2023年度年次大会技術ロードマップ委員会特別企画ワークショップ 開催報告
報告者 山崎 美稀(技術ロードマップ委員会委員長、(株)日立ハイテク)
2023年9月4日(月)に2023年度日本機械学会年次大会において技術ロードマップ委員会特別企画ワークショップを開催した。今年の年次大会は2023年9月3日(日)から6日(水)まで東京都立大学南大沢キャンパスにて対面での開催となり、本ワークショップも大学の会場にて開催した。本ワークショップでは、「地球環境再生に向けた持続可能な資源循環の実現」をテーマに、第1部に招待講演による話題提供と、第2部にパネルディスカッションを通じて、日本機械学会および機械工学分野における技術ロードマップ策定の今後の活用に反映していくことを目的とした。
表1 特別企画ワークショップのプログラム
第1部 招待講演 | |
13:00~13:35 | 機械学会ロードマップ委員会における地球環境再生に向けた今後の取り組みの紹介
(日立ハイテク・山崎美稀、 技術ロードマップ委員会委員長) |
13:35~14:10 | 材料力学部門における地球環境再生に向けた取り組み紹介
(名古屋大学・荒井 政大 教授 ) |
14:10~14:45 | カーボンニュートラルに向けた熱工学の取組み
(東京大学・鹿園 直毅 教授) |
14:45~15:20 | マイクロ /ナノプラスチックの生体への影響研究とそこから考える資源循環
(熊本大学・中西 義孝 教授 ) |
第2部 パネルディスカッション | |
15:20~16:00 | 地球環境再生に向けた持続可能な資源循環の実現に
機械学会はどのように貢献できるかを考える |
(下線の部分はリンクが付けられているのでクリックすると資料がダウンロードできます)
本ワークショップのプログラムを表1に示す。第1部は4件の招待講演が実施された。はじめに、招待講演「機械学会ロードマップ委員会における地球環境再生に向けた今後の取り組みの紹介」では、山崎委員長から、まず地球環境の現状とその重要性について述べられた。次に、日本機械学会の環境に関する取り組みについて紹介され、委員会が設立された経緯や活動内容に詳細に触れられ、委員会が果たすべき役割と期待される成果についても説明された。また、地球環境再生に向けたキーテーマと技術動向が紹介され、再生可能エネルギー技術、エネルギー貯蔵技術、省エネ技術、エネルギー効率向上技術、さらにはCO2キャプチャ、輸送、利用、貯蔵(CCUS)技術、そして環境負荷の少ない生産技術とリサイクル技術の重要性が強調された。さらに、将来展望が提起され、今後の技術動向やそれに伴う環境と課題に焦点を当て、技術ロードマップのアップデート方針や目標について述べられた。日本の産業界、学会、研究者との連携強化が提案され、今後の取り組みに向けた方向性が示された。
招待講演「材料力学部門における地球環境再生に向けた取り組み紹介」では、名古屋大学の荒井教授からは、NEDO/ISMAプロジェクトについて目的、目標、研究開発全体計画、および体制に関する説明がなされた。また、プロジェクトの研究開発テーマであるLFT-D工法(連続繊維CFRTP法)の特徴と課題についても詳細に説明がなされた。LFT-D工法は、軽量で低コストな構造部材を生産する革新的な技術であり、繊維ロービングと樹脂ペレットの材料供給から最終製品までのダイレクトな一貫自動生産システムにより中間材を省略し、高速成形が可能である。この工法の特性に加え、材料特性に基づいた設計や成形法の開発が課題として提示された。さらに、CFRPリサイクル技術についても、実用化の現状や課題について説明がなされた。CFRPを社会循環型資源として活用するために、循環性をデザインし、リサイクルまでの一貫性を持つ循環産業へのシステム構築、リサイクル産業からリソーシング産業への環境整備、そして循環経済の実現に向けた市場創出などの課題の重要性が指摘された。
招待講演「カーボンニュートラルに向けた熱工学の取組み」では、東京大学の鹿園教授より、最終エネルギー消費における熱の割合について詳細に紹介された。エネルギーバランスの観点から、これまでの熱の利用と今後の熱の利用について議論され、加熱の必要性に焦点が当てられた。熱力学第一法則に基づくアプローチとして、断熱と熱再生が強調され、加熱は可能な限り行わないべきであり、行う場合には可逆的なプロセスや再エネルギーの活用が推奨された。特に、民生部門においてヒートポンプの促進、寒冷地と集合住宅における適切な利用方法、真空断熱材、SOFC用小型真空断熱容器などの実例が示され、将来の持続可能な熱の利用に向けた展望が提供された。さらに、コストの問題に対処する方法や、燃料と材料の変更についても議論が行われ、特に低価格で安定供給され、かつ低環境負荷な材料の採用が検討すべきであるとの指摘がなされた。
招待講演「マイクロ /ナノプラスチックの生体への影響研究とそこから考える資源循環」では、熊本大学の中西教授からは、マイクロおよびナノプラスチックの生成に関連する問題と免疫系への影響について詳細に解説されました。具体的には、洗顔料や化粧品などのスクラブ剤に使用される樹脂ペレット、衣類の洗濯時に発生する糸くずなどが環境中に放出される問題に焦点が当てられた。また、マイクロおよびナノプラスチックが生態系に及ぼす影響の複雑性についても言及され、生態系内での挙動や相互作用を理解するためには長期的な研究が必要であり、異なる生物種によって影響が異なる可能性があるため、多様な生態系での調査が強調された。研究や調査を進める上で、既知の幾何学的形状と素材を持つマイクロおよびナノプラスチックを製造するシステムや、マクロファージにこれらの粒子を取り込ませ、影響の定量的かつ時間的変化を分析するシステムの必要性が強調された。また、プラスチック微粒子に対する規制や環境への対策が不十分であることが指摘され、研究成果を政策に反映させるためには規制や対策の改善が必要であり、国際的な共同研究、環境モニタリングの強化、新たな技術の開発などの課題が示された。
第2部のパネルディスカッションでは、初めに委員長から五つの主要議題が提出されました。それらは、「1. 産業界と学界の連携:持続可能な資源循環の最前線での取り組み」「2. 熱工学の役割:カーボンニュートラル実現のための技術とその挑戦」「3. マイクロ/ナノプラスチック問題:現状の理解とその生体への影響」「4. 材料技術の進化:地球環境再生を目指す新しい取り組みとアプローチ」「5. 技術的革新との連携:機械学会ロードマップ委員会における期待されるブレークスルー」であります。第一部の招待講演者四名がパネリストとして参加し、参加者全体で討議が行われた。産業界と学界の連携が持続可能な資源循環を推進する上で不可欠であるとの共通認識が強調された。この連携によって、新たなリサイクル技術や資源効率向上策の可能性が高まると指摘されました。熱工学がカーボンニュートラル達成に向けての鍵であるという点にも一致見解が得られた。新たなエネルギー変換技術や高効率の断熱プロセス、さらには材料技術や設計の革新が不可欠であるとの議論が展開された。また、マイクロおよびナノプラスチックの環境および生体への影響についても議論が交わされた。研究と政策の連携の必要性、プラスチック代替材料の開発、および環境へのリサイクルへの投資や規制の課題も検討された。最後に、機械学会ロードマップ委員会における期待されるブレークスルーについて、委員長からは2050年の社会像の創出と、それを実現する新技術や横断分野に関する方策の検討が活動目的として提示された。これらのパネルディスカッションにおいて、多様な専門分野からの専門家が意見を交換し、持続可能な環境へのアプローチや議題に関する深い洞察が共有された。今後、技術ロードマップ委員会では、新技術や横断分野の方策を検討するためのワークショップやオンラインセミナーを開催し、ロードマップ作成とその実践に関する手法と事例の収集、さらには学会員への情報提供を進める計画である。
以上
お知らせ 2023/09/27