性向上にとって,高温部材の冷却,熱防御,熱膨張制御,排熱回収などの熱工学技術は大変重要な役割を担っている。
 ガスタービンの熱工学技術に関する最新情報は,国内では日本ガスタービン学会の諸活動(学会誌,定期講演会,セミナー,国際ガスタービン会議,調査報告書など)から得るのが便利である。(http://wwwsoc.nii.ac.jp/gtsj/ 参照) 国際的に最先端/最新の情報は,毎年開催されるアメリカ機械学会の国際ガスタービン会議(ASME TURBO EXPO Power for Land, Sea & Air)が最も充実している。(http://www.asme.org/igti/ 参照) ちなみに,この会議では発表論文の約20%,100編以上が伝熱関係である。

 さて,タービン入口温度 (TIT) の高温化は熱効率向上,出力増大をもたらすので,このためのタービン翼,燃焼器など高温部材の冷却技術は材料,加工技術とともに,エンジンの発達にとってキーテクノロジーである。図1は,ジェットエンジン,大型ガスタービンのTITが時代とともに上昇してきた変遷を示す。ガスタービンは,1950年代航空エンジンとして本格的に実用化され,発電用は1970年代になって大型ガスタービンが使用されるようになった。以来今日に至るまで順調な発展を遂げ,実用エンジンのTITレベルは1500 ℃に達している。


図1 タービン入口温度の変遷


 図2は,TIT上昇を支えてきた冷却技術の進歩を示す。冷却構造の高度化と冷却空気流量比の増大によって冷却効率が上昇してきた。現在では,冷却空気流量のさらなる増大は出力低下を招くので,より少ない冷却空気で効率よく冷やす冷却方式が求められている。図2中のトランスピレーション冷却はこの目的に適した冷却構造であるが,設計製作/加工技術の難しさ,構造強度の不足,冷却空気の目詰まりなど課題が多くて実用になっていない。図3に構造の概念を示すように,近年,精密鋳造技術の進歩を背景として,インピンジ冷却,ピンフィン冷却,全面フィルム冷却を複合的に組み合わせ,構造を微細化する(穴径,フィン直径を0.4〜0.5 mm程度にする)ことによってトランスピレーション冷却に近い冷却性能を得ようとする研究開発の動きがある。


図2 タービン翼冷却方法の進歩




図3 複合冷却構造(擬似トランスピレーション冷却)の概念


 空気冷却技術の高度化,優れた耐熱材料の適用,セラミック遮熱コーティングの適用などにより,TITはさらに高温化されると思われるが,燃焼ガス温度の制限から,限界領域になっていく。熱効率向上,出力増大の観点からは,水蒸気/水素など異種流体により高温部材を冷却する方法,冷却空気を熱交換器で予冷する方法,圧縮機出口の作動流体を中間冷却する方法,なども有効なので,あえてTITを高めなくても,これらを適用して性能向上を図るという動向があり,産業用ガスタービンでは蒸気冷却,冷却空気予冷,中間冷却,などが既に一部実用になっている。

 最近のASME国際ガスタービン会議で発表された熱工学的研究課題について,多いものから列挙すると,・タービン翼表面境界層の乱流遷移と熱伝達率分布,・フィルム冷却,・フィン付き曲がり管/ピンフィン冷却など内部冷却,・インピンジ冷却,・翼先端部/翼端面(エンドウォール)冷却,・ディスク冷却,・シール空気流れの伝熱,などとなっている。これらについては,これまでに多くの研究成果が蓄積されているが,最近の研究の傾向としては,乱れ度の強い流れ,回転翼列の後流,境界層の剥離など流れの非定常性が強い支配条件となるような難しい問題に取り組むようになっている。

 また,いずれの課題においても実験的研究のみならず,数値解析も多くなされている。問題の性質に適した乱流モデルの採用,実験データよる検証などにより,予測精度を高めて,設計のツールにまで高度化するというのが最近の傾向である。さらに,近年では,流れの解析 (CFD) と部材内の熱伝導解析を連成させて解くという,いわゆるConjugate heat transferが行われるようになってきた。

 ガスタービンは多くの工学分野を含んだ総合システムであり,主要な要素が回転し,作動流体の温度,圧力が高い,という特徴があるので,熱工学的課題は多種多様である。