87期部門長挨拶「モノづくりの知恵袋としての生産システム部門」
金融システムの不安定化に端を発して,資源エネルギ価格の急激な変動など次々と問題が発生し世界経済全体が減速傾向を強めて,生産システム部門と関係の深い製造業にも大きな影響がでております.その最中,87期が始まりました.期末には,明るい光が見え出していることを祈りながら,このような厳しい時にこそ,将来の生産システムのあり方をしっかりと見据えて,産学が一致協力して知恵を出し合う様々な機会を提供する場として,生産システム部門を運営してまいりたいと思います.
現在,生産システムを考えるときに環境負荷の低減を図ることは必須となっています.すなわち,企業が提供する製品は,個々のユーザの多様な要求を満たすと同時に,製品の使用時においては,エネルギの消費が少なく有害物質などの排出がないこと,そして,ユーザの製品使用停止時においては,その製品の全てをリユース部品やリサイクル素材として,先端技術を取り入れた新しい製品へ循環・再生すること,さらに,その製造過程においては使用されるエネルギおよび資源が最小であることが要求されます.この製品ライフサイクルは,製品設計と並列して行われる生産設計時に計画されるものであり,生産設計において循環・再生の視点から,従来の生産システムのもつ長所は残しながら,その無駄を徹底的に分析し撲滅することにより実現できると言えます.
上記のことを踏まえて考えてみますと,これからの生産システムには,多品種極少量生産あるいは変種変量生産への対応可能な柔軟性,省エネ省資源も含めた製造コストの最小化を図れる経済性,自然環境への影響を配慮する環境性,一方で,生産システムを運用する操作者に優しいインターフェースをもつ人間性と作業環境の安全性などが,必須要件となります.その実現には,これまで長年かかって蓄積してきた生産技術・生産管理技術を,自動生産システムへとまとめあげるシステム化技術とその利用についての計画・運用・統制技術が従来どおり必要であることはもちろんですが,さらに,知能化・自律分散化技術を加えることにより,生産システムの高度化が図れると期待されています.いわゆる,IT(Information Technology)あるいはICT(Information Communication Technology)に環境の視点を加えた試みへの注目が集まっています.
生産システム部門は,学会の中にありながら,生産システムというもっとも企業活動の根幹をなす実務と直結したところを対象としています.それだけに,登録会員に企業籍の方の割合が多い部門でもあります.また,上述のように,生産システムに関連する問題は,技術的な要素問題に留まることはなく,環境問題ひいては社会システムにまでも広がっております.学会という営利に関係しない中立な場をうまく利用して,生産システム部門では,産学の会員の皆様がその所属にこだわらず活発に交流し,相互に情報交換をし,自由に討議し,協力して様々な問題解決のきっかけを得られる場として機能すること,すなわち,皆様の知恵袋となれることを目指しております.そのために,講演会,講習会をはじめとする様々なイベントを企画していきたいと考えております.また,部門HPでもたくさんの有用な情報を提供していく予定です.沢山の方々のご参加をお待ちいたしております.
2009年度(87期)生産システム部門長 松田三知子(神奈川工科大学)