99期部門長挨拶
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第99期生産システム部門の部門長を拝命いたしました鴻池運輸株式会社の則竹です。どうぞよろしくお願いいたします。皆様、コロナ禍の大変な時期にも関わらず、学会の活動にご理解とご協力いただき、ありがとうございます。
コロナ禍で世界中の生活スタイルが大きく変化する中、ものづくりに関する考え方にも大きな影響が生じていると思います。例えば、IoTやデジタル化に関しては以前から大企業中心に進んでいたものの、コロナ禍で密を避ける手段として見直され、より加速しつつあると感じております。中小企業や物流業界で長く続いてきた労働集約化にも見直しが迫られ、自動化促進、遠隔監視・管理を真剣に考え始めつつあります。そのため、現地現物の基本思考からの軟化や一部転換は勿論のこと、生産規模に目を向けると量産効果を狙った生産集約化からクラスタ発生回避のための生産分散化へ、また、先行き不透明からアウトソーシング活用へと、様々な不可逆的な条件変化が生じ始めていると考えております。それに伴い、カイゼンの方向性やKPIも変化し、それを支える理論や技術に関しても一部変化してくると思います。生産システム部門の研究にとって、技術開発の加速だけでなく、従来の常識や前提条件からの変化に応じた理論と技術の再構築が必要になると考えます。
生産システム部門は、産学が連携して、ものづくりに関するあらゆる問題をシステム視点から研究し、理論と実践の両面から多くの専門家や実務家と共に議論し、時には協調へ発展する場と考えます。その結果、様々な解決策が導き出され、ものづくりの発展に貢献することが期待されます。先輩達が長年培ってきた生産性と品質を高いレベルで両立する基礎となる理論研究を重要としつつも、デジタル化の波に遅れない新しい生産システムのあり方を示す重要な役割を担うことが大切だと思うのです。
一方、生産システムという言葉がすぐに分かりやすい共通な物を想像できず、掴みどころがないように思われる若手研究者も少なくないと思います。それは、生産システムは多岐にわたる研究分野だからです。例えば、生産ライン設計・運用・管理、および前後工程を含むサプライチェーンマネジメント、さらには、Additive Manufacturingなどの作り方そのものの変化などが対象となります。最近は、IoT活用やデジタル化とそれを知的に運用するためAI・機械学習、シミュレーション、および、それらを上手く連携させるデジタルツィンやそのサービスプラットホームなどの研究も増えてきております。また、従来、生産システム分野以外で主に議論されてきた情報・通信(5G活用など)、ロボティクス、ドローン監視、3次元測定・センシング、環境・エネルギー、社会システムなど他部門との連携研究も今まで以上に重要となっており、それらを個別、もしくは複合的に議論・深化することができます。さらに、シェアリング・エコノミー、サーキュレーション・エコノミー、マイクロ・エコノミー、クラウドソーシングに始まる集合知活用などの新ビジネス形態の観点から生産システムを考え直すことも必要になっています。このように多岐にわたる研究が対象となり、今も対象範囲が広がりつつあるため、捉え難い部門のように見えていると思いますが、今後、これらを組み合わせる研究デザイン力と、その上で位置付けを再定義して深化させる論理的思考力が重要となってくる大変面白い部門と考えています。
以上のように、多岐にわたる技術を複合的に扱うため、生産システムとは企業戦略を加味しながら「明日」のものづくりの発展に貢献する企業内でのリーダー、ものづくりに関する様々な技術を体系化し有機的に再構成し未来を造り出す大学の一流研究者に欠かせない分野であると考えています。また、その知見と技術は生産システムに留まらず、物流や設計、さらには販売戦略にも応用できる発展性のあるものと考えています。事実、小職も大手自動車メーカの中央研究所に長年勤め2年前に物流業界に転身しましたが、物流会社の研究開発を担っている今があるのは、生産システム分野で学ばせていただいた研究と技術のおかげであると実感しています。
さて、今期、生産システム部門長を拝命し、多くの皆様にご支援いただきながら部門運営に携わらせていただきますが、本部門の活動をより魅力あるものにするために、多くの研究者と議論を重ねていきたいと考えています。足元の実問題を抱える産と、本質を理論的に見つめる学がとことん議論して生産システムの「明日」を創造し、実証してさらに改善を繰り返し、深化させていければと考えております。日本機械学会においては新部門制の試行中であり、部門間連携を始め様々な活性化策が試されていくものと思います。生産システム部門におきましても、皆様が参加したくなるような魅力ある部門とするために、微力ではございますが部門運営に尽力したいと考えております。特に、皆さまからのご意見、ご提案が重要となりますので、お気づきの点などありましたらお気軽にお声がけください。ご支援をどうぞよろしくお願いいたします。
2021年度(99期)部門長 則竹 茂年(鴻池運輸株式会社)