当研究室は、1994年に名古屋大学マイクロシステム工学専攻の一講座として発足しました。情報機器、産業機器、医療、科学研究などに応用されるMEMS(マイクロマシン)の基盤技術であるマイクロ理工学の確立を目指します。微細構造の3次元加工技術、材料の計測評価技術、マイクロシステム技術に関する以下の研究を推進しています。 (1)シリコン、水晶などの結晶異方性エッチングの研究 (2)ミクロンサイズの材料の引張・曲げ・疲労試験 (3)MEMS(マイクロマシン)の加工プロセス、デバイス機能の解析 (4)マイクロセンサ・アクチュエータなど新規なデバイス・システムの研究 単結晶シリコンをアルカリ系の液でエッチングすると結晶方位によってエッチング速度が大きく異なります。この現象を利用して自動車用の各種センサー、インクジェットプリンタヘッドなどが作製されてきました。しかし、エッチング液のわずかな違いによって変化する異方性の変化とその原因は未解明のままでした。 本研究では、全方位についてエッチング速度を精密に測定する手段を開発して(図左)、エッチレートの異方性を明らかにするとともに(図中) 、これに及ぼす液種の効果、濃度、温度の効果を解明しました。さらに、異方性が変化するメカニズムを物理化学的に追求しています(図右)。 マイクロナノマシンの構造は、気相から成長させた薄膜など、従来のマクロな機械とは異なった方法で 作製された材料が使われています。材料組織・寸法効果で大きく変化する機械特性の評価が課題です。 本研究ではマイクロナノマシンで使われている微小な材料の機械的特性値を評価するオンチップ引張試験法 (図左)を開発するとともに、各種材料の機械的特性値を明らかにしています。 これまでに単結晶シリコン薄膜、0.1ミクロンの窒化膜(図中)などの試験片の評価を進めてきました。 最近、100℃の比較的低温領域で、シリコン単結晶薄膜の破壊靱性値が急速に増大する現象を 見いだしました(図右)。 結晶異方性エッチングを機械加工と複合して使うと、様々な3次元微細構造の加工に適用が拡大できます。エッチレートの異方性データベースの完成により、エッチング加工のシミュレータによる工程設計が可能になりました。図左は経皮ドラッグデリバリ用の無痛マイクロニードルの概念図と実際のチップです。ニードルアレイは針のピッチ間隔、針の高さがともに200ミクロンほどの高アスペクト比加工を要求されます。シミュレータによるエッチング加工形状の解析結果(図中)は、シリコンマイクロニードルの実現(図右)に寄与しました。 新概念のマイクロ化学分析システムを提案し開発しています。本デバイスでは磁気微粒子の表面をタンパク質で修飾し、この微粒子を、サンプル・試薬・洗浄液などの液滴に順次導入することで一連の化学分析プロセスを行います(図左)。バルブ・ポンプなどの流体機械を用いないので、システム全体の小型化・携帯化に適します。磁気微粒子の搬送・操作には外部磁場を加えます(図中)。磁気力と液滴の表面張力の釣り合い、微粒子の集合・分散など、マイクロ理工学の腕の見せ所です。すでにデバイス設計法を確立し、酵素反応が可能であることを確認しています(図右)。 触覚ディスプレイには、凹凸を表示するため、アレイ状に配置された多数の上下運動機構を配置する必要があります。静電アクチュエータは、サイズが小さく、高密度に配置できる反面、大きなストロークや大きな力を発生するのは不得手です。本研究では、変位・力の発生は単一の電磁モータで供給し、動きのオンオフを多数の独立駆動された静電クラッチで行うというシステムコンセプトを提案し、4x4の触覚ディスプレイを試作しました(図左)。3層のデバイス構造(図中)で、上下動する突起は第1層、静電クラッチは第2層、電磁モータは第3層です。静電クラッチのオンオフ動作が顕微鏡で観察されます(図右)。 |
||||||||||||||||||||||||||||