超高発熱密度・大面積対応冷却技術の開発について
大田 治彦(九州大学大学院 工学研究院 航空宇宙工学部門)
図1 側部からの液体供給を可能とする冷却部構造の一例 (流路長さ 5 cm の例)(Ohta [1])
これに対して、液体を高サブクール度に維持して気泡微細化沸騰 (MEB) を実現せんとする試みも行っている。一般にMEBの実験においては、従来主として1
cm角程度の小型の伝熱面を対象として行われてきた経緯がある。加熱面の大きさはその周囲の液体サブクール度の分布と密接な関係があるので、非常に重要な因子と考えられるが、比較的大きな伝熱面に対する実験結果は非常に少ない。本プロジェクトの目標に沿う形で、狭隘流路での適用を考え、流路高さを変化させた場合についてMEBの発生条件を調べた結果、同一入口液体サブクール度では、MEBは流路高さが低い場合や流速が低い場合には生じにくいことがわかっている。しかし図2に示されるように入口液体サブクール度をΔTsub,in=40 K と大きく設定した場合、入口流速 uin=0.5
m/s の条件下では、流路高さ H=1 mm であるにもかかわらず、限界熱流束値が 7×106 W/m2
まで増大している [2]。
図2 10mm×10mm 伝熱面における気泡微細化沸騰(流路高さ H=1, 3, 5, 17 mm、ΔTsub,in=40 K、uin=0.5 m/s) (Suzuki et al. [2])
さらにもう一つの方法は、液体の性質に着目し、混合媒体の表面張力が濃度や温度により変化することを利用したものであり、実際への適用に際しては最も簡便な方法である。限界熱流束を増大させるためには、狭隘流路で生じる扁平気泡に対しては底部のミクロ液膜へのドライパッチ伸展の阻止が効果的であり、扁平気泡が生じないような沸騰系においても、合体泡底部のマクロ液膜中の一次気泡底部ミクロ液膜への液体供給が重要であると仮定して、マランゴニ力を利用してこれを行わんとするものである。低沸点成分の表面張力がより低いいわゆるポジティブ混合媒体あるいは共沸点を持つためにポジティブと見なせる混合媒体においては、ミクロ液膜先端部(三相界面付近)での低沸点成分の濃度低下のために、表面張力が相対的に大きい値となる。さらに特定成分の混合媒体の限られた温度範囲においては、温度が高いほど表面張力が大きくなる特異な性質があることから、濃度勾配によるマランゴニ力が温度勾配によるそれによって打ち消されることなく、より強調されたものとなる。このような状況を図3に示しており、自己浸潤性液体(self-rewetting
fluid) と命名された [3]。
(a) 濡れ性の悪い混合媒体の例(説明用)
(b) 自己浸潤性混合媒体
図3 混合媒体における濡れ性の違い (Abe et al. [3])
以上の3つのアイデアはそれぞれ、加熱部(実際では冷却部)の構造、冷却条件、冷却媒体の性質という異なるアプローチに関するものであり、最終的にはこれらを両立し得る形で複合させることにより、目標を達成したいと考えている。
文 献
1. Ohta, H., Proc. 2nd Int. Conf. Microchannels and Minichannels,
Rochester, ASME ICMM2004-2324, pp.97-108, 2004.
2. Suzuki, K. et al., Proc. 6th ASME-JSME Joint Thermal Engineering
Conference, Paper TED-AJ03-106, CD-ROM, 2003.
3. Abe, Y. et al., Proc. Int. Mech. Eng. Conf., Anaheim,
IMECE2004-61328, 2004.