10.動力
10.1 日本のエネルギー事情
2022年度は新型コロナウイルス感染症対策がさらに緩和し,経済・社会活動が引き続き戻りつつあったことで,実質国内総生産(GDP)は2021年度比+1.5%となった(経済社会総合研究所「国民経済計算」(1)).ただし,状況は業種ごとにまだら模様であった.感染対策緩和が特に追い風となったサービス業や,2022年度前半まで半導体・部品の供給障害が影響していたが年度後半に挽回生産を達成した自動車製造業を含む機械工業では,生産活動が拡大しGDP増をけん引した.一方,機械工業以外の多くの製造業では,生産活動は振るわなかった.エネルギーに大きな影響を及ぼす気温は,年度を通じて2021年度より高めの傾向であった.すなわち,夏季は冷房需要の押し上げに寄与し,エネルギー需要期である冬季には暖房・給湯需要を押し下げた.
日本が消費したエネルギー総量を表す一次エネルギー国内供給は,2021年度は反動増もあって4年ぶりに増加していたが,2022年度は2021年度比-2.3%と減少に戻った(資源エネルギー庁「総合エネルギー統計(速報)」(2))(図10-1-1).GDPは+1.5%と日本としては高めの成長であったにもかかわらずエネルギー消費が減少したのは,生産活動が復調したサービス業や機械工業は付加価値を1単位産み出すためのエネルギー消費量が相対的に少なく,一方,生産活動が停滞・低下した製造業は素材系業種(鉄鋼,化学,窯業・土石,紙・パルプ)をはじめとしてエネルギー多消費なためである.また,暖冬もエネルギー消費の減少に寄与した.
図10-1-1 実質GDPと一次エネルギー国内供給
一次エネルギー国内供給の8割以上を担う化石燃料(石炭,石油,天然ガス)は,2021年度比-1.9%で,2021年度には8年ぶりに増加していたがこちらも減少に戻った(図10-1-2).石炭では,ロシアのウクライナ侵攻にともなう国際的な供給網の再構築や産炭国での生産・輸送障害などで価格が暴騰したことなどで一般炭が減少した.製造時に石炭コークスや石炭を大量に用いる粗鋼が減産となったことで原料炭も減少し,石炭計では-1.9%であった.石油関係では,2021年度は回復が鈍かった乗用車利用が外出自粛の一段の緩和で戻りつつあったことで,ガソリン需要が押し上げられた.また一般炭,液化天然ガス(LNG)国際価格の急騰や2022年1月から始まった燃料油価格激変緩和補助金により,他のエネルギー源と比べた石油の経済性が高まったことで,一部で石油への代替需要が喚起された.しかし,自動車燃費の改善,石油以外のエネルギーへの代替といったすう勢的な要因による減少のほか,暖冬により暖房・給湯用消費が落ち込んだ.さらには,2021年度末から2022年度初にかけてのエチレンプラントの記録的な規模での定期修理とその後のエチレン誘導品需要の減退でエチレンが大幅な減産となり,主原料であるナフサの消費も大きく減少した.こうしたことから石油は-2.0%であった.天然ガスは,その主たる用途は発電用燃料(3分の2程度)と都市ガス用原料(3分の1程度)である.電力,都市ガスいずれの消費も製造業の生産活動の不振,暖冬,価格高騰により減少したことで,天然ガスの国内供給(都市ガス在庫変動を含む)は6年連続の減少となる-1.5%であった.
図10-1-2 一次エネルギー国内供給
非化石燃料では,水力が2021年度に降水量が多かった反動で,2021年度比-3.1%と2年ぶりに減少した.水力以外の再生可能エネルギーは,固定価格買取制度を追い風に太陽光を中心に引き続き伸張して+2.8%と,主要エネルギー源では唯一2021年度を上回った.原子力は,2022年度中に東日本大震災後の新たな再稼働発電プラントがなかったこと,既再稼働プラントがテロなどに備える特定重大事故等対処施設の工事や定期点検のため運転を停止した日数が長かったことから,-21.7%と大幅に減少した.この原子力の落ち込みが効いて,非化石燃料が一次エネルギー国内供給に占めるシェアは16.5%へと0.4%ポイント低下し,この10年で最大の落ち込み幅を記録した.
発電では,生産活動の縮小や暖冬などによる電力需要減のため,総発電量は2021年度比-2.5%と2年ぶりに前年割れした.化石燃料火力発電量では,LNG,石炭が燃料価格の高騰もありそれぞれ-4.4%,-3.0%であった(図10-1-3).これに対し,2022年12月まで発電用重油が燃料油価格激変緩和補助金の支給対象であったことなどから,石油等は+7.7%となり2年連続で増加した.化石燃料火力以外の発電量では,前記のとおり原子力が大幅に減少,太陽光が引き続き増加したほか,バイオマスが固定価格買取制度のもと+11.6%と4年連続の2桁増を記録した.二酸化炭素(CO2)を発電時に排出しないゼロ・エミッション電源の比率は,2021年度からわずかながらも上昇して27.3%と,東日本大震災後では最高となった.
図10-1-3 発電量
エネルギー起源のCO2排出は,2021年度には8年ぶりに増えていた.2022年度は化石燃料消費が減少したことで反転して2021年度比-2.9%の958Mtと,2014年度以降の減少傾向に回帰した.パリ協定基準年の2013年度と比べると-22.5%に相当するが,新型コロナウイルス禍によるエネルギー消費の落ち込みで2030年度に-45%という目標(国が決定する貢献[NDC])に接近している形である.
2023年は,新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけが5類感染症へと5月に変更され,経済・社会活動の正常化がさらに進み,実質GDPは2022年比+1.9%となった(経済社会総合研究所「国民経済計算」(3)).ただ,製造業では引き続き回復基調を示した自動車製造業は例外的で,生産活動は物価高や中国経済の不振などでおしなべて芳しくなかった.また暖冬影響もあり,一次エネルギー国内供給は日本エネルギー経済研究所によると-4.0%,エネルギー起源のCO2排出は-6.6%となった.
他の多くの先進国ではすでに終了している物価高対策のエネルギー消費補助金を日本はいまだ支給し続けており,気候変動対策政策との不整合性や市場メカニズムによる消費抑制効果の阻害を指摘される状況にある.そうしたなか,2024年10月には現行のエネルギー基本計画が閣議決定から3年を迎え,法律で定められたその評価開始期限が到来する.また,2025年3月までにパリ協定に基づく次期NDCを提出する必要もある.このため,2024年内には改定が行われる可能性が高いエネルギー基本計画がどのようなものになり,NDCがどう設定されるのか,関心が集まりつつある.
〔栁澤 明 (一財)日本エネルギー経済研究所〕
10.2 火力発電
10.2.1 日本の火力発電の動向
a.電気事業者の発電設備
2023年12月末現在の電気事業者の発電設備は合計2億6,538万kWで,その内訳は火力1億5,961万kW(構成比60.1%),原子力3,308万kW(12.5%),水力4,967万kW(18.7%)などである(表10-2-1).2023年中に完成した主な火力発電設備は7地点となっている(表10-2-2).
表10-2-1 電気事業者の発電設備(1)(出力単位:MW)
種別 |
2022年12月末 | 2023年12月末 | ||
出力 | 構成比 | 出力 | 構成比 | |
水力 | 49,612 | 18.4% | 49,673 | 18.7% |
火力 | 165,992 | 61.6% | 159,611 | 60.1% |
原子力 | 33,083 | 12.3% | 33,083 | 12.5% |
新エネルギー等 | 20,618 | 7.7% | 22,949 | 8.6% |
その他 | 60 | 0.02% | 60 | 0.02% |
合計 | 269,364 | 100.0% | 265,376 | 100.0% |
(注)数字は四捨五入であるため合計は必ずしも一致しない
表10-2-2 2023年中に完成した主な火力発電設備
発 電 所 名 | 事 業 者 名 | 出力(MW) | 燃 料 | 完成年月 |
神戸発電所4号 | コベルコパワー神戸第二 | 650 | 石 炭 | 2023/2 |
西条発電所1号 | 四国電力 | 500 | 石 炭 | 2023/6 |
姉崎火力発電所
新1号機 |
JERAパワー姉崎合同会社 | 650 | LNG*1 | 2023/2 |
姉崎火力発電所
新2号機 |
JERAパワー姉崎合同会社 | 650 | LNG*1 | 2023/4 |
姉崎火力発電所
新3号機 |
JERAパワー姉崎合同会社 | 650 | LNG*1 | 2023/8 |
横須賀火力発電所
新1号機 |
JERAパワー横須賀合同会社 | 650 | 石炭 | 2023/6 |
横須賀火力発電所
新2号機 |
JERAパワー横須賀合同会社 | 650 | 石炭 | 2023/12 |
※1:コンバインドサイクル発電
b.自家用発電設備
2023年9月末現在の自家用発電設備は合計2,842万kWで,その内訳は火力2,066万kW(構成比72.7%),水力39万kW(1.4%),新エネルギー等(風力・太陽光など)740万kW(25.9%)などであり,2022年度と比較して火力発電設備が減少,新エネルギー等の発電設備が増加していることが分かる(表10-2-3).
表10-2-3 自家用発電設備(1)(出力単位:MW)
種別 | 2022年9月末 | 2023年9月末 | ||
出力 | 構成比 | 出力 | 構成比 | |
水力 | 396 | 1.4% | 393 | 1.4% |
火力 | 21,269 | 74.0% | 20,657 | 72.7% |
原子力 | 0 | 0.0% | 0 | 0.0% |
新エネルギー等 | 7,067 | 24.6% | 7,366 | 25.9% |
合計 | 28,732 | 100.0% | 28,416 | 100.0% |
(注)数字は四捨五入であるため合計は必ずしも一致しない
c.計画中の主な火力発電設備
今後計画されている火力発電設備(環境アセスメント手続き実施中・実施済のものなど2023年末時点で公表されているもの)のうち,主なものは6地点,777万kWである(表10-2-4).
表10-2-4 計画中の主な火力発電設備(2023年末時点)
発 電 所 名 | 事 業 者 名 | 出力(MW) | 完成予定年月 |
五井火力発電所(更新) | 五井ユナイテッド ジェネレーション合同会社 |
780×3 | 2024/8,2024/11,2025/3 |
ひびき発電所 | ひびき発電合同会社 | 620 | 2025年度 |
姫路天然ガス発電所 | 姫路天然ガス発電 | 622.6×3 | 2026/1,2026/5,2029/10 |
知多火力発電所7,8号機 | JERA | 650×2 | 2027/8,2027/12 |
GENESIS 松島 | 電源開発 | 500 | 2028年度 |
石狩湾新港発電所2,3号 | 北海道電力 | 569.4×2 | 2034/12,2037/12 |
d.火力発電の新技術
LNGを燃料とする発電設備では,コンバインドサイクル発電においてさらなる高効率化が図られ,現在では,1,600℃級ガスタービンによる熱効率63%以上(低位発熱量基準)を達成する発電設備が運転を開始している.
近年では,カーボンニュートラルの実現に向けて,温室効果ガスの排出力削減に必要となるゼロ・エミッション化技術の開発や検証が進められており,燃料の水素・アンモニア専焼/転換技術やCO2の分離・回収・貯留技術(CCS Carbon dioxide Capture and Storage),回収したCO2の利用技術(CCUS:Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)等が上げられる.
この内,燃料の水素転換は2023年度より国内でも実証試験が実施されており,アンモニア転換に関しては,2024年度より大規模実証試験が計画されている.
〔大橋 憲二 (株)JERA〕
10.2.2 海外の火力発電の動向
国連エネルギー統計2021によると,2021年末における世界の火力発電設備容量は46.7億kWで前年比1.3%増,同年中の発電電力量は18.2兆kWhで前年比5.8%の増加を記録した.
2022年における米国の石炭火力発電電力量は8,315億kWh(発電シェア20%)となり,対前年比7%の減少を記録した.また,天然ガス火力発電電力量は1兆6,870億kWh(同40%)で,対前年比7%の増加となった.米国では,天然ガス価格の低位推移に加え,環境規制の影響もあり石炭火力の相対的な競争力が低下しており,国内の石炭火力による年間発電電力量は2015年以降,低下傾向を継続している.一方で,連邦大での税制優遇措置,各州のRPS制度,太陽光モジュールなどの価格低下に支えられる形で再生可能エネルギーの導入量が増えることに伴い,一部地域においては天然ガス火力についても事業環境が厳しくなりつつあり,近年の石炭火力の閉鎖に加えて,ガス火力建設計画から撤退する動きもみられる.
米国では,上記の経済性の観点に加え,脱炭素を志向する州政府や投資家の意向を受けて,多くの大手電気事業者が独自の温室効果ガス(GHG)の排出削減目標を設定し,これに伴い石炭火力の段階的廃止を図るようになってきている.米国エネルギー情報局は2023年10月時点で,2023年の石炭火力発電電力量は再び前年比22%程度の減少となる見通しを示している.一方,地域的には上記のような事業環境や,将来的には排出規制の議論もありながらも,天然ガス価格が低位推移していることや新設設備において高効率ガスタービン発電機が稼働することなどから,2023年の天然ガス火力の発電電力量は前年比7%程度の増大が予測されている.
2021年に発足したバイデン政権は,2035年までに電力セクターで,また,2050年までに社会全体で温室効果ガス(GHG)排出量を実質ゼロとする目標を掲げている.更に2022年に成立したインフレ抑制法のもとで長期予見性を伴った税制優遇措置など事業環境が整備されたことに伴い,太陽光を中心に再エネの更なる増加が見込まれている.これに伴い,天然ガス火力は調整力として中長期的に必要性が認識されており,脱炭素化政策との両立を図るため,水素発電や二酸化炭素回収(利用)貯留(CCS,CCUS)技術の開発に対する融資・支援や,税制優遇措置の拡充など,政策的な支援が試みられている.
欧州では2022年のロシアによるウクライナへの軍事侵攻以降,ロシアからのガス供給の減少などにより,エネルギー安全保障が強く意識されるようになった.加えて,熱波・渇水による水力発電量の低迷や,配管点検に伴うフランスの一連の原子炉停止などが重なり,暫定的に石炭火力の再活用がドイツなど一部地域でみられた.その結果,2022年におけるEU27カ国合計の石炭火力発電電力量は4,488億kWh(発電シェア16%)となり,前年比7.1%の増大を記録した.また,天然ガス火力発電電力量は5,409億kWh(同20%)で,前年比2.3%の減少となった.
ただし,中長期的な視点では脱炭素の流れは変わらず,欧州はLNGなどのエネルギー調達先の多様化やグリーン水素利用に向けた環境整備などクリーンエネルギーシフトを加速させている.エネルギー調達の多様化,省エネルギーの推進,再生可能エネルギー導入の加速の3つの柱を基に, 2022年に欧州委員会が打ち出した「REPowerEU」政策では,ロシアからの化石燃料依存脱却を目指し,EUにおける経済・社会の脱炭素化の更なる加速を進めている.同政策に基づき,欧州の多くの国でクリーンエネルギーシフトが加速しており,太陽光・風力などの再生可能エネルギー増加が進む長期的な方向性は変化しないと見られている.実際,2024年1月に環境エネルギー系のシンクタンクEmberが公表したデータによると,2023年のEUにおける石炭火力発電電力量は,前年比で26%程度減少した.
一方,電源構成の中で位置付けが相対的に低くなりつつある火力発電は,低炭素エネルギー経済への移行期間において,調整力としての役割が期待されており,米国と同様に脱炭素化政策との両立を図る形で活用されている.
〔山中 洋和 (一社)海外電力調査会〕
10.3 原子力発電
10.3.1 日本の原子力発電の動向
a.軽水炉
わが国の原子力発電は,2023年12月現在,改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)を含む沸騰水型軽水炉(BWR)が17基,加圧水型軽水炉(PWR)が16基の計33基が稼動し,このうち計12基が営業運転を再開している.2023年は,関西電力の高浜発電所1号機,2号機が営業運転を再開した.また,3基が建設中であり,6基が計画中である(1).
表10-3-1に,最近5年間の原子力発電所の基数,合計出力及び年平均の設備利用率の推移を示す.2023年は,廃止が決定した原子炉は無く,合計出力は2020年から変わらず3308万kWであった.また,年間の平均設備利用率は2022年から上昇して28.0%となった(2).他の原子炉の運転再開についても,各電力会社からの申請に基づき,新規制基準に基づく安全性審査が進められている.
表10-3-1 最近5年間の原子力発電の推移
項 目 | 2019 | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 |
基 数 | BWR 21
PWR 17 |
BWR 17
PWR 16 |
BWR 17
PWR 16 |
BWR 17
PWR 16 |
BWR 17
PWR 16 |
合計出力(万kW) | 3804 | 3308 | 3308 | 3308 | 3308 |
設備利用率(%) | 21.4 | 15.5 | 22.1 | 18.7 | 28.0 |
BWR : 沸騰水型軽水炉,PWR : 加圧水型軽水炉
b.新型炉
高温ガス炉は,(国研)日本原子力研究開発機構(原子力機構)のHTTR(高温工学試験研究炉)に新たに水素製造施設を接続し,高温ガス炉と水素製造施設の安全な接続技術を確立するためのHTTR-熱利用試験を着実に進めている.また,資源エネルギー庁の委託事業「高温ガス炉実証炉開発事業」において三菱重工が中核企業として選定(3)されるなど,実証炉建設に向けた取り組みも進められている.国際協力では,原子力機構と英国国立原子力研究所とのチームが英国の高温ガス炉実証炉プログラムの基本設計を行う事業者として採択され(4),原子力機構とポーランド国立原子力研究センターの間で安全設計に関する研究協力契約が締結される(5)など,日本の高温ガス炉の国際展開に向けた協力が着実に進められている.
国際熱核融合実験炉(ITER)計画では,日本が調達を担当した9機を含めITERに必要な全てのトロイダル磁場コイル19機が建設サイトに納入される(6)など,ITER建設が進展した.また,核融合エネルギーの早期実現を目指し,ITER計画の支援と核融合炉の原型炉の研究開発に取り組む活動(幅広いアプローチ(Broader Approach: BA)活動)を日欧共同で実施しており,(国研)量子科学技術研究開発機構では,先進超伝導トカマク装置(JT-60SA)の統合試験運転を進めている.統合試験運転は,2021年3月に発生した機器の不具合で中断していたが,2023年5月に再開し10月に初めてのトカマクプラズマの生成に成功した(7).
〔竹上 弘彰 (国研)日本原子力研究開発機構〕
2023年2月に閣議決定された「グリーントランスフォーメーション(GX)実現に向けた基本方針」では,第6次エネルギー基本計画(令和3年10月)を踏まえて原子力を活用していくため,新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・建設に取り組むことが示され,参考資料として高速炉実証炉の開発・建設に向けた目標時期が示された(8).
2023年7月には,高速炉開発の戦略ロードマップ(9)で示されたマイルストーンに従い2024年以降の高速炉実証炉の概念設計の対象となる炉概念としてナトリウム冷却タンク型高速炉が,中核企業として三菱重工業株式会社(以下「MHI」と称す)が選定された(10).
原子力機構では,同ロードマップで示された今後の開発計画に従い,高速炉実証炉の実現に向けた研究開発を,日仏・日米等の国際協力も活用して進めている.燃料技術に関しては,高速炉の金属燃料技術の具体的な検討に資するため,一般財団法人電力中央研究所,MHI,三菱FBRシステムズ株式会社,米国アルゴンヌ国立研究所との共同研究契約に合意した(11).また,高速中性子照射場や医療用RI製造実証のための利活用が期待されている高速実験炉「常陽」は2023年7月に運転再開に向けた新規制基準への適合性審査に合格し(12),2026年度の半ばの運転再開をめざし安全対策強化に係る工事に着工するとともに医療用RI製造のための原子炉設置変更許可申請(13)を行った.
〔大高 雅彦 (国研)日本原子力研究開発機構〕
c.核燃料サイクル
日本原燃(株)の六ヶ所再処理工場は,新規制基準への適合性確認に関する事業変更許可を2020年7月に取得し,現在設計及び工事の計画の変更認可申請に対する審査中である.再処理施設の竣工時期は,2022年12月に「2022年度上期」から「2024年度上期のできるだけ早期」に変更された.MOX燃料工場は,新規制基準への適合性確認に関する事業変更許可を2020年12月に取得し,現在設計及び工事の計画の変更認可申請に対する審査中であり,「2024年度上期」の竣工に向けて建設工事を進めている.ウラン濃縮工場は新型遠心機を導入し,2012年3月に生産運転を開始した.また,新規制基準への適合性確認のための事業変更許可を2017年5月,設計及び工事の計画の認可を2022年2月に取得,新規制基準への適合に係る使用前確認証等を2023年8月に受領し,同月に生産運転を再開した.新型遠心機については順次生産能力を拡大していく予定である.
(国研)日本原子力研究開発機構の東海再処理施設では,2018年6月に廃止措置計画の認可を受け,廃止措置段階に移行した.当面,保有する放射性廃棄物に伴うリスクの低減を最優先課題として高放射性廃液のガラス固化処理に取り組んでいる.現在ガラス固化を最短で進めるため,新型の3号溶融炉への更新を前倒しし2026年度の熱上げ開始を目指し準備を進めている.また,2020年8月より新規制基準を踏まえた地震,津波対策などの安全対策工事を実施している.
高レベル放射性物質研究施設では,再処理技術開発としてMOX燃料の硝酸溶解挙動に係るデータの取得やMA分離の技術開発等を実施している.
プルトニウム燃料技術開発施設では,MOX燃料に関する研究開発,核燃料施設の廃止措置及びプルトニウム系廃棄物の処理に関する技術開発等を実施するとともに,日本原燃(株)への技術協力を行っている.
〔鈴木 豊 (国研)日本原子力研究開発機構〕
10.3.2 世界の原子力発電開発の動向
2024年1月1日現在,世界で稼働中の原子力発電炉は合計433基,4億1,244万kWで,前年と比較して2基,316.6万kW増加した(出力変更した炉を含む合計値の比較).中国で2基,ベラルーシ,フィンランド,インド,アラブ首長国連邦(UAE),米国で各1基,合計7基,766.3万kWが営業運転を開始した一方,ベルギー,ドイツ,台湾で計5基,638.0万kWが閉鎖されている.
米国では,米国初のAP1000のアルビン・W・ボーグル3号機(125.0万kW)が7月に営業運転を開始した.米国で35年ぶりの2013年に着工された.中国では防城港3号機(118.8万kW)が3月に営業運転を開始した.防城港3号機は,第3世代のPWR設計であるCGN版「華龍一号」の初号機である.さらに,中国が独自に開発した高温ガス炉のSMRである華能山東石島湾(HTR-PM,21.1万kW)が12月に営業運転を開始した.ベラルーシではベラルシアン2号機(VVER-1200,119.4万kW)が11月に営業運転を開始,インドでは初のインド国産の70万kW級PHWRであるカクラパー3号機が6月に営業運転を開始,UAEではバラカ3号機(韓国製APR1400,140.0万kW)が2月に営業運転を開始した.フィンランドでは,2005年の着工以来完成まで約18年近くの長期間を要した欧州初のEPRであるオルキルオト3号機(172.0万kW)が5月に営業運転を開始した.
2023年中,8基,751.6万kWの原子力発電所が着工し,世界で建設中の基数は合計73基,7,464.1万kWとなった.2023年に新たに着工したのは,中国,エジプト,ロシアの3カ国で合計8基となっている.うち,中国では,米国ウェスチングハウス(WE)社製AP1000をベースとする中国版の標準設計であるCAP1000を採用した海陽4号機,廉江1号機,徐大堡1号機(各125.3万kW),三門4号機(125.1万kW)が着工したほか,華龍一号を採用する陸豊6号機(120.0万kW)も着工した.エジプトでは昨年に続き,エルダバ3号機(VVER-1200,120.0万kW)が着工した.また,ロシアのチュクチ自治管区ナグリョウィニン岬で係留される浮揚型原子力発電所3,4号機(RITM-200C,各5.3万kW)が着工した.
中国では6基が計画入りした.いずれも華龍一号を採用した金七門1,2号機(各120.0万kW),石島湾1,2号機,太平嶺3,4号機(各115.0万kW)である.フランスでは最初のEPR2となるパンリー3,4号機(各165.0万kW),ブルガリアでは米WE社製AP1000を導入するコズロドイ8号機(125.0万kW),カザフスタンではカザフスタン1,2号機(PWR,最大140.0万kW級×2基),ウクライナではフメルニツキー5,6号機(AP1000,各125.0万kW×2基)が計画入りした.韓国では,前政権が2017年に新ハヌル3,4号機(APR1400×2基)計画を白紙撤回したが,新政権が同3,4号機計画を復活させたことにより,今回再び計画入りとなった.計画中は前年比3基増の計89基となった.
〔桜井 久子 (一社)日本原子力産業協会〕
10.4 新エネルギー技術
10.4.1 燃料電池
(一財)コージェネレーション・エネルギー高度利用センター(コージェネ財団)によると,家庭用燃料電池(エネファーム)の2023年度の販売台数は3.9万台であり,2020度の4.8万台,2021年度の4.0万台,2022年度の4.7万台とこれまでの4万台レベルと同程度であった.固体酸化物形では,マイクロガスタービンと組み合わせた加圧ハイブリッド型250kW級システムが2017年度に市場投入された.りん酸形も百kW級定置用システムが内外で着実に導入されている.これら燃料電池は都市ガスを主に燃料とするが,水素を燃料とする燃料電池システムとして,東芝エネルギーシステムズが100kWを2017年から,パナソニックが5kWを2021年から,トヨタエナジーソリューションが50kWを2022年から供給している.一方,燃料電池自動車に関しては,2015年にトヨタMIRAIの販売が,2016年にホンダCLARITYのリースが開始され,2020年には新型MIRAIが販売された.燃料電池自動車の普及目標として2020年までに4万台程度,2025年までに20万台程度,2030年までに80万台程度の普及が掲げられている.また,水素ステーションに関しては,トヨタやENEOSなど11社が日本水素ステーションネットワークを2018年2月に設立し,水素ステーション普及を推進している.水素ステーションの普及目標は 2025年度までに320カ所程度,2030年度までに1000カ所程度であり,2023年度の設置数は164カ所と2020年度の162カ所,2021年度の168カ所,2022年度の163カ所と比較して横ばい状態である.
〔麦倉良啓 (一財)電力中央研究所〕
10.4.2 太陽電池
(一社)太陽光発電協会(JPEA)によると(1),2022年度の日本における太陽電池モジュールの総出荷量は約5,106MW(2021年度比99%)であった.総出荷量は2014年(9,872MW)をピークに以降は減少傾向にあり,2017年度(5,670MW)を底に2018年(5,914MW),2019年(6,430MW)といったんの増加傾向が見られたが,2020年度(5,312MW),2021年度(5,134MW),2022年度と僅かながら連続で前年比減少となった.太陽電池モジュールの総出荷量のうち,国内向け出荷量は5,085MW(2020年度比 横ばい)で総出荷量の99%以上を占め,ほとんどが国内出荷となった.用途別(国内)では2022年より4月~翌年3月の年度ではなく暦年での集計となるが,住宅用が1,207MW(2020年度比120%)と前年に引き続き増加しており,非住宅用が3,817MW(2020年度比93%)と減少であり,住宅用へのシフトが続いている.非住宅では固定価格買取制度において50kW以上で入札制度対象外の20年間の調達価格は2021年度 11円/kWh,2022年度 10円/kWh,2023年度 9.5円/kWhと引き下げが続いているが,2023年10月から新たに屋根設置 12円/kWhが設定され,より電力需要に近く地域受容性の高い建物屋根設置への優遇が始まった.一方,住宅用となる10kW未満の10年間の買取り価格は,2021年度 19円/kWh,2022年度 17円/kWh,2023年度 16円/kWhと値下げが続くものの50kW以上と比べると相対的に高い価格となっている.
技術動向としては,「2050年カーボンニュートラル」に向けた技術開発となる「グリーンイノベーション基金」が実施され,太陽電池分野ではペロブスカイト太陽電池を中心に技術開発が活発化している(2)が,世界的には単結晶シリコン型が依然主流であり,p型単結晶シリコンを用いたPERC型が約8割を占めており,今後はn型単結晶シリコンを用いたTOPCon型による更なる高効率化の進展(3)が見込まれている.
〔植田 譲 東京理科大学〕
10.4.3 バイオマス・廃棄物発電
環境省環境再生・資源循環局廃棄物適正処理推進課資料「一般廃棄物処理事業実態調査の結果(令和4年度)について」(1)によると,2022年度の国内ごみ排出量は4,034万t(2021年度4,095万tに対して1.5%減)で,2012年度以降減少傾向が続いている.直接焼却量は3,114万t(直接焼却率は80.1%)で,2011年度以降微減傾向である.ごみ焼却施設数は1,016施設で,このうち発電設備を有する施設数は404で,全ごみ焼却施設の39.8%を占め,発電能力合計は2,208MW,平均発電効率は14.27%で,高効率化傾向が続いている.特に最近は,処理量100t/日/炉以下の比較的小規模な施設でも高温高圧ボイラを採用した高効率発電(蒸気条件:4MPa×400℃~6MPa×450℃級)が導入されてきているとともに,2021年4月22日の第45回地球温暖化対策推進本部での野心的な削減目標に端を発し,CCUS(二酸化炭素回収・有効利用・貯留)を前提とした廃棄物処理システム・施設のあり方の検討が進みつつある(2).2024年6月に閣議決定予定の「第五次循環型社会形成推進基本計画」の中に循環経済への移行をカーボンニュートラルの実現や生物多様性の保全と併せて,産業競争力強化,地方創生,経済安全保障への貢献も盛り込む方向で検討されている(3).
2011年7月に施行された「再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT:Feed in Tariff)」は,2017年4月に改正されたが,この制度によりバイオマス発電の導入が行われており,2023年9月末の時点で認定量は838万kWとなっている(4).2020年6月に導入が決まった「FIP制度(Feed in Premium)」が2022年4月からスタートし,FIT制度のように固定価格で買い取るのではなく,再エネ発電事業者が卸市場などで売電したとき,その売電価格に対して一定のプレミアム(補助額)を上乗せすることで再エネ導入を促進するような取り組みも始まり(5),2023年度から,一般木質バイオマス発電の区分は2,000kW~1万kWの規模ではFIPのみとなり,2024年度からは50kW以上の規模でFIPが選択可能となる.2022年以降のウクライナ危機や円安の影響で,エネルギー価格が高騰した.その前のウッドショック(コロナ禍の影響によって木材の価格が高騰している状態)の影響などもあり,バイオマス燃料の価格も高騰している.2022-2023年にかけて稼働した主な木質バイオマス発電所等の特長としては,2000kW以下の小規模と輸入バイオマスを主な燃料とする大規模発電にほぼ二分され,小規模では,当初から熱利用が計画される事例が増えている(6).
〔田熊昌夫 重環オペレーション株式会社〕
10.4.4 水素利用技術
エネルギー基本計画において「水素は,電化が難しい熱利用の脱炭素化,電源のゼロ・エミッション化,運輸,産業部門の脱炭素化,合成燃料や合成メタンの製造,再生可能エネルギーの効率的な活用など多様な貢献が期待できるため,その役割は今後一層期待される」とされており,2030年度の一次エネルギー供給および電源構成の1%程度を「水素・アンモニア」で賄うことが公表されている(1-3).水素社会の実現に向け,日本政府は2017年に世界で初めてとなる水素の国家戦略「水素基本戦略」を策定したが,国内外の情勢変化を踏まえてその見直しを実施し,新たに「水素産業戦略」と「水素保安戦略」を重要な柱として盛り込んだ新しい「水素基本戦略」を2023年6月に公表した(4).
国内の燃料電池自動車の保有台数は2023年3月末現在で7,310台(5),運用中の水素ステーションは2024年4月末現在で152箇所となった(6).乗用車に加え,大型トラックや鉄道,船舶,建設機械,農業用機械,産業用機械などの大型・商用モビリティ(HDV)での水素利用の検討が進められており,NEDOは,2023年2月に「FCV・HDV用燃料電池技術開発ロードマップ」を発表した(2024年3月に改訂版を公表)(7).水素エンジン車の開発も進められており,2023年5月に水素小型エンジンの開発と普及を目指した技術研究組合が設立された(8).
大規模な水素利用技術として,水素運搬船を含む水素輸送設備の大型化や水素発電(混焼,専焼)の実機実証(9),製鉄プロセスにおける水素利用(10),水素燃料船の開発(11),水素航空機に向けた技術開発(12),再エネ由来電力を活用した水電解による水素製造技術開発(13),水素とCO2からの合成燃料の開発(14),製造分野における熱プロセスの脱炭素化のための水素利用技術の開発(15)等が進められている.
これらの個別の用途での水素利用技術の開発に加え,コンビナートや港湾などの特定地域において大規模に水素を利用する統合的な水素利活用モデルの検討が国内外で進められており,国内においても国交省によるカーボンニュートラルポート形成に向けた取り組み(16)等が進められている.
〔飯田 重樹 (一財)エネルギー総合工学研究所〕
10.4.5 風力発電
2023年末時点で風力発電は,世界の年間電力供給量の10%(英国を含む欧州では20%)を占めており,再生可能エネルギーの中では大型水力発電に次ぐ地位を占めている.
世界全体の風力発電の累積導入量は,2023年末で10億2,100万kWと2022年末の9億600万kWから13%増加した.これは日本の原子力・火力を含む発電設備の合計3億kWの3倍以上である.2023年の新規導入は11,660万kW/年で2022年の7,758万W/年から150%増加した(表10-4-1,図10-4-1)(1),(2).
洋上風力発電(主に着床式)の累計は2023年末で7,516万kWと2022年末の6,4320万kWから17%増加した. 新規導入は1,085万kW/年で,2022年の877万kW/年から24%増となった(表10-4-2).洋上風力発電が全体に占める比率は累積で7%(2022年も7%),新規で9%(同11%)である. 建設単価は,陸上で約30万円/kW,洋上で約50万円/kWなので,世界全体の建設費は夫々,約32兆円/年,約5.4兆円/年に相当する.部品製造,運転保守等の波及効果を含めると更にその2~3倍の経済効果がある.
浮体式洋上風力発電は,2023年末時点で運転中のものは世界6か国の13サイトで189.9MW・33基とまだ少ないが,4つの準商用案件(基数は3~11基,総出力は25.2~94.6kW,形式はスパー型とセミサブ型が各2件)を含む(表10-4-4).欧州,スペイン,米国西海岸,韓国等で百万kW級の入札が実施されており,2025年頃から商用化して運転を開始する見込みである.
表10-4-1 世界の風力発電の導入状況(陸上と洋上の合計)(1),(2)
2022年 | 2023年 | ||||
新規導入 | 年末累計 | 新規導入 | 年末累計 | 年成長率 | |
世 界 | 77.6 GW | 906 GW | 116.6 GW | 1021 GW | 13 % |
EU(含む英国) | 19.2 GW | 255 GW | 18.3 GW | 272 GW | 7 % |
中 国 | 37.6 GW ① | 365 GW ① | 75.7 GW ① | 441 GW ① | 21 % |
米 国 | 8.6 GW ② | 144 GW ② | 6.4 GW ② | 150 GW ② | 4 % |
ドイツ | 2.7 GW ④ | 66.1 GW ③ | 3.8 GW ④ | 69.5 GW ③ | 5 % |
インド | 1.8 GW ⑧ | 41.9 GW ④ | 2.8 GW ⑤ | 44.7 GW ④ | 7 % |
スペイン | 1.7 GW ➉ | 29.8 GW ⑤ | 0.8 GW | 30.6 GW ⑤ | 3 % |
ブラジル | 4.1 GW ③ | 25.6 GW ⑦ | 4.8 GW ③ | 30.4 GW ⑥ | 19 % |
英 国 | 1.7 GW ⑨ | 28.5 GW ⑥ | 1.4 GW ➉ | 29.6 GW ⑦ | 4 % |
フランス | 2.1 GW ⑦ | 21.1 GW ⑧ | 1.8 GW ⑧ | 22.8 GW ⑧ | 8 % |
カナダ | 1.0 GW | 15.3 GW ⑨ | 1.7 GW ⑨ | 17.0 GW ⑨ | 11 % |
スウェーデン | 2.4 GW ⑤ | 14.6 GW ➉ | 2.0 GW ⑥ | 16.4 GW ➉ | 12 % |
日 本 | 0.2 GW | 4.8 GW | 0.5 GW | 5.2 GW | 12 % |
注:○は世界順位(10位以内)を示す. 出典:GWEC Global Wind Report 2024他
単位は1GW=千MW=百万kW
表10-4-2 世界の洋上風力発電の導入状況(1),(2)
2022年 | 2023年 | ||||
新規導入 | 年末累計 | 新規導入 | 年末累計 | 年成長率 | |
世 界 | 8.8 GW | 64.3 GW | 10.9 GW | 75.2 GW | 17 % |
EU(含む英国) | 2.5 GW | 30.3 GW | 3.8 GW | 34.0 GW | 12 % |
中 国 | 5.1 GW ① | 31.4 GW ① | 6.3 GW ① | 37.8 GW ① | 20 % |
英 国 | 1.2 GW ② | 13.9 GW ② | 0.8 GW ③ | 14.8 GW ② | 6 % |
ドイツ | 0.3 GW ⑥ | 8.1 GW ③ | 0.3 GW ⑦ | 8.3 GW ③ | 3 % |
オランダ | 0.4 GW ⑤ | 2.8 GW ④ | 1.9 GW ② | 4.8 GW ④ | 1.7倍 |
デンマーク | 0.0 GW | 2.3 GW ⑤ | 0.3 GW ⑥ | 2.7 GW ⑤ | 15 % |
ベルギー | 0.0 GW | 2.3 GW ⑥ | 0.0 GW | 2.3 GW ⑥ | 0 % |
台 湾 | 1.2 GW ③ | 1.4 GW | 0.7 GW ④ | 2.1 GW ⑦ | 1.5倍 |
ベトナム | 0.0 GW | 0.9 GW | 0.0 GW | 0.9 GW ⑧ | 0 % |
フランス | 0.5 GW | 0.5 GW | 0.4 GW ⑤ | 0.8 GW ⑨ | 1.7倍 |
韓 国 | 0.0 GW | 0.1 GW | 0.0 GW | 0.1 GW | 0 % |
日 本 | 0.1 GW | 0.1 GW | 0.1 GW | 0.2 GW | 1.4倍 |
図10-4-1 世界と日本の風力発電の新規導入量(単位はGW/年)(1),(3)
欧州は北海に遠距離直流送電(HVDC)用の人工島(Energy Island)を建設して,四方に海底送電線を張って数億kWの洋上風力発電を連系する計画を進めている.最近は水電解装置も併設して,洋上風力の余剰電力で水素を製造して,既存の天然ガス海底パイプラインで陸まで送って化学工業で利用する事も産業規模で始まっている.国別では,陸上・洋上,設置・機器製造のほぼ全領域で中国が50~60%のシェアを獲得して,先行していた欧米の風車産業を脅かしつつある.
日本の風力発電の累積導入量は,2023年末で521万kW(2022年末から10%増),新規導入量は48.7万kW/年(2022年の2.4倍)と急増しているが(4),まだ世界全体の約1/200に過ぎない(図10-4-1).年間電力供給に占める比率も1%と小さい.しかし2020年10月に,菅義偉首相が所信表明演説でカーボンニュートラルを宣言して(4)風向きが変わった.日本政府は再生可能エネルギーが電力供給に占めるシェアを,2018年の18%から2050年に50~60%に引き上げることを決定し,その開発支援のために10年間で2兆円の基金を用意した.
中でも洋上風力発電は最重要テーマとされた.経済産業省と国土交通省の大臣と国内関連企業社長団が一堂に会した洋上風力発電推進のための官民協議会が開催され(5),その第2回では2030年までに1,000万kW,2040年までに3,000万~4,500万kWという野心的な導入目標が発表された(洋上風力産業ビジョン(6)).2022年12月の秋田県能代港を始め,近海域で次々と商用洋上風力発電所が運転を始めている(表10-4-3).より遠洋の領海内の一般海域でも,2022年から2~4案件(1~2GW)/年のペースで洋上風力発電の入札が始まった.8案件(約3.4GW)の開発事業者が決まり,さらに2案件(約1GW)が入札中である(表4).落札価格は2022年のRound1で11.99~16.26円/kWhと安価だが,これは13MW級の超巨大風車(GE VerdonaのHaliade-X)を使ったGW規模開発というスケールメリット(規模の経済)の効果による.なお,以上は主に水深50m以下の浅海域での着床式(タワーの下の基礎が海底に付いている)だが,より深い領海外の排他的経済水域(EEZ)での洋上風力開発(主に浮体式)のための新法が2024年中に成立する見込みである.
表10-4-3 最近運転を始めた日本の洋上風力発電所
運転開始 | 名 前 | 場 所 | 開発者 | 機器の仕様と規模 |
2022年
12月 |
能代港
洋上風力発電所 |
秋田県 | 丸紅 | デンマークVestas社 の4.2MW風車×20基
=84MW,モノパイル基礎 |
2023年
1月 |
秋田港
洋上風力発電所 |
秋田県 | 丸紅 | デンマークVestas社の 4.2MW風車×13基
=54.6MW,モノパイル基礎 |
2023年
9月 |
入善
洋上風力発電所 |
富山県 | ウェンティ
ジャパン |
中国Mingyang 社の3MW風車×3基,7.5MW
(サイト出力を制限),モノパイル基礎 |
2024年
1月 |
石狩新港
洋上風力発電所 |
北海道 | GPI | スペインSiemensGamesa社の8MW風車×14基,
約100MW(サイト出力を制限),ジャケット基礎 |
規模の経済の享受に向けて風車の大形化が急速に進んでいる.これは洋上・陸上を問わず,さらに従来は低出力の風車が主だった中国も変わらない(図10-4-2).日本においても定格出力3000kW以下の風車の新規購入は2024年時点でもう困難になっており,老朽風車の建替更新でも4200kW風車がわれている.洋上風車でも石狩新港の8000kW以降は10~15MW級の利用が見込まれている.欧米メーカは2024年時点で8~14MWの洋上風車を供給中,次機種は15MW超級を開発している.中国は18~22MW級風車の初号機生産を始めており,大形化競争の落着先はまだ見えていない(1).
図10-4-2 新規設置風車の大形化
浮体式洋上風力発電(図10-4-3)は,既に実証段階を終えて,準商用段階(表10-4-4)に進んでいる.ノルウェーの認証機関DNVは2023年5月時点で,セミサブ型をTRL(Technology Readiness Level)9,スパー型をTRL8,と評価しており(7),産業界から「融資&保険に適格」と認識されている.さらに最近はコスト削減に向けて,複数の新しいタイプで実機規模の実証試験が始まっている(図10-4-3の下段).特に海上油田の技術を転用したTLP式(Tension Leg Platform,浮体を小形化できる)が2023~24年にフランスのマルセイユ沖に設置され(図10-4-4)(8),その成否が注目されている.日本では戸田建設が2013年から長崎県五島列島福江島沖で,スパー型浮体にダウンウィンド式の2MW風車を搭載して運転しており,さらにその隣接海域に2026年1月までに2.1MW風車を8基,増設する工事を進めている(9).
表10-4-4 準商用段階の世界の浮体式洋上風力発電所
運転開始 | 浮体形式 | 名 前 | 場 所 | 開発者 | 風車とサイト出力 |
2017年 | スパー型 | Hywind Scotland | 英国
Scotland |
Equinor
(ノルウェー) |
Siemens Gamesa社の
6MW風車×5基=30MW |
2020年 | セミサブ型 | WindFloat Atlantic | ポルトガル | Principle Power
(米国) |
Vestas社の
8.4MW×3基=25.2MW |
2021年 | セミサブ型 | Kincardine | 英国
Scotland |
Pilot Offshore Renewables(英国) | Vestas社の
9.5MW×5基=47.5MW |
2023年 | スパー型 | Hywind Tampen | ノルウェー | Equinor
(ノルウェー) |
Siemens Gamesa社の
8.6MW風車×11基=94.6MW |
2024年
(予定) |
TLP型 | Provence Grand Large | フランス
(地中海) |
EDF Renewables
(フランス) |
Siemens Gamesa社の
8.4MW風車×3基=25.2MW |
スパー型 | セミサブ型 | バージ型 | |
構造 | |||
利点 | ・構造が簡単で安価に製造できる. | ・陸上や埠頭で浮体に風付できる. | ・50mより浅い海域にも設置できる. |
欠点 | ・100m以浅には座礁するので設置できない.
・浮体上への風車の据付工事が難しい. |
・スパー型より浮体が大きく複雑なので建造費が高い.
・造船所で建造が必要. |
・接水面積が大きく波浪の影響を受け易い. |
実績 | 初号機運開は2009年.4プロジェクトで18基・128.9MWが運転中. | 初号機運開は2011年.6プロジェクトで12基・93.65MWが運転中. | 初号機運開は2017年.北九州沖³MWとフランス3MWが運転中. |
カウンターウエィト型(TetraSpar) | テンションレグ型(TLP) | その他(ツインロータ方式) | |
構造 | 中国MingyangのNezzy2
(元設計はドイツのAerodyn. 1点係留のダウンウィンド配置のロータで,浮体全体で風向追従する.)
|
||
利点 | ・工場生産した部材を埠頭で組立る方式なので量産性に優れる. | ・安定性が高いのでセミサブ型より浮体を小形化できる. | ・小形の浮体で大出力が得られる. |
欠点 | ・溶接ではなく,ピンやボルトによる組立なので長期耐久性は未知数. | ・杭打式または吸引式の碇が必要.
・出港から設置完了までの安定性の確保に課題が残る. |
・風向と潮流の向きが異なると大きなヨー偏差による風荷重がかかる.
|
実績 | 初号機3.6MWが2021年からノルウェーで運転中. | ・2023年からフランスマルセイユ沖で8MW×3基を設置工事中. | ・16.6MWを進水準備中.2024年に広東省陽江市沖で運開予定. |
出典:NEDO,DNV,IDEOL,TetraSpar,EDFR,Mingyangの各社資料
図10-4-3 浮体式洋上風力発電で実機検証段階以上に到達している形式
撮影:JWPA視察団
図10-4-4 マルセイユ沖17㎞にTLP式で係留された 8400kW 浮体式洋上風車
(水深は100m.SiemesGamesa社 SG 8.4-167 DD 8.4MW風車×3基=25.2MW.受電前なので遊転中.)
〔上田 悦紀 (一社)日本風力発電協会〕
10.4.6 地熱発電
2050年のカーボンニュートラル実現に向けて,再生可能エネルギー(再エネ)発電への期待が高まるなか,世界第3位の地熱資源ポテンシャルを有する我が国では,燃料を輸入に頼らず,気象状況や季節変動,時間帯等の影響を受けることがなく,安定的に発電を行うことが可能な再エネベースロード電源(1)である地熱発電に大きな期待がかかっている.
近年の地熱開発では,2019年5月に大規模開発としては23年ぶりの山葵沢地熱発電所(秋田県,出力46,199kW)が運転を開始した他,松尾八幡平地熱発電所(岩手県,出力7,499kW),安比地熱発電所(岩手県,出力14,900kW)やバイナリー発電では,滝上バイナリー発電所(大分県,出力5,050kW)及び山川バイナリー発電所(鹿児島県,出力4,990kW)が運転を開始している.さらに,かたつむり山発電所(秋田県),木地山地熱発電所(仮称)(秋田県)等で大規模な新規地熱開発が進捗している.
一方,「エネルギー需給の見通し」(2)では,導入目標1.5GW(現状の2倍以上)を目指しており,さらなる導入拡大が期待されている.また,「グリーン成長戦略」(3)における長期の取り組みとして超臨界地熱発電が選定されている.なお,地熱開発における法規制等の運用見直し(4)(5)の動きも進んでいる.
このような背景において,(国研)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)では,「地熱発電導入拡大研究開発」(6)プロジェクトを実施し,以下の研究開発項目3項目を柱として地熱発電導入量増大の早期実現を図っている.
「超臨界地熱資源技術開発」により,従来の地熱発電に比べてさらに深部の熱源を利用することで,大規模な出力が期待できる超臨界地熱発電の実現に向けた,有望地域の地熱資源量評価と探査技術の開発を進め,地熱資源のポテンシャル拡大に取り組んでいる(図10-4-5).また,地域共生や環境保全に資する,環境アセスメントの改善を実現するための「環境保全対策技術開発」,IoT-AI技術等を活用した地熱発電所の生産量の増大やコスト削減及び利用率向上により,発電原価低減につなげるための「地熱発電高度利用化技術開発」を進めている.
上記に加えて,「「超臨界地熱発電」に係る特別講座」を実施し,次世代の地熱開発を担う人材の育成を図っている.
図10-4-5 超臨界地熱資源と従来型地熱資源(概念図)(7)
〔松尾 純志 (国研)新エネルギー・産業技術総合開発機構〕
10.4.7 電力貯蔵
2050年カーボンニュートラルを実現するため,太陽光発電等の再生可能エネルギーの導入が進められているが,再生可能エネルギーの調整力を高め,電力系統の安定化を目的とした系統用蓄電システムの導入も併せて進められている.また,FITによる買取期間の満了やFIT価格の下落等による太陽光発電電力の自家消費や災害時の非常用電源としての用途等により,業務用・家庭用を中心に,リチウムイオン電池(LIB)を用いた定置用蓄電システムの需要が引き続き拡大している.(一社)日本電機工業会(JEMA)の自主統計によると(1),定置用LIB蓄電システムの2023年度上期の出荷台数は8万台を超え,2022年度下期比で107%である.また,出荷容量は650MWhを超え,2022年度下期比で113%であり,2023年度の年間出荷容量は1,200MWh(1.2GWh)を超えることが予想される(図10-4-6).
一方,先行して普及が進んでいる電気自動車(EV)であるが,それに伴い使用済みの中古バッテリーが今後増加していくと予想される.EV用バッテリーは長寿命・高性能であり,その中古バッテリーを定置用にリユースすることで,コスト低減,資源の有効活用による二酸化炭素抑制の効果が期待できる.これらの中古バッテリーを利用した蓄電システムの安全性を担保するため,日本提案の「定置用蓄電池システムの安全性:計画外変更の実施」に関する国際規格(IEC 62933-5-3)が,2023年10月10日に発行された(2).この規格により,EVで使用済みの中古バッテリーのリユースが促進され,資源の有効活用に寄与することが期待される.
図10-4-6 定置用LIB蓄電システムの出荷実績(容量)(1)
〔紀平 庸男 (一財)電力中央研究所〕