88期部門長挨拶 グローバル化・最適化社会時代における生産システム部門の役割

2008年の所謂リーマンショック後,先進国の需要が減少する一方でBRICsに代表される新興国の需要が急拡大し,世界市場の景色はすっかり変わってしまいました.そのため,今後は,色々な国で色々な商品が開発生産される「グローバル化」への対応が重要な方向性と言えます.先進国市場では,商品の差異化とその商品を高効率で生産するシステムの構築が,新興国市場では,当該市場に適合した商品の開発とその商品が作れる現場力に力点をおいた生産の強化が必要になると考えられます.
また,消費者嗜好のさらなる多様化に加え,環境,安全・安心,快適性の追求といった社会的要請を背景とした新たなニーズも急速に拡大しています.社会のニーズを先取りした経営をするためには未来の社会を予測する必要があるとの考えから提唱された図1に示すSINIC理論によれば,2005年から「最適化社会」が到来するとされています.この最適化社会において企業は,利益の追求により得られる経営満足,顧客価値の創造により得られる顧客満足に加えて,地球環境との共存により実現される社会満足の充足にも活動の目的を置くことが求められます.そのため,ものづくり活動においても地球環境との共存が重要となり,ものづくり活動の中心となる生産システムにはあらゆる資源の有効活用,有害物質フリー化など環境負荷低減への対応が強く求められることになると考えられます.(図2)

グローバル化が進展する今後においては,日本の製造業はますます厳しい競争環境にさらされ続けることになり,これまで以上にものづくりの強みをコアに,「最適化社会」の新しいニーズに応える製品の開発生産に対応して行くことと,「グローバル化」に対応できるコスト競争力を強化し続けていくことの両立が求められています.この両立のためには,日本の製造業がこれまで圧倒的な国際競争力を有してきたトヨタ生産システムに代表される生産プロセスのイノベーション力の強化が改めて重要となり,生産システムを圧倒的に高度化し続けていくことが今後も日本の製造業が国際競争力を維持していくための重要課題と考えられます
このような中で,最適な生産システム構築に必要となる,生産技術,方法論などを深堀しながら,次世代の生産システムに関する方向性を探り,世の中へ発信していくことは当生産システム部門の大きな役割と言えるのではないでしょうか.
生産システム部門では,上述したように製造業の根幹である生産システムに関連する講演会,講習会,見学会などのイベント企画を通じて,ものづくり強化に関する各種の課題解決にチャレンジされている幅広い知識と経験を持つ多くの技術者および研究者の方々が積極的に情報交換できる機会を少しでも多くご提供できればと考えています.ぜひ部門内外の皆様のご協力を頂きながら,皆様と一緒にがんばっていきたいと思います.1年間,どうぞよろしくお願いいたします.

2010年度(88期)生産システム部門長 田中邦明(オムロン)