19.情報・知能・精密機器
19.1 コンピュータ・記憶装置・記憶メディア
2023年のパソコン(PC)総出荷台数は対2022年比13.9%の約2億5950万台と2年連続の減少となった.ただし,今後はPC買い替えサイクルの到来やAI半導体を搭載したパソコンに対する期待から需要が回復すると見込まれている.
2023年のHDD(磁気ディスク装置)総出荷台数は2022年比約-29%減の約1億2200万台と2年連続の激減であった.
全てのカテゴリで出荷台数は減少しており,記録容量でも約27.5%減の837EBに留まった.2023年のSSD(Solid State Drive)総出荷台数は対2022年から微減の3億8800万台であった.
記録容量ベースでは321EBで前年から微増ではあるが,出荷額は前年比-43%と大幅減と記録容量あたりの価格の低下が著しい.
2024年以降はHDD・SSDともにエンタープライズ用途の需要が回復し,記録容量で年率平均約30%,出荷額で年率平均約10%の成長が予想されている.
(統計はIDC社およびテクノ・システム・リサーチ社による)
〔江口 健彦 Western Digital〕
19.2 入出力装置
一般社団法人ビジネス機械・情報システム産業協会が集計,公表している「事務機械出荷実績」(1)によれば,2023年の主要出力機器の総出荷額(一般社団法人ビジネス機械・情報システム産業協会会員企業のみの集計)は,1兆5,123億円(対2022年91.4%)であった.内訳は,複写機・複合機が8,077億円(同96.5%),ページプリンタが4,204億円(同91.7%),ビジネス・大判インクジェット1,854億円(同65.6%),デジタル印刷988億円(同130.7%)となっている(図1).COVID-19の影響が緩和されたことで全領域で30%程度の成長を示した2022年に比較して,総額で8.6%の減少となった.その中で,ビジネスインクジェットの大きな減少と,一方でデジタル印刷の増加が注目される.
電子写真方式が主流となっているオフィス向けの出力機器では,2023年に国内主要メーカーより約30機種が新たに販売された(2).これら新機種では,低融点トナーの採用,回収トナー廃棄量削減,梱包プラスチック素材のゼロ化など,環境対応技術の導入が2022年と同様に精力的に行われている.また,デジタル印刷向けの電子写真機としては5機種が販売され,用紙対応性の向上,従来機1.7倍の高速化などの性能向上のほか,世界初となる接着機能を持つ圧着トナーの発売が注目された.
インクジェット方式の出力機器では,商業印刷,軟包装・ラベル・段ボールなどの包装印刷,テキスタイルといった領域を中心に約60機種が新たに市場導入された(2).商業印刷機やラベル機での高速化,軟包装・段ボール機での水性インク製品の投入などのトレンドが見られた.グラフィックスの領域では,2022年同様に13機種と多くの機種が発表・発売され,こちらもヘッド数増加による高速化の動向が注目された.また,クリアーインクの採用など付加価値提供が今後のキーになると見られる.リモートワークの増加により需要が増えているホーム向け機器では,大容量インクタンクモデルが増加しており,印字枚数増加,ランコスト抑制が訴求されている.
研究討論会や講演会に関しては,オンライン方式が定着した中で,対面会場を活用するハイブリッド開催が主流となった.日本画像学会が主催する年次大会では,画像出力技術に関して約40件の研究発表がなされた(3)(4).電子ペーパー・デバイス材料関連の報告が37%,インクジェット方式に関する報告が30%と多数を占めており,インクジェット関連報告の54%が,インク滴の吐出や,メディア上に着弾したインク滴の浸透や蒸発などの現象を解析する技術に関するものであった.電子写真方式に関しては,現像・転写サブシステムなどの解析に関する報告のほか,トナー製造工程での学習技術の活用に関する報告も見られた.今後のさらなる成長が見込まれるデジタル印刷領域を中心とする高性能化・高機能化を目指した,技術・製品開発の活性化を期待したい.
図19-2-1 主要出力機器の総出荷額の推移
(ビジネス・大判インクジェット機は2020年から集計を開始)
〔中山 信行 富士フイルムビジネスイノベーション(株)〕
19.3 ホームアプライアンス機器
一般社団法人 日本電機工業会の発表(1)によると,2023年度のルームエアコン,冷蔵庫,洗濯機などの白物家電の国内出荷額は,約2.5兆円,2022年度比97.6%と2年ぶりのマイナスとなったものの,直近10年平均(約2.4兆円)を上回り,高い水準を維持している.2022年度より低下した背景として,消費者の外出機会がコロナ禍以前の水準に戻ったことによって旅行・外食等のサービス消費へシフトしたこと,物価の高騰により消費者の節約志向が強まったことが影響している.一方で,製品単価の上昇が出荷金額を押し上げる形となり,直近10年平均を上回る水準を維持したと考えられる.
製品別の出荷数量では,ルームエアコンは2022年度の96.0%となり3年連続のマイナスとなった.2023年の夏は猛暑であったが,2022年度が高水準だったため,その反動を受けて2022年度を下回り,7年ぶりに900万台を下回った.冷蔵庫に関しても,物価高騰による買い控えや,買い替えサイクルの長期化などの影響で2022年度を下回る95.1%となった.一方,洗濯機では,乾燥性能を重視するユーザの増加に伴い,乾燥機能付きの洗濯機においてドラム式の構成比が増加しており,2023年度において約82.8%となっている(2).その背景を受けドラム式洗濯乾燥機の出荷台数は2022年度比101.9%とプラスとなり,年度として4年連続で過去最高の出荷台数を更新した.また,洗濯容量に関してもまとめ洗いのニーズを受けて,大容量タイプが好調となっているなどの需要の変化が見られる.しかし,それらの影響で製品単価が上昇したものの,出荷台数が2022年度比96.7%と減少した影響で,出荷額も98.6%と前年度を下回った(3).
2024年度は実質賃金の上昇や,政府の総合経済対策の効果による消費マインドの回復に加え,冷蔵庫や洗濯機の大容量帯の伸長,インバウンドの需要から,国内出荷金額は前年度を上回る予想となっている.数量においても前年度同等の水準を維持する見込みである(4).
〔黒澤 真理 日立製作所〕
19.4 医療・福祉機器
医療分野に関しては,触覚を有する手術支援ロボットSaroaの製造販売が承認され初症例が実施(1),眼科用の手術支援ロボットOQrimoの製造販売届が受理され初の臨床使用がなされる(2),hinotoriの日本とシンガポール間の遠隔操作実証実験が実施される(3)など,手術支援ロボットの機能や対象の拡張が進んでいる.IIP部門の医療・福祉機器分野においても,XR(クロスリアリティ)などバーチャル技術や深層学習,手術支援ロボットの自律化など先進的かつ実用的な研究が多く見られ,今後これらの実装が進んでいくことが期待される.
日本国内の状況として,医療分野でのDX(デジタルトランスフォーメーション)を通じたサービスの効率化・質の向上を実現することを目指して医療DX推進本部が設置され,今後の方針の中でデジタル技術の利活用による国民の健康増進や医療関係者の業務負担軽減が目標とされている(4).関連技術のなかで患者の健康情報を複数の医療機関で共有する電子カルテ情報共有システムでは,その仕様や運用について検討が進んでおり(5),入院から在宅まで切れ目のない医療を個々の患者の状態に応じて提供する未来が期待される.このような患者のQOL向上を目指す取り組みは本会との親和性が高く,これらの情報を活用した新しい技術展開が期待される.
福祉機器開発については応用対象の細分化が進み,本学会にとって引き続き高い関心が持たれている.障がいを持つ方々に対する機器開発をはじめ,運動機能だけでなく神経機能へのリハビリ支援,日常生活支援など,様々なシーンをターゲットとした研究開発が盛んに行われている.また,本年急速に普及した対話型AIを用いた研究など最新技術の利活用も活発になされている.過去の年鑑でも紹介されてきたウェルビーイングの考え方が引き続き重要視されており(6),医療・福祉機器に関わる人をおもいやる機器開発について今後も検討されていくと予想される.
〔森田 実 山口大学〕
19.5 柔軟媒体ハンドリング
柔軟媒体ハンドリング分野では紙やフィルムなど薄い媒体のハンドリング技術や周辺技術を取り扱い,学理的に多くのことがわかってきた(1).近年新たな製品展開への取り組みとして,プリンテッドエレクトロニクスや機能性フィルムなどの大量生産に向けた基礎や応用研究を行っている(2).
2023年に開催された日本機械学会講演会における報告事例は以下(A)(B)(C)に大別される.
(A)従来技術における現象の理論的解明や仮説の検証
(B)フィルム搬送における欠陥の可視化・条件最適化・対策へのアプローチ
(C)新規基礎研究や応用研究
上記(A)の例として,ベルト横ずれの理論的検討(3),光干渉断層計測法OCTを用いたゴムローラのニップ部内挙動可視化(4)が挙げられる.
(B)の例として,デジタル画像相関法を用いたフィルムのひずみ分布可視化(5),フィルムの加熱搬送時のしわ発生傾向(6),畳み込みニューラルネットワークを用いたしわ検出(7),フィルムの円周方向巻きずれ(8),マイクログルーブローラのスリップ抑制(9),シートフラッタの抑制対策(10)(11)(12)が挙げられる.
(C)の例として,大気中の細線描画研究(13),薄膜の粘弾性計測方法(14),微粒子回収デバイス開発など(15)(16)(17)(18)が挙げられる.
報告事例の動向としては,(B)のフィルム搬送における課題解決に向けたアプローチが最も多く(8件),中でもフィルムのしわにつながる歪みを非接触で検出する研究が今後注目される.(C)は「プリンタブル・ウェアラブルデバイスの基盤技術と応用に関する研究分科会(2)」の関係者が様々な分野から発表している.分科会趣旨のとおり,情報交換の場,異分野連携を促進する場となっており,2023年からは日本画像学会と連携する活動を開始した.
〔小林 祐子 (株)東芝〕
19.6 社会情報システム・セキュリティ
ネットワークセキュリティビジネスの国内市場は,2022年度6,551億円(前年度比7.1%増)と推計される(1).ゼロトラストへの対応を中心とした投資が活況であり,特にクラウド/Webアクセスが堅調に伸びている.一方,サイバー攻撃やサプライチェーン攻撃に対し,中堅,中小企業では人材/コスト面から対策が遅れ,課題となっている.ゼロトラスト関連市場は,SASE(Secure Access Service Edge)領域が好調である.背景に,テレワーク対応に加え,ネットワーク見直し,クラウド利用のセキュリティ強化の需要を獲得している.
国内のサイバー動向では,警察庁に報告のあった企業・団体等におけるランサムウェア被害は,2022年度の230件から2023年度は197件と微減であったが,2021年度に比べて高い水準で推移している(2).2023年7月には,名古屋港がサイバー攻撃の被害に見舞われた.港内に5つあるコンテナターミナルを一元的に管理する「名古屋港統一ターミナルシステム」を標的とされ,ランサムウェアに感染してサーバのデータが暗号化され,復旧までに3日を要した.船舶37隻の荷役スケジュールに最大24時間程度の遅延が発生し,最終的に約2万本のコンテナ搬出入に影響があったと推計した(3).
海外のサイバー動向では,ウクライナ侵攻からの1年間を総括した報告書が3月に公表された(4).侵攻が始まった2022年2月から3月を中心に,破壊的なサイバー攻撃(ワイパー等)の情報操作活動が活発化した.ウクライナ国内で攻撃を受けた業界は,政府機関,IT/通信,エネルギーである.ウクライナ国外で攻撃を受けた業界は,政府機関,IT/通信,シンクタンクである.10月には中東で,ハマスとイスラエルとが内戦状態に入った.ウクライナやイスラエル等の地政学的な近況が高まる中でGPS信号の錯乱が日常化している(5).11月には,中国のサイバー作戦能力が過去5年間で急速に進化していることが報告された(6).2024年1月の台湾総統選挙への中国のサイバー介入が懸念される.
政策動向では,経済安全保障推進法が段階的に施行されつつある(7).基幹インフラ役務の安定的な提供の確保に関して,10月には重要インフラ14分野の特定社会基盤事業者の指定基準に該当すると見込まれる計数百社が公表された.重要インフラの新たな分野に,名古屋港のインシデントの影響により,港湾を追加することが検討されている.また,政府が保有する安全保障上重要な情報として指定された情報にアクセスする必要がある者に対して,政府による調査を実施し,当該者の信頼性を確認した上でアクセスを認める制度である,セキュリティ・クリアランス制度の検討が進んでいる.2024年度の国会での法案成立が見込まれる.
〔甲斐 賢 (株)日立製作所〕
19.7 生体知覚・感覚機能の機械システム応用
これまでの機械システムの設計仕様では,力学的な出力性能・安全性やメンテナンス性など,機械性能に関わる要求が基本的な検討事項であった.近年では,機械システムの設計仕様にヒトと機械の関わりも含まれるようになり,ヒトの感覚特性やその感覚機能を利用した機械システムの開発が進めれている.この実現のために,個々の感覚単位や五感の感覚間相互作用についての調査が行われてきている.
味覚に注目すると,味を人工的に作り出すために,神経や受容器に適切な刺激を提示する研究が進められている.宮下等は,TTTV3という噴霧式味ディスプレイを開発している(1).TTTV3は,塩味,渋味,辛味,酸味,甘味,苦味,旨味を表現するために様々な物質を0.02ml単位で食品に噴霧できる機構を持ち,食材に物質を適量噴霧することで任意の味の再現を実現している.これにより,梅干しの味の再現や,ワインを異なる種類のワインの味に変化させることを実現できている.また,青山等は顎に陽極の電極,首後ろに陰極の電極を貼り付け,電流を印加することで口に含んだ食塩水の塩味を強化ができること,さらにスクラロースや果糖ぶどう糖液糖の甘味も強化できることを示している(2).
視覚に関しては,映像提示技術は非常に発展しており,その活用方法が注目されてきている.例えば,小石等は視野拡張という技術を開発し,視野拡張が人間の精神活動にどのような影響を及ぼしうるかを調査している.視野拡張とは人間の視野の範囲に含まれない視覚情報を視野内に提示する技術である.小石等の調査では,視野拡張によって歩行が日常より早く感じられ,躍動感・非日常感・解放感が感じられ,気分もポジティブに変化することも確認しており,メンタルドーピングのような効果を発揮する可能性が示唆されている(3).
触覚に関しては,対象と皮膚の接触による皮膚変形が重要な要因であることから,精密に皮膚変形を計測する技術や,アクチュエータで皮膚を刺激する技術など,要素技術の開発が行われている.佐藤等は指腹で硬さの異なる柔軟物体をなぞる際の力学現象を調査し,そのモデル化まで実現している(4).なぞり動作に応じた指先の接触部形状や接触力の物理現象が解明されることで,触覚ディスプレイ開発に大きく貢献することが期待される.皮膚に刺激を提示する装置として,真鍋等は反発し合う永久磁石を接着させて漏れ磁束を側面に集中させ,その範囲にコイルを設置することで大きなローレンツ力を生じさせ,低周波から高周波までの振動刺激を皮膚に提示する装置を開発している.この装置は,小型で軽量の上に,これまで難しかった皮膚への低周波の振動刺激提示や圧覚の提示を可能としており,指への様々なテクスチャ提示の実現が期待される(5).重さ提示の研究も進められており,小川等は,筋肉に与えた電気刺激が筋肉への負荷となることを利用して,指に電気刺激を与えることで物体を持ち上げた時の負荷を再現できることを示している(6).
皮膚と物体の境界で起きる物理現象を再現する方法以外に,錯覚や反射のような刺激に対して生起する身体反応を利用することも検討されている.中村等はハンガー反射を医療応用することを念頭に身体の様々な部位でハンガー反射を生起させる装置を開発している(7).ハンガー反射とは皮膚をせん断変形させると,引っ張られる方向に力を感じる現象であり,中村等の研究では手首関節や肘関節においてもハンガー反射が生起することを明らかにしている.大岡等は,新たな触り心地提示技術確立のために,ベルベットハンドイリュージョンという滑らかな感覚が生起する錯覚現象にサーマルグリッド錯覚という痛みが生起する錯覚を組み合わせて提示する方法を提案している(8).また,将来的に運動機能を回復のためのリハビリ技術確立のために,小村等は運動錯覚の研究を進めている.運動錯覚とは,経皮的腱振動刺激により筋肉が伸長する方向に身体が動いたと感じる錯覚である.これらの錯覚には個人差が存在し,安定的に生起させることが課題として存在する.小村等はHMDによる視覚刺激と運動錯覚の感覚間相互作用を利用して,安定的に生起させることに取り組んでいる(9).欠落した身体機能を他の神経回路への刺激などで迂回させることにより機能を形成させる新しい試みと思われる.
〔小村 啓 九州工業大学〕
19.8 サイバーフィジカルシステム(Cyber Physical System:CPS)
CPSとは,実世界(フィジカル空間)で収集したデータをサイバー空間でAI等のデジタル技術を用いて分析し,活用しやすい情報や知識に変換した上で,それを再度フィジカル空間にフィードバックすることで付加価値を創造する仕組みを総称した語である(1).IoT(Internet of Things)やセンサ技術の充実によって多様な現場からデータが収集できるようになったことを受けて,サイバー空間とフィジカル空間でデータを循環させて付加価値を生み出すCPS関連の取り組みが加速しており,既に多くの企業にとっての普遍的な業務活動そのものとなりつつある.このような社会的背景から,CPSという語の定義も徐々に曖昧になっており,その市場規模についても,JEITAが2017年に「2030年には世界で404.4兆円,日本国内だけでも19.7兆円に達する」との予測(2)を発表して以降,国内政府系機関や有力団体による主だった調査は行われていない.
日本機械学会もCPSやIoTの重要性に着目し,過去にその要素技術や応用先について多くの議論を行ってきた(3),(4).特に2020年度から2年間に亘って活動を行った日本機械学会横断テーマ「機械・インフラの保守・保全と信頼性強化」(5)では,一層複雑化する社会課題をCPSで解決していくため22に細分化された各部門の技術をどのように融合するかという,本学会の体制や活動のあり方そのものにも関わる真摯な議論が交わされた.こうした議論の一つの帰結として,日本機械学会では2023年度に新たに,横断的分野における萌芽的な技術の調査・研究,関連既存技術の高度化,体系化,および連携の推進体制構築を目的とした「分野連携分科会」制度が設立され,先の横断テーマの流れを汲む分科会がその適用例第1号として設置された.
情報・知能・精密機器部門においても,2023年の部門講演会において日本非破壊検査協会との連携オーガナイズドセッション「DX時代の非破壊センシングとデータ活用-NDE4.0の実現に向けて」を新設し,インフラ保全系のCPS関連講演数の更なる充実を図った.更に,2016年に開設したオーガナイズドセッション「IoTと情報・知能・精密機器」を,2024年からは生産システム部門のオーガナイズドセッション「スマートマニュファクチャリング」と統合し,両部門連携セッションと位置付けることで,部門講演会をコロケーション開催している生産システム部門との連携深化を図った.これにより,インフラ保全系CPSと生産システム系CPSという,CPSの中でも特に社会的影響が大きい両分野に関して一括で議論する場が形成されている.
一方,サイバー空間におけるデータ処理の根幹を為すAI技術の普及促進を目的として,情報・知能・精密機器部門では2017年からAI講習会を開催していたが,冒頭に述べたCPSの普遍化や,昨今の急速な生成AIの進歩を受けて2024年にプログラムを一新し,生成AIと機械AIの接点を探るパネルディスカッション形式の講演会に変更した(6).山本氏(日立製作所)や辻野氏(エーアイスピリッツ)らの講演からは,既に機械工学におけるAIの活用が極めて一般的になっていることが示唆された.一方で,森出氏(シンギュラーテクノロジーズ)からは益々複雑化するAI開発の課題についての講演があり,「AIは『部分ごとに試験する』『上手く行っていないところだけ直す』ができないため,一般的な工業製品の積み上げ式開発プロセスが通用しない」「AIが誤った出力をしない保証は不可能であり,世間で言われる『説明可能なAI』が現場で上手く行った話は聞いたことがない」「データは生成AIでいくらでも作成できるので,もはやデータを所有していること自体は競争力にならない」といった,従来の常識からの転換を促すような刺激的なメッセージが提示された.企業がCPSの競争力をどう担保していくかという観点で非常に重要な論点であり,今後も同講習会の場で議論を深耕していくことになる.
〔冨澤 泰 株式会社東芝〕