第82期委員長

吉田哲二(清水建設)

ご挨拶

日本機械学会第82期(2004年度)宇宙工学部門の部門長を務めさせていただくことになりました吉田哲二(清水建設)です.昨年度から引続き,木田隆副部門長(電通大)と上野誠也幹事(横国大)に継続してご支援をいただくことになりました.運営委員会の構成は,81期から継続していただいている委員に加え,新しく全国各支部から推薦された実績のある委員で強化されました.この日本機械学会からわが国の「宇宙開発」に新風を送り込むため,会員各位とともに部門の活動を進めさせていただきます.

1.宇宙工学へ学生を勧誘
学生による手作り衛星の打上げ・運用は,最近注目すべき宇宙事業のひとつです.この快挙の背景には,当部門が主催し本年で第12回を数える「衛星設計コンテスト」があります.ここ数年の提案内容のレベル向上には目を見張るものがあり,学生による宇宙計画が実現しても不思議ではない状況でした.昨年,東京大学と東京工業大学の2チームの「キューブサットプロジェクト」では,輸送手段だけはロシアに依存しましたが学生自らが海外への衛星輸送・射場整備を実行し,プロ顔負けの仕事を見事に成功させました.衛星の長期運用だけでなく地上系の運用体制の合理化など徹底した仕事振りから,我が国の宇宙開発の将来に大きな期待がふくらみました.当部門ではこの事業を81期に表彰いたしました.若い力の宇宙への接近をさらに拡大するために,当部門では小学生から高校生への情報発信も積極的に進めております.水ロケット打上体験や講演会・見学会を各地で開催し,今期も金沢と福岡で開催を予定しています.現在の技術者集団としての活性化とならんで,未来の学会を支える技術者を育成することも学会の責務と考えております.

2.機械基礎工学と宇宙開発との連携
JAXA宇宙航空研究開発機構(以前のNASDA宇宙開発事業団)と当部門が協力して第79期から開始したこの事業は,わが国の宇宙開発の課題や研究開発情報をリアルタイムに共有することを実現することが目的です.宇宙機器には多様な機械基礎工学の技術が盛り込まれ,巨大なシステムを構成しています.時には国レベルでの緊急事象(大型宇宙機の落下,など)への適切な対応が必要となる場合もあります.そこでは機械工学に携わる多くの専門技術者と宇宙開発の現場にいる技術者との密接な連携なくしてわが国の安全と宇宙開発の成功を継続することは困難と考えられます.日頃の宇宙関連研究の促進も含め,インターネットサイト「Tech-ExpertCatcher」(http://www.tech-expertcatcher.jp/)を昨年秋に開設しました.発足当初から700名以上の会員の参加を得て,現在も登録が増加しています.わが国の宇宙開発の大きな課題であるH-2Aロケットの打上げ再開と円滑な宇宙事業実施に向けこの連携が役に立てられるよう一層の充実を進めて行きます.

3.部門登録者への情報提供と宇宙工学の体系化
宇宙工学部門への登録者は第一位359名,第二位560名,第三位1300名であり,小さいながらも多くの会員に興味を持っていただける横断的分野と自認しております.学会誌やホームページ,ニュースレター発刊,講演会・年次大会での活動を通じて宇宙工学部門の情報提供を心がけていますが,第80期での「宇宙工学部門のしおり」に続いて昨年度は宇宙工学そのものの内容への理解を進める「宇宙工学概論」の冊子を編集・配布いたしました.本冊子は宇宙工学の体系化の将来を目指した第一歩であり,今後,当部門の登録会員の意見を反映しつつ内容の整理・高度化を進めます.

わが国の宇宙開発は時代の流れを反映し大きくその姿を変えようとしています.宇宙開発を支える技術者にとっては日常の研究に注力するばかりでなく,同時に将来を見通した見識,IT・ナノテク・バイオなど現代的な技術への理解も期待されています.会員の皆様には是非,当部門の企画行事に足を運んでいただき,多様な議論から未来につながる宇宙工学の姿を模索したいと考えております.