14.機素潤滑設計
14.1 機械設計
14.1.1 機械設計・運動機構
2023年度はCOVID-19が5類感染症に移行し,多くの学会が対面開催となった.2023年3月に韓国済州島にて開催されたICMDT2023(1)では,Machine Design/Machine Elementsの口頭発表セッションやポスター発表セッションがあり,歩行補助などの支援機器,ロボットマニピュレータや移動ロボット機構など多くの機械設計・運動機構に関連する発表があった.
2023年9月の日本機械学会年次大会は,東京都立大学において開催された.機素潤滑設計部門企画(機械設計技術企画委員会起案)の基調講演・先端技術フォーラムでは,全体のテーマを「3Dプリンタを使ったロボット・機構の新潮流」とし,基調講演では「AMがもたらす新しい『生き物っぽさ』-なめらかな動きのためのルーズな構造」,先端技術フォーラムでは「樹脂・金属3Dプリンターと活用領域のご紹介」,「3Dプリンタとモータコンポーネントを用いた実用的な多関節ロボットのラピッド開発」,「金属ワイヤを含む複合材料AMによるメカトロニックデバイスの一体製作」といった国内の大学・企業における3Dプリンタの応用に関する研究発表が行われた.
機械設計・運動機構に関連するオーガナイズドセッション「機械システムにおける機構の設計と要素技術」では,機構の力学解析(2,3)や機械振動系(4),パラレルロボット(5)などの機構の基礎的な研究に加えて,支援機器(6~8),可変車輪(9),歩行機構(10)などの具体的な機械・ロボットに組み込んだ機構設計に関する研究発表が行われた.
日本機械学会英文論文誌 JAMDSM (Journal of Advanced Mechanical Design, Systems, and Manufacturing)では,移動パラレルロボットの研究(11)やモータレス歩行アシスト装置(12)などが報告されている.
14.1.2 ヒューマン・マシン・インターフェース設計
2023年9月に日本機械学会,ライフサポート学会,日本生活支援工学会共催で,リハビリテーション,生活支援,生体計測,制御分野等に関連するおける技術研究開発に関連するLIFE2023が新潟工科大学において開催された.「医療福祉ロボット」のオーガナイズドセッションが設けられて,上肢・下肢のアシスト機器(13~16),歩容評価(17),血管内自走カテーテル(18)などの支援装置や医療機器に関する研究発表が行われた.
〔武居 直行 東京都立大学〕
14.2 機械要素
14.2.1 伝動
国内会議における研究発表は,本会の関連では,2023年度年次大会(2023年9月,東京)のOS「伝動装置の基礎と応用」にて11件の講演発表が行われた.国際会議に関しては,まず,9th International Conference on Manufacturing, Machine Design and Tribology(ICMDT 2023, KSMEとJSMEの合同開催,2023年3月,Jeju, Korea)が開催され,日本からはKeynote Speech 1件,口頭発表14件,ポスター発表4件があった.また,International Conference on Gears 2023(VDI,2023年9月,Munich, Germany)が開催され,日本からは4件の発表があった.
以下,歯車技術分野の主だった論文を列挙する.最初に歯車加工法について述べる.サイクロイド歯車研削盤の故障診断にBootstrap-Bayes法を適用した研究(1),歯車の創成加工時の誤差を製作後の形状誤差から推定するために形状偏差曲線から構成されたネットワークと加工条件の関係を調査した研究(2),ロボットアームでウォームギヤ歯面を研削するためGA法を用いてコンプライアンス制御および研削プロセスパラメータを設定した研究(3),調和減速機のフレクススプラインの加工においてホブを歯車の周方向にシフトさせ歯形修正を施す際に圧力角とかみ合い位置の変動をより少なくする歯形修正法の研究(4),鼓形ウォームギヤホブをフライス加工する際のホブブランクとカッタの回転速度比がすくい角に及ぼす影響を調査した研究(5)などが報告され,シミュレーションと実際の加工検証が行われた.
歯車装置の振動については,歯車減速装置の入出力軸から漏れる騒音を低減させるサイレンサを設計し数値計算による性能評価をした研究(6),平歯車ポンプの歯面修整の最適化により振動と騒音の低減を試みた研究(7)などが報告された.
歯車の設計に関してはまず,インボリュート歯面に二次曲線プロファイルを与え点接触する歯面を実現し高効率化を目指した研究(8)が報告された.サイクロイダル遊星歯車減速機のトルク伝達特性を調査した研究(9)では,図1に示すハイポトロコイド曲線溝をもつ円盤を出力とする減速機が設計された.この曲線溝にはまるピンを遊星歯車に設け,遊星歯車の運動を拘束することで減速を実現している.また,モジュールの4倍の歯丈をもち歯末側にピッチ線を定めたRAウォームギヤの切り下げ限界を計算した研究(10),円筒インボリュート歯車とかみあう可変ギヤ比の円筒歯車を試作しその設計手法を検証した研究(11),可変ギヤ比ラックに許容出力誤差を与えた計算歯面と理論歯面を比較して許容加工誤差を定めた研究(12),円筒はすば歯車とかみあうフェースギヤ歯面上のすべりベクトルを可視化した研究(13),フェースギヤの組み立て誤差および製造誤差の各因子がかみ合い伝達誤差に及ぼす影響を調査した研究(14),サイクロイド歯車の歯形を部分的に修正して伝達効率を向上させる最適設計の研究(15),フェースギヤとかみあう円すいウォームの円すい角を変化させてかみ合いを検証した研究(16)などが報告された.3K式遊星歯車機構の研究(17)では,電気自動車用に軽量化かつ高効率化を狙い,図2,3に示すような出力側のリングギヤまたはサンギヤを省いた機構が設計された.さらに,ハイポイドギヤを創成するカッタの諸元がかみあいに及ぼす影響を計算シミュレーションで検証した研究(18)が報告された.これまでに引き続いて食い違い軸間の伝動ギヤの研究が注目されている一方で,新しいアイディアに基づく歯車伝動機構の研究もみられた.
図14-2-1 サイクロイダル遊星歯車減速機
図14-2-2 リングギヤ2を省いた3K式遊星歯車機構
図14-2-3 サンギヤ2を省いた3K式遊星歯車機構
歯車の強度に関しては,遊星歯車支持軸に生じる動荷重および歯元応力を測定した研究(19)が報告された.この研究では,図4に示す動力循環式遊星歯車試験装置を用いた.2組の遊星歯車列を対向して配置し,太陽歯車および内歯車を各々連結して動力循環構造を構成している.駆動側に設けた載荷レバーを回転させることで載荷歯車が回転し,これと接続された遊星キャリヤが回転して駆動側の遊星歯車列に位相差を与え,軸系のねじりこわさに応じた荷重を発生させている.また,材料の異なる微小ねじ歯車について加速度耐久試験を実施し損傷形態と負荷特性を検討した研究(20),リングギヤの剛性を考慮した遊星歯車装置のかみ合い剛性を検討した研究(21)などが報告された.
図14-2-4 動力循環式遊星歯車試験装置
計測技術に関しては,組立後の伝動装置の振動測定結果から欠損している歯車を検知した研究(22),導電性インクを歯車に印刷したスマートギヤのアンテナの周波数特性を計測して歯車のき裂位置の関係を調査した研究(23)などが報告された.
プラスチック歯車に関しては,射出成形ポリアセタール平歯車にセルロースナノファイバを添加しその添加量が歯車の疲労損傷に及ぼす影響を調査する研究(24)が報告された.
そのほかとして,磁気駆動歯車装置として磁束変調型磁気変速機試作し運転試験によって特性を調査した研究(25),タンデム駆動の遊星歯車機構における変速のトルク変動を測定した研究(26)などが報告された.
〔大町竜哉 山形大学〕
14.2.2 ねじ,軸受,案内,シール
第9回機素潤滑設計生産国際会議(ICMDT2023)兼 第22回機素潤滑設計部門講演会では,ねじ関連の発表が1件,軸受関連の発表が1件あった.2023年度年次大会講演会では,締結ねじ関連の発表が5件,軸受関連の発表が2件あった.
a.ねじ
締結ねじに関する研究としては,トンネル施工のロックボルト穴の計測に関する研究(1),ねじ山の接触部へ入射した超音波の透過波からねじ山の接触剛性を評価する研究(2),タッピンねじのセルフタップ過程とゆるみの有限要素解析に関する研究(3),などがあった.
送りねじに関する研究としては,ボールねじの鋼球の運動解析に関する研究(4),などがあった.
b.軸受
すべり軸受に関する研究としては,すべり方向に撥水部と親水部を交互に配置した部分撥水スラスト軸受に関する研究(5),熱流体潤滑モデルを用いた油膜温度分布の解析に関する研究(6),などがあった.
c.案内
すべり案内に関する研究としては,潤滑油の特性が摩擦特性に及ぼす影響に関する研究(7),などがあった.
転がり案内に関する研究としては,熱変形が転がり案内に与える影響の解析に関する研究(8),などがあった.
〔岡田 学 長野工業高等専門学校〕
14.3 アクチュエータ
日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス部門が主催するロボティクス・メカトロニクス講演会2023(2023年6月28日~7月1日,名古屋国際会議場)において,全体として1467件の発表が行われた.OS「アクチュエータの機構と制御」,OS「ソフトロボット学/フレキシブルロボット学」,OS「触覚と力覚」,OS「ナノ・マイクロ流体システム」,OS「ウェアラブルロボティクス」などを中心に多岐にわたってアクチュエータ技術に関する研究発表が行われた.
日本機械学会2023年度年次大会(2023年9月3日~6日,東京都立大学南大沢キャンパス)では,機素潤滑設計部門とロボティクス・メカトロニクス部門のジョイントオーガナイズドセッション「次世代アクチュエータシステム」が企画された.本セッションでは6件の口頭発表と9件のポスター発表の計15件の講演が行われた.機能性流体,形状記憶合金,空気圧アクチュエータ,IPMCなどに関する研究成果が報告された.また,同大会において,同じく機素潤滑設計部門とロボティクス・メカトロニクス部門の共同企画の基調講演として岡山大学 脇元修一 准教授により,「組紐製造技術で実現する空気圧ソフトアクチュエータ」が行われた.従来のMcKibben型人工筋肉の細径化技術とその応用例としてアシストウエアやロボットアームへの適用について説明がなされた.同大会の特別行事企画である先端技術フォーラムでは「人工筋肉の開発最前線」が企画され4件の講演が行われた.高分子材料で製作された釣糸人工筋の制御とその応用,ポリイミドフィルムを用いた人工筋肉,水の電気分解/合成を利用した細径McKibben型人工筋肉といった様々な人工筋肉の技術について幅広い議論がなされた.
他の国内会議においても,ロボットやシステムなど様々な観点からアクチュエータに関する研究発表が行われている.第41回日本ロボット学会学術講演会(1)(2023年9月11日~14日,仙台国際センター)や,第24回計測自動制御学会システムインテグレーション部門講演会(2)(2023年12月14日~16日,朱鷺メッセ新潟コンベンションセンター)では,空気圧や形状記憶合金を利用したソフトアクチュエータ,バイオアクチュエータ,エラストマアクチュエータなどの研究発表が多く見られた.
〔谷口浩成 大阪工業大学〕
14.4 トライボロジー
2023年度に開催されたトライボロジーに関係する主要な国内会議は,日本機械学会が主催した年次大会(9月3日-6日 東京都立大学)(1)および日本トライボロジー学会が主催したトライボロジー会議 春 東京(5月29日-31日 国立オリンピック記念青少年総合センター)(2)であった.トライボロジー会議 春 東京では,総数約180件の講演が行われたが,通常セッションに加えて複数のシンポジウムセッションも開かれた.企画されたシンポジウムセッションは,「S1. “超”を目指す軸受技術の最前線」,「S2. 表面テクスチャによるトライボロジー特性制御の最近の成果と今後の展開」,「S3. 水素が関わるトライボロジーの諸現象」,「S4. 自動車用動力伝達系のトライボロジー」,「S5. 自動車用エンジン油最前線 -自動車の低燃費,カーボンニュートラルに向けた潤滑油の貢献-」の5件である.また特別講演として,東京工業大学 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所の長谷川晶一准教授よる「バーチャルリアリティにおける摩擦のリアリティの実現とメタバースへの応用の期待」および公正研究推進協会理事 兼 電気通信大学 三木哲也名誉教授による「事例に学ぶ研究不正の実情と対応」の2件の講演が行われた.近年の機械のDX化にちなむ興味深い話題が展開された.
また,国際会議として,日本トライボロジー学会主催の9th International Tribology Conference, Fukuoka 2023(ITC Fukuoka 2023)が開催された.合計で676件の発表(口頭,ポスター含む)が行われ,30ヶ国から1000人近い参加者が会議に訪れた.127つのオーラルセッションと3つのポスターセッションが開かれ,たくさんの発表と活発な討論が行われた.基礎から応用まで数多くの講演発表が行われたが,新しい摩擦材としてはソフトマテリアルやカーボンなどの2次元材料に関する研究発表が,総合的な機械システムとしてはやはり新エネルギー政策や自動車のEV化に対応し得る技術開発に関する研究発表の増加が目立った.
〔平山朋子 京都大学〕