97期部門長挨拶
第97期生産システム部門の部門長を務めさせていただきます㈱豊田中央研究所の三田尾です。どうぞ、よろしくお願いいたします。
さて、スマホに代表されるように、近年のIT関連技術・機器の発展は目覚ましく、またIoTやAIというタームが小学生の日常会話にも出てくるほど、私達の生活に広く深く浸透し、生活自体に大きな変化をもたらしています。
この変化の波は非常に大きく、2020年頃が生活スタイルや価値観の大きな変化点だったと後年に語られるような時代を、今、私達は生きているのかもしれません。視聴者がスマホで撮影した動画がニュース画面を賑わす頻度も著しく増加しています。不適切動画やその拡散は、この大きな変化が若者たちに何らかの影響を及ぼしていることを示唆しています。CASE (Connectivity – Autonomous – Shared – Electric)と呼ばれるクルマの価値観の大きな転換は、例えば、昨今、多発している高齢者ドライバーによる悲惨な交通事故対策のソリューションとしても注目されています。変化の波は、生活や社会問題も含め社会全体を飲み込んで、新たな価値やマイナス側面も生み出しつつ、うねりとして時間とともに進んでいくものと思われます。
この大きなうねりは、当然、ものづくりや生産システムの世界にも押し寄せ、大きな変革をもたらしつつあります。その先駆けとなった戦略的技術開発構想は、よく知られているIndustrie 4.0ですが、その後、日本、米国など各国で国を挙げての戦略的構想が提唱され、産官学を巻き込んだ活発な取り組みに繋がっています。Cyber空間とPhysical空間の最適な融合・協調を実現する「ものづくりマネジメント」、データに基づく設備の予防保全をはじめ、エンジニアリングチェーン、サプライチェーンを取り巻く大変革は、ものづくりを革新的な高スループット体質に導くものと期待されます。
生産システム部門では、多くの製造メーカが参加するIVI (Industrial Value Chain Initiative)の設立母体となった「インターネットを活用した「つながる工場」における生産技術と生産管理のイノベーション研究分科会」(2014~2015年度)をはじめ、「つながるサイバー工場研究分科会:CPPS (Cyber-Physical Production System)」(2016~2018年度)など、IoTを活用したつながる工場に関わる分科会活動に精力的に取り組み、着実に成果を積み上げてきました。2019年度からも後継の分科会活動を展開してまいります。CPPSの活動、および「つながる工場/スマートファクトリー化」に向けた技術動向については、最近、非常に優れた解説[1,2]が報告されておりますので、是非、参考にしていただきたいと思います。また、以前のものづくりでは到底不可能であった複雑形状や、例えば一人ひとりに合わせたカスタム造形が可能な付加造形技術 (Additive Manufacturing/3次元プリンタ)に関する、「アディティブマニュファクチャリングにおける生産システム工学の研究分科会」をはじめとする取り組みも継続して進めます。関連技術を中心とした工場見学会や講演会も複数回の開催を計画しております。
Industrie 4.0は2030年以降の実現を見据えた構想[2]ですが、それまでの間に技術も価値観も考え方も、私達が考えるより速く変化するかもしれません。5Gが戦力化されれば、色々な分野における変革も加速するでしょう。高スループット―高性能製品の製造がひとつの目的であれば、それを阻害する因子の排除も重要な課題です。大規模な設備故障はもちろんのこと、cyber attack、労働災害や環境事故の発生も生産を阻害する因子です。Cyber-Physical Systemは安全でセキュアで地球環境への親和性が高いことはもちろんのこと、少子高齢化、地域格差、社会コスト増大等の顕在化しつつある社会問題を巻き込み、それに対するソリューションとして進化すべきものであると考えます。実際、世界が抱える種々の社会的課題に対する包括的コンセプトとして日本が提唱するSociety 5.0について、経団連は「Society 5.0 for SDGs (sustainable development goals)」と位置づけています[3]。
今、生産システム分野で起こりつつある変革は、社会全体としての新たな価値に直結する可能性も高く、部門として各要素研究を究める活動とともに、これから将来にかけて生み出される新たな価値に対する感性を高め、理解し、発展させる活動を推進することが、今まで以上に重要になると考えています。他部門との交流、連携が、新たな気づきのきっかけとなる可能性もあります。そのひとつの試みとして、次回の部門研究発表講演会を2020年3月下旬に、情報・知能・精密機器部門(IIPD)との同時開催という形で行うことを検討しています。他部門、そして他学会の活動にも耳を傾け、理解し、議論することによって、新たな仲間を増やし、新たな価値の創造や取り組みに発展することを切に願っております。
皆さまにとってダイナミックで魅力ある学会活動となるよう、微力ですが部門運営に尽力したいと考えております。皆さまからのご意見、ご提案がカイゼンの活力になりますので、お気づきの点などありましたらお気軽にお声がけください。ご理解、ご支援をどうぞよろしくお願いいたします。
2019年度(97期)部門長 三田尾 眞司(㈱豊田中央研究所)
[1] 日比野浩典、中村昌弘、則竹茂年:”Cyber Physical Production System (CPPS)によるものづくりの変化と将来”, 日本機械学会誌, 122, 第1207号, (2019), 20.
[2] 則竹茂年、水上潔、日比野浩典:”IoTを活用するつながる工場”, 自動車技術, 73, No.6, (2019), 18.
[3] https://www.keidanrensdgs.com/society5-0forsdgs-jp