熱流体現象の制御、創造、応用を通じて、豊かな人間環境の形成に貢献することを目指し、マイクロからマクロスケールまでの非線形性の強い流れ現象とそこで生じる熱や物質の移動現象を対象とした研究を行っている。特にマイクロ・ナノ領域に関しては、MEMS技術、高度な計算・計測技術を駆使して、 1)知的乱流制御、 2)パワーMEMS、 3)バイオフルイディック・プロセッシング、 4)ハイパー熱輸送システム、 などの付加価値の高い熱流体・エネルギーシステムの構築を目指している。 乱流現象の能動制御技術は、流体抵抗の制御をはじめ、熱や物質の輸送、拡散の自在な増進・抑制などを可能とする新しい技術として注目されている。本研究では、能動制御によって、流体抵抗低減、クリーン・安定燃焼を、実験室実験によって実証すべく、ソフトウェア・ハードウェアの両面において多角的な開発研究を行っている。ハードウェアとしては、MEMS壁面せん断応力センサ、フラップ型電磁アクチュエータ、これらをマトリックス状に配置した制御デバイスとコントローラを組み合わせた制御システムの構築・評価を行っており、乱流摩擦抵抗低減、燃焼安定化を実証し、さらなる開発を進めている。 現在、携帯電子機器、小型福祉機器、人工臓器などへの応用を目指して、化学エネルギーを動力あるいは電力に変換するマイクロシステムが注目されている。本研究では、DMFCよりも単位面積当たりの発電量が1桁程度大きく、可動部分が少ないマイクロ熱光発電(TPV)システムの開発を目指している。これまでに、半導体パッケージに用いられる積層セラミック技術を用いてマイクロ触媒燃焼器を試作し、流路幅300μm程度の燃焼チャンバ内で単位体積当たり数100MW/m^3 の高い燃焼密度を得ている。また、直径40μm程度のマイクロ超音速ノズルを用いたマイクロイジェクタの性能評価、および、光電セルのバンドギャップに合わせて赤外線放射スペクトルを制御するための波長制御デバイスの試作とその評価を進めている。 小型電池の代替技術として、我々の環境から、mWオーダーの微弱な電力を取り出す環境発電(Energy Harvesting)が注目されている。本研究では、移動体の振動、人体の運動、風のゆらぎなど、環境に存在する低周波数の振動から電力を取り出す、振動型マイクロ発電を目的とする。低周波数、低振幅の環境振動では、電磁誘導を用いた発電の効率は極めて低いため、フッ素系樹脂に電子を打ち込んで安定化させたエレクトレットを用いて、静電誘導型の発電器の開発を行っている。MEMSプロセスと整合性の高い高性能エレクトレット膜の開発、大振幅の振動を実現させるための柔軟なマイクロバネ構造の製作プロセスの確立、それらを組み合わせた振動型発電システムの構築を行い、現在までに、1mC/m^2以上の極めて高い表面電荷密度を実現し、発電予備実験により20Hzの振動から0.28mWの出力を得ている。 再生医療は極めて有効な治療法として期待されているが、胚性幹細胞の使用には倫理的な問題が残っている。本研究では、成人の血液にわずかに存在する間葉系幹細胞をマイクロ流路内で高速、高効率に分離するシステムの開発を目指している。そのため、MEMS技術を用いたSplit-and-Recombine型混合デバイス、磁気分離デバイス、表面反応を利用したクロマトグラフィ型分離デバイスの開発、および、顕微鏡下の熱流動の3次元デジタル画像計測手法、流路寸法と同オーダーの細胞を含む流れのシミュレーションコードの構築などを進めている。 近年、電子機器の冷却、光通信用スイッチ、医用計測センサ、マイクロ化学分析装置などへの応用を想定して、微小な断面積を有する流路内の熱流動現象が注目されている。本研究では、極めて細い伝熱管を用いることにより拡大伝熱面なしに伝熱性能を顕著に向上させる、細管群マイクロ二相流熱交換器の最適設計のため、過熱現象など特異な現象が生じる極細管内の沸騰熱伝達特性の解明、沸騰を伴うマイクロチャネル内の流動様式の可視化計測、MEMS技術により製作された温度センサ群による蒸発現象の解明、などの研究を進めている。また、マイクロ2相流物理の解明及び熱流動予測のための数値シミュレーション手法の開発、及び、遺伝的アルゴリズムを用いた熱交換器流路形状の最適化にも取り組んでいる。 |
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