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機械工学年鑑2024

1.一般

1.1 産業界の趨勢

はじめに

2023年の経済・産業の動きと2024年の展望を見よう.2023年の経済は民間設備投資に支えられて好調に推移すると思われたが,民間設備投資が想定通りに増加せず,加えて物価上昇に伴う個人消費の低迷により内需は伸びを欠いた.しかし,輸入の減少による外需(海外需要)の押上げ効果(輸入はGDPのマイナス要因だから輸入が前年から減少すればGDPは増加することになる)によりGDPは1.9%の成長率となった.鉱工業生産指数生産用機械工業,電子・デバイス工業などの半導体関連業種の生産低下から前年比-1.3%のマイナスの伸びとなった.

2024年の経済は引き続き設備投資循環が拡張期に当たること,設備投資意欲には強いものがあることから民間設備投資は増加が期待でき,内需主導の成長が見込まれる.半導体関連業種も世界的な半導体需要の回復が2024年には見込まれることから生産は上昇に転じ,鉱工業生産指数は2年続きのマイナス成長からプラス成長が見込まれる.

1.1.1 概況

最近のGDPと鉱工業生産指数,および第3次産業活動指数の推移を詳しく見ると(表1-1-1,景気は新型コロナの感染拡大下の2020年4~6月期に底を打ち回復に転じた.2021年以降のGDP の暦年ベースの推移をみると,2021年,2022年と回復傾向をたどったもののコロナ禍前の2019年の水準には到達しなかった.2022年は2021年に比べてGDP成長率が低下している.これは個人消費や民間設備投資などの内需(国内需要)は好調であったものの,輸出の増加率が小さくなり,かつ輸入の増加率が大きくなったことから外需(輸出額から輸入額を引いたもの)が減少して,外需のGDP成長率に対する寄与度がマイナスとなったことが効いている.即ち外需の寄与度(外需がどれだけGDP 成長率を上げたり下げたりしているかを示す度合い)で見ると,2021年の1.0%から2022年は-0.5%と,2022年については内需が堅調だが外需が成長の足を引っ張った形となった.

2023年は個人消費が弱くなったうえに,期待された民間設備投資が予想されたほどには伸びなかった.内需(国内需要)は弱かったが,輸入額が前年を下回ったことから外需が膨らみ,外需の寄与度が1.0%とGDP成長率の約半分を占め,これがGDP成長率を押し上げた.2022年とまさに反対のことが生じた.

内需の寄与度(内儒のGDP成長率への寄与度で,内需と外需の寄与度を合計するとGDP成長率となる)を見ると,2021年は1.5%,2022年は個人消費や民間設備投資が伸びて同じく1%となった.しかし2023年は物価上昇に伴う個人消費の低迷に加えて,民間設備投資が期待されたほどには伸びず,内需の寄与度は0.9%と前年から大きく低下した.

 

民間設備投資と輸出に多くを依存する2023年の鉱工業生産指数は低下した.リーディング産業である自動車工業が半導体の供給不足の解消から前年比で14.4%と大きな上昇を見せたが,コロナ禍でも鉱工業生産をけん引してきた生産用機械工業電子部品・デバイス工業は世界の半導体需要の減少により(2022年はシリコンサイクルの山,2023年は谷で,前回のシリコンサイクルの谷は2019年と推測)生産が低下したうえ,多くの業種で生産が低下したことから鉱工業生産全体で前年比-1.3%の低下となった.二年連続のマイナスである.

 

1-1-1 GDP・鉱工業生産指数・第3次産業活動指数の推移(暦年,実質,前年比伸び率,%)

暦 年

2021

2022

2023

GDP 2.6 1.0 1.9
 (内需) 1.5 1.5 0.9
 個人消費 0.8 2.2 0.6
 民間設備投資 0.5 1.9 2.1
 公的固定資本形成 -1.8 -9.6 2.1
 (外需) 1.0 -0.5 1.0
 輸出 11.9 5.3 3.0
 輸入 5.1 7.9 -1.3
鉱工業生産指数 6.4 -0.1 -1.3
第3次産業活動指数 1.5 1.6 1.8

(注)内需と外需は寄与度を表す.内需と外需を合計するとGDP成長率となる.

(出所)内閣府「四半期別GDP速報」2024.3,経済産業省「鉱工業指数確報」2024.3,経済産業省「第3次産業活動指数」2024.3より作成.表1-1-2も同じ

 

非製造業の動きを第3次産業活動指数でみると2021年,2022年,2023年と数字的には順調に回復しているものの各年の伸び率が低く,3年分を併せても2020年一年分の落ち込み(-6.9%)の3分の2程度にとどまっている.

 

次に,GDP,鉱工業生産指数と第3次産業活動指数の四半期の動きを見る(1-1-2).

まずはGDPの動きであるが,景気変動に強く,普段は余り変化のない個人消費がコロナ禍の影響で2021年は0.8%の成長にとどまった.しかし2022年4~6月期以降は前期比プラスとなり,2023年1~3月期まではプラス成長が続いたが,2023年4~6月期以降は物価上昇による影響がじわじわと個人消費に波及して,前期比でマイナス基調となった.個人消費はGDPの約6割を占めるので,個人消費が低迷するだけでGDPの成長率を大きく引き下げることになる.

民間設備投資堅調な投資マインド,需要の拡大,企業収益の増大などに支えられて拡張傾向にある.2023年に入ってから予想外の伸び悩みが見られた.しかし民間設備投資は設備投資循環の拡張局面(2020年を谷とする設備投資循環で,前回の設備投資循環の山は2018年)にあり,投資マインドが強く,投資環境が良好なため,この好況さは少なくとも2024年一杯は続くものと考えられる輸出も成長率のプラス基調が続いている.

 

民間設備投資と輸出に多くを依存する鉱工業生産指数はGDPと同じように2020年4~6月期に底を打ち回復に転じた(景気の山谷の判定に使われる経済指標の中には鉱工業生産関連の指標が多く使われているので,景気と鉱工業生産指数の山谷の時期はほぼ一致する).2022年の後半に入ってから半導体の供給不足から低迷していた自動車工業の生産が半導体不足の解消から急上昇した.しかしシリコンサイクルの谷は2023年と考えられ,谷に向かって世界の半導体需要が減少していった時期に当たる2022年10~12月以降は半導体製造装置を中心とした生産用機械工業の生産が急低下し,電子部品・デバイス工業の生産も同様に低下した.半導体需要関連業種の低迷を主因に,2023年は鉱工業生産全体で前年比-1.3%の低下となった.

 

第3次産業の動きを第3次産業活動指数で見ると,コロナの感染が拡大した2022年1~3月期,7~9月期,2023年10~12月期ではその影響から,個人消費と同様に前期比の伸びがマイナスとなった.また2023年に入ってからは物価上昇の影響が新たに加わった.この指数は変動が少ない個人消費に多くを依存するために通常では大きな変動はないが,コロナの影響,物価上昇の影響で変動が大きかった.第3次産業活動指数はGDP,鉱工業生産指数とともに2020年4~6月期が底となった.その後は回復に向かったが2023年は個人消費と同様に力強さを欠いた.

 

1-1-2 GDP・鉱工業生産指数・第3次産業活動指数の動向 (実質,前期比伸び率,%)

  2022 2023
1-3 4-6 7-9 10-12 1-3 4-6 7-9 10-12
GDP -0.7 1.2 -0.2 0.4 1.0 1.0 -0.8 0.1
 個人消費 -1.2 2.0 0 0.2 0.8 -0.7 -0.3 -0.3
 民間設備投資 0.1 2.2 2.0 -1.3 2.0 -1.4 -0.1 2.0
 公的固定資本形成 -4.5 -2.1 1.1 0.1 2.0 2.2 -1.0 -0.8
 輸出 1.8 2.2 2.1 1.4 -3.5 3.8 0.9 2.6
 輸入 4.3 1.4 4.5 -0.8 -1.6 -3.6 1.0 1.7
鉱工業生産指数 0.8 -1.4 3.1 -1.7 -1.7 1.3 -1.4 1.1
第3次産業活動指数 -0.2 1.4 -0.1 0 1.0 0.6 0.7 -1.3

 

企業経営者は業界需要や設備投資,円レートの先行きをどのように見ているのだろうか.昨年に引き続き内閣府の「企業行動に関するアンケート調査」を使い,企業経営者の見方がどのように変わっているのかを確かめる.内閣府が毎年1月に「企業行動に関するアンケ-ト調査」を実施している.内閣府が,今年の2月に発表した令和6年1月調査の「令和5年度企業行動に関するアンケ-ト調査」は,東京証券取引所(プライム市場及びスタンダード市場の上場企業),名古屋証券取引(プライム市場及びメイン市場の上場企業)を調査対象(3,323社)にアンケート調査を行い結果を取りまとめている.回答企業は1,439社で回答率は43.3%(昨年は41.8%).

 

1-1-3は2000年に入ってからの平成12年度調査(2001年1月調査)以降の各年度の調査から,設備投資の今後3年間の見通し(年平均伸び率)を製造業,非製造業と業種別にみたものである.平成13年度調査(2002年1月)はまさに大型のいざなみ景気(2002.2~2008.2,拡張期間は73カ月)が始まる時で景気の谷にあたり,設備投資は低調で全産業で1.2%の低い見通しと投資マインドはかなり低下していた.いざなみ景気に入ると伸びが高まり平成17~19年度調査では5%台となるが,リーマン・ショック時の平成20年度調査(2009年1月調査)では-1.2%のマイナスの見通しと前年度からは大きな落ち込みとなった.特に製造業は影響が大きく低下して-3.0%の見通しとなり,投資マインドの大きな低下が見られた.順調に拡大していたものが大きな環境変化に直面すると設備投資の見通しが一気に低下する投資マインドの怖さである.投資マインドはいったん落ち込むと回復には時間がかかるのが大きな特徴で,その後は緩やかな回復をみせたのち,アベノミクス下の平成25年度調査から29年度調査までは4%台の伸びにとどまった.アベノミクス下での設備投資は余り強くはなかったと言える.

新型コロナウイルスの感染拡大で,投資マインドは低下しているものと考えられた令和2年度調査(2021年1月調査)では全産業で4.1%の伸びと前年度調査からは伸び率が全く低下せず投資マインドの堅調さを裏付けた.設備投資の拡大には3つの要因がある.需要の拡大,利益の増加,投資マインドの改善で,これらが設備投資の後押しとなり令和3年度調査(2022年1月調査)ではコロナ禍にも拘わらず6.0%の伸びとなった.この調査後にロシアのウクライナ侵攻が始まる訳だが,足元の投資マインドは強く,令和4年度調査(2023年1月調査)では6.4%と投資マインドはより強いものとなった.今回の令和5年度調査(2024年1月調査)では6.8%の増加と前回の伸び率を更に上回り,製造業,非製造業とも堅調に推移している.コロナ禍以降は世界的な半導体需要の盛り上がり,EV関連需要の後押し,自動化・省力化の進展など需要構造の変化の大きな後押しもあり,設備投資は伸びている.現在は設備投資循環の拡張局面にあると考えられる.

 

1-1-3 今後3年間の設備投資増加率見通し(年平均伸び率,%)

調査年度 全産業 製造業 非製造業
平成12年度 3.6 3.9 3.0
13 1.2 0.8 1.9
14 2.4 2.1 2.8
15 3.1 3.0 3.2
16 4.7 5.2 4.1
17 5.9 6.2 5.5
18 5.3 5.2 5.5
19 5.1 5.1 5.1
20 -1.2 -3.0 0.9
21 1.4 0.9 1.9
22 3.4 3.9 2.8
23 4.1 4.9 3.2
24 3.5 3.5 3.5
25 4.2 4.4 3.9
26 3.9 4.2 3.5
27 4.3 4.7 4.0
28 4.4 4.0 4.8
29 4.8 4.7 4.9
30 4.8 5.5 4.2
令和元年度 4.1 3.7 4.4
4.1 3.4 4.7
6.0 6.7 5.4
6.4 6.6 6.1
5 6.8 7.1 6.5

(出所)内閣府「令和5年度企業行動に関するアンケート調査」2024.2より作成.

表1-1-4~表1-1-6も同じ

 

次に1-1-4は令和5年度調査における今後5年間(令和6年度~令和10年度)の主要業種の業界需要実質成長率及び今後3年間(令和6年度~8年度平均)の主要業種の設備投資の見通し(いずれも年平均伸び率)を見たものである.一般に業界需要の実質成長率よりも設備投資の伸び率は高くなる(業界の設備投資伸び率の業界需要実質伸び率に対する弾性値は大きい).業界需要の実質成長率が高いと設備投資伸び率の見通しがより高くなるのは普通であるが,食料品,鉄鋼,小売業,陸運業などの業種では業界需要の実質成長率が低くても需要構造の変化などが大きいことなどから設備投資の伸び率が大きくなっている.

まず業界需要の実質成長率を見ると, 素材型製造業(繊維,パルプ・紙,化学,鉄鋼,非鉄金属)の今後3年間の見通しは年平均で1.5%.一方,加工型製造業(機械,電気機器,輸送用機器,精密機器)は2.0%で,素材型製造業よりも機械産業を中心とした加工型製造業の伸びの方が高い.加工型製造業では電気機器,精密機器で高い伸び率となっているのに対し,自動車を中心とした輸送用機器では低い伸びにとどまっている.素材型産業では化学,非鉄金属で伸びが高くなっており,需要構造の大きな変化を受けた業種である.非製造業では,情報・通信業,サービス業,倉庫・運輸関連業で伸びが高い.

次に業界の設備投資の伸び率を見ると,素材型製造業の今後3年間の見通しは年平均で7.1%と加工型製造業の6.6%を上回っており,鉄鋼,化学で高い伸びとなっている.非製造業は製造業よりも伸びが低いが,陸運業,倉庫・運輸関連業で高い伸びとなっている.機械産業関連では半導体製造装置関連精密機器で二桁の伸びとなり,機械でほぼ製造業平均を若干上回る伸びとなっている.これに対して輸送用機器では需要見通しと同様に緩やかな成長率にとどまっている他,電気機械では業界需要の成長率が高い割には低い伸び率にとどまっている.

 

1-1-4 業種別実質成長率・設備投資見通し(主要業種)(年平均伸び率,%)

業種 業界需要実質成長率・今後5年間 業界設備投資伸び率・今後3年間
全産業 1.6 6.8
製造業 1.5 7.1
 (素材型製造業) 1.5 7.1
 (加工型製造業) 2.0 6.6
 (その他の製造業) 0.7 8.0
 食料品 0.7 8.0
 繊維製品 1.1 0.9
 パルプ・紙 0.1 5.0
 化学 1.7 8.6
 医薬品 0.8 4.2
 鉄鋼 1.4 11.7
 非鉄金属 1.6 1.4
 金属製品 0.8 6.8
 機械 1.8 7.1
 電気機器 2.6 5.6
 輸送用機器 1.4 5.7
 精密機器 2.2 10.3
非製造業 1.7 6.5
 建設業 1.1 7.4
 卸売業 1.4 6.4
 小売業 0.8 6.7
 不動産業 1.1 5.4
 陸運業 1.0 9.5
 倉庫・運輸関連業 1.9 8.8
 情報・通信業 3.3 7.3
 電気・ガス業 1.6 2.5
 サービス業 2.1 5.7

(注)業種分類は証券取引所の定める業種による.表1-1-6も同じ

素材型製造業:繊維製品,パルプ・紙,化学,鉄鋼,非鉄金属

加工型製造業:機械,電気機器,輸送用機器,精密機器

 

採算円レートの動きを見よう(表1-1-5.今回の調査では調査時点の2024年1月では超円安の時点にあったが(調査直前月の2023年12月のレートは144.1円,1年前の2022年12月のレートは134.9円),採算円レートは円安による原材料のコスト高などから円安方向に進んでおり123.0円/ドルと前年度調査に比べて8.5円の円安となった.円安が進むと原材料価格の上昇により採算円レートは同じように円安方向に動くが,円レートが大きく円安に振れる時は実勢レートの変化ほど採算円レートの変化は大きくはなく,両者の乖離幅は極めて大きくなる.実際のところ,令和4年度の差額は20.5円もの差があり,これは2000年度調査(平成12年度調査)以降ではアベノミクス下で円安が大きく進んだ2014年度調査(平成26年調査度)と同様に断然大きな数字であった.今回調査では21.1円もの差となり前回乖離幅を更に上回った.これは企業収益を大きく持ち上げることになり,輸出企業を中心に企業の好業績に繋がっている.しかし現在も150円を上回っている円安は,円レートの歴史から見ると異常というほかはなく,日本経済のファンダメンタルズからみても異常である.企業は円安に過度に頼ることなく,生産性の向上,国際競争力の向上に努めなければならないと考える

 

1-1-5 輸出企業の採算円レートと調査直前月のレート (円)

調査年度 輸出企業の採算

円レート

調査直前月のレート 直前月レート-

採算円レート

平成12年度 107.0 112.2 5.3
13 115.3 127.4 12.0
14 114.9 122.3 7.4
15 105.9 107.9 2.0
16 102.6 103.8 1.3
17 104.5 118.6 14.1
18 106.6 117.3 10.8
19 104.8 122.3 7.6
20 97.3 90.4 -6.9
21 92.9 89.6 -3.3
22 86.3 83.4 -2.9
23 82.0 77.9 -4.2
24 83.9 83.6 -0.2
25 92.2 103.5 11.2
26 99.0 119.4 20.4
27 103.2 121.8 12.7
28 100.5 116.0 15.5
29 100.6 113.0 12.4
30 99.8 112.5 12.7
令和元年度 100.2 109.2 9.0
99.8 103.8 4.0
101.5 113.9 12.4
114.5 134.9 20.5
5 123.0 144.1 21.1

 

令和5年度調査(2023年度調査)における製造業の採算円レートについて見ることにしよう.製造業平均の採算レートは120.5円であるが,輸入原材料比率が低い加工型製造業は118.4円で,そのなかでも電気機器が113円台となっている.一方で,輸入原材料比率の髙い素材型製造業は加工型製造業よりも円安水準にあり,かつばらつきが見られる.鉄鋼,金属製品など輸入原材料比率が高い業種では円安で採算が悪くなり採算レートは130円台となる(表1-1-6

 

1-1-6 輸出企業の業種別の採算円レート(令和5年度調査)

調査年度 採算円レート
全産業 123.0
製造業 120.5
(素材型製造業) 120.7
(加工型製造業) 118.4
(その他製造業) 126.3
 食料品 132.3
 繊維製品 117.1
 パルプ・紙 124.4
 化学 120.7
 医薬品 114.3
 ゴム製品 120.0
 ガラス・土石製品 122.7
 鉄鋼 137.8
 非鉄金属 105.0
 金属製品 133.7
 機械 121.6
 電気機器 113.6
 輸送用機器 122.6
 精密機器 117.9
 その他製品 127.0

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1.1.2 産業の動向

産業の動きを鉱工業生産指数第3次産業活動指数を使って詳しく見ることにしよう.この両者でGDPの9割以上をカバーしている(鉱工業生産指数が約2割,第3次産業活動指数が約7割を占めている).

 

鉱工業生産指数は,月末にその前月分の集計結果が速報として発表されるので速報性に優れている.指数の作成については,生産動態統計調査(昭和5年より開始)により製造工場を対象に,毎月品目ごとに何トン,何台,何個と言った生産数量を企業から報告してもらい,それを集計し,指数化している.地域別にも地域の鉱工業生産指数として公表している.

現在の鉱工業生産指数は2020年(令和2年)の工業統計調査の付加価値ウェイトを基準としたラスパイレス算式で作成されている.昨年の6月,指数作成の基準年が2015年から2020年に変更され,過去(2018年まで)にさかのぼって指数が修正された(表1-1-7で言えば,2023年は当然のこと,2021,2022年の指数も修正されている).表示方法としては,2020暦年の月平均数値を100として指数化している.ここで注意することはコロナ禍で生産が大きく落ち込んだ2020年が基準年になっていることで,2021年以降,多くの指数は当然のことながら100を超えているし,2018年,2019年の指数の多くも100を超えている.

鉱工業生産指数は金額ベースではなくて基本的には何台,何トンといった生産数量を企業から報告してもらって作成されており(集積回路等一部品目では金額で把握し,物価上昇分を調整して数量化している),物価の変動に左右されない実質ベースであることが大きな特徴である.

更には鉱工業生産指数の中身についてみると,鉱工業「生産」といいながらその指数の中身は生産の段階で把握するというよりも完成された段階で把握しているのが実状だ.自動車や家電などの量産品は完成=生産で問題はないが,受注品,中でも大物の受注品となると問題である.例えば機械器具について言えば,この指数のもととなる生産動態統計調査記入要領をみると,「最終の社内検査または立会検査を完了したものをいい,修理改造,再製品などは含めません」とある.要するに,対象期間のうち生産されたものではなくて,完成されたものを把握しているのであって,受注から完成までの期間が長い大きな製作物などは完成した時点で初めて生産として把握されることになる.従って,大型製作物の場合は生産がかなり進行していても生産指数の中に含まれていないことになり,逆に完成した段階で生産として計上されるのでその際に生産指数がピントはね上がり読みづらくなる.その意味では,生産指数と言いながら生産の実態を厳密にはあらわしていないことになり,大きな受注生産品の多い「生産用機械工業」,「汎用機械工業」や「電気機械工業」の生産指数が大きく振れたりすることになる.このような事態を避けるために,水管ボイラ,一般用蒸気タ-ビン,非標準変圧器,鋼船といった製作開始から納期までの期間の長い大型製作物のうちで一定規模以上の大きなものは工事の「進ちょく量」調査という形で毎月数量を把握し,これを指数に組み入れることにより生産の実態に近づけるようにしている.ただし,上記の品目で「進ちょく量」調査の対象にはならない一定規模以下のものでも大きな制作物の場合は完成ベースで報告されるから,「生産用機械工業」,「汎用機械工業」や「電気機械工業」の生産指数は振れが大きくなるのが実情で,読み方には注意を要する.

 

表1-1-7 鉱工業生産指数 業種別の推移 (暦年,2020=100,前年比伸び率,%)

  生産指数 伸び率
2021 2022 2023 2021 2022 2023
鉱工業 105.4 105.3 103.9 5.4 -0.1 -1.3
製造工業 105.4 105.3 104 5.4 -0.1 -1.2
 鉄鋼業 116.7 108.6 106.1 16.7 -6.9 -2.3
 非鉄金属工業 107.3 106.2 102.2 7.3 -1.0 -3.8
 金属製品工業 103.5 103 99.2 3.5 -0.5 -3.7
 生産用機械工業 121.6 134 120.7 21.6 10.2 -9.9
 汎用機械工業 112.5 115.8 110.4 12.5 2.9 -4.7
 業務用機械工業 106 112.9 116.2 6.0 6.5 2.9
 電子部品・デバイス工業 111.4 104.8 94.6 11.4 -5.9 -9.7
 電気機械工業 108.4 109.5 110.2 8.4 1.0 0.6
 情報通信機械工業 95.2 86.8 90.8 -4.8 -8.8 4.6
 自動車工業 101.8 98.9 113.1 1.8 -2.8 14.4
 輸送機械工業(除,自動車) 82 91.3 103.1 -18.0 11.3 12.9
 窯業・土石製品工業 103.9 99.2 94.1 3.9 -4.5 -5.1
 化学工業 104.5 103.6 99.7 4.5 -0.9 -3.8
 石油・石炭製品工業 100.3 106.6 102.1 0.3 6.3 -4.2
 プラスチック製品工業 102.9 100.8 98.8 2.9 -2.0 -2.0
 パルプ・紙・紙製品工業 103 101.9 96.2 3.0 -1.1 -5.6
 食料品・たばこ工業 99.4 98.7 98.3 -0.6 -0.7 -0.4
  その他工業 105.5 104.5 100.3 5.5 -0.9 -4.0
 鉱業 99.1 94.9 88.6 -0.9 -4.2 -6.6

(出所)経済産業省「鉱工業指数確報」2024.3より作成

 

表1-1-7の説明に移ると,アベノミクス下では2012年11月が景気の底で2018年10月が山と景気の拡張期間が71カ月にも及んだ.景気の山と谷はほほ鉱工業生産指数の山と谷に連動しており,暦年ベースでいえば2018年が前回の鉱工業生産指数の山となる.景気循環の谷は2020年5月,鉱工業生産指数も2020年5月が底で,暦年ベースでは2020年が景気や鉱工業生産指数の底となる.

表1-1-7には掲載されてないが,前回の生産の山である2018年の鉱工業生産指数は114.6と基準年である2020年の水準(100)を14.6%上回っている.基準年の2020年はコロナ禍で輸出や民間設備投資の落ち込みから生産が低下し,前年の2019年(指数は111.6)を10.4%下回った.業種別に見ると2020年は半導体を中心とした電子部品・デバイス工業のみがシリコンサイクルが2019年を谷として回復過程にあったことを受けて生産が上向き,前年の水準を上回ったが,それ以外の業種の生産はすべて低下し,かつ二ケタの低下の業種が多く見られた.特に自動車工業,鉄鋼業,汎用機械工業など輸出依存度が高い業種で輸出の不振から生産の低下が目立った.

2021年は前年比5.4%の上昇となったものの前年の2020年の落ち込みの半分程度を取り戻すにとどまった.しかし業種別に見るとほとんどの業種で上昇し,生産用機械工業,鉄鋼業,汎用機械工業,電子部品・デバイス工業で二けたの上昇となった.一方,半導体の供給不足を主因に自動車工業の生産は前年比で1.8%の上昇と2020年の大きな落ち込み(-17.4%)からの回復は小さかった.食料品・たばこ工業は個人消費の低迷を受け,生産はほぼ横ばいにとどまった.

2022年は半導体製造装置産業用ロボットや旋盤などの生産用機械工業が二桁の伸び(前年比伸び率10.2%)を見せたものの,鉱工業生産のうちウェイトが12.5%もある主力の自動車工業が半導体の供給不足から低下(同-2.8%)したのに加え,年後半からの電子部品・デバイス工業(同-5.9%)や情報通信機械工業(-8.8%)の生産の低下により鉱工業生産は前年比-0.1%とほぼ横ばいにとどまった.また汎用機械工業,電気機械工業は前年比でプラスとなったものの,前年に比べかなりの生産の伸び率の低下が見られた.

2023年は自動車工業の生産が半導体の供給不足の解消から前年に比べて14.4%上昇したものの,これまで2年連続2ケタの伸びと鉱工業生産を牽引した生産用機械工業の生産が大きく低下(前年比伸び率-9.9%)したのに加え,電子部品・デバイス工業も二年連続の落ち込み(同-9.7%)を見せた.素材型産業の生産も軒並み低下し,鉱工業全体では前年比で-1.3%の低下となった.しかし,業務用機械工業(前年比伸び率2.9%),電気機械工業(同0.6%)は伸びが小さいものの3年連続のプラスの伸びとなった.

第3次産産業の動きを見た「第3次産業活動指数」は 第3次産業に属する業種の活動を総合的に捉えることを目的とした指数である.総合指数は個別業種のサービスの生産活動を,それぞれの業種の付加価値額ウェイトにより数量ベースで加重平均した指数で,鉱工業生産指数と同様,実質ベースと考えてよい.それゆえ鉱工業生産指数に対応した第3次産業の生産指数と言えるが,生産そのものではないので「活動」という表現をとっている.

第3次産業活動指数は,第3次産業の生産活動を数量面から捉えた指標(鉱工業生産指数と同様に,数量ベースであるために物価変動の影響を受けない)であるため,活動の状況を示す数量系列を最優先に個別業種ごと(細分類)に活動をもっとも的確に代表していると考えられる系列を選定している.例えば,電力業は発受電電力量,ガス業はガス生産量,映画業では入場者数,カルチャーセンターは受講生数等である.数量が得られないものについては金額をデフレーター(物価指数)で割って実質化している.例えば,卸売業ならば販売額を国内企業物価等で割って実質化している.金額も得られない場合は生産の動きを代用し得る数量データ(例えば冠婚葬祭業では婚姻件数,死亡者数)を使い指数化し,更には生産の動きを代用し得る金額データ(洗濯業の洗濯代,理髪業の理髪料等)を用いて指数化している.

 

表1-1-8 第3次産業活動指数 業種別の推移 (暦年,2015=100,前年比伸び率,%)

  活動指数 伸び率
2021 2022 2023 2021 2022 2023
第3次産業総合 97.4 99 100.8 1.5 1.6 1.8
 電気・ガス・熱供給・水道業 98.7 100 97.1 1.2 1.3 -2.9
 情報通信業 104.4 105.2 106.4 1.6 0.8 1.1
 運輸業,郵便業 91.6 96.3 98 1.2 5.1 1.8
 卸売業 92 86.9 85 0.8 -5.5 -2.2
 金融業,保険業 105.2 110.8 115.5 4.3 5.3 4.2
 物品賃貸業(自動車賃貸業を含む) 104.1 102.8 101.1 -1.1 -1.2 -1.7
 事業者向け関連サービス 103.4 105.3 106.9 1.0 1.8 1.5
 小売業 98 97.1 97.6 0.5 -0.9 0.5
 不動産業 101.3 99.1 99.1 -0.1 -2.2 0.0
 医療,福祉 109.4 112.2 115.8 4.6 2.6 3.2
 生活娯楽関連サービス 73.2 82.9 90.5 -1.2 13.3 9.2

(出所)経済産業省「第3次産業活動指数」2024.3より作成

 

第3次産業活動指数(総合)の動きを見ると(表1-1-8),鉱工業生産指数と同様に2020年5月に底をつけてその後急速に回復したが,2021年に入ってからは一進一退で推移しており,暦年ベースで見ても,2021年,2022年,2023年と低い伸びが続いている(第3次産業活動指数の基準年は2015年のまま).

第3次産業活動指数は2020年の前年比-6.9%もの大きな低下のあと,2021年は回復が期待されたが,個人消費が引き続き回復に力強さを欠き,それを裏付ける形で全体では1.5%と小さな伸びにとどまった.金融業,保険業(前年比伸び率4.3%)と医療,福祉(同4.6%)で伸びが見られたものの,生活娯楽関連サービス業,物品賃貸業,不動産業では低下した.生産活動に連動する卸売業でも小さな伸び(同0.8%)にとどまった.

2022年は前年並みの1.6%の伸びにとどまった.2021年,2022年の二年分の伸びを足しても2020年の落ち込み(前年比伸び率-6.9%)の半分にも達しない.生産活動に連動する運輸業,郵便業は大きく伸び(前年比伸び率5.1%),生活娯楽関連サービス,金融業,保険業もかなりの伸びを見せたが,消費関連の小売業(同-0.9%),卸売業(同-5.5%)では前年を下回った.

2023年は消費の低迷を受けて引き続き低い伸びにとどまった.生活娯楽関連サービス(前年比伸び率9.2%)で二年連続の大きな伸びが見られたほか,金融業,保険業(同4.2%)と医療,福祉(同3.2%)でも伸びた.しかし,生産活動に連動する運輸業,郵便業(同1.8%)の伸び率が前年よりかなり小さくなり,消費関連の卸売業(同-2.2%)では前年に引続きマイナス成長となったほか,小売業(同0.5%)も低迷した.

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1.1.3 機械産業の生産動向

機械産業の各業種の動きを2022年以降,四半期別にについて見ることにしよう(表1-1-9)

生産用機械工業の生産は,2022年7~9月期までは半導体製造装置に大きく支えられて上昇を続けていた.しかし,世界的な半導体関連需要の減少から2022年10~12月期以降は半導体製造装置の生産は大きく低下し(2023年10~12月期では半導体製造装置の指数は140.9にまで低下),生産用機械工業の生産を押し下げた.建設・鉱山機械の生産は輸出を中心に引き続き堅調に推移したが,産業用ロボット(2023年10~12月期 104.6)やプラスチック加工機械(同118.7)は輸出を中心に生産が低下し,2023年10~12月期では生産用機械工業の指数は117.7まで低下した.

汎用機械工業は2022年には半導体関連の空気圧縮機,物流や半導体関連のコンベアの生産が大きく上昇したが2023年には低下し,ボイラ・原動機,固定比減速機も生産が低下した.

業務用機械工業分析機器,試験機,カメラの生産が大きく上昇したが,多くの品目で生産が低下したため,2023年の上昇率は前年より低下.しかし業務用機械全体では3年連続で生産は上昇傾向にある.

 

1-1-9 鉱工業生産指数 機械産業の生産動向(四半期)(前期比伸び率,%)

  2022 2023
1-3 4-6 7-9 10-12 1-3 4-6 7-9 10-12
生産用機械工業 0.0 0.4 12.8 -5.6 -10.6 1.6 -5.1 0.3
汎用機械工業 0.3 -0.6 5.1 -3.6 -4.8 1.5 -2.4 2.6
業務用機械工業 3.9 1.9 3.7 5.0 -1.7 -0.9 -1.9 2.4
電子部品・デバイス工業 1.9 -4.4 -4.2 -4.0 -5.7 2.1 -1.9 4.7
電気機械工業 2.3 -0.4 4.1 1.3 -1.2 0.2 -3.0 1.0
情報通信機械工業 -4.2 1.6 6.8 0.9 2.9 -0.4 -2.3 -4.5
自動車工業 2.3 -8.4 11.9 0.8 4.2 6.5 0.6 2.5
輸送機械工業(除,自動車) 0.4 10.3 6.1 2.0 0.0 3.4 4.9 2.7

(出所)経済産業省「鉱工業指数確報」2024.3より作成

 

電子部品・デバイス工業は世界的な半導体需給の緩和から2021年10~12月期以降,生産は低下傾向にある(2023年10~12月期 104.6).2022年はシリコンサイクルの山,2023年はシリコンサイクルの谷に当たる.2023年でみるとウェイトが高い集積回路でほぼ横ばいにとどまったものの,電子デバイス(前年比―22.8%),電子部品(前年比-11.8%),電子回路(前年比-12.7%)が大きく低下したことから電子部品・デバイス工業全体で前年比-9.7%と二年連続の低下となった.

電気機械工業は2023年に入っても電子応用装置電池を中心に前年に引き続き生産は緩やかな上昇傾向にある.リチウムイオン電池の生産の伸びは大きく,半導体・IC測定器の生産水準は高い.前年に比べて上昇の勢いは弱くなったが,前年を上回る伸びとなった.

情報通信機械工業デスクトップ型パソコンが2021年から,ノート型パソコンが2022年には生産が低下したが,両者とも2023年に入って若干生産を戻した.しかし,情報通信機械工業全体では2023年4~6月期以降,3期連続で前期比低下となった.

自動車工業の生産は半導体の供給不足を主因に不振となり,2021年以降2022年の4~6月期まで低下基調であったが,その後2022年7~9月期には半導体の需給の緩和から大きく上昇したが,2022年全体では前半の落ち込みが効いて前年を下回る水準であった.しかしながら2022年7~9月期以降は6期連続の前期比プラスとなり,2023年の生産は前年比二ケタの上昇となった.

輸送用機械(除,自動車工業)の生産はここ数年低下傾向にあり,生産水準も低かった.2022年は前年に比べて上昇したのち,2023年は前年比で12.9の上昇となった.好調な物流の動きを受けて産業車両(主にフォークリフトトラック)の生産は上昇傾向にあったが,2023年には前年比-17.0%の低下となった.反対に航空機部品は,2022年は輸出の増加を主因に前年比で34.4%の上昇のあと,2023年も32.9%の大幅の上昇となった.船舶・同機関は低水準が続いている.

 

次に機械産業の暦年ベースの生産の推移を業種別に見る.

生産用機械工業(表1-1-10)では2020年はコロナ禍により生産が低下し,前回ピークの2018年(指数123.3)から比較すると大幅な低下となった.しかし,2020年10~12月期以降生産は上昇に転じた.設備投資関連の生産用機械工業はリーマン・ショックなどの大きなショックの後は過剰設備に加えて投資マインドの低迷が続くことなどから生産の回復がかなり遅れるのが普通であったが,今回は違った.2019年のシリコンサイクルの谷を経て,2020年以降の世界的な半導体関連需要の急増に伴い半導体製造装置が輸出を中心に大きく伸びた.輸出が好調な建設・鉱山機械,省人化・自動化関連の産業用ロボット,EV関連のプラスチック加工機械の生産も好調で生産用機械全体では2021年は前年比21.6%もの大幅な上昇となった.その後2022年も生産は好調に推移した.しかし2022年に入ってからは世界の半導体需要に陰りが見え始めたこと(2022年はシリコンサイクルのピーク)から半導体製造装置の生産が2022年7~9月期にピークを迎え,生産用機械工業の2022年の生産の伸びは前年比10.2%と前年の伸びの半分以下となった.半導体製造装置の生産は低下を続け,2023年10~12月期の生産は140.9まで低下した.プラスチック加工機械も2023年には中国向けを中心とした輸出の減少により大きく低下した.工作機械は2022年にはピークを迎え2023年には生産は若干の低下となったが,ピークからの低下幅は通常期よりは小さかった.建設・鉱山機械の生産は増加を続けたものの,2023年の生産用機械の生産は前年比-9.9%の低下となった.

 

表1-1-10 生産用機械工業の生産推移 (暦年,2020=100,前年比伸び率,%)

  生産指数 伸び率
2021 2022 2023 2021 2022 2023
生産用機械工業 121.6 134 130.7 21.6 10.2 -9.9
 農業用機械 119.6 115.8 94.2 19.6 -3.2 -18.7
 建設・鉱山機械 120.8 126.8 132.7 20.8 5.0 4.7
  (ショベル系掘削装置)  122.9 128.4 132.1 22.9 4.5 2.9
 生活関連産業用機械 97.3 92.6 97.3 -2.7 -4.8 5.1
  (印刷機械) 115.1 122.9 137.4 15.1 6.8 11.8
 基礎素材産業用機械 111.6 115.6 105.3 11.6 3.6 -8.9
  (化学機械) 100.2 102.2 90.9 0.2 2.0 -11.1
  (プラスチック加工機械) 125.9 129.6 117.7 25.9 2.9 -9.2
 金属加工機械 117.3 140.3 139.7 17.3 19.6 -0.4
  (旋盤) 123.9 169.2 165.3 23.9 36.6 -2.2
  (研削盤) 95.3 114.7 118.2 -4.7 20.4 3.1
  (金属工作専用機) 75.7 71.4 77.4 -24.3 -5.7 8.4
  (マシニングセンタ) 144.1 165.5 153.2 44.1 14.9 -7.4
  (機械プレス) 78.3 82.1 111.9 -21.7 4.9 36.2
 半導体・フラットパネルディスプレイ製造装置 131.5 154.2 129.9 31.5 17.3 -15.6
  (半導体製造装置) 139 168.5 145.6 39.0 21.2 -13.6
 機械工具 121.2 112.4 94.7 21.3 -7.2 -15.7
 その他の生産用機械 121.1 134.2 115.2 21.1 10.8 -14.2
  (繊維機械) 140.8 167 154.9 40.8 18.6 -7.2
  (産業用ロボット) 131.2 150.5 123.4 31.2 14.7 -18.9

(注)(  )表示はそれぞれの品目の主製品を取りあげている.以下の表1-1-11~1-1-13も同じ

(出所)経済産業省「鉱工業指数確報」2024.3より作成.以下の表1-1-11~1-1-13も同じ.

 

品目別に生産用機械工業の2023年の動きを見ると,コロナ禍でも高い生産水準が続いていた半導体製造装置は中国等への輸出の好調から2021年は39.0%の上昇と前年の伸び(6.6%上昇)を大きく上回り,2022年は更に生産が上向き前年比21.2%の上昇となった.しかしながら2022年10~12月期以降,世界的な半導体関連需要の減少の影響から生産は低下し,生産用機械への押し上げがなくなり,2023年には前年比で-13.6%もの低下となった.

2019年には生産が大きく低下した産業用ロボットは2020年ではコロナ禍にもかかわらず前年を5.3%上回り,2021年は伸びが加速化し前年比31.3%もの大幅上昇となった.省力化・自動化の流れから,米国を中心とした輸出向けが好調で2022年の生産も前年比14.7%の伸びとなったが,2023年には輸出の不振を主因に生産は急落し,2023年10~12月期には104.6にまで低下した.ショベル系掘削装置は輸出が好調で2021年は2割を超す生産の伸びとなり,2022年,2023年も高水準を維持した.

輸出依存度の高い工作機械は全体では生産は高い水準にはあるが,金属工作専用機の生産は低迷している.旋盤,マシニングセンタは2022年には大きな生産の上昇を見せ,ピークを迎えた.2023年に入ってから生産はやや低下したが,水準としては比較的高い.しかし,2022年には生産のピークを迎えたものの前回(2018年)のピークに比べるとピークの水準としては低い.前回の2018年のピーク時は,旋盤(2018年は192.0),マシニングセンタ(同200.1)と水準は高かった.今回は輸出に引っ張られた形で,内需が前回のピーク時と比べれば意外に弱かったことが大きな要因だ.内需の拡大が必要だ.自動車向けが主力の機械プレスは2022年には前年比4.9%の上昇と3年連続のマイナスのあとプラスとなったものの自動車生産の低迷から水準は低かった.しかし,2023年には自動車の生産の回復に伴い,大きく生産指数は上昇した.

景気の動きに対して生産が敏感に反応する射出成型機や押出成形機などのプラスチック加工機械の生産は2021年,2022年と上昇傾向にあったが,2023年には低下した.これはこれまでは輸出において,押出成形機がEVのバッテリー部品(セパレーター)製作用に中国向けを中心に急増していたが,2023年になってからは大きく減少したことが効いている.

 

汎用機械工業(表1-1-11)は2021年の生産は前年の生産の低下(前年比伸び率-12.3%)を取り戻すかのように前年比12.5%の上昇となり,ほぼコロナ禍前の2019年の水準に戻った.2022年は前年比プラスとなったものの,前年比2.9%と伸び率は小さい.2023年の動きをみると主力のボイラ・原動機は2019年以降水準が低下している.直近の生産の山である2018年(150.1)と比べれば74.4%の水準にとどまっている.汎用内燃機械の生産水準は高いが,水管ボイラ,一般用蒸気タービンでは石炭火力発電の抑制の影響が強く出ており水準は高くない.

一方,搬送用のコンベヤは2022年にかけて物流が好調であったことや半導体製造業向けに伸びたことから2022年までは生産は伸びたが,2023年はマイナスに転じた.ポンプは公共工事向けが増加したが,半導体製造業向けは減少し,横這い.化学プラント向けの圧縮機も横ばい傾向にある.プラスチック機械と同様に景気の動向に生産が敏感に動くと言われている固定比減速機は景気の落ち込みから2020年は前年比-18.9%と大きく落ち込んだが,景気の回復につれて2021年でその落ち込みを取り戻し,2022年でさらに生産が上向いた.2023年には生産はやや低下したが,高水準にある.

 

表1-1-11 汎用機械工業,業務用機械工業の生産推移 (暦年,2020=100,前年比伸び率,%)

  生産指数 伸び率
2021 2022 2023 2021 2022 2023
汎用機械工業 112.5 115.8 110.4 12.5 2.9 -4.7
 ボイラ・原動機 109.4 117.7 111.7 9.4 7.6 -5.1
  (水管ボイラ) 102.1 112.2 104 2.1 9.9 -7.3
  (一般用蒸気タービン) 52 89.7 98.6 -48.0 72.5 9.9
  (汎用内燃機関) 134.1 133.8 123.5 34.1 -0.2 -7.7
 ポンプ・圧縮機械 117.5 121.5 115.5 17.5 3.4 -4.9
  (ポンプ) 100.9 99.3 103.4 0.9 -1.6 4.3
  (圧縮機) 102.2 108.1 103.2 2.2 5.8 -4.5
  (空気圧縮機) 134.8 148.9 136.7 34.8 10.5 -8.2
 運搬機械 98.3 107.6 105.3 -1.7 9.5 -2.1
  (エレベータ) 92.9 95.7 96.5 -7.1 3.0 0.8
  (運搬用クレーン) 102.9 104.6 99.8 2.9 1.7 -4.6
  (コンベヤ) 101.9 122.3 117.2 1.9 20.2 -3.8
 冷凍機・温湿調整装置 116.6 114.2 109 13.3 0.8 -4.6
 汎用機械器具部品 116.8 114.3 108.1 16.8 -2.1 -5.4
 (固定比減速機) 121.9 127.9 124.3 21.9 4.9 -2.8
 (軸受) 124.3 116 106.1 24.3 -6.7 -8.5
業務用機械工業 106 112.9 116.2 6.0 6.5 2.9
 事務用機器 97 128.8 114.1 -3.0 32.8 -11.4
 (複写機) 97 128.8 114.1 -3.0 32.8 -11.4
 サービス用機器 81.3 93.1 91.7 -18.7 14.5 -1.5
 (自動販売機) 81.3 93.1 91.7 -18.7 14.5 -1.6
 計測機器 113.6 113.8 100.7 13.6 0.2 -11.5
 (工業用計測機) 105.4 102 95.3 5.4 -3.2 -6.6
 (精密測定機) 135 139.8 113.9 35.0 3.6 -18.5
 分析機器・試験機 104.6 116.8 133.9 4.6 11.7 14.6
  (分析機器) 104.7 121.5 139 4.7 16.0 14.4
  (試験機) 104.5 86.8 101.5 4.5 -16.9 16.9
 光学機器・レンズ 110.5 105.5 101 10.5 -4.5 -4.3
  (カメラ) 109.2 101.4 104 9.2 -7.1 2.6

 

業務用機械工業(表1-1-11)は2023年の生産は前年に比べて2.9%の上昇で,三年連続の安定的な伸びとなった.多くの品目で生産は低下となったが,分析機器,試験機の生産が大きく上昇している.複写機,自動販売機,工業用計測器,精密測定機の生産は低下したが,カメラの生産は上昇した.

 

電子部品・デバイス工業(表1-1-12)は2020年かシリコンサイクルの上昇局面にはいっており,コロナ禍にもかかわらず輸出を中心とした回復があり前年を1.4%上回った.このような状況から,2020年に生産が上昇した唯一の業種であった.世界的な半導体需要の拡大を受けて2021年の生産は前年比11.4%と上昇したが,2022年に入ってから半導体需要の減少から早くも2022年の4~6月期より集積回路の生産は緩やかに低下したほか,電子部品の生産は2022年で前年比-21.2%,電子デバイスは同-10.3%とそれぞれ大きく低下した.2023年はシリコンサイクルの底で.電子部品・デバイス工業の2023年の生産は前年比-9.7%と大きく低下した.2024年からシリコンサイクルの上昇局面に入るので生産の回復が期待できる.

 

表1-1-12 電子部品・デバイス工業,電気機械工業,情報通信機械工業の生産推移 (暦年,2020=100,前年比伸び率,%)

  生産指数 伸び率
2021 2022 2023 2021 2022 2023
電子部品・デバイス工業 111.4 104.8 94.6 11.4 -5.9 -9.7
 集積回路 110.4 110.1 109.4 10.4 -0.3 -0.6
 電子デバイス 108.4 97 74.9 8.4 -10.3 -22.8
 電子部品 110.6 87.2 76.9 10.6 -21.2 -11.8
 電子回路 119.7 119.5 104.3 19.7 -0.2 -12.7
 その他の電子部品 111.7 121.2 104.1 11.7 8.5 -14.1
電気機械工業 108.4 109.5 110.2 8.4 1.0 0.6
 回転電気機械 109.1 114.7 109.3 9.1 5.1 -4.7
  (非標準三相誘導電動機) 106.2 116.5 104.9 6.2 9.7 -10.0
  (小型電動機) 106.9 106.9 112.2 6.5 0.0 5.0
  (サーボモータ) 116.7 129.1 95.5 16.7 10.6 -26.0
 開閉制御装置・機器 105.3 104.2 101.1 5.3 -1.0 -3.0
  (開閉制御装置) 97.8 90.4 95.2 -2.2 -7.6 5.3
  (低圧開閉スイッチ) 126.4 131.3 85.1 26.4 3.9 -35.2
 その他の産業用電気機械 96.8 100.2 107.6 -3.2 3.6 7.3
  (標準変圧器) 102.5 112.7 112.2 2.5 10.0 -0.4
  (電力変換装置) 100.8 105.6 116.7 0.8 4.8 10.5
 家事用機器 97.1 98.8 84 -2.9 1.8 -15.0
 空調・住宅関連機器 95.4 99.7 95.7 -4.6 4.5 -4.0
  (セパレート型エアコン) 91.7 93.6 92.6 -8.3 2.1 -1.1
 配線・電球・照明機器 103 101.2 103.4 3.0 -1.7 2.2
 電池 125.5 122.9 135 25.5 -2.1 9.8
  (アルカリ蓄電池) 110.1 97.5 100.9 10.1 -11.4 3.5
  (リチウムイオン蓄電池) 140.3 142.5 165.9 40.3 1.6 16.4
 電子応用装置 116.5 113.4 128.1 16.6 -2.7 13.0
  (X線装置) 123.7 127.5 128.8 23.7 3.1 1.0
  (超音波応用装置) 115.3 102.2 123.2 15.3 -11.4 20.5
 電気計測器 122.2 125.7 125.4 22.2 2.9 -0.2
  (電気計器) 101.7 105.8 110.9 1.7 4.0 4.8
  (半導体・IC測定器) 155.9 150.9 154.6 55.9 -3.2 2.5
情報通信機械工業 95.2 86.8 90.8 -4.8 -8.8 4.6
 有線通信機器 95.5 86.8 97.1 -4.5 -9.1 11.9
 無線通信機器 98.7 82.7 71.9 -1.3 -16.2 -13.1
 民生用電子機器 96 90 107.1 -4.0 -6.9 19.0
  (デジタルカメラ) 104.2 106.3 124.6 4.2 2.0 17.2
  (カーナビゲーションシステム) 99 95.3 118.2 -1.0 -3.7 24.0
 電子計算機 90.2 77.2 81.5 -9.8 -14.4 5.6
  (デスクトップ型パソコン) 71.7 61.9 71.1 -28.3 -13.7 14.9
  (ノート型パソコン) 101 86.6 88.4 1.0 -14.3 2.1
 情報端末装置 95.9 98.9 105.6 -4.1 3.1 6.8

 

電気機械工業(表1-1-12)では2023年の生産は前年比0.6%とわずかの上昇だが,生産は3年連続のプラスの伸びとなった.他の機械業種に比べると,業務用機械工業と同様に生産の変動は小さい.主力の回転電気機械非標準三相誘導電動機サーボモータの生産の低下から前年比-4.7%の低下となり,開閉制御装置・機器の生産は開閉盛業装置の生産は上昇したが,低圧開閉スイッチの生産低下などから低下した.セパレート型エアコンも指数が90を若干超える低水準で推移している.

その他の産業用電気機械では電力変換装置が生産を押し上げている.2023年の電池の生産は前年比9.2%の上昇で,生産水準は高い.特にリチウムイオン乾電池については2023年が前年比16.9%の伸びで,生産は車載用が好調であることから指数が165.9(2020=100)と,生産水準は極めて高い状況にある.電子応用装置,電気計測器の生産水準も高く,なかでも電気計測器のうち半導体・IC測定器,電子応用装置のX線装置の生産水準は2021年以降高い水準が続いている.

 

低迷していた情報通信機械工業(表1-1-12)は2023年の生産は前年を4.6%上回った.民生用電子機器が大きく伸びた.主力の電子計算機が2023年で前年比5.6%の上昇と,前年の大幅な低下から生産が戻った.デスクトップ型パソコンは前年比で14.9%の上昇となったが,2019年のピーク時に比べれば49.0%の低い水準にとどまる.ノート型パソコンの生産も若干戻したが,これも2019年のピーク時に比べれば71%の低い水準にとどまる.民生用電子機器ではカーナビゲーションシステムは自動車の生産回復から2割以上の上昇(前年比伸び率24.6%)となったほか,デジタルカメラも17.2%の伸びとなった.

 

自動車工業(表1-1-13)は前回の生産のピークの2018年の水準から比べると2022年の生産水準は大きく低下しており80.3%と2割近い落ち込みとなった.2021年の前年比1.2%の生産の上昇のあと2022年の生産は前年比2.8%の低下となった.2020年以降の落ち込みの状態が3年間も続いた後,2023年は前年比で14.4%の上昇となった.しかし2020年のコロナによる落ち込み(前年比-17.4%)を現在でも取り戻していない.

主力の乗用車の生産は2020年の後半には急回復をみせたが,2021年に入ってからは四半期ベースで2021年7~9月期まで低下が続き2021年は前年比-3.5%の低下となった.同様の状況が2022年の前半まで続いたが,半導体不足の解消から2022年後半からの回復は急ピッチで,2023年は前年比20.5%の上昇となった.車体・自動車部品は2021年の前年比3.5%の上昇の後,2022年は前年比-5.5%の低下となったがその後の回復は大きい.トラックの生産は2023年では低下したが,好調な物流の影響を受けた2021年,2022年の生産水準は比較的高かった.一方,二輪自動車の生産は2021年以降上昇傾向にあり,2023年の生産水準は165.3(2020=100)と高水準にある.

 

表1-1-13 自動車工業,輸送機械工業(除く自動車工業)の生産推移 (暦年,2020=100,前年比伸び率,%)

  生産指数 伸び率
2021 2022 2023 2021 2022 2023
自動車工業 101.8 98.9 113.1 1.8 -2.8 14.4
 乗用車 96.5 95.1 114.6 -3.5 -1.5 20.5
 トラック 119.2 118.8 113.9 19.2 -0.3 -4.1
 車体・自動車部品 103.5 97.8 109.6 3.5 -5.5 12.3
 二輪自動車 139 150.6 165.3 39.0 8.3 9.8
輸送機械工業(除,自動車工業) 82 91.3 103.1 -18.0 11.3 12.9
 産業車両 118.3 125 117.4 18.3 5.7 -6.1
  (フォークリフトトラック) 110.2 116.6 96.9 10.2 6.0 -17.0
 航空機部品 69.4 93.3 124 -30.6 34.4 32.9
  (航空機用機体部品) 54.4 60.9 87.3 -45.6 11.9 43.1
  (航空機用発動機) 76.7 109 141.8 -23.3 42.1 30.1
 船舶・同機関 84.6 81.8 84.3 -15.4 -3.3 3.1
  (舶用ディーゼル機関) 93.6 103.6 107.2 -6.4 10.7 3.5

 

輸送用機械(除,自動車工業)(表1-1-13)の生産は2年連続の上昇.2022年は前年に比べて11.3%上昇したのち,2023年は前年比で12.9%の上昇とこれまでの低水準を取り戻した格好だ.2022年にかけて好調に推移した物流の動きを受けて産業車両(主にフォークリフトトラック)の生産は2021年の10.2%の上昇となったのち,2022年にも6.0%の上昇の後の2023年は大きく低下した.航空機部品は2021年の輸出の不振による前年比30.6%の低下の後,輸出を中心に2022年は前年比で34.4%の上昇のあと,2023年も輸出に支えられて前年比32.9%の大幅の上昇となった.特に航空機発動機の生産の伸びが大きい.船舶・同機関は低水準が続いているが,舶用ディーゼル機関の生産は伸びている.

                    〔近藤 正彦 元中央大学・立教大学兼任講師〕

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1.2 工業研究

1.2.1 研究費,研究者数の動き

図1に研究費総額と対国内総生産比率を示す.2022年度の研究費総額は20兆7040億円(前年度比4.88%増)で,国内総生産に対する比率は3.65%である.

図1 研究費総額とその対国内総生産比率(1)

 

図2 研究主体別の研究費と研究費総額に対する割合(1)

 

図2は研究主体別研究費の額と研究費総額に対する割合の年度による変化を示している.2022年度の研究費総額の73.1%を占める企業等の研究費は前年度比6.4%の増加,研究費総額の8.4%を占める非営利団体・公的機関の研究費は前年度比0.01%の減少,18.6%を占める大学等の研究費は1.5%増となっている.

図3は,自然科学に使用した研究費を基礎研究費,応用研究費,開発研究費に分類した性格別の研究費の額と自然科学に使用した研究費全体に占める割合の年度ごとの変遷を示している.企業等で行われる開発研究費が最も多く,2022年度は12兆5852億円と自然科学に使用した研究費全体の65.3%を占め,基礎研究費は2兆8060億円で14.6%,応用研究費は3兆8910億円で20.2%を占めている.

 

図3 性格別研究費とその割合(1)

 

図4 特定目的別研究費(1)

 

図4は,2022年度の研究費のうち,特定の目的のために使用した研究費の額を示している.ライフサイエンス分野が3兆3827億円で研究費全体に占める割合が16.3%,情報通信分野が3兆138億円で14.6%,環境分野が1兆4240億円で6.9%,物質・材料分野が1兆1940億円で5.8%,エネルギー分野が1兆333億円で5.0%などとなっている.前年度との比較では,ナノテクノロジー分野が16.9%,物質・材料分野が13.5%の増となっている.

企業における2022年度の研究費を産業大分類別にみると,「製造業」が12兆7884億円と研究費全体に占める割合が90.3%と最も多く,次いで「学術研究,専門・技術サービス業」が9493億円(同6.7%),「情報通信業」が6476億円(同4.6%)となっている.

表1は,2022年度の企業における研究費のうち自然科学に使用した研究費を産業大分類別に,研究費総額,基礎研究費,応用研究費,開発研究費に分けて示している.自然科学に使用した研究費は,全産業で前年度比6.4%増,「情報通信業」で33.6%増である.製造業の中では「輸送用機械器具製造業」が最も多い4兆0118億円,前年度比8.9%増であり,2022年度に自然科学に使用した研究費総額の28.3%を占めており,その88.4%が開発研究に使われている.

 

自然科学に使用した
研究費
2022年度 総額に対する比率 前年度比
産業別 総額 基礎
研究費
応用
研究費
開発
研究費
総額 基礎
研究費
応用
研究費
開発
研究費
総額 基礎
研究費
応用
研究費
開発
研究費
億円 億円 億円 億円 % % % % % % %
全産業 150917 10354 23550 117013 100.0% 6.9 15.6 77.5 6.4 -3.2 3.1 8.0
製造業 127884 8787 21074 98022 84.7% 6.9 16.5 76.6 4.9 -3.4 2.7 6.3
輸送用機械器具製造業 40118 1922 2745 35452 26.6% 4.8 6.8 88.4 8.9 -2.8 19.2 8.8
情報通信機械器具工業 8290 465 1857 5969 5.5% 5.6 22.4 72.0 -18.9 -33.6 -19.7 -17.3
医薬品製造業 14304 2715 2885 8704 9.5% 19.0 20.2 60.9 2.3 1.4 -3.7 4.7
電気機械器具製造業 9320 393 2578 6349 6.2% 4.2 27.7 68.1 12.0 50.0 0.1 15.8
業務用機械器具製造業 7810 541 711 6558 5.2% 6.9 9.1 84.0 9.2 48.2 14.7 6.3
電子部品・デバイス・電子回路製造業 12311 181 2583 9547 8.2% 1.5 21.0 77.5 12.4 -4.2 7.3 14.2
化学工業 9555 824 2406 6326 6.3% 8.6 25.2 66.2 1.3 -2.6 -0.8 2.7
生産用機械器具製造業 6867 245 1249 5374 4.6% 3.6 18.2 78.3 9.0 -48.4 30.6 10.3
はん用機械器具製造業 3254 259 336 2659 2.2% 8.0 10.3 81.7 11.9 -26.6 11.6 17.9
食料品製造業 2411 329 638 1443 1.6% 13.6 26.5 59.9 -14.5 -19.2 -9.5 -15.6
情報通信業 6476 66 233 6177 4.3% 1.0 3.6 95.4 33.6 100.0 -5.3 35.2
卸売業 4297 680 424 3194 2.8% 15.8 9.9 74.3 4.5 -14.1 2.9 9.9
学術研究,専門・技術サービス業 9493 640 1300 7552 6.3% 6.7 13.7 79.6 15.4 9.8 16.3 15.8

表1 産業大分類別の自然科学に使用した企業の研究費総額及び比率(1)

 

図5は男性研究者と女性研究者の数を示している.1999年度に7.6万人であった女性研究者は,年々増加し,2022年度には18.33万人になり,まだ割合は少ないものの全研究者の18.3%となっている.

図6は職種別研究関係従業者数の推移を示す.研究者が91.0万人(全体に占める割合79.5%),研究事務その他の関係者が10.0万人(同8.7%),研究補助者が7.4万人(同6.4%),技能者が6.0万人(同5.3%)となっており,前年比で,研究補助者が2.5%減,研究事務その他の関係者が2.0%減,研究者が0.2%増,技能者が1.6%増となっている.

図5 男性研究者と女性研究者の数(1)

図6 職種別研究関係従業者数(1)

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1.2.2 国際技術交流(技術貿易)の動き

図7は諸外国との特許,ノウハウなどの技術の提供及び受入れである技術輸出の受取額と技術輸入の支払額を示している.2022年度の技術輸出の受取額は4兆9959億円で前年度に比べ38.0%増であり,2年連続で増加した.このうち海外の親子会社からの受取額の受取額全体に占める割合は63.6%であり3兆1796億円となっている.技術輸入の支払額は7137億円で前年度に比べて15.1%増であり,3年連続で増加した.このうち海外の親子会社への支払額は支払額全体に占める割合が38.8%であり2771億円となっている.

図7 技術輸出受取額と技術輸入額(1)

 

図8は相手国別の技術輸出の受取額,図9は相手国別の技術輸入の支払額を示している.いずれもアメリカ合衆国相手が最も多く,技術輸出の受取額は1兆5784億円で前年度比22.5%増であり,受取額全体に占める割合は31.6%,支払額は4521億円で3.0%増であり,支払額全体に占める割合は63.4%となっている.また,技術輸出の受取額は,中国,イギリス,メキシコ,タイが2~5位を占め,中国が5883億円で前年度比1.1%減,イギリスが4809億円で40.7%増,メキシコが4773億円で前年度比435.8%の大幅増,タイが3988億円で前年度比16.5%増となっている.技術輸入の支払額は,アメリカ合衆国の他にはイギリス,スイス,ドイツ,デンマークなどヨーロッパ諸国が多い.

図8 国別の技術輸出の受取額(1)(2)(3)(4)(5)

図9 国別の技術輸入の支払額(1)(2)(3)(4)(5)

〔手塚 明 産業技術総合研究所〕

参考文献

(1) 2023年(令和5年)科学技術研究調査・結果の概要, 令和5年12月, 総務省

(2) 2022年(令和4年)科学技術研究調査・結果の概要, 令和4年12月, 総務省

(3) 2021年(令和3年)科学技術研究調査・結果の概要, 令和3年12月, 総務省

(4) 2020年(令和2年)科学技術研究調査・結果の概要, 令和2年12月, 総務省

(5) 2019年(令和元年)科学技術研究調査・結果の概要, 令和元年12月, 総務省

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