21. 交通・物流
21.1 自動車
21.1.1 概況
a.生産
2022年の四輪車生産(1)は784万台(前年比0.1%減)で,内訳は乗用車657万台,トラック119万台,バス9万台で,二輪車生産は54万台(同7.5%増)である.
b.輸出
2022年の新車輸出(1)は乗用車332万台(同1.4%減)で生産に占める割合は50.6%で2021年より0.6%減少した.二輪車は46 万台( 同12.4%増)で生産に占める割合は85% で2021年より4.5%増加した.
c.輸入
2022年の日本メーカー車を含めた輸入車新規登録台数(2)は31.0 万台で,前年比9.9%減となった.
d.保有台数
2022年12月末で,乗用車6216 万台,トラック1457万台,バス221万台,原付を除く二輪車400 万台になっている(3).
〔関根 康史 福山大学〕
21.1.2 四輪自動車の技術動向
2022年の電動車両の世界販売台数は1400万台を超え,前年比で5割近く増加した.特にBEV(Battery Electric Vehicle)についてはおよそ780万台となり,全販売車両に対してほぼ1割を占めるまでに普及が進んだ(1).BEVに関連する技術としては,家庭への給電や車車間充電可能なピックアップトラック(2),パウチ型セルのバッテリパック内配置に自由度を持たせることで容量やレイアウトの最適化を可能とする技術(3),航続距離を倍増化したトラック(4)等が市場導入された.また,一部の高性能BEVでは高電圧化(800V)(5)や2速変速機を搭載するモデルも現れている(6).一方で,こうした大容量・大出力バッテリを備えることで質量増となるBEVは,省資源化や省エネルギの目的には必ずしも合致しておらず,今後は軽自動車(7)を含むコンパクトクラスへの普及が重要になってくる.
BEVと並んで,自動車産業の新たな発展に寄与するものとして注目されているのがSDV(Software Defined Vehicle)という概念である.これは,ソフトウェアがハードウェアやサービスの価値を定義するという考え方であり,これまで特定のハードに合わせてソフトを個別に開発してきた既存の自動車とは全く異なる技術が求められる(8).具体的には,車両内のソフトウェアを統合的に管理するビークルOSを中心とするソフトウェアアーキテクチャ,車両内のハードウェアを標準化して柔軟性と拡張性を高めるハードウェアプラットフォーム,そして,ソフトウェアのアップデートやサービス提供を実現するためのクラウド連携技術等である.これらの技術により機能追加や性能向上が可能となりユーザーの利便性が高まる一方で,遠隔地からのハッキングの脅威も顕在化している.この問題に関しては,自動車サイバーセキュリティに関する国際基準が策定され,国内では2022年7月から無線によるアップデート機能を持った新規発売車種に対して,車両セキュリティ法規順守が義務化されている(9).
安全関係では,近年の安全技術の進化を反映した法規制改変の動きが目立った.欧州ではISA(Intelligent Speed Assistance)の装着が義務化された(10).これは,車載カメラによる道路標識認識やデジタル地図情報で得た自車位置の法定速度を,車内のディスプレイに表示してドライバに速度超過を警告するものであり,対象となる道路は自動車専用道だけではなく一般道も含まれる.国内では,後退時の事故防止を目的として,バックカメラもしくはソナーによる後退時の車両直後確認装置の装着が義務化された(11).また,大型トラック左折時における自転車や二輪車の巻き込み事故への対応として,車両総重量8トン超の貨物自動車に対して側方衝突警報装置の設置が義務化された(12)(いずれも新型車は2022年5月から,継続生産車は2024年5月から).社会問題化している高齢ドライバによる交通事故対応としては,「サポカー限定免許」と呼ばれる自動車運転免許がスタートした(13).これは,衝突被害軽減ブレーキ(対車両,対歩行者)およびペダル踏み間違い時加速抑制装置が備わった車両に限って運転できる免許を指し,運転に不安がある高齢ドライバ向けに新設されたものである.
ADAS(Advanced driver-assistance systems:先進運転支援システム)・自動運転技術については,ドライバ異常時対応システム(運転者が無反応状態になった場合に,自動で安全に停止や操舵する緊急機能)に関する国連規則が国内保安基準に反映され(14),同基準に則った車両が市販化された(15).また,自動運転レベル3の上限速度を従来の60km/hから130km/hに引き上げるとともに車線変更も可能とした国際基準が合意された(16).自動運転レベル4についてはドイツシュツットガルト空港で個人所有の車両を対象とした無人自動駐車システムが稼働した(17).また,自動運転トラックによるオンラインストアの配送実装(18)や,サンフランシスコのような複雑な交通環境での無人タクシー(19)等,商用車両については完全自動運転に向けた技術開発が進んでいる.
〔門崎 司朗 トヨタ自動車〕
21.1.3 二輪車の技術動向
全国軽自動車協会連合会の発表によると2022年度の小型二輪車新車販売台数は10万889台となり,24年ぶりに10万台を越える水準となった.
安全・快適機能については各社からレーダーシステムによるACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール),FCW(前方衝突警告システム),BSD(死角検知)を備える車両が発売されており,更にUBS(ミリ波レーダー連携ユニファイドブレーキシステム)を備える車両が新たに発表されている.またトラクションコントロール,クイックシフター,スマートフォン接続といった従来大排気量車両に搭載されていた安心・快適装備が小排気量車両にも搭載され始めている.その他二輪車向けステレオカメラADASシステム等も発表されており,安全・快適機能の拡大が進んだ.
環境性能では引き続き国内外で電動車両の発表が続き,カーボンニュートラルへ向けた取り組みが進められている.また2023年の全日本選手権JSB1000クラスでカーボンニュートラル燃料を使用することが発表され,レースの世界にも脱炭素の流れが広まりつつある.カーボンニュートラルに向けた取り組みとして電動化に限らず水素,合成燃料,バイオ燃料等様々な可能性が検討されており,今後どのような手段で環境対策が進められるか注目される.
〔寺田 圭佑 ヤマハ発動機(株)〕
21.1.4 生産技術・材料
2019年より続いた新型コロナウィルス感染症(COVID-19)もようやく落ち着きを見せ,中国のロックダウン解除などにより2022年の世界の自動車生産は夏頃から急速に回復を始めたが,半導体不足により,再び減少傾向になり部品供給の混乱も未だ継続している状況である.
しかしながら自動車生産技術の進化は留まらず,カーボンニュートラルの世界を目指し製造手法にも新たな方向性が示され自動車のボディ開発,生産手法は新たな段階に入ろうとしている.
例えば2021年大型アルミダイキャストで部品統合を進めたTESLAは,UNBOXED Processというモジュール化構造による自動車生産手法を公表した(1).これまで多くの自動車メーカーが採用しているモノコックボディへ部品を順番につけてきた生産手法とは異なり,ボディ(箱)を用意せず車両を大きく6つのブロックに分けて生産し,最後に結合するという手法である.
また車両製造方法にも,脱炭素がキーワードに加わり,これまでボディ開発は衝突安全と軽量化が課題であったが,更に製造工程の脱炭素をいかに進めるかがポイントとなってきている.
これまでも温室効果ガスGHG(Greenhouse Gas)の排出量を多く排出する企業は2006年から自ら国に報告することが義務付けられている(2)が,2022年からは「省エネ法・温対法・フロン法電子報告システム(通称:EEGS/イーグス)」を原則的に使用することが推奨されている(3).
今後はボディ骨格に使用する部材も材料生産時からCO2排出量を減らした「グリーン鋼材」の採用が拡大すると見込まれ,鉄鋼メーカーも高炉プロセスから電炉プロセスへの転換に向けた検討も開始しており,サプライチェーンも含めたGHG排出量低減,SDGsへの取り組みが益々活発になると考えられる.
〔樋口英生 (株)本田技術研究所〕
21.1.5 基礎研究
世界共通の課題として2030年の達成に向けた持続可能な開発目標(SDGs)が2015年9月の国連サミットにおいて採択され(1),日本でもSociety 5.0 for SDGsをキャッチフレーズに経済発展と社会課題の解決を両立する新たな未来社会の実現に向け,様々な取り組みが提唱された(2).また2020年から3年に渡って世界的に続いたCOVID-19のパンデミックの影響もあり,近年急速に進みつつあるデジタル化は大きな社会的変化を生み出しており,DX(Digital Transformation)に関する新たな技術を活用した新しい社会作りは,日本の総力を挙げて取り組む必要があると謳われている(3).特に豊かさを追求しながら地球環境を守るための研究という側面から,自動車の分野においてはデータ連携によるビジネスモデル構築,未来志向の社会づくりなどを掲げ,それらの実現に必要とされる基礎技術の取り組みが課題となっている(4).そうした社会的背景の中で,カーボンニュートラル,自動運転車,空飛ぶ自動車等々,次世代自動車の在り方もさまざまに模索されており,それらの基盤となる基礎研究の重要性は高い(5).
特に2022年においては,それまでにも増して自動車の電動化技術や自動運転技術に関心が高まってきており,それらの基礎技術となっているAIや機械学習に関連する技術(6),(7),自動車の制御技術(8),(9),センシングなどの認知認識技術(10),(11)などの研究発表があった.特に材料の基礎研究に関しては,電池に関する材料という観点以外にも,リサイクル可能な素材という観点から,新しい材料への関心も高く多くの研究発表があった(12),(13).一方で,人中心で人にやさしい社会づくりという観点から,安心して運転できる自動車であることも重要であり,自動車の安心・安全に関わる基礎研究や,人の感性に関わる研究報告,さらにドライビングシミュレーターを用いた感覚の研究なども数多く発表されている(14),(15),(16).
また,2019年頃から謳われ出したCASE(Connected,Autonomous,Shared/Service,Electric)は,はからずもユーザーの自動車に対する価値を急速に多様化させ,その結果自動車がさまざまなインフラとつながることが必須となり,自動車社会全体が複雑で複合的なシステムとなりつつある.そのように変革する自動車社会の中では,新たな価値の創造を単独の研究成果に頼るのではなく,複数の分野にわたる基礎研究の成果を連成させた,よりスケールの大きな研究成果とすることが鍵となる.そのために,多分野にわたりしっかりとした基礎研究に取り組んでおくことがますます重要になると考えられる.今や自動車に関係ない技術はないといってもよいほど技術分野の裾野は広く,専門分野のみならず,領域を超えた知識やつながりを持ちながら交流や発信を行えるような取組みが始まっている(17).
〔豊島貴行 (株)本田技術研究所〕
21.2 鉄道
21.2.1 概況
国土交通省ホームページの鉄道車両等生産動態統計調査月報(1)によると,2022年1月から12月の1年間の車両生産数は,総生産数1872両(内新幹線車両は440両)であった.また,国内向け車両が1542両,輸出向け車両は330両であった.2021年1年間の生産数は,1782両(内新幹線車両358両,国内向け:1649両,輸出向け:133両)であり,前年と比べ国内向けはやや減少したものの,輸出向けが大幅に増加したため総生産数も増加した.
本会に関連する行事としては,11月30~12月2日には第31回交通・物流部門大会(TRANSLOG2022)が東京大学生産技術研究所で開催され,12月7日~9日には第29回鉄道技術連合シンポジウム(J-RAIL2022)が国立オリンピック記念青少年総合センターで開催された.
21.2.2 新幹線・リニアモーターカー
9月23日に西九州新幹線の武雄温泉~長崎間の69.6kmが開業した.駅数は5駅で,1日あたり47本の新幹線「かもめ」が運転している(2).武雄温泉駅では新幹線「かもめ」と接続する在来線特急「リレーかもめ」を同じホームで乗り換える「対面乗換方式」で運転されるのが特徴である.使用される車両は東海道・山陽新幹線でも運転されているN700Sであり,東海道・山陽新幹線のN700Sと同様に安全性・安定性向上,異常時対応力の強化,快適性・利便性の向上,ランニングコストの低減といった特徴を有している一方で,車内外のデザインは東海道・山陽新幹線とは異なるものとすることにより「九州らしいオンリーワンの車両」で和洋折衷,クラシックとモダンが組み合わされた懐かしくて新しい空間で快適な旅を演出している(2) (3).
新幹線に関する機械工学分野の技術開発として,JR東海がブレーキ性能向上に向けた試験装置を新設した.本装置は「粘着試験部」と「台車試験部」の2つの装置で構成されており,「粘着試験部」では粘着に関する基本的な試験を行うことで,様々な気象条件下での最適なブレーキ力の制御手法を見出すとともに,ブレーキ部品の改良に取り組み,「台車試験部」では「粘着試験部」で得た成果を,実際の台車やブレーキ装置を用いて検証が見込まれる(4).
21.2.3 在来鉄道・都市鉄道
2022年は日本で鉄道が開業してから150年を迎える年であったことから,JRグループで「鉄道開業 150 年キャンペーン」が開催された(5).
JR東海は7月1日に,ハイブリッド方式の特急車両HC85系を運転開始した(6).HC85系はシリーズハイブリッド方式を採用しており,安全性の向上・快適性の向上・環境負荷の低減といった特徴を有しており,約35%の燃費向上と,約30%のCO2削減,約40%のNOX削減を実現している(7).さらにHC85系ではバイオ燃料による実証試験を実施しており,地球環境負荷の低減にむけた取り組みが進められている(8).
JR東日本では,水素を燃料とする燃料電池と蓄電池を電源としたハイブリッドシステムを搭載した試験車両FV-E991系2両1編成を製作し,3月から南武線,南武支線,鶴見線で実証試験を開始した(9).FV-E991系は鉄道車両の設計製造技術を有しているJR東日本と,ハイブリッド駆動システム技術を有している日立に加えて,自動車・バスの開発で燃料電池技術を培ったトヨタの3社が連携して開発を行っており,鉄道技術分野と自動車技術分野の垣根を超えた技術開発を行っていることが特徴である(10).
自動運転についての研究開発も引き続き進んでおり,2020年12月24日に開始したJR九州の香椎線の自動運転では,実証運転状況は良好と判断されたことから2022年3月12日から実証運転区間・対象列車を拡大している(11).また,JR東日本でも山手線全線(34.5km)において2編成の営業列車を使用した実証実験を実施している.山手線では2020年度より乗務員の操作による省エネ運転の研究に取り組んでおり,自動運転においてもその知見を活かして約12%の運転エネルギーの削減効果が見込まれる(12).
21.2.4 海外における動向
2022年9月20日~23日2鉄道業界最大の鉄道産業見本市InnoTrans 2022がドイツ・ベルリンメッセにて開催された.InnoTransは2年ごとの開催であるものの,2020年に開催予定であったInnoTrans 2020が新型コロナウイルスの影響で延期を繰り返して,結果的にInnoTrans2022として開催されたものである.56カ国から2,834社の出展社と,131カ国から約14万人の来場者があり,新型コロナウイルスの影響でInnoTrans 2018には及ばなかったものの,連日大盛況の開催となった.InnoTransの特徴として,屋外に実際の鉄道車両が展示され,InnoTrans2022では128両の車両が展示された.日本国内企業の展示としては,日本鉄道システム輸出組合(JORSA)がJORSA Pavilionとして10社の共同出典の他に,3社の個別出展があり日本国内の鉄道技術の海外発信がなされた(13).
〔牧島 信吾 東洋電機製造〕
21.3 航空宇宙
21.3.1 概況
日本航空宇宙工業会によると,2022年の航空機生産額は2021年より1,574億円(13.61%)増の1兆3,165億円となった(1). 2019年には過去最高の1兆8,569億円を記録した後,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響等により,2020,2021年と大幅減であったが,2022年は増加に転じた(1).また,国土交通省航空局によると,2022年12月末の登録航空機数は前年度より20機減の2,823機となり,2019年以降の減少傾向が続いている(2).なかでもB777は69機から47機と22機減少しており,旅客減少の影響によるものと思われる.日本政府観光局(JNTO)によると,2022年の訪日外客数は3,832,110人と前年比約15倍と伸びているが,それでも2019年(約3,188万人)の12%に過ぎず,コロナ禍からの回復は十分とは言えない(3).
さて,近年発展が著しい分野である無人航空機(ドローン)は,機体認証や運航に係るルールが整備され,2022年12月5日より,有人地帯(第三者上空)での補助者なし目視外飛行である「レベル4飛行」が可能となった(4).また,有人機であるe-VTOL(電動垂直離着陸機)では,2025年に開催される大阪・関西万博で商業飛行が計画されている運航事業者5社と会場内ポート運営1社が発表される(5)など,今後の発展が期待されている.
一方の宇宙分野は,宇宙機器関連企業の2021年度の売上高合計額は3,440億円と前年比81億円(2%)の減少,2022年の売上高予測値は3,032億円と約400億円(13%)減少の見込みである(6).国内における2022年度のロケット打ち上げはイプシロン6号機(2022年10月12日),H3試験機1号機(2023年3月7日)と2機の打上げ失敗があり,打ち上げ成功はH-II46号機の1機のみであった(6).海外ロケットによる国産衛星の打ち上げは Falcon-9で打ち上げられた商用月探査衛星「Hakuto-R M1」など5機であった(6).
21.3.2 航空
国内においては,50年ぶりの国産旅客機として開発が期待されていた三菱スペースジェットは,2020年10月に開発が事実上凍結されていたが,残念ながら2023年2月7日に正式に開発中止が発表された(7).海外では,航空交通の大衆化に貢献し,ジャンボジェットの愛称で呼ばれてきたB747は, 2022年12月6日に1574機のロールアウトをもって生産終了となった(8).
旅客機運航機材として,日本航空では長距離機にA350の導入が進められているが,国際線用機材の777-300ERをA350-1000へ置き換えることが発表された(9).2019年3月のエチオピア航空302便墜落事故以後,世界的に運航が停止されていたボーイング社の737MAXシリーズは2021年1月から運航再開された.日本ではこれまで運航されていないが,全日空がB737-800後継機として737MAXシリーズの一種である737-8を発注することが発表された(10).
これらの動きは燃費の優れた機体への置換により運航費削減だけでなく,脱炭素化に向けた取り組みである.さらには,CO2排出削減効果が高い持続可能な航空燃料(SAF: Sustainable Aviation Fuel)の導入を促進するための官民協議会が,2022年4月に国土交通省と経済産業省と合同で設置された(11).CO2排出削減のため世界的に電動航空機の研究が進められていて,国内では2018年のJAXA航空技術部門に「航空機電動化コンソーシアム(ÉCLAIR: Electrification ChaLlenge for AIRcraft)」(12)が設置され,産官学が協同して電動航空機の研究開発に取り組んでいる.この流れをさらに加速するため,2022年6月に国土交通省と経済産業省が合同で「航空機の脱炭素化に向けた新技術官民協議会」(13)を設置し,研究を促進している.なお,この協議会はカーボンニュートラルへの貢献に向けて,電動航空機だけでなく水素航空機(14)や機体の軽量化も対象としている.その水素航空機は,NEDO グリーンイノベーション基金事業において川崎重工業株式会社が提案した「水素航空機向けコア技術開発」(15)が2021年11月に採択され,次世代航空機実現に向けた産官学の共同研究が始められている.
2022年はCOVID-19の影響の中でエアラインでは燃費の良い新機種への置き換えが加速した一方で,機体開発においては脱炭素化の流れも加速したと言える.このような流れの中で,2022年11月ボーイングが新中型機(NMA: New Midsize Airplane,通称 B797)の開発を10年以上凍結することが発表された(16)ことは,その象徴とも思える.
21.3.3 宇宙
民間宇宙飛行など宇宙ビジネスが活発になっている2022年度における最もインパクトのあるニュースの一つは,2023年2月に新たな日本人宇宙飛行士候補者2名が発表されたことである(17).この候補者は,将来,月周回有人拠点「ゲートウェイ」や月面活動などに携わることも視野に入れられている.月探査に関しては,2022年11月18日に米国提案の国際宇宙探査(アルテミス計画)に日本政府が正式に参画することが発表されている(18).その2日前の11月16日に,アルテミス最初の計画(19)が実施された.月探査船Orionの無人試験機を搭載したロケットSLS初号機が打ち上げられ,月を周回した後,12月12日に大西洋上に帰還した.
一方,国際宇宙ステーション(ISS)は,2022年2月24日にロシアがウクライナに侵攻した後の3月20日にISSに到着したロシア人宇宙飛行士3名がウクライナ国旗の色である黄と青の飛行服を着用したニュース(20)が報道され,宇宙の国際協調が継続されるかに思えた.しかし,7月27日にはISSからロシアが撤退するという報道がなされ,残念なことに緊張関係は宇宙へも波及した(21).
そのISSの運用期限を2030年まで延長するという米国の提案を,ゲートウェイ参加表明と同日の2022年11月18日に日本政府は合意している(18).2022年度は,そのISSに若田光一宇宙飛行士が5回目の滞在(2022年10月6日~2023年3月12日)を果たしている(22).その往復にはSpace X社のロケット Falcon 9に搭載された同社の有人宇宙船 Crew Dragon 5が使用され,同社の宇宙システムの高い信頼性が示された.
これに対し,2022年はロケット打ち上げ失敗が8回も記録されている(23).年末にかけて連続し,10月12日は日本のイプシロンロケット6号機が姿勢系トラブルで失敗,12月14日には中国ベンチャーであるLandscape社の液体ロケット「朱雀2号」の初打ち上げが失敗,12月20日にはフランスArianespace社の小型ロケット「ヴェガC2号機」が失敗した.年が明けた2023年1月9日にはイギリスVirgin Orbit社の空中発射方式による人工衛星打ち上げも失敗し,3月7日にはH3ロケット試験1号機が失敗している.その一方,2022年のロケット打ち上げ回数は186回(成功は182回)で2021年の146回を超え,2年連続で過去最高を更新した(23).この打ち上げで2510機中2488機が軌道に到達し,こちらも前年の1849機中1825機の記録を大きく更新した.ロケット打ち上げに戻ると,SpaceX社は31回から61回と2倍に増え,米国78回の8割弱をしめている.中国は長征シリーズ53回を含む64機で記録を更新している.そのほか,ロシア21回,ニュージーランド(Roket Lab社)9回,フランス(Arianespace)6回,インド5回である.日本はイプシロンの失敗,H3の延期があり,2022年は18年ぶりに打ち上げ無しとなってしまった.
宇宙輸送機であるロケットにおいて,2022年はアルテミス計画,日本人宇宙飛行士誕生と国際協調プロジェクトが進む中,日本では2度の打ち上げ失敗は残念であり,今後の信頼回復が望まれている.
〔小木曽 望 大阪公立大学〕
21.4 船舶
21.4.1 概況
船舶建造に関しては,2022年の世界の新造船建造量(竣工量)は2021年の約6,070万総トンから約5,510万総トンとなっている.ここ10年程,6,000万総トン前後で推移している.日本は約950万総トンでとシェアは17.2%で,中国の46.68%,韓国の29.69%に次いで,世界第3位であった(1).
物流に関しては,国際海運が,貿易量(輸出入合計)の99.5%(2020年,トン数ベース)を占め,内航海運が,国内貨物輸送の約40%を,鉄鋼・石油製品・セメント等の産業基礎物資の国内輸送の約80%を占めて,主要な役割を果たしている(2).一方,国内交通手段としては,2022年4月現在,離島航路は全国に286航路存在しており,離島の住民の日常生活や地域経済を支えている(2).
21.4.2 話題(2)
海運における温室効果ガス排出削減の取組については,国際的には,国連の専門機関である世界海事機関で継続的に検討が進められている.2022年時点では,国際海運が2050年にカーボンニュートラルを達成することが目標となっており,国際海事機関における議論やそれを実現する技術開発等で,日本は主導的な役割を果たしている.また,船舶分野でも国際的に自動運航船の開発が進められており,国内では日本財団の助成事業で,2022年3月までに,5つのコンソーシアムで6隻の異なる船舶と航路で実証実験が行われた.自動運航船の国際ルール作りは国際海事機関で議論されており,ここでも日本は議論をリードしている.
2022年4月23日に,北海道知床において,小型旅客船が沈没し,乗客24名,乗員2名の計6人が死亡・行方不明になるという近年類をみない重大事故が発生した.このような事故を二度と起こさないよう,国土交通省が委員会を設置し,迅速かつ継続的に対策を検討しており,安全管理体制の強化,通信及び救命設備に関する要件等のとりまとめが行われている.
〔宮崎 恵子 海上技術安全研究所〕
21.5 昇降機・遊戯施設
21.5.1 概況
日本エレベーター協会の2022年調査(1)による2021年度の国内の昇降機全体の新規設置台数は24,164台(2020年度25,478台)であり,2015年度以降は27千台から28千台を推移していたが,2020年度からは減少傾向にある.新規設置台数の内訳は,エレベーターが21,622台(2020年度22,631台),エスカレーターが914台(2020年度1,186台),小荷物専用昇降機が1,553台(2020年度1,594台),段差解消機が75台(2020年度67台)であった.建物の用途別に見ると,2016年度から2019年度までは,住宅,商業施設,事務所,工場・倉庫の昇降機は増加,駅舎・空港,学校・宗教・文化施設は横ばいで推移しているのに対し,病院・福祉は減少している.一方,2020年度以降では,病院・福祉はやや増加傾向にあるが,他の用途では減少傾向にあり,特に商業施設の減少が目立つ.
21.5.2 技術動向
国内の講演会では,要素試験によるロープの振動特性に関する研究,巻上機の溝深さのばらつきによるロープの張力変動解析に関する研究,ミリ波レーダーを用いた昇降路内移動体検知システムに関する研究(以上エレベーター関係),エスカレーターハンドレールの駆動シミュレーションに関する研究,漏洩磁束探傷法によるワイヤロープの素線切れの評価手法に関する研究について,6件の発表が行われた.(2022年12月:技術講演会“昇降機・遊戯施設等の最近の技術と進歩”).
〔植田 和昌 フジテック(株)〕
21.6 荷役運搬機械
21.6.1 概要
経済産業省の生産動態統計(確報)による,2022年1月~12月の荷役運搬機械(運搬機械からエレベータ,エスカレータを除いた)生産額は,4,944億円(2021年度比15.3%,656億円増)であった.このうち,クレーンは2021年度比5.1%増,巻上機は11.8%減,コンベヤは21.7%増,機械式駐車装置は15.8%増,自動立体倉庫装置は20.4%増である.
(一社)日本産業車両協会の調査による,2022年1月~12 月のフォークリフト生産台数は12.6万台で,2021年度比5.9%増,輸出を含めた販売台数は6.7%増,国内販売台数は1.0%増の状況である.
日銀短観の3月調査では,2023年の設備投資計画(ソフトウェア含む,土地除く)は,前年度比+5.6%と例年の同調査と比較して高い伸びになっており,今後も省力化・デジタル化に向けた設備投資が続く見通し.
〔上田 雄一 (株)ダイフク〕
21.6.2 運搬車両
2022年の産業車両の国内生産実績は3,801億円(前年比110.6%),うち,主力のフォークリフトは2,687億円(前年比110.3%),126,560台(前年比105.9%)と,いずれも2年連続で増加した(表1).物流分野での労働力不足により,人手による作業から機械化,さらには自動化を目指す動きもあり,産業車両の堅調な需要拡大にもつながっていると考えられる.
産業車両 | フォークリフト | ||
生産額(百万円) | 生産台数 | 生産額(百万円) | |
2018年 | 361,424 | 121,971 | 251,915 |
2019年 | 328,568 | 110,759 | 227,092 |
2020年 | 304,335 | 108,429 | 222,470 |
2021年 | 344,087 | 119,477 | 243,571 |
2022年 | 380,702 | 126,560 | 268,673 |
フォークリフトの国内販売台数では,電池を搭載した電気車の割合が7年連続で全体の6割を超え約3分の2まで高まった.また,水素を燃料とする燃料電池車も国内各地で導入が進んでいるほか,ロボティクス,IoTや次世代電池等の新技術を取り込んで,物流の効率化・高度化,安全の向上,環境負荷の低減・カーボンニュートラル等に貢献する製品や技術の開発が進められている.
無人搬送車システム(AGVS)の国際安全規格ISO3691-4:2020の発行を受け,対応国内規格であるJIS D6802「無人搬送車及び無人搬送車システム-安全要求事項及び検証」も2022年2月に改正発行された.
〔高瀬健一郎 (一社)日本産業車両協会〕