第81期委員長

吉田哲二(清水建設)

ご挨拶

今年(平成15年)2月1日(日本時間)に発生した米国NASAスペースシャトル「コロンビア」の帰還時の事故は、宇宙システムの難しさを再度考えさせられました。極限的な環境と地球規模の壮大な遠隔運行システム、さらに短時間に次々と急速に変化する事象に対応するために蓄積されたノウハウなどは、人間が作り出したものである以上100%完璧ではなく常に修正を必要とするものだということを再認識させられました。今回の事故は特にミッション終了間近で発生しており、従来の常識的な慣れが現場の技術者の目を曇らせていたのではないかとも考えられます。正常に運用され成功が続いている日常にこそ、絶え間ない研究開発を継続し知恵と工夫を注ぎ込み、システムの中に潜んでいる「取り除かれるべき要因」を発見せねばなりません。

宇宙工学は機械工学を中心に多くの分野が集合した典型的なシステム工学のひとつです。最近のロケットや人工衛星には共通部品や共通設計が取り入れられてきていますが、まだテーラーメイドの特徴が色濃く残っています。宇宙システムには多種・多様な工学が入組んでおり、その研究開発には各工学分野の技術者・研究者の横断的な連携・協力が必要です。従来の機械工学分野を専門とする技術者の方々にも宇宙工学・宇宙システムが別世界のものでなく、それぞれの技術適用・研究対象のひとつの場であることを知っていただく必要があります。

宇宙工学は人類の未来に大きくかかわる分野であることに異論はないと思われます。地球観測・気象衛星画像やGPSなど宇宙工学の成果が日常生活にも欠かせない存在になっています。課題を抱えながらも国際宇宙ステーション建設は継続されており、常に人間が滞在する「宇宙基地」が実現します。「宇宙」という言葉には人類共通の夢を実現する側面がありますが、未来に向けた宇宙開発の姿を描き、人類の将来を輝かしいものにする具体的な方向性を示すことも宇宙工学への要求の一つだと考えられます。

宇宙工学部門では宇宙工学の横断的特性を、材料・構造・熱・制御などの分野としての工学的側面と、宇宙開発の最前線で活躍する技術者・大学の研究者・学生から未来を背負う子供たちに至る人間的側面との二つととらえ、学会会員の皆様に興味を持って参加していただける部門となるよう活動をすすめます。