6.機械材料・材料加工
6.1 機械材料
6.1.1 鉄鋼材料
a.生産
日本鉄鋼連盟の報告によると,日本経済は,緩やかに持ち直しているものの,力強さを欠いている.国内の粗鋼生産量は,2022年は建築,機械部門の需要は増加したが,半導体不足の影響により自動車部門の回復が限定的であったこと,受注低迷にともなう生産能力削減や建造のスローダウン等による造船部門の需要低下,加えて国際市場の需要低迷等の輸出環境の悪化の影響により,我が国の粗鋼生産量は前年比7.4%減の8,923万トンとなった.
国内鉄鋼市場は,建設業では新設住宅着工戸数は9ヵ月連続で前年水準を下回り,四輪車生産は2ヵ月連続で減少した.一方,鉄鋼業に関しては,鋼材価格値上げにより大幅な売上高と利益の改善が見られた.平均鋼材価格は,21年1~3月の1トン9万円から,22年1~3月は同13万円へと1.5倍になった.その結果,高炉3社では2021年度以降好業績が続いている.
日本製鉄は2023年9月に瀬戸 内製鉄所呉地区の全設備を休止した.JFEスチールは2023年 9月に東日本製鉄所(京浜地区)の上行程設備を休止した.これにより,2023年末時点の国内稼働高炉数は20基,そのうちの内容積5,000m3以上の高炉数は13基となった.
日本製鉄は,粗鋼生産量3425万トンで売上高が過去最高の8兆8680億円,経常利益は前年比やや減の7640億円だった.JFEホールディングスは,粗鋼生産量2480万トンで売上高が前年比やや減の5兆1746億円,経常利益は過去最高の2684億円となった.神戸製鋼所は粗鋼生産量597万トンで売上高は過去最高の2兆5431億円,経常利益も過去最高の1609億円となり,3社とも好調を維持した.他,日立金属(プロテリアル)売上高1兆332億円,大同特殊鋼 売上高5813億円,経常利益450億円,山陽特殊製鋼売上高3550億円,経常利益120億円とつづく.
世界の鉄鋼生産に関して,2023年の世界全体の粗鋼生産量の合計は18億8,820万トンとなり,2022年の18億8,760万トンからほぼ横ばいとなった.第1位の中国が10億1,910万トンで,22年比ほぼ横ばいであった.第2位のインドは2022年比11.8%増の1億4,020万トンとなった.第3位が日本で,22年比2.5%減の8,700万トンである.そのあと米国(8,700万トン,ロシア7,580万トン,韓国6,670万トン,ドイツ3,540万トン,トルコ(3,370万トンと続く.この中で賢諭応な伸びを二したのはインドである.粗鋼生産量1位の中国は全世界生産量の50%を占めている.中国鉄鋼業は,依然として過剰生産能力を抱えたままである.
日本製鉄は,2023年12月8日),当社の米国子会社であるNIPPON STEEL NORTH AMERICA, INC.を通じ,米国の高炉・電炉一貫の鉄鋼メーカーであるUnited States Steel Corporationを買収すること発表した.日本の新聞テレビはトップニュースで伝えた.U. S. Steel労働組合の反対やアメリカ大統領選での駆け引きに利用されるなど紆余曲折が予想されているが,日米の鉄鋼業にとって今後の展開・発展を見いだすものであり,成功を期待したい.
b.新設備
2023年9月に日本製鉄(株)が瀬戸内製鉄所呉地区を閉鎖,JFEスチールは2023年9月に東日本製鉄所(京浜地区)の上行程設備を休止した.これにより,2023年末時点の国内稼働高炉数は20基となった.
一方,神戸製鋼では,2024.1月に加古川製鉄所の厚板工場の仕上圧延機のリフレッシュ工事が完工した.本体・主機モーターの更新に加えて,圧延機の剛性向上し,品質・納期などの基本パフォーマンスを強化が可能となった.
c.研究
NEDO「グリーンイノベーション基金事業鉄鋼が継続中である.現在,鉄鋼業のCO2排出量は年間約1億3100万トン(2020年度実績)であり,日本の産業部門全体の約4割を占めている.グリーンイノベーション基金事業の一環として,製造過程でCO2を多く排出する鉄鋼業の脱炭素化へ向け,「製鉄プロセスにおける水素活用」プロジェクト(以下,本プロジェクト)を進めている.このたび,本プロジェクトの研究開発項目の一つである「水素だけで低品位の鉄鉱石を還元する直接水素還元技術の開発」の新たなテーマとして,「直接還元鉄を活用した電気溶融炉による高効率溶解等技術開発」を行っている.2030年までにCO2排出量を50%以上削減する技術の開発を目指すものである.
CCUS研究開発・実証関連事業(2018~2026年度)も継続中である.この事業では,2021年10月に閣議決定された「第6次エネルギー基本計画」の2050年カーボンニュートラルを目指し,できるだけ早期のCCS導入に向けて,CO2貯留技術の研究開発,並びにCO2有効利用などに関連する技術の調査を行うものである.「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」を踏まえ,分離・回収したCO2の貯留地や有効利用先への輸送にも取り組むことで,CO2の分離・回収から輸送,貯留,有効利用の技術開発を一体的に進め,CCUS技術の早期の確立及び実用化を狙っている.CCSとは,CO2(Carbon dioxide)を回収(Capture)し,貯留(Storage)する技術で,CO2を地中に閉じ込めることで,CO2を削減するための一連の技術のことである.
NEDO「水素社会構築技術開発事業」が2023年度に新規に開始された.水素CGSの地域モデルにおける水素燃料供給システムの効率化・高度化に向けた技術開発を開始する.水素CGSとは,コジェネレーションシステム(Co-Generation System)の略称で,熱源より電力と熱を生産し供給するシステムの総称である
また,NEDO競争的な水素サプライチェーン構築に向けた技術開発事業」が2023年度に始まり,水素社会構築に向けた鋼材研究開発が始まった.
d.新技術・製品
製銑分野では,神戸製鋼所は加古川製鉄所の大型高炉(4,844m3)でCO2排出量を25%削減できる技術の実機実証を行った.MIDREX™プロセスの還元鉄を高炉に装入することで,CO2排出量を2013年度比で25%削減できることを確認した.
自動車用鋼板分野において,日本製鉄は,1470MPa級の冷延超高張力鋼板(ハイテン)を開発した.高強度化・薄肉化によって,軽量化によって燃費の向上・CO2排出量削減を図るものである.本鋼板はスズキの新型スペーシア」の一体成形型の軽量Aピラー(フロントの柱)に採用された.緻密な成分設計と組織制御により,高強度と加工性を両立したものである.従来の5部品で成形,溶接され製造ていた窓枠部分の一体成型が可能となった.遅れ破壊やスポット溶接性といった技術課題もクリアし,軽量化・CO2削減とコストダウンに寄与した.JFEスチールも自動車のバンパーやドアインパクトビームに用いられる1320-1470MPa級超高強度冷延鋼板を開発した.金属組織の均一化により耐遅れ破壊特性を高めた冷間加工用鋼板である.
厚板分野では,JFEスチールは新規建造予定のドライバルク船に,CO2排出量を実質ゼロとした鋼材JGreeX™を使用する予定であと発表した.CO2排出量が大幅に削減された鋼材を船舶に使用することへのニーズは高く,JGreeX™は,JFEスチールにおけるCO2排出削減技術により創出した削減量を,「マスバランス方式※2」を適用して特定の鋼材に割り当てることで,鉄鋼製造プロセスにおけるCO2排出量を大幅に削減しものである.
鋼管分野では,来るべき水素社会に備え,高圧水素用や液 体水素用の鋼管開発が進められている.日本で稼働中の水素ステーションの多くは,トレーラーなどで運ばれてきた気体の水素を圧縮したうえで燃料電池車などに充塡している.この過程で水素を運ぶ配管などは高圧の水素にさらされることになり,水素脆化の課題があった.日本製鉄は,2015年に発表した耐水素脆性ステンレス鋼HRX19につづき,液化水素環境でも使用可能なステンレス鋼HYDLIQUIDを発表した.水素ステーションで使用される鋼材に必要となる-253℃以上での優れた耐水素脆性と低温靭性を確保した高強度高窒素ステンレス鋼である.HRX19と併せて水素ステーションの普及拡大を図っている.
大同特殊鋼 2023年11月2日 3Dプリンター用ダイス鋼系高熱伝導率合金粉末の開発で第39回素形材産業技術賞奨励賞を受賞した.金型として必要とされる硬さを保ちつつ,高性能な金型の造形を可能とした3Dプリンター用合金粉末である.
高炉メーカーの今後の進む方向
日本製鉄が以下の内容で2023年5月10日に発表したが,今後の高炉メーカーの進む方向を示している.日本製鉄は,九州製鉄所八幡地区および瀬戸内製鉄所広畑地区を候補地とした高炉プロセスから電炉プロセスへの転換について本格検討を開始した.高炉水素還元,水素による還元鉄製造,大型電炉での高級鋼製造の3つ技術を用いたカーボンニュートラルの実現を目指したものである.高炉水素還元は,2022年5月より東日本製鉄所君津地区において試験高炉(12m3)への高温水素吹込み試験を開始した.水素による還元鉄製造は,小型シャフト炉で水素で低品位鉄鉱石を還元する試験を2025年度より開始するとしている.大型電炉での高級鋼製造は,すでに,瀬戸内製鉄所広畑地区に新設した電炉による商業運転を2022年10月より開始している.ハイグレード電磁鋼板の製造・供給している.
023年もDX(デジタルトランスフォーメーション)とCN(カーボンニュートラル)あるいは,GX(グリーントランスフォーメーション)への注力が各社共通の課題となった.2050年CNへの挑戦を開始している.素材として,鉄鋼材料はCNの中核である.水素活用プロジェクトとも合わせ注目してゆきたい.
〔鳥塚 史郎 兵庫県立大学〕
6.1.2 非鉄金属材料
a.アルミニウム
日本アルミニウム協会によると,2023年度のアルミニウム板類・押出類の生産量は約1,700千トンで前年度比-4.9%と2年連続のマイナスとなったことをはじめ,箔についても前年度に比べて生産量が減少する見込みである(1).缶材は新型コロナウイルス感染症拡大による行動制限が撤廃され,家庭内での需要量が低下したこと,物価上昇,缶の軽量化に伴う1缶あたりの使用量変化などの要因で前年度から-1.6%となったが,自動車材は国内自動車生産が回復し+14.9%と大幅増となった.また,建材は住宅着工数の減少やアルミサッシからアルミ樹脂複合,樹脂サッシの以降の進展等の影響を受けて-9.3%となり,総需要は3,769千トンと前年度比-0.6%と2年連続のマイナスの見込みとなった(2).
また,2023年は多くの企業や研究機関,大学等でグリーンアルミニウムに関する報道発表が数多くなされた年でもあった.アルミニウムに限らず,非鉄金属材料のサプライチェーンの追跡や環境負荷の定量化など,環境に配慮した機械材料の展開は今後も広まっていくものと考えられる.研究分野に関しては2023年の5月より新型コロナウイルス感染症が5類扱いとなり,多くの学会が対面形式で開催された.特に第30回機械材料・材料加工技術講演会 (M&P2023)(3)とM&M2023材料力学カンファレンス(4)がコロケーションで開催され部門間交流の活性化が図られた他,日本金属学会講演大会(5)(6),軽金属学会講演大会(7)(8)等の様々な学会で数多くのアルミニウムに関する講演発表がなされた.対象分野は溶解鋳造,力学特性,リサイクル,組織制御,計算科学(シミュレーション),粉末冶金,発泡・複合材料,溶接・接合,腐食・防食,表面処理と多岐に渡る.また,水素脆化やレーザー積層造形法を中心とした積層造型技術分野の発表も精力的に行われた.
b.マグネシウム
日本マグネシウム協会によると,2023年(年度ではないことに注意されたい)の国内マグネシウム需要量は,半導体不足や2023年前半まで続いた自動車分野の回復の遅れの影響を受け,構造材向け,添加剤向け,防食その他向けの全てが前年に比べて減少しており,全体では前年比-3.2%の30,003トンと2年連続のマイナスと厳しい推移となった(9).
研究分野では,ダイカスト用難燃性マグネシウム合金やミルフィーユ構造型マグネシウム合金に関する研究が精力的に行われており,M&P2023ならびにM&M2023,日本金属学会講演大会,軽金属学会講演大会等の学会で上記の研究分野に関する含む様々な講演発表がなされた.また,力学特性,組織制御,溶解・鋳造,塑性加工等の他,高い熱伝導特性,不燃性が付与された高強度マグネシウム合金の開発や,マグネシウム二次電池負極材料への展開,生体中での分解評価など機能性に着目した研究開発も精力的に行われた.
c.銅
日本伸銅協会によると,2023年度の総生産量見込みは約639千トンで,前年度から-11.9%減とアルミニウムやマグネシウムと同様,2年連続のマイナスとなった(10).世界情勢や円安等の影響を受けたものと思われる.
研究分野では,日本銅協会2023年63回講演大会(11)をはじめ,M&P2023ならびにM&M2023,日本金属学会講演大会等の学会で,力学特性,組織制御,接合,めっき,腐食・防食,塑性加工,伝熱・熱交換,抗菌,粉末冶金,リサイクルなど,多くの講演が行われた.
d.チタン
財務省の貿易統計によると,スポンジチタンを主にする「チタン塊・粉」の2023年(年度ではないことに注意されたい)輸出量は前年比6.1%増の36,699トンと,2022年に続きプラスで推移しており,他の非鉄金属に比べて好調であった.
研究分野では,第3回日本チタン学会講演大会(12)をはじめ,M&P2023ならびにM&M2023,日本金属学会講演大会(※日本鉄鋼協会との共同セッションを含む),軽金属学会講演大会等で力学特性,組織制御,接合,塑性加工,積層造型技術,低コスト化など多くの講演が行われた.また,チタンに関する最大の国際会議,第15回チタン世界会議(World Titanium Conference 2023, Ti-2023)がスコットランド・エジンバラで開催され,複合材料,加工熱処理,生体材料,接合,リサイクル,積層造型技術など様々な分野で350件を越える発表講演がなされた.
〔鈴木 真由美 富山県立大学〕
6.1.3 無機材料
a.生産
(一社)日本ファインセラミックス協会(JFCA)が毎年実施している産業動向調査速報値[1]によれば,ファインセラミックス部材の生産総額は2018年に3.2兆円となって3兆円を超え,2019年,2020年に3.1兆円へと減少した.2021年度は持ち直し,3.5兆円を超え,2022年度は3.6兆円超え,2023年度は3.4兆円と見込まれている.昨年度に比べるとやや減少したものの,5年連続で3兆円を超える形となった. COVID-19の影響で成長にやや鈍化が見られたが,2021年度はそれを取り戻すことになった形である.1990年代と比べても生産額は倍増加しており,セラミックスが各種産業で当たり前のように利用されていると言えよう.内訳を見ると,全生産額の7割を占めている「電磁気・光学用」部材がもっと多く,ついで,「機械的」部材と「熱的・半導体関連」部材がそれぞれ全生産額の1割となっている.特に前年比でみると,熱的・半導体関連」部材は101%ほどと堅調であったが,「機械的」部材と「熱的・半導体関連」部材,「化学,生体・生物・他」部材はいずれも昨年度の生産額よりも低下した.
b.研究
2023年9月に開催された日本機械学会年次大会は,東京都立大学での開催となった.本大会において,「セラミックスおよびセラミックス系複合材料」が企画運営され,「セラミックスおよびセラミックス系複合材料」のセッションで10件の講演があった.その他のセッションでの関連講演を含めると3件ほどの発表があった.また,2023年9月にはM&P2023がM&M2023とコロケーション開催として筑波大学で開催され,「セラミックスおよびセラミックス系複合材料」のセッションで21件の講演があった.講演内容としては,構造用セラミックスやセラミックス複合材料(CMCs)の機械的特性や破壊力学,ハイエントロピセラミックス,コロージョン/エロージョンなど,多岐にわたっていた.その他のセッションでも,力学的特性やコーティング技術など,15件ほどの講演が散見された.
近年,SiC系CMCsの航空機エンジンの応用をGEが進めたことを皮切りに,日本でも国家プロジェクトが立ち上げられている.SiCは高温水蒸気による損傷があるため,SiC系CMCc向け耐環境コーティング(EBCs)の研究も盛んである.また,SiC系CMCcを軽水炉の燃料管に応用しようという動きもある.CMCsやEBCsの研究発表は日本機械学会でも頻繁に報告されている.CMCs以外に,自己治癒セラミックスが徐々に注目されており,研究グループが増加している.この他,三元系層状構造炭化物/窒化物であるMAX相セラミックスが注目されている.この材料は,機械的強度や破壊靱性値が比較的高い上,超硬合金による切削加工が可能であるという特徴を有する.化学組成によっては,優れた高温耐酸化性や自己治癒機能を有している.しばしば,大きな国際会議ではMAX相セラミックスのセッションが企画されているが,日本ではあまり顕著な動きにはなっていない.さらに,高エントロピー合金と同様のコンセプトで高エントロピーセラミックスも登場し,研究成果が報告されている.セラミックスの製造プロセスとしては,構造用セラミックスの3Dプリンティングが注目されており,金属同様,今後の進展が期待される.また,通電による瞬間的な発熱を利用したフラッシュ焼結が超高速焼結を実現できるとして注目を浴びている.学術面だけでなく,実用化研究も進んでいる.加えて,セラミックスの製造においても,リサイクルやカーボンフリー化に関する要求が年々増しているとの声を耳にする.今後,こういった研究開発がより活発になるものと予想される.
〔南口 誠 長岡技術科学大学〕
6.1.4 高分子・複合材料
a.高分子材料(1)
2023年における我が国のプラスチック原材料の生産実績は前年比7.2%減の887万tである.過去20年間で最も低い値となった.熱硬化性樹脂全体の生産量は76.8万t(8.6%減)である.主な内容は,フェノール樹脂(23.6万t(12.9%減)),ユリア樹脂(4.3万t(2.7%減)),メラミン樹脂(6.5万t(6.8%減)),不飽和ポリエステル樹脂(10.0万t(10.6%減)),エポキシ樹脂(9.6万t(22.8%減)である.一方,熱可塑性樹脂全体の生産量は789万tで2022年比7.4%減となった.主な内容は,ポリエチレン(204万t(9.4%減)),ポリスチレン(92万t(12.5%減)),ABS樹脂(26.7万t(6.3%減)),ポリプロピレン(208万t(2.2%減)),メタクリル樹脂(11.8万t(2.6%減)),ポリビニルアルコール(16.9万t(8.5%減)),塩化ビニル樹脂(155万t(0.2%増)),ポリカーボネート(23万t(13.2%減)),ポリエチレンテレフタレート(27.5万t(30.6%減)),ポリブチレンテレフタレート(10.2万t(6.4%減))などとなっている.
b.炭素繊維生産(2)
2022年の炭素繊維出荷量は前年比3.9%増の24,853トンと増加に転じた.分野別でみると輸出用として産業用が前年比7.9%増,スポーツ用が4.7%減,航空宇宙用は54.4%増だが,コロナ以前の水準には戻っていない.国内では産業用が前年比1.6%減,スポーツ用が0.1%減,航空宇宙用が10.5%減となった。輸出比率は85.7%と前年から0.9ポイント上昇した.
c.複合材料研究
国内で開催された複合材料に関わる行事について,新型コロナウィルス感染症の影響から脱却し,対面式での講演会が行われた.国内で代表的な複合材料研究に関する学会は日本複合材料会議が挙げられる.この会議は「日本を代表する複合材料に関する会議」の設立を目的に2010年京都で第1回が行われ,第2回(2011年東京にて開催予定であった)が震災で講演中止となったものの,その後毎年東京と京都で交互に行われているものである.2024年3月には第15回日本複合材料会議(JCCM-15,日本材料学会,日本複合材料学会主催)が京都府民総合交流プラザ京都テルサで開催された.構造の軽量化要求への一つの回答として複合材料実用化への期待から,企業からの参加者数が引き続き増加傾向にある.材料および構造の複合化のみにとどまらず,機能化・知能化等にも関連する幅広い分野からの講演が行われた.また,歴史ある国内会議として,2023年9月に第48回複合材料シンポジウム(日本複合材料学会主催)が東北大学で,2023年10月に68回FRP総合講演会・展示会(FRP CON-EX,強化プラスチック協会主催)が浜松市福祉交流センターで開催された.国際会議について,2023年7月に複合材料関係の会議としては最大の国際複合材会議(ICCM-23)が北アイルランド,ベルファストで開催された.世界中から多くの研究者,技術者が集い活発な意見交換がなされた.2024年には7月にフランスのナントで欧州複合材料会議(ECCM-21),8月に京都でアジア・オーストラリア複合材料会議(ACCM-13)が開催予定である.
〔細井 厚志 早稲田大学〕
6.2 材料加工
6.2.1 鋳造
生産量において,2023年における鋳鉄(銑鉄鋳物,鋳鉄管と可鍛鋳鉄),鋳鋼品,非鉄鋳造品(銅合金,アルミニウムとダイカスト)および精密鋳造品を合計した鋳物の総生産量は485万tであり,総生産量481tの2022年度に比較して101%と微増となった.銑鉄鋳物(調査対象事業所30人以上)は308万t(前年度比99%)と微減した.用途別では,自動車を含む輸送機械用が219万t(前年度比103%),産業機械器具用,金属工作・加工機械用を含む一般・電気機械用は77万t前年度比90%)と一般・電気機械用の減産が目立つ.鋳鉄管は19万t(前年度比95%)と減少した.可鍛鋳鉄(調査対象事業所30人以上)は2.9万tとほぼ横ばい状態であった.鋳鋼品(調査対象全事業所)は船舶,土建鉱山機械,鋳鋼管,破砕機・摩砕機・選別機などを中心に合計13.1万t(前年度比95%)と微減した.非鉄鋳物では,銅合金鋳物(調査対象事業所10人以上)が5.7万tで前年から1400t減少した.アルミニウム鋳物(調査対象事業所20人以上)は39.1万t(前年度比107%),ダイカスト(調査対象事業所30人以上)は96万t(前年度比107%)と増加し,輸送機械部品用のダイカスト鋳物の増産(前年度比103%)の影響が出ている.精密鋳造品(調査対象事業所30人以上)は4,210t(前年度4,439tに修正,前年度比94%)で減少した.2023年の鋳物の総生産金額は,2兆143億円となり前年比-6%の減少となった.個別の生産額は,銑鉄鋳物は7,796億円(前年度比103%),鋳鉄管630億円(前年度比92%),可鍛鋳鉄は128億円(前年度比103%),鋳鋼は1,054億円(前年度比93%),銅合金は995億円(前年度比104%),アルミニウム鋳物は2,995億円(前年度比107%),ダイカストは7,184億円(前年度比111%)であった(1).2020年から猛威を振るった新型コロナウィルスが,2023年5月に5類感染症に移行され,個人消費が活発化した一方で,自動車関連を除く鋳造産業の好転は遅れている.
鋳造業界の温室効果ガスの排出量は,日本全体の約1.4%で,カーボンニュートラルの観点から鋳造技術の開発が進められている(2).また,省エネ施策の一環として,鋳物工場における2022年度エネルギー使用量の調査結果が日本鋳造協会から報告された(3)-(4).
スマートファクトリー実現に向けたソリューション技術(5),造形工程における各種材料特性と3Dプリンターの模型への応用(6)-(7),キュポラにおけるカーボンニュートラル(8),銅鋳物合金の製造技術及び評価技術の進展(9)-(10)に関する研究が活発になされており,鋳造工学会ではオーガナイズドセッションが組まれている.
ISO1083-2018改定に即して,JIS G5502:2022球状黒鉛鋳鉄品の改正が15年ぶり(2022)になされた(11).
GIFA/NEWCAST2023がデュセルドルフ(ドイツ)で開催された.IT/IoTを活用した造形技術,インクジェット3Dプリンター造形,12,000tギガキャストマシン,X線CTのインラインか技術とAIによる引け巣の即時検出装置などが展示紹介された(12).第74回世界鋳物会議が釜山市(大韓民国)(13),アジア鋳物会議が室蘭市(北海道)(14)で開催された.
〔長船康裕 室蘭工業大学〕
6.2.2 塑性加工
自動車の電動化およびカーボンニュートラル社会を意識した研究・技術開発が取り組まれた.特に部材の高比強度化と高機能化,加工工程の省エネルギ化,加工情報のセンシング,人工知能(AI)・機械学習による最適化に対して,産官学いずれからも高い関心が寄せられた.
圧延分野では,鉄鋼,非鉄金属ともに熱間,冷間問わず,疵や焼付き等の表面欠陥,反りや曲がり等の形状不良を対象とした研究報告が多数を占めた.一方,押出し分野では2022年に引き続き研究報告が少なく,アルミニウム合金チップ材の熱間押出しや微小部品を対象としたマイクロ押出しに関する研究報告に留まった.
鍛造分野では,国内外問わず,アルミニウム合金,チタン合金,マグネシウム合金等の軽量材料,パイプ等の中空構造といった部材軽量化に主眼を置いた研究・開発が2022年に引き続き活発であった.また環境負荷軽減を目的とした潤滑剤や潤滑方法に関する研究・開発も多数報告された.産業界からはセンシングにより得られた各種加工情報から鍛造品不良や金型不良を検知あるいは予測する取り組みの報告が増加した.
板材成形分野(プレス成形,曲げ,せん断,インクリメンタル成形等)では,国内外問わず,研究報告が多く,変形特性,材料モデリング,加工法等の多岐にわたった.特に高張力鋼,アルミニウム合金,チタン合金等の難成形性材料を対象に,有限要素解析の高精度化を目的とした変形特性モデリングが多数を占めた.また結晶塑性有限要素法による成形解析も精力的に研究報告された.他には電気自動車用クロスメンバやバッテリーケースのホットスタンプ成形法やCFRP等の非金属板の成形法に関する報告がみられた.
塑性接合分野では,国内外問わず,異種材料の固相接合に関する研究・開発が2022年に引き続き活発であった.特に材料では銅とアルミニウム,金属とCFRPの組み合わせ,工法では摩擦攪拌を利用した接合,メカニカルクリンチングを中心に多数報告され,鍛造,押出し,圧延による接合も報告された.
第30回機械材料・材料加工技術講演会(M&P 2023)では塑性変形に関するモデリングや構成式を取り扱った講演発表が多数あった.一方,後述する第14回塑性加工国際会議(ICTP 2023)と開催日が重複したため,塑性加工に関する発表は非常に少なかった.2023年度塑性加工春季講演会(1)ではマイクロ・ナノテクスチュア型技術,半溶融・半凝固・溶融加工,トライボロジー,塑性構成式に関するテーマセッション,第74回塑性加工連合講演会(2)では鍛造,ポーラス材料,軽金属,結晶塑性シミュレーション,塑性論に関するテーマセッションが設けられた.国際会議では第14回塑性加工国際会議(ICTP 2023)が2023年9月にフランスにて開催され,約560件(内,日本からは約70件)の講演発表があった.また国際生産工学アカデミー(CIRP)第72回総会(CIRP 2023)が2023年8月にアイルランドにて開催され,塑性加工部門では12件(8カ国.日本からは1件)の講演発表があった.
〔松本 良 大阪大学〕
6.2.3 プラスチック加工
高品質なプラスチック成形品を効率よく生産するためには,射出成形機本体のみならず周辺機器も含めた総合的な品質管理や生産管理が求められている.この背景を受けてデジタル技術を通じた知識集約型の経済社会構造(Society5.0)へ転換するべく制御装置のデジタル化が推進され,インダストリ−4.0と呼ばれるモノづくりの手法が広く採用されるに至り,射出成形分野においても成形・生産上の群管理に加えて,稼働状況の管理,アフターサービスの事前予知などの手法が提案されている.成形機は精密制御とともに成形工程の複合化が進み,さらには成形工程の可視化や金型の最適化設計を促進するIoT技術も加速度的に進んでいる.今後もニアネットシェイプ成形による高品質成形品の開発が加速していくことが予想される.
プラスチックの高付加価値化への押出・ブロー技術の貢献は大きく,多くの技術報告が行われている.多様なコンポジットの検討が報告される中,押出機には,高混練,高精度や省エネルギー化が求められており,多軸化,高トルク対応,高速回転やスクリュ深溝化が進む.また,CAE(Computer Aided Engineering)支援によるスクリュの混合性能評価やプロセスインフォマティクスに関連する技術開発が進み,高機能化とプロセス合理化の両立に応えている.省エネルギー化に関しては放熱部位への断熱材の設置が検討されており,フィルム製品の品質向上に寄与することが報告されている.
ブロー成形は,中空形状を活かしたダクト,ホース,タンクなどの自動車部材に適用される.この分野では,近年液体ブロー成形法が開発され,プラスチックのみならず金属ガラスへの適用が継続的に検討されている.インフレーション成形においては空気圧アクチュエータを採用したフィルム膜厚の均一化やサーボポンプ採用や電動化などによるポリエチレンテレフタレート(PET)ボトルの延伸ブロー成形の省エネルギー,ハイサイクル,低コスト化とプロセスの洗練が進んでいる.
地球環境改善を目的とした自動車の脱炭素化に伴い,長繊維強化樹脂に代表される高分子基複合材料が採用され,同材料の成形加工で生じるスクリュ内での繊維の圧損・分散挙動や金型内での繊維配向挙動の研究が継続して進められている.長繊維強化樹脂の成形加工では,コストダウンを目的とした連続繊維直接成形と呼ばれる,直接繊維と樹脂を成形機に投入する成形加工法が継続的に検討されている.一方で,溶融積層法を用いた炭素繊維強化熱可塑性樹脂の三次元造形に関する結果も報告され,ほかの繊維を用いた三次元造形も継続的に検討されている.さらに天然繊維や木粉に加えて,セルロースナノファイバーの分散性の向上,乾燥技術や成形加工法の研究はさらに活発化している.自動車部品,特に外装品へのプラスチック材料の採用にあたっては,難燃化が熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂で行われている.
また,金属材料と繊維強化樹脂,あるいは樹脂材料と繊維強化樹脂の組み合わせによるマルチマテリアル化が継続して推進されている.この異種材料による複合化にあたって,物理処理や化学処理による機械的接合機能の発現,接着剤の研究など異種材料間の接合接着に関する研究も多く,自動車部品などへの実用化に向け今後の展開が期待される.
2023年度の容器包装リサイクル法に基づく一般廃棄物系の廃プラスチックのリサイクルは,プラスチック容器包装と分別収集物を合わせた回収量が約69万トンであり,この量はここ数年ほぼ一定である.落札量は,プラスチックパレット等に再加工する,いわゆる材料リサイクルが約57%,コークス炉化学原料化が約32%,ガス化が約9%,高炉還元剤が3%程度である.これらは,CO2削減や,バージンプラスチックの削減に貢献している.
近年は可能な限り資源の経済価値を維持しつつ,効率的に利用することで付加価値を生み出す「循環経済(サーキュラーエコノミー)」への転換に向けた取り組みが欧州を中心に活発化している.また,プラスチックごみによる海洋汚染が地球規模の新たな課題として顕在化するとともに,中国での廃棄物輸入規制強化に端を発する国際的な資源循環の枠組みが変化してきている.これらの背景を踏まえて,日本政府は2020年5月に「海洋プラスチックごみ対策アクションプラン」を策定し,関係省庁では「プラスチック資源循環戦略」を策定した.さらに2022年4月には「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」が施行された.一方で,繊維強化プラスチックの廃棄も問題視されてきている.コークス炉化学原料化や高炉還元剤として使用すると多量の残渣が発生し,現在はこれを埋立てにより処理しているが,日本の埋立て可能な領域は限られており,現状の埋立て処理量が継続されると約20年で埋立て不可となることが試算されている.容器包装材については事業者側で開梱した後に精度の高い選別が行われており,これにより排出された未利用廃材は焼却処分されている.これは実際の材料リサイクル率は統計で得られた比率より低いことを意味する.このようにプラスチックを取巻く社会環境はここ数年で劇的に変化しており,事実を真摯に受け止めて研究開発を行うことが今の研究者に求められている.
〔高山 哲生 山形大学〕
6.2.4 溶接、接合
溶接学会の全国大会より,溶接・接合の日本国内での研究動向を総括する(1),(2).2023年度の春季全国大会および秋季全国大会の講演総数は257件であった.溶接プロセスに関して,溶融溶接ではTIG溶接やGMA溶接などのアーク溶接,抵抗スポット溶接,レーザ溶接など,固相接合では摩擦攪拌接合(FSW),摩擦攪拌点接合(FSSW),摩擦圧接・線形摩擦接合などに関する研究発表があり,中でもFSWおよびFSSWについては,異材接合や接合ツールなど,新技術開発に関する多くの発表があった.ほかに,ろう接合や接着接合に関する研究発表もあった.実際の製品,構造物では強度特性および強度信頼性が重要となる.そのため,溶接割れ,疲労,破壊など強度・力学特性と,それらに影響を及ぼす残留応力や溶接変形,そしてその測定・評価法や予測法に関する実験的・解析的な研究報告があった.また,異材接合に関しては,摩擦攪拌接合やレーザ溶接,抵抗スポット溶接などによる異種金属接合のほか,金属とFRPの接合に関しても報告があった.春季全国大会では「溶接構造の耐久性向上に関わる最新技術」と題されたオーガナイズドセッションで9件の講演が行われ,溶接プロセスや後処理による疲労寿命向上に関する研究報告があった.秋季全国大会では業界セッション「自動車」が企画され,その中でのサブテーマとして「抵抗スポット溶接」,「FSSW/FSW」,「レーザ溶接」,「アーク溶接」,「ろう接,各種接合法」のほか「異材接合」があったことからも,異材接合の技術開発,実用化が進められていることが読み取れる.他には,金属の積層造形に関して,プロセス,材料組織,機械的性質,熱処理などに関する幅広い研究発表が行われていたことに加え,秋季全国大会ではワークショップ「3D積層造形技術の動向と実装化に向けた取り組み」も開催され,装置や応用例などに関しての講演があった.また,溶接プロセス,欠陥,残留応力,継手強度予測に関する数値解析・シミュレーション,モニタリングやセンシング,機械学習,AIなど,デジタル技術の活用,情報工学と融合した溶接・接合に関する研究もますます活発化している.春季全国大会では「AI・デジタルツイン力学応用」,「数値解析手法・応用」,「AI・DX 」,秋季全国大会では「AI・センシング」が企画されたことからも,この分野の発展が読み取れる.また,秋季全国大会で企画された「品質・安全・技能定量化・教育」でもデジタル技術の応用に関する発表があり,溶接技術者の不足や技術伝承に対するデジタル技術への期待がうかがえる.
日本機械学会では,機械材料・材料加工部門と材料力学部門がコロケーション形式で部門講演会を開催した(3),(4).溶接・接合に関連しては,「界面,接合,接着の力学とそのプロセスおよび信頼性評価」が両部門の合同セッションとして企画され,「材料・プロセス」と「力学・評価」の技術者・研究者が一堂に会し,溶接,接着,機械締結のプロセスと接合部の強度信頼性に関する実験的および解析的な研究に関する講演発表と活発な議論が行われた.また他にも「溶接・接合部の材料力学とその関連技術」と題したセッションが行われ,溶接・接合部の力学に関する研究発表があった.また,2023年度年次大会ではプロセスと力学・強度の両者に関する「異種材料の界面強度評価と接合技術」と題したオーガナイズドセッションが企画され,10件の講演発表,10件のポスター発表があった(5).
以上に述べた溶接・接合に関する動向では,三次元積層造形のような新しいプロセスの開発や異材接合に関する研究・実用化が進められていることがわかる.他方,溶接・接合部の強度信頼性,欠陥や残留応力の評価・予測も重要であり,モニタリングやセンシング,シミュレーション,AI,機械学習,デジタルツインなど,情報工学と融合した技術開発が,技術者教育や技術伝承といった観点からも,今後さらに進められると考えられる.海外の動向として,IIW(International Institute of Welding)のジャーナルWelding in the Worldに掲載された論文を2022年と2023年で比較すると,日本国内と同様,樹脂・複合材の接合,シミュレーション・数値解析,異材接合,三次元積層造形などに関する研究が進んでいることが読み取れる.Welding in the Worldに掲載された論文を技術分野でまとめたデータによると,2022年と比較して2023年には,”Additive Manufacturing”が8%から18%に大きく増加しており,世界的にもこの分野の研究・技術開発が活発化していることがわかる(6),(7).
〔宮下幸雄 長岡技術科学大学〕
6.2.5 粉末加工
粉体粉末冶金協会の春季および秋季大会における講演の状況にて日本国内の研究・開発動向を確認できる.2023年度春季大会では132件,秋季大会では115件の講演発表があった(1)(2).多種粉末を用いた焼結技術や焼結機構に関して,各種粉末の製造および特性評価,バインダジェット法・電子ビームやレーザによる金属粉末積層造形法などにより作製した造形体に関して,その材料挙動や諸特性に関して多岐にわたる事例が報告された.硬質材料,電気伝導性材料,光機能材料,ナノスケール材料,磁性材料や磁気デバイスにおける技術開発,各種外場を利用した新規材料や技術開発,メカニカルアロイング技術による新規の材料開発が継続している.また,持続可能な社会を達成するためにエネルギー関連材料の重要性の高まりから,金属粉末材料の多機能化,粉体グリーンプロセス,DX/GX時代の電子部品材料に関して,結晶組織構造制御や空孔分布の定量解析研究事例,全固体型リチウムイオン二次電池の開発事例,セルロースナノファイバーによる組織強化事例などが報告された.
国際会議はJSPMIC2023(京都)・APMA2023(韓国・慶州)が開催され,粉末積層造形をはじめ,粉末製造や焼結プロセス,硬質合金,磁性材料,機能性材料における技術開発,シミュレーションに関する研究が報告された(3).
国内および国際会議を通して注目すべき動向として,次世代ものづくり技術として注目されている粉末積層造形に関連する研究開発が継続的に活発である.また,機械学習を援用した最適条件探索や強度予測が試みられた事例が展開されている.
〔梅田 純子 大阪大学〕
6.2.6 特殊加工
AM Research の市場調査報告書によると,2023年の付加造形(AM: Additive Manufacturing),3Dプリンター関連のマーケット全体は147億ドルであり成長率は13.5%と2022年度以前と比べるとやや鈍化している.一方で,ポリマー関連の造形技術では約10%の成長にとどまるものの,金属3Dプリンター技術に関しては,約15%の成長を示しており,引き続き産業界でも高い関心が寄せられている.なお,金属3Dプリンターの市場規模は67億ドルにのぼると予測されている(1).
経済産業省などが発表した2023年版ものづくり白書(2)でも本分野の技術が触れられており,ドイツを中心とした先進企業ではDXに向けたデータ連携,生産技術のデジタル化,さらにサプライチェーンの最適化が進んでおり,このような潮流の中でAMや3DプリンターはDX,GXを推進させるキーテクノロジーとして今後も重要な役割を果たすであろうとしている.
日本では,金属材料のAM技術については米国や欧州におくれを取っていたため,2014年に経済産業省主導で技術研究組合次世代3D積層造形技術総合開発機構(TRAFAM)を立ち上げ,国内メーカーによる金属3Dプリンターの開発などを促進してきた.その成果として,各メーカーで独自の金属3Dプリンターの技術開発や既存の加工装置との融合が研究され,販売を進めている.2022年に開催された第31回日本国際工作機械見本市(JIMTOF2022)での特別企画AMエリアの展示や,2023年に開催されたメカトロテック・ジャパン2023(MECT2023)でも,国内メーカー各社が金属3Dプリンター関連の新製品を発表している.特に国内では従来の加工機と金属AM技術とを組み合わせた複合加工機の開発・製品化が盛んで,DMG森精機が5軸マシニングセンタにDED(Direct Energy Deposition)方式の金属AMを組み込んだ装置を,またヤマザキマザックは5軸マシニングセンタにワイヤアーク方式のAMを搭載した新機種や,複合加工機にレーザ方式のAM加工ヘッドを搭載した機種を,さらに三菱電機もワイヤー・レーザDED方式の空間同時5軸制御と加工条件を協調制御可能な装置の発表を行った.これらの複合機は,3Dプリンターの造形自由度と,従来加工機の有する高速・高精度加工技術を組み合わせることを可能にしており,互いのデメリットを補完することで,造形品の高品質化や生産性の向上,そして最終製品の造形の実現が期待できる.
また,近年,3Dプリンター技術の新傾向として,形状の造形のみにとどまらず,作製した構造体に時間軸の概念を加えた4Dプリンティングの研究・成果報告も盛んにおこなわれている(3).これは,磁歪材料や形状記憶材料などの機能性材料を用いて3Dプリンティングで構造体を作製することで,それぞれの機能性材料に応じた環境パラメーター(磁界や温度など)により構造体が経時的に変化させたり動かしたりすることを可能にする技術である.本技術により,単なる構造体ではなく,アクチュエーターや環境に反応するスマート構造物を得ることができ,新たな価値を創造できると期待される.
6.3 評価
6.3.1 ヘルスモニタリング・非破壊検査
矢野経済研究所の調査によれば(1),非破壊検査業界の2023年度の世界市場は3兆4757億円(内訳は,装置・機器市場が1兆1029億円,受託業務市場が2兆3728億円)と推定されており,2022年度の106.1%に増加している.国内に注目すると,2023年度の日本市場は2298億円(内訳は,装置・機器市場が996億円,受託業務市場は1302億円)と推定され,2022年度比で102.9%となっており,堅調に増加している.非破壊検査業務は各産業分野において安定した需要が存在しており,今後も順調に伸びていくことが見込まれる.
2023年は,放射線透過検査の新規手法の一つである中性子線を活用した手法が事業化され,実際に市場で使用可能となった(2).この技術は理化学研究所における研究開発に基づくもので,コンクリート内部の塩分濃度を非破壊で計測でき,橋梁などのインフラ設備の非破壊検査や予防保全に活用できる.本技術の普及と標準化には,国土交通省に認可された組織「ニュートロン次世代システム技術研究組合」が取り組んでいる.
学術論文から研究動向を探るために,Sage出版の国際専門誌Structural Health Monitoringを対象としてキーワード検索を行った.machine learningに関連する論文を検索すると,2022年は77本であったのに対し,2023年は157本と倍増している.また,deep learningでヒットする論文は,2022年は65本,2023年は149本となっており,倍増している.このような,機械学習や深層学習を活用した研究の増加傾向は今後も続くと期待される.
つぎに,学会やシンポジウムの動向に注目すると,まず,第30回機械材料・材料加工部門技術講演会(M&P2023)が,9月27日~29日の3日間にわたり,M&M部門とコロケーション開催(同会期・同会場開催)された.第29回のM&P2021はオンライン開催であったのに対し,本回は対面方式となり筑波大学で行われた.M&P部門では,講演が117件,ポスター発表が11件あり,178名が参加した(3).M&M部門と合わせると,講演は510件となり,参加者は700名以上に上った.本会は,対面方式での開催に加え,異分野融合セッションも設けられたため,部門間交流が大いに促進されたと考えられる.また,第15回日本複合材料会議JCCM-15において,「非破壊検査」に関連するセッションで4件の発表があり,テラヘルツ波やX線,超音波を用いた複合材料の非破壊検査に関する研究が報告された.さらに,国際会議に目を向けると,ポルトガルのリスボンにおいてEuropean Conference on Non-Destructive Testing (ECNDT)2023が開催され,世界中から1400名以上が参加した.スタンフォード大学では,テーマを「持続可能性,保守性,信頼性に向けたSHM設計」と設定したInternational Workshop on Structural Health Monitoring (IWSHM) 2023が開催された.
2023年のシンポジウムに関する特記事項は,NDE4.0を主題としたシンポジウムが日本で初めて開催されたことである(4).NDE4.0とは,Industry4.0に準えて,ドイツの研究者らが提唱した概念であり,デジタルデータの利活用によって非破壊検査を改革していこうとするスローガンである(5).例えば,検査対象のセンシングデータに基づいてサイバー空間にそのデジタルツインを構築し,それを検査の高度化ならびに予防保全に役立てることなどが目指されている.このNDE4.0を国内でも推進する動きが高まったため,シンポジウムの開催に至ったと考えられる.今後の動向が注目される.
最後に研究に関する受賞に触れる.2023年度「日本機械学会賞」が決定し,「構造物の健全性簡易計測技術とそのセンサ開発」が日本機械学会賞(技術功績)を,「風車異常検知およびイナーター機構による制動発電技術の開発」が日本機械学会奨励賞(技術)を受賞した.
〔齋藤 理 東京大学〕
6.3.2 強度・機能性評価
強度・機能性評価に関する研究・開発動向を把握するため,第30回機械材料・材料加工技術講演会(M&P2023)における関連する話題を中心に取り上げる.
材料の強度に関して,各種方式の3Dプリンタで造形された材料や構造の機械的特性(1,2)や幾何学的特性(3)に関する報告が増えてきている.自動車,航空機をはじめとする輸送機器においては軽量化を目的として複数の素材を用いるマルチマテリアル化が進められており,これに伴い異種材料同士の接合部(4,5),接着部(6,7)の強度評価が益々重要な課題となってきている.マルチマテリアルの素材の一つである炭素繊維強化プラスチック(CFRP)に関する研究が活発である.CFRPの繊維不連続部が力学的特性に与える影響(8)に加えて,疲労特性(9),圧縮強度(10)やドーム形状深絞り成形性(11)について報告されている.CFRP接着接合体の破壊靭性値についても報告されている(12).炭素繊維強化熱可塑性樹脂(CFRTP)についてはアルミニウム合金との超音波接合について報告されている(13).アモルファス炭素膜同士をレーザー照射により接合した事例も報告されている(14).セラミック系複合材料では耐環境コーティングの耐はく離性の向上や(15),耐熱多元素セラミックス基複合材料の材料プロセスについて検討されている(16).原子拡散現象を利用して作製した直径500nm程度の金属ウイスカの引張試験が実施されている(17).
材料の機能性に関して,樹脂成型用金型材としての利用が期待されるポーラス超硬の気孔率と機械的特性について報告されている(18).粒子加速器の重要な構成要素である超電導加速空洞に関して,コールドスプレー法によりニオブ製空洞形状を形成した事例が報告されている(19).普及しているリチウムイオン2次電池の長期信頼性に関わる電極材の構造を支えるバインダーの疲労特性について報告されている(20).がん磁気温熱療法に向けた磁性ナノ粒子含有熱応答性ゲルシートの発熱量や(21),アクチュエータやエネルギハーベスタへの応用が期待されるナノ結晶軟磁性合金薄膜の磁歪特性(22)が計測されている.アルコールの種類と濃度を識別するために酸化物半導体PNナノワイヤの溶液センサ特性が評価されている(23).構造ヘルスモニタリングに活用される圧電材料に関して,金属基圧電複合材料の分極条件が圧電性能に及ぼす影響について報告されている(24).金属ラティス構造の電気抵抗変化を利用した欠陥の非破壊検査法について検討されている(25).構造の最適設計に関して,航空機胴体用スティフナの形状最適化にディープニューラルネットワークが活用されている(26).
マルチマテリアル化と3Dプリンタの利用拡大により評価対象となる材料や構造は多様化してきており,これらの強度と機能性を正確に把握して活用することが次世代材料システムの信頼性を担保し,その性能を向上するために不可欠である.材料や構造の強度と機能性の評価,予測には機械学習やAI(人工知能)の利用も拡大するものと考えられる.
〔燈明 泰成 東北大学〕
6.3.3 トライボロジー
機械材料・材料加工の観点から見たトライボロジー分野に関連する研究について紹介する.2023年に東京都立大学で開催された日本機械学会年次大会では,機素潤滑設計部門と機械材料・材料加工部門の合同オーガナイズドセッション「トライボロジーの基礎・応用と表面設計」が開催された.そこで発表されたいくつかの講演を紹介する.
ガラスなどの透明平面に押し当てられた試料の接触状態を把握する際に,接所面内物質の物性値を測定するために複素屈折率を指標とする真実接触判別法に関する検討例(1),3次元有限要素法の数値シミュレーションと解析計算により,局所でアモントン即が成立する粘弾性体に溝を付けた場合の乾燥状態での滑りを調べ,静摩擦制御のための溝設計の新しい指針を示したもの(2),物体間の静止摩擦係数計測方法及び接触状態を変化させることなく付着力を計測する方法について述べたもの(3),タイヤの接地面内の前後応力分布を計算する新たなモデルとして摩擦係数を有するモデルを定式化し,実験的に既存モデルとの優位性を検証したもの(4),摩擦攪拌接合用Co合金ツールの摩耗メカニズムを捉えるために200℃での往復動摩耗試験を実施したもの(5),そして玉軸受に関して軌道面と転動体間に形成される油膜厚さを一定にして,潤滑油に異物を混入させた場合の耐久試験について述べたもの(6)などが報告された.
2023年に日本機械学会論文集にて報告された研究としては,平滑試験片と切欠き試験片を用いて,回転曲げ疲労試験,引張圧縮疲労試験,ねじり疲労試験におけるそれぞれの切削摩擦加工の効果を明らかにしたもの(7)が挙げられ,他にチタン合金の表面改質法として潤滑油であるPAO雰囲気中でのレーザ照射による炭化チタンの創成を利用した事例もある(8).
次に,日本トライボロジー学会では2023年春にトライボロジー会議春東京2023が開催され,「表面テクスチャによるトライボロジーの特性制御の最近の成果と今後の展開」と題するシンポジウムが注目を集めた.ここでは表面テクスチャに関する最新の研究事例を知ることができる(9)(10)(11).また,トライボロジー学会の論文では,エンジン油中でのSUJ2と銅合金の摩擦におけるトライボフィルム生成に関する報告(12)があり,銅合金組成により摩擦特性や生成するトライボフィルムに及ぼす影響について述べている.他にも,ジャーナル軸受へのテクスチャ創成に関するレビュー(13)や3次元造形されたPLAやABSに関する報告も注目される(14).3次元造形されたPLAに関してはITC(International Tribology Conference Fukuoka 2023)でも講演があり,PLAの熱処理により強度および摩擦特性が改善できる可能性が示唆されている(15).
最後に,塑性加工学会においてもトライボロジーに関連する内容は注目されている.2023年度塑性加工春季講演会において「塑性加工におけるトライボロジー技術の現状」というテーマセッションが開催された.塑性加工の観点からのトライボロジーに関する興味深い研究例が紹介されている(16).また,2023年秋に開催された塑性加工連合では,軟芯材における波状層界面の形成(積層板のしごき加工における層界面の形態制御(17)に関する報告などがあった.
このように,材料や加工に注目したトライボロジーに関するテーマは各分野において引き続き盛んに研究されている.
〔佐藤 知広 関西大学〕